第27話 俺達の戦いはこれからだッ!!
――天原衛
デトロイト市を襲った悪夢。
54人もの人命を奪ったマモノ、トビサソリが駆除されたというニュースは瞬く間に全世界を駆け巡った。
デトロイト市だけでなく、全米に歓喜の声が沸き起こり、PHCアマハラはアメリカを救ったヒーローとして祭り上げられた。
もったも、マスコミやSNSでヒーローとして持て囃される裏で、俺達は事件の事後処理で大変な思いをすることになった。
手段を選ばずトビサソリを殺す。
その選択が間違いだったとは思わない。
しかし、俺達が決行したコメリカパークでトビサソリを待ち伏せる作戦は、違法行為と多数の死傷者が発生する可能性がある危険なものだったので内々ではかなり問題になった。
なにしろコメリカパークに居る4万人以上の観客がトビサソリに襲われたり、パニックにおちいった観客が逃げ惑うことで大規模な群衆事故が発生する可能性があった。
俺達に良い印象を持ってないデトロイト市長は完全管理義務を無視した責任を問い起訴すべきだと息巻いていたが、最終的にアメリカだけでなく全世界でヒーローとして持て囃されてるPHCアマハラの存在を支持率回復に利用したいと考えた腹黒い大統領の鶴の一声で俺達の違法行為と安全管理義務違反は不問となった。
俺達が4万人の観客がいるコメリカパークでトビサソリを攻撃したことについては、市内をパトロールしている最中に偶然トビサソリを発見し、観客を守るために仕方なく攻撃したという苦しい言い訳をすることになった。
トビサソリの駆除達成から1か月あまり、俺達は大統領の支持率を回復するための道具となってテレビの取材や連邦政府が主催するイベントに引っ張りまわされた。
はたから見たら決して悪い待遇ではなかったと思う。
セレブと一緒に黄色い声援を浴び、美味い料理と、高い酒、ホテルのスイートルームに、プライベートジェットと、一時的にアメリカのセレブの生活を味わうことになったが、俺はこういう贅沢な生活の魅力も感じなかった。
だから俺はインタビューを受けるたびに同じことを言い続けた。
「PHCアマハラは決して顧客を選びません。PHCアマハラは世界中のどこだろうと人々を苦しめるマモノを駆除するために駆けつけますッ!」
大統領は自分が招聘したPHCアマハラをヒーローとして世間にアピールすることで自分の支持率の回復を狙っていたが、俺はインタビューでPHCアマハラがアメリカ人のためのヒーローじゃないと言い続けることで世界中の人にPHCアマハラの存在をアピールすることができた。
5月下旬。
人の心はうつろいやすいもので、一か月も経つと世間はアメリカを救ったヒーローの存在に飽き始めた。
そんな空気を見計らって、俺達はアメリカから旅立つことにした。
“本当に行っちまうんだな”
デトロイト市警の車庫に間借りしていたバスに乗り込んで旅立とうとする俺達を、トビサソリとの戦いで戦友となったルーペ中尉とダニー博士が見送ってくれる。
“やっぱりアメリカに残りませんか? 東海岸の人達はPHCアマハラの存在に飽き始めていますが、実際に助けてもらったデトロイト市民は貴方達のことを忘れません。PHCアマハラはヒーローです。アメリカに残れば億万長者になるのも夢ではないですよ”
ダニー博士がアメリカに残れば金持ちになれると誘惑してくる。
「だ、そうだが、誰か残りたい奴いるか?」
「興味なーし」
「私、式典で出た高級料理というものを食べて10日くらい下痢が止まらなかったんですよ。あんな生活はもう御免です」
「私は逆に便秘になった。セレブな生活なんて堅苦しいだけで面白いこと何もないし。私には向いてないわ」
バスに乗った全員から異論が噴出する。
どうやらPHCアマハラには、山や森の中で駆けずり回わらないと生きていけない奴しか居ないらしい。
「悪いけどPHCアマハラに世界中からマモノ退治の依頼が来ているの。マモちゃんがインタビューで『PHCアマハラは世界中のどこだろうと人々を苦しめるマモノを駆除するために駆けつけますッ!』って大見得切っちゃったからね。PHCアマハラは世界中の人達を助けに行かないといけないのッ!」
全員の気持ちを代弁するように恵子がアメリカには残れないと宣言する。
トビサソリの討伐の一報が世界を駆け巡ったあと、俺達の元に世界中からマモノ退治の依頼が殺到した。
南米、アフリカ、アジア、ヨーロッパ。
世界中にニビルと地球をつなぐゲートが出現し、超生命体マモノが地球を侵略するために押し寄せている。
「俺は、マモノ退治の旅に二人に着いてきて来て欲しいくらいですよ」
ルーペ中尉は市街戦の経験が豊富でドローンの操縦技術に優れた優秀な軍人。
ダニー博士は、ガリ・ニッパーだけでなく節足動物全般に広い知見を持つ学者だ。
二人がついてきてくれれば、マモノの退治の旅の大きな助けになるだろう。
しかし……。
“魅力的な提案だが悪いな”
“ははは……”
ルーペ中尉には直接、ダニー博士には乾いた笑いで、PHCアマハラへの参加を断られてしまう。
仕方ない、二人にはデトロイトで果たすべき使命がある。
ルーペ中尉は、ヘッドハンティングで確保した元ダーク・ウォーカーの兵士達を中心にして立ち上げた民間警備会社で実働部隊の指揮官に就任することが決まっている。
ダニー博士は、HSSと協力してデトロイト市を南北に挟むエリー湖とヒューロン湖の湖畔を捜索し、デトロイト市の周辺にトビサソリが大量に産み付けた卵や幼虫を駆除する特別対策チームの指揮をとっている。
二人の故郷を守るための戦いはまだ始まったばかりなのだ。
「デトロイトにマモノが現れたら連絡をください。私達は民間企業なので、報酬とスケジュールの都合がつけば誰の依頼でも受け付けます」
アイリスがそう言い残して、俺はバスを発車させた。
俺が運転するバスはトビサソリ駆除作戦で使ったものと同型のいすずエルフのシャーシを流用した中型バス。
オフロードの走破性には不安があるが、居住性と貨物の積載量を考えると他の選択肢は思いつかなかった。
この車でアメリカ大陸を南下して次の目的地となるアルゼンチンを目指す。
ハイウェイで小気味よくバスを走らせていると、真後ろに座っている恵子が不意に声をかけてきた。
「マモちゃん、これから世界一周マモノ退治の旅をすることになるんだけど、社長としてひとこと訓示をお願いします」
「訓示だと!?」
急に訓示を言えと求められ衛は面食らったが、車内にいる全員がニコニコ顔で俺に視線を向けている。
そんな仲間達の顔を見て、彼は言うべき言葉を決めた。
「俺達の戦いはこれからだッ!!」
これにて本作『 異世界帰りの妹は、ケダモノになっていましたッ!?』は完結となります。
私は職場で上司からの激しいパワハラを切っ掛けとして、うつ病となりました。
その後は、自己肯定感低下と希死念慮に苦しむ日々を過ごしていましたが、作品を書き始めて自分の拙い作品を読んでくれる人がいることが生きる希望となりました。
読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
本作については、このまま続けてもマンネリな展開が続きそうなこと。
私が、この作品を書く中で得られた経験や反省を生かして新作を書きたくなったので完結する形にしたいと思います。
今後、面白い展開を思いついたら『異世界帰りの妹は、ケダモノになっていましたッ!?2』を書いてもいいなと思っているので、皆様におかれては今後ともよろしくお願いいたします。




