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第21話 コメリカパークでトビサソリを迎撃しましょうッ!

――天原衛


 と、事実を公表し注意喚起を行った場合、多くの人が職を失うことになるとルーペ中尉は警告する。


「付け加えると。職を失った人は住む家を失うことも多いです。家を失った人は身体を清潔に保つのが難しくなるので、ますますトビサソリに狙われやすくなります」


 と、アイリスが配達員の行く末について補足を入れる。


「なにそれ!? なんにも良いことないじゃない」


 恵子は、ルーペ中尉とアイリスの話を聞いて思わず悲鳴をあげる。

 注意喚起をするべきか黙っているべきか悩んでいる最中、不意に牙門が手をあげる。


「これは素朴な疑問なんだが、なんでトビサソリは人間を集中的に襲うんだ? 血を吸ってたんぱく質を摂取するのが目的なら人間以外の野生動物を襲っても問題ないはずだろ」


 牙門が思いついた疑問を口にする。


「確かに言われてみると不思議ですね。デトロイト周辺の森林地帯にはヘラジカやブラックベアといった人間より大型の野生動物が生息しています。ウシやウマサイズの動物が呼吸した際に吐き出す二酸化炭素は人間の約10倍といわれているので、トビサソリが二酸化炭素に反応しているなら大型の野生動物の方が優先的に狙われるはずですね」


 牙門の疑問にアイリスも答えが見つからないらしくコクンと首をかしげる。


「じゃあ、その件についてはダニー博士に聞いてみようぜ。アイリスにわからないことなんて、俺達にわかるはずが……あっ!?」


 牙門が提示した疑問について専門家であるダニー博士に相談しようと思った矢先、俺の脳裏に稲妻のようにとある考えがよぎった。


「なあ、これって完全に俺の推論なんだがヘラジカやクマが住んでいるのって森の中だよな。

 森の中だと奴らがどれだけ二酸化炭素吐き出しても周囲の植物が光合成で使っちまうから、大気中の二酸化炭素濃度が低くなるんじゃないか?」


 俺は農業をやっていた経験から光合成によって二酸化炭素が植物に食われてしまうことを思い出して、周囲の環境によって二酸化炭素濃度が低くなる可能性を口にする。


「そうか大気中の二酸化炭素濃度。だとすれば……それだッ!!」


 アイリスは二言三言つぶやくと、テレビに映し出されたMLBの試合中継を指さした。


“おい、いきなりどうした? タイガースの試合になにかあったか”


 突然アイリスがテレビを指さしたのを見て、ルーペ中尉が狼狽する。


“ルーペ中尉、今日のタイガースの試合はビジターゲームですよね?”


“ああ、今日はシカゴに行ってホワイトソックスと試合している”


 アイリスに詰め寄られて、ルーペ中尉はたじたじの様子で回答する。


”じゃあ、次にタイガースがホームで試合をするのは何時ですか?”


“次のホームゲームは、4月17日のドジャース戦だ”


 ルーペ中尉の回答を聞いて、アイリスは両手をぐっと握りしめてガッツポーズを作った。


「皆さん、4月17日のタイガースのホームゲームに高確率でトビサソリがやってきます。だから当日、タイガースのホームスタジアム、コメリカパークでトビサソリを迎撃しましょうッ!」


 アイリスは椅子から立ち上げって身を乗り出しながら宣言する。


「タイガースのホームゲームをトビサソリが襲撃するって、なんでそんなことがわかるんだ?」


 コメリカパークにトビサソリが来るというアイリスの発言に理解が追いつかず、牙門が疑問を口にする。


「さっき衛さんが言ったじゃないですが、大気中の二酸化炭素濃度は周囲の環境によって変化する。

 タイガースの試合が行われれば野球場という狭い空間に数万人の観客が押し寄せます。

 人間にはわからないわずかな差ですが、高度なガスセンサーを装備したトビサソリなら周囲に比べて極端に二酸化炭素が濃くなった空気の変化に確実に気づくはずです」


 アイリスは身を乗り出してタイガースのホームゲームで迎撃作戦を行うべきだと強く主張する。


「なるほどね。なら、PHCアマハラの代表として4月17日にコメリカパークでトビサソリの迎撃作戦を行うことを承認するよ」


 俺はPHCアマハラの代表として、アイリスの提案した作戦を実施することを決定する。


「ちょっと待て、お前ら!? 自分達がなに言っているのかわかっているのか? いや、お前達はわかっているはずだろ」


 4月17日にコメリカパークでトビサソリの迎撃作戦を行うと聞いてルーペ中尉は大きく動揺する。

 無理もない、衛達はタイガースの試合を見に来た観客をオトリにしてトビサソリを釣り上げようとしているのだ。


「わかっていますよ。常識的には、4月17日のタイガース戦の会場にトビサソリが襲撃してくる可能性が高いことをマモノ災害対策チームに報告して試合を中止してもらうのが正しいと思います」


 もし正規の軍人が観客をおとりにしてマモノを釣るなんて作戦を実行したら確実にクビになるだろう。


「でも、もうそんなこと言っていられないでしょ。4月17日だと最後の犠牲者が確認されてから15日経過しています。

 ダニー博士の推測が正しければ、産卵、交尾、受精を終わらせたトビサソリが町に来て人を襲う頃合いです。

 試合を中止しても、街中で誰かが血を吸われて殺されるんですよ。

 それを防ぐために、どんな手を使ってもトビサソリを見つけ出してぶち殺さなきゃならない」


 俺の言葉に無言でうなずくPHCアマハラの面々の顔を見て、ルーペ中尉は乾いた笑いを浮かべる。


「アイリス、悪いけど4月17日の試合のチケット人数分確保してくれないか? 場所はどこでもいいけど待ち伏せかけるなら球場に潜り込まないといけないからな」

「オーケー。試合のチケットなら公式サイトで普通に買えると思う」


“いや、それは無理だぞ”


 4月17日のチケットを買おうとした俺達にルーペ中尉が待ったをかける。


“4月17日のチケットは2か月以上前に完売してる”


「なんで? タイガースってそんなに人気あるの」


 日本人の衛はMLBにどんなチームがあるかよく知らないが、デトロイトタイガースがすごい人気球団だという話は聞いたことがない。


“対戦相手がロサンゼルス・ドジャースだって言っただろ。宮本が来るんだよッ! 去年ナ・リーグでMVPを取った投打二刀流のメガスターだ。お前ら日本人なのに知らないのか?”


「確かに公式サイトで4月17日の試合のチケットはソールドアウトになっています」


 俺達は日本の国民的英雄のせいで球場が超満員になることを知り、どうやってコメリカ・パークに潜り込むか頭を悩ませることになった。

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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