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異世界帰りの妹は、ケダモノになっていましたッ!?  作者: カイ
第2章 突撃ッ!! 天原衛探検隊
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第36話 恵子、ありがとうございます。私感動しました

――天原衛


 タイヤの制作過程は、見ているだけなら簡単に作っているように見えた。

 まずは消しゴムよりも柔らかい生ゴムに強化剤カーボンブラックを入れながらかき混ぜてタイヤ用のゴムを作っていく。

 ゴムと強化剤が均等に混ざり合いタイヤ用のゴムが出来上がると、それを工房で一番大きな機械であるプレスマシンにかけて余計な水分や空気を抜き取って硬くて弾力のある板ゴムを成形していく。

 そして、ここが最も驚くべきことだがプレスマシンの動力は人力だった。

 タイヤ工房の親方と職人は、交代しながらハンドルを回してプレスマシンを動かしている。

 一応、油圧ポンプを使って動力の効率化は行われていたが、人間一人の腕力で重さ一トンを超える巨大なローラーを10基回転させる光景を見て俺は自分が幻覚を見ているんじゃないかと思った。


「えっ!? なんで、人間があんなパワー出せるんだ?」

「魔導具を使ってるのよ。親方が腰に巻いてる革のベルト。あれ多分、ミ・ミカの使ってる『エンマ』と同じ獣属性のマモノから剥ぎ取った魔力器官が装着されてると思う」


 よく見ると親方達は、ハンドルを回す役を交代するたびに腰に巻いた黒いベルトを外して次の回し手に渡していた。


「なるほど、ニビルでは魔導具が工業の根幹になっていると言ってましたもんね」


 地球では人力や家畜の力では動かせない大きな機械を動かすために蒸気機関を始めとする内燃機関を利用している。

 しかし、ニビルでは魔法を使うことで自然の限界を超えた大きな力を、人間自身が出しているということか。


「あと、魔法でやっているのは肉体強化の魔法で、人力で出来る範囲を拡大してるだけじゃないわよ」


 プレス機でタイヤ用の板ゴムを成形が終わると、今度はその板ゴムを円筒形の金型に巻き付けていく。

 必要な枚数の板ゴムを金型に巻き付けたあと、親方は金型台の隅っこに装着された黒い球体に手を乗せる。


 火魔法≪ヤキイン≫


 直後、板ゴムを巻き付けた金型が真っ赤に加熱する。

加熱によってゴムの表面が一時的に溶けることを利用して複数の板ゴムを接着させたのだ。

熱が逃げゴムが完全に冷えて固まると、そこには見慣れたタイヤが完成していた。


『これで一応タイヤは完成だ。あとはグリップが効くようにタイヤに溝を掘ったりするんだが、その作業は別の職人に頼むから全ての工程を見たいなら職人が来るまで待ってくれ』

『いえ、十分です。溝堀の作業は、私の故郷でも似たようなことをやってると思うので。今日は、プレス加工や、焼付の工程を見せてもらっただけで大満足です』

『ありがとうございました』


 俺達は全員で親方にお礼を言ってタイヤ工房を後にした。


「これで、タイヤ作りの概要はだいたいわかったかな。私も知らなかったこと多くて面白かったよ。ただ、竜車を作るならこのあと荷台を作る工房、車軸とホイールを作る工房に行ってパーツを揃えないといけないわね」


 パーツを個別に集めた後、最終的に組み立てを専門に行う工房に組み立ててもらって竜車は完成となるらしい。


「リアカーくらいのサイズなら自分で組み立てちゃう人もいるんだけど、竜車のサイズになると専門の工房に頼まないと危ないから」

「グレイトですッ! 恵子、ありがとうございます。私感動しました」


 一通りの説明が終わった後、感極まったアイリスがケイコの手を握る。


「アイリス先生、今度は何に感動したんだ」

「ちょっと考えてみてください。ニビルでは地球とほぼ同じ品質の工業製品を作っているのに、CO2の排出量が0なんですよ。魔導具の存在を地球に伝えたら産業革命が起こるかもしれません」

「あっ、確かに……」

「日常生活で魔法使うなら、低血糖症を起こさないようエネルギー補給する余裕があるから武器にするより圧倒的に利便性が高いな」


 そういえば、タイヤ工房の親方や職人たちはプレスマシンを人力で動かすときにハンドルを回す役を交代しながら作業していたが休憩中は何か飲み物を飲んでいた。

 ただの水分補給だと思っていたが、おそらくあれは糖分を接種するための甘いジュースを飲んでいたのだろう。

 地球ではいま地球温暖化とかCO2排出枠とかで揉めに揉めている。

 そんな中で、魔導具という化石燃料を一切使用しない道具が登場したらどれほどの混乱が巻き起こるか想像もつかない。


「まあ、ウルクではマモノから剥ぎ取った魔力器官の大半は工房の工作機械とか、建物を作るための建設機械とか、そういう日常生活で使う用に回されてるわ。牙門さんが言う通り、魔導具は日常生活で使う方が安全で便利だし。なにより武器と比べて必要とする人の桁が違うからね」


 魔力器官を装着した武器を作りたいと思うのは、ウルク全体で500人前後しかいないマモノハンターだけ。

 それに対して、魔法を日常生活で利用するのはウルクに住む30万の国民すべてだ。

 あまりにも需要が違い過ぎて、武器の生産を優先しようなんて話には到底ならないだろう。

 地球の軍事産業も国防のために仕方なく兵器を作っているが、民生品を作るのに比べて圧倒的に利益が少ないと聞いたことがあるし、その辺りの力関係はどこの国に行っても変わらないのかもしれない。

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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