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11.星空の下で Ⅱ



 それからレデヤ君に岩山まで運転してもらい、騎馬は途中で打ち捨て、道なき道を進んだ。冒険には慣れているためそれほど苦ではなかったが、やはり体力は削られていく。

 日が落ちようとしている頃、屈めば辛うじて進める程度の洞穴に通りがかった。

 形状からして人の手が入っている形跡はないが……今はそんなことも言っていられない。奥に石を投げ込むと、それなりに大きな反響音が返ってくる。中はある程度の広さがあるらしい。

 あたし一人でひとまず入ってみると、複数の道に入り組んでいることが分かった。更にそこから音を頼りに道を選び、進んでいくと、ある程度広さのある洞窟に出た。ガスの匂いもなく、虫以外で害のある野生動物が棲息している気配はない。

 レデヤ君にも了承を取り、二人で一時的にそこに身を隠すことに決めた。


 しばらくすると、視界がわずかに色を取り戻した。暗闇に目が慣れたのかと思ったが、光源が一切存在しない洞窟内では暗順応はできない筈だ。

 周囲の様子が確認してみると、壁面に白い鉱石がいくつか露出していることに気付いた。この世界ではよく見られる、ほのかに発光する特殊な石だ。鉱物は専門外なので名前は知らないけど……

 今は迂闊に火を焚けないので都合がいい。洞窟内の空気が薄くなるし、周囲に引火性のものがあると危ない。何より、騎士団に見つかる可能性も高くなる。

 ……そういえば……あれから騎士団が追ってくる気配はなかったけど、マゾ男が追いつくこともなかったな。


 マゾ男……相変わらずとんでもない奴だ。全く、どうやって合流するつもりなんだ……。

 だが、よくよく思い返してみれば、別に行動を共にする義理は互いに無い。

 マゾ男は戦いたいからあたしに着いてきているだけで、あたしもあたしでそんなマゾ男を利用して敵を退けたいだけ。むしろ彼も指名手配犯となった今、固まって動いていては騎士団に見つかるリスクも各段に跳ね上がる。


 ……でもあいつ、落ち合うって言ってたもんな。今更だけど、向こうは今後も着いて来る気満々らしい。でも、どこで追いつくかどうかも話していないし、近場で待っていたら騎士団に見つかって本末転倒。このまま離れるのが得策だろう。

 何も問題はない。無いけれど―――


 ……いや、一つ問題があった。

 レデヤ君だ。マゾ男という抑止力を失った今、彼があたしに何をしでかすか……。


 恐る恐る後方にいる彼の方を振り向いてみる。だが、背後にいたレデヤ君は、あたしが思っていたものとは違う、穏やかな微笑みを湛えていた。


「エナ、まだ疲れが取れてないだろ。休んでくれ」


 それでも警戒していると、レデヤ君は「今は見張り役がいないから。また今度ね」と何か勘違いしたらしい発言をかました。

 ああ、だからマゾ男がいた時は襲ってこようとしたのか……普通は逆じゃないかと思いつつ、「そっちも無理しないでね」と身を案じる言葉をかけると、レデヤ君は「おれはさっきまで寝てたから」と不器用そうな笑みを浮かべた。


 そういえば、昨晩から寝ていないんだったっけ。マゾ男と出会ってから、他人から指摘されないと気付けないほど自然に徹夜している。ここはレデヤ君の言葉に甘えることにしよう。

 「ありがとう」とだけ返して、あたしは横向きで冷たい岩肌に寝転び、目を伏せた。


「……まるで星空だね」


 すると程なくして、レデヤ君が今の状況にそぐわないロマンチックなことを言い出した。

 何を言っているのだろうと閉ざした瞼を再び開き、上を向いてみると……確かに、目の前に星空が広がった。天井にも、あの光る鉱石がぽつぽつと露出していたのだ。


 そのことに気付くと、高まっていた緊張が一気に解けてしまった。あたしは仰向けになりながらレデヤ君に「おしゃれなこと言うね」と笑いかける。追われている現状、久しぶりの野宿で寝付けるだろうかと少し気懸かりだったが、今なら大丈夫かもしれない。

 しばらくそのせせこましい星空を堪能してから、心許ない自身の腕を枕に、あたしは再び目を伏せた。


 マゾ男はもちろんだけど……レデヤ君も、大概底知れないな。

 町を跨いであたしをずっとストーカーしてくる執拗さ、こんな状況でもそんな呑気な発言をしてしまえる豪胆さ―――彼も只者ではない。


 そういえば、店の常連になる以前の彼のことを、あたしは何も知らない。彼は一体、何者なのだろう?

 そんな自分だけでは結論の出ないことを延々と考えていると、あたしはいつしか眠りに就いていた。



   ◇



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