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第24話 奴を仕留めれば俺達はヒーローになれますッ!!

――グリーン・ルーペ


 エルフはデトロイト市の中心部から離れ北に向かって疾走する。

 このまま北上していけば、先にあるのは人気のない街外れ、その先には全く人のいない広大な森林地帯が広がっている。


“ダニー博士もっとアクセル踏んでください。このままじゃドローンが通信圏外に出ちまうッ!!”


“そんなこと言われても、私こんな大きな車運転するの初めてなんですッ!”


“それでも頑張ってください。奴を仕留めれば俺達はヒーローになれますッ!!”


 俺達が搭乗する中型バスは、デトロイトの中心部から北に延びる道路を爆走している。

 ハンドルを握るダニー博士の手つきはおぼつかないが、代わりの運転手はいない。

 いまは彼がハンドル操作をミスらないことを祈るしかない。


“ルーペ中尉、エルフの現在地がコメリカパークから10キロ以上離れました。前線部隊との通信途切れます”


 ミス・アイリスが律儀に、コメリカパークにいる前線部隊との通信が途切れたことを報告してくる。


“問題ないッ! ヒーロー達は会場の混乱を鎮めたら勝手に追いかけてくる”


 こんな状況になった時点で前線部隊と通信が途切れてしまうのは織り込み済みだ。

 いまは彼らがコメリカパークで自分の仕事をやり遂げてくれることを信じて、俺はスイッチブレードの操作に集中する。

 スイッチブレードのガンカメラから送られてくる映像を見て俺は奥歯をかみしめる。

 トビサソリの飛行速度と、スイッチブレードの飛行速度が拮抗しているためカミカゼアタックに持ち込めないのだ。


”ファアックッ!! たかがモスキートが時速300キロ以上で飛ぶんじゃねえッ!”


 スイッチブレードは本来装甲車や戦車といった地上を走る目標を攻撃する兵器だ。

 ウクライナ戦争ではスイッチブレードでロシア軍のヘリを撃墜した実績もあるが、基本的に300キロ以上のスピードで空を飛ぶ飛翔体を攻撃する前提で作られた兵器ではない。


“監視ドローンで牽制しましょう”


 ミス・アイリスが、トビサソリを攻撃するスキを作るために監視ドローンを使うことを提案する。


“監視ドローンで何をやる気だ? そっちに武装は積んでないぞ”


“レーザーポインターがあります。あれが目に直撃すればトビサソリも無視できないはずです。”


 監視ドローンに武装は搭載されていないが、夜間に敵を捜索するためにレーザーポインターが装備されている。


“いいと思います。レーザーポインターのレーザーは低出力なのでトビサソリを殺傷する威力はありませんが、人間の目にレーザーを当てれば失明する可能性があります。そのことを考慮すると、レーザーを目に当てればトビサソリは何らかの攻撃を受けたと誤認する可能性があります”


 ミス・アイリスの提案にダニー博士も同調する。

 インテリ二人がいけると言っている。賭けてみる価値はありそうだ。


“いいだろう。ただし、レーザーポインターを撃つなら俺が1人で2台のドローンを操縦するのは無理だ。ミス・アイリス、スイッチブレードの操縦はお前がやれ”


 俺はスイッチブレードを操縦するためのタブレットをミス・アイリスに投げ渡す。

 スイッチブレードは敵に突っ込んで爆発する機能しか持たないドローンなので、操作はタブレット端末にインストールした制御ソフトだけで行うことができる。

 いままでは監視ドローンをオート追尾モードに設定することで、俺は2台のドローンを同時に制御していた。

 しかし、監視ドローンに複雑な動きをさせる必要が生じた以上、一人で両方を制御するのは不可能だ。


“使い方は前に教えただろ。ミス・アイリスは余計なことを考えずにスイッチブレードをトビサソリにぶち込んでくれ”


 俺は監視ドローンをオート追尾モードからマニュアルに復帰させて、搭載されたレーザーポインターをトビサソリの目に照射する。


“そのバカでかい目に食らわせてやるッ!!”


 直線飛行を続けるトビサソリの目にレーザー光線が命中した。

 レーザーを目に受けると苦痛を感じたらしく、トビサソリは直線飛行をやめて回避行動をとる。


“速度が落ちたいけるぞッ!”


 俺は回避行動とったトビサソリに再びレーザーを照射する。

 殺傷力は皆無だが、レーザーポインターから照射される光のスピードは光速だ。

 トビサソリが空中をどれだけ素早く移動したとしても避ける術はない。

 目に照射されるレーザーを嫌がって回避行動をとり続けるトビサソリは飛行速度がみるみる低下していく。


“ミス・アイリス、ちゃんと目標を補足しているな”

“ノープロブレム。追いついたッ!”


 飛行速度が落ちたトビサソリにアイリスが操縦するスイッチブレードが肉薄する。

 スイッチブレードがトビサソリの真近に迫ったそのとき、信じられないことが起こった。

 トビサソリはレーザーから逃げ回るのをやめて、空中で一瞬静止して直後にバク転運動に似た軌道で宙返り決めた。

 クルビット機動。

 最新鋭の戦闘機だけが実現できる航空機動で、機体を立てて空気抵抗を大幅に増やすことで急減速し、そのまま一回転して水平飛行に復帰する動きだ。

 トビサソリはクルビット機動で、ルーペ中尉の想定を超える速さで減速し背後から迫るスイッチブレードを回避した。


 毒魔法≪ヘドロノイブキ≫ 


 航空機同士の格闘戦で背後を取られるのは死を意味する。

 クルビット機動で、スイッチブレードの背後に回ったトビサソリは魔法でスイッチブレードを撃墜する。


“スイッチブレード撃墜されました”


 アイリスが唇を噛みながら報告する。


“ファック、ファック、ファックッ!! 土壇場でクルビットだって、なんなんだ、あのバケモノは!?”


 俺はトビサソリへの怒りにまかせて毒を吐きまくる。

 さらに悪いことは起こる。

 トビサソリはレーザーを撃ってきた監視ドローンを敵とみなし攻撃を仕掛けてくる。

 武装がなく、飛行性能でも大きく劣る監視ドローンはトビサソリの攻撃から逃げきれず撃墜されてしまう。


“監視ドローン撃墜されました。トビサソリの現在地ロスト”


 ミス・アイリスから絞り出すような口調で監視ドローンの撃墜報告を受けた俺は、ドローンのコントロールパネルを思い切り殴りつけた。


“ジーザスッ! これじゃ衛達に顔向けできねえ”


 俺はトビサソリを駆除する千載一遇のチャンスを逃してしまったことを痛感する。


 ピコーンッ! ピコーンッ!


 作戦に失敗したことに気落ちする俺達の元に恵子から通信が入ってくる。


「こちらイエロー1。コメリカパークの混乱が収まったので、いまマモちゃんを除く全員でエルフを追いかけています」

「こちらエルフ。イエロー1が通信圏内に到達したことを確認しました。合流のために停車します。ところで、衛はエルフ追いかけていないと言っていたけど、彼は何をしているの?」


 マモちゃんを除くの言葉に反応してミス・アイリスが問いかける。

 衛が部隊をほっぽり出してどこかに行ってしまうとは思えない。


「マモちゃんは――トビサソリに変身して、逃亡したトビサソリを追跡しています」


 衛がトビサソリに変身して、逃亡したマモノを追跡していると聞いてうつむいていた俺は顔をあげてアイリスの側に向き直る。


“衛は逃げたトビサソリの位置がわかるのか?”


「はいッ! トビサソリに変身したマモちゃんならトビサソリのガスセンサーを使って逃げた個体の位置がわかります。

 ニビルフォンのGPS信号を確認してください。

 マモちゃんの持っているニビルフォンのGPS信号をたどればトビサソリ位置を特定できるハズです」


 ミス・アイリスと俺は向かい合って思わず笑みを漏らす。

 まだ希望は失われていない。

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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