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第25話 ルーペ中尉、グットジョブだッ!!

――天原衛


 トビサソリに変身した俺は、その肉体の想像以上の高性能に思わず感動してしまった。

 クマやゴルゴサウルスに変身した時は、嗅覚がとても鋭敏になり遠くにいる獲物を探すのに大いに役だったが、トビサソリが持つガスセンサーはそれを遥かに超える高性能な代物だ。

 ガスセンサーは視覚と嗅覚に連動していて、上空から市街を見渡せばデトロイトに住んでいる全ての人の現在地をピンポイントで把握することが出来る。

 その圧倒的な感知能力に俺は戦慄すら覚える。

 もしトビサソリに人並みの知能があれば、死体一つ残さない完全犯罪を永遠に続けることができただろう。

 続けて俺は、逃げたトビサソリを追って全力で飛行する。

 やはり飛行能力は強力だ。

 トビサソリの飛行能力は原種となったガリ・ニッパーと同じで高速飛行よりも、空中を軽快に動き回る能力に優れている。

 最高速度は高い出力で筋力を強化しても時速300キロを少し超えるくらいで正直物足りないが、その代わり空中での運動性は抜群で、ホバリングも、垂直上昇も自由落下も思いのままだ。

 先の大戦で格闘戦では最強と謳われた零式艦上戦闘機相手でも、トビサソリなら簡単に背後を取れるだろう。

 全力で飛ぶことで、俺はトビサソリの長所だけでなく、弱点も把握することができた。

 トビサソリは非常に優れた飛行能力を持っているが、羽の土台となる身体が非常に重い。

 脊椎を持たず外殻で身体を支える節足動物の宿命なのかもしれないが、身体を覆う外殻の重さに対して筋肉量が少なすぎる。

 自重で身体が潰れないようにすることすら肉体強化魔法を使うことが前提で、筋力を強化しないで激しい運動をすれば関節が千切れてしまうかもしれない。

 俺はトビサソリの身体の特性を確認しながら逃げた個体を追いかける。

 追跡は思ったより簡単だった。

 トビサソリのメスも、原種であるガリ・ニッパーと同じでオスに自分の場所を知らせるためのフェロモンも出しているので、それを辿ることでメスを追いかけることができる。

 俺は最大速力で逃げたトビサソリを追いかける。

 問題は追いつけるかどうかだ、逃げるマモノは自分と同じトビサソリ。

 敵と自分の飛行速度は同じなので、もし敵が全力で逃げ続けたら追いつけない。

 俺はルーペ中尉達の攻撃が成功――いや、せめて足止めだけでもしてくれることを祈る。

 俺は、メスのフェロモンを辿って太陽を背に飛び続ける。


 街の中心部を抜け。


 建物がまばらに建つ郊外を抜け。


 街と森林地帯の境界線に目標を発見する。


 虫魔法≪ヘドロノイブキ≫


 衛の目の前で監視ドローンが強力な腐食液で機体を穴だらけにされて撃墜されるのが見えた。

 監視ドローンを撃墜されてルーペ中尉達は頭をかかえているだろう。

 だが、衛は心の中で喝采を送った。


(ルーペ中尉、グットジョブだッ!!)


 ルーペ中尉達が足止めをしてくれたおかげで、俺は逃げたトビサソリに追いつくことができた。

 俺は全速力でトビサソリに突撃して柔らかい腹に頭突きをお見舞いした。



――天原恵子


「ニビルフォンのGPS信号確認。北西22キロ地点で大きな動きがなくなりました」


 アイリスは地図上に表示されたニビルフォンのGPSマーカーを見てそう告げる。


「どう思う?」


 アイリスさんに問われて私は断言する。


「マモちゃんが目標を補足したんだと思います」


 つい数秒前まで時速300キロを超える速度で移動し続けていたマーカーがいきなり静止した。

 マモちゃんが目標に接敵して空中戦が始まったとしか思えない。


“GPS信号の発信源は、監視ドローンが落とされた場所とほぼ同じだ。こうなった以上、あとは衛に全てを託すしかないな”


 ルーペ中尉が悔しそうにつぶやく。


「何を言ってるんです!? いますぐ現場に向かってください。マモちゃんが時間を稼いでくれている間に現場に向かって、今度こそトビサソリにトドメを刺すんですッ!」


 私は今すぐ全員で現場に向かうよう進言する。


「ちょっと待ってッ! 時間稼ぎって……マモルは勝てないんですか?」


 私の時間稼ぎ発言に、アイリスさんは驚きの声を発する。


「当たり前ですッ! マモちゃんは、今さっき生まれて初めてトビサソリに変身したんですよ。身体の機能を使って飛ぶことはできても虫魔法も毒魔法は使えません」


 恵子の言葉を聞いて、その場にいる全員がハッと目を見開いた。


「そういえば衛さんって、私と同じで獣魔法を多用する戦闘スタイルでしたね」


 オントネーでミ・ミカ達と試合形式の訓練を続けているとき、マモちゃんは人間の姿のまま獣魔法を使って戦うスタイルを貫いていた。

 獣魔法に習熟すれば、デンコやキュウベエに変身した時も応用が効くし、短期間で戦闘力をあげるなら、いろんな魔法に手を伸ばすより一つの魔法に習熟した方が効率的だ。

 だから、マモちゃんはトビサソリに変身しても虫魔法や毒魔法が使えない。

 そして野生のトビサソリは飛車角落ちで戦って勝てるほど甘い相手ではない。


 ブロロロロッ!


 ダニー博士が、なにも言わずにエルフのエンジンを始動させた。


“すぐに出発しましょうッ! ミスター・マモルがつないだバトンを落とすわけにはいきません”


 ダニー博士が、すぐに衛の元へ向かおうと全員に声をかける。


“そうだな。ダニー博士、すぐにエルフを現場に向かわせてくれ。作戦は現場に着くまでに考える”


 一刻も時間が惜しい状況なのを理解したルーペ中尉は、見切り発車上等で現場に向かうようダニー博士に伝える。


「しかし、どうやって倒すんだ? 空中にいる敵は、俺と、ハ・ルオしか攻撃できないが、トビサソリは空中機動性が高すぎて撃ち落とすのは容易じゃないぞ」


 牙門さんの言う通りトビサソリを撃墜するのは容易なことじゃない。

 最初の一匹は不意打ちで倒せたが、攻撃されていると認識されたあと、トビサソリは広い視野と抜群の空中機動性を駆使して、牙門さんとハ・ルオの攻撃を綺麗に回避してみせた。


“ミスター・牙門と、ハ・ルオの二人が連携しても撃墜が難しいとなると……数で攻めるしかないな。ミ・ミカ、スイッチブレードを全部持ってこいッ! 飽和攻撃仕掛ければ奴も逃げきれないだろ”


 ルーペ中尉は、ミ・ミカにエルフに積み込んだスイッチブレードを全部取ってくるように指示を出す。


“全部って、それは無理ですよ。スイッチブレードを操作するための端末は一個しかないんですよ”


 アイリスは自分が持っているタブレット端末を掲げて、スイッチブレードを操縦できる端末が一つしかないことをアピールする。


“操作端末か……おい、恵子、ハ・マナ、アイリス、お前らのニビルフォン貸せッ! スイッチブレードの制御ソフトをお前らのニビルフォンにコピーする”


 ルーペ中尉は、恵子達のニビルフォンにスイッチブレードの制御ソフトをコピーしてスイッチブレードの操作端末を増設することを提案する。


“いいんですか!? その制御ソフトってアメリカ軍の軍事機密ですよね。そもそも、ニビルフォンでそのソフト動くんですか?”


 アイリスがルーペ中尉の無茶苦茶な提案に異議を唱えると、ルーペ中尉は白い歯を見せて笑った。


“ニビルフォンも、タブレットもOSは同じアンドロイドだ。何とかなるだろ”

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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