表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/45

07.二度あることは Ⅰ



 マゾ男とレデヤ君に騎馬を押してもらいつつ、門を潜る。

 すると数秒と掛からず、町民たちがナルディストの帰還に気付き、続々と群がってきた。


「おや、ナルディスト様! お帰りですか」


 その中央を我が物顔でナルディストが歩いてゆく。無論、上半身は裸だ。

 町の人々はそれを意に介さず、次々と彼に言葉を投げかけてゆく。


「ナルディスト様~相変わらずはだけてますねぇ」

「やあバルデス。怪我はもう良くなったかい?」

「ええ、おかげさまで!」

「ペトル、久々だね。ケイトとはどうだい?」

「お、おいおい、勘弁してくれよナルディスト様!こんな人前で…」


 その姿はどう見たってただの変態なのだが、どうも町の人々からは慕われているようだった。この町全体がおかしいのだろうかと不安になったが、それ以外にはこれといって妙なところは見当たらない。


「えらく慕われてるな」

「あんななのに……」

「まあ…ね」


 さらさらとした金髪をぶわりと靡かせて、ナルディストはウインクをしてみせた。

 彼から目を離し、町中を眺めてみる。


 町は前世のヨーロッパ…特に地中海を思わせる町並みだ。建物は白基調で、日光だけでなく海の反射もあってか、一層まばゆく輝いている。

 町全体には高低差があり、下へ向かう階段がいくつか門付近に伸びていた。最も下の階層に港があるようで、既に何艘かの船が停泊している。

 ……美しい港町だ。こんな状況下でなければ、存分に観光を楽しんでいただろう。


 程なくして、門を潜る前から見えていた、屋台や露天商のある大通りに入った。港町とあってか、商品の種類も数も多い。

 商人も客もどちらも活気に溢れていて、見ているこちらまで元気になってきそうだ。


 ただ、人が多い分、あたしたちの素性が割れる危険性も高い。特にナルディストは…意外にも町民から人気なようだし、一緒にいると注目を集めてしまいそうだ。彼とはここで別れるべきだろう。

 大通りに本格的に踏み入る前に、ナルディストを引き留める。


「な、ナルディスト……あたしたち、そろそろ…」

「おや。港への案内はいいのかい?」

「ああー、それなら自力で行きますんで……ここから見えるしさ」

「では朝食はいかがかな? うちの町の魚介料理はどこも絶品なんだ。屋台もお勧めだよ」


 やけに食い下がるナルディスト。あたし自身も〝魚介料理〟〝絶品〟というキーワードにわずかに心が揺らいでしまうが、すぐに振り払った。残念極まりないが、食事を選り好みしている暇はない。

 ひとまず、目についた軽食系の屋台の前で立ち止まる。メニューとにらめっこしていると、またナルディストが顔を出した。


「なんだい、こんな少量で良いのかい?」

「うわっ、出た」

「まあ美味しいんだけどね。では、これを三人前と、あとは……」


 威勢のいい女将さんから三人分の紙袋を渡された。柑橘類のジュースのおまけつきだ。

 彼が頼んでくれたのは、揚げた魚がが挟まれたパンだった。これなら屋外でも手軽に食べられそうだ。

 代金を肩代わりしてくれたのもありがたい。今あたしたちは一文なしだ。ナルディストは騎士団長だし、ここは断らず彼の顔を立てるべき…だろう。そういうことにさせてもらおう。


「あ、ありがとう……」

「で、明日の朝まではいるのだろう? であれば、宿も必要だろう」

「いいや! そこまでしてもらわなくって大丈夫だから!」


 やたらと面倒見の良いナルディストの提案を、今度こそ慎んでお断りする。それでもナルディストは何やら物言いたげだったが、すぐに他の町民から声を掛けられ、彼らの輪の中に消えていった。


 騎士団長としての威厳や頼り甲斐はないが、あの親切さ。変態でも慕われるのも理解できる……ような気がした。

 喧騒の中で少しの寂しさを感じながら、黙って背後をついてきていたマゾ男とレデヤ君に声を掛ける。


「……じゃ、また森のほうに戻ろうか」


 二人はそれにぼやくことなく、あたしと共に町を後にしてくれた。


   ◇ ◇ ◇



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ