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第14話 天原君だってろくに歩けない男の命令なんか聞きたくないだろ

――天原衛


 俺達がデトロイト暴動の再発を未然に防いでから10時間後。

 完全に夜の帳が下りるのを待って、PHCアマハラはトビサソリ駆除作戦を開始した。

 作戦といっても派手なドンパチをするのではなく、やることはデトロイト市内に潜むトビサソリの捜索だ。

 俺達は、恵子と牙門、ハ・マナとハ・ルオ、ミ・ミカとヨ・タロの組み合わせでツーマンセルのチームを3つ作りデトロイト市内にある多数の空き家や物陰をしらみつぶしに探していくことにした。

 そして、組み合わせであぶれてしまった俺は捜索隊の移動基地となる中型バスの運転手をやらされている。


「ほかに運転手の手配できなかったのか? 俺、普通免許しか持ってないからバスの運転とか怖いんだけど」

「ノープロブレム。アメリカでは日本の普通免許に相当するクラスCの免許で、このサイズのバス運転できるから。それに衛が運転しやすいように車種は日本車を用意してもらったのよ」


 アイリスは、俺がバスを運転することに無責任な太鼓判を押してくれる。

 彼女の言う通り俺の運転するパスは日本車だった。

 車両そのものはいすゞ自動車のエルフのシャーシを流用した中型バスで、車内の前方にはニビルフォンに対応する軍用無線機や、ドローンを操縦するためのコントロールパネルが取り付けられており、バスの後ろ半分には捜索藩のメンバーの休憩スペースや、予備のドローンが積み込まれている。

 バスには俺以外に、ルーペ中尉と、アイリスが乗り込んでいて、アイリスは恵子達に俺が下した命令を伝えるオペレーターを、ルーペ中尉は液晶パネルに映し出された監視ドローンが送ってくる映像とにらめっこをしている。


「ルーペ中尉、本当に俺が作戦指揮官でいいんですか? 俺は中尉に指揮権を渡してもいいと思ってるんですが」


 俺も牙門も本職は敵兵と直接対峙する戦闘要員だ。

 だから、よそ者に命令されたくないなんて変なプライドは持っていない。

 しかし、ルーペ中尉に作戦指揮官への就任を断られてしまった。


“俺はヒーロー達がどんな能力を持っているから知らないからな。ドローンで現場の状況を推測して、必要な行動スキームを説明するから。天原君が誰に何をやらせるかを判断してミス・アイリスに伝えるんだ”


 ルーペ中尉の英語をアイリスが通訳してくれる。

 その話を聞く限り、作戦指揮を行うのはあくまで俺で、彼は市街戦のアドバイザーとしてこの作戦に参加するつもりのようだ。


“だいたい、天原君だってろくに歩けない男の命令なんか聞きたくないだろ”


 ルーペ中尉は義足になった自分の左足をコンコンと叩いて自虐的につぶやく。


「自虐ネタで俺を値踏する気でしょうが、左足が無いのは戦場で追った名誉の負傷でしょ、さげすむ要素なんて1ミリもないですよ。それに俺はドローンの操縦なんて出来ないんで、ドローンを使った上空からの監視、せいぜい頼らせてもらいます」


 現在のフォーメーションは、ツーマンセルで作った3組の捜索隊を俺が運転するバスを取り囲むように配置した上で、赤外線センサーを装備した監視ドローンを上空にあげて、空と地上の両面でトビサソリの捜索を行っている。

 監視ドローンには捜索隊との通信を延長するための中継器も搭載しているので、ルーペ中尉の操縦する監視ドローンが文字通りトビサソリを捜索するための要だ。


“天原君はヒーローなのに良い奴だな”

「どうしたんですか急に?」

“必要だと思ったら文句を言わずに裏方に回れるのがエライと思ったんだよ。俺が君の立場だったら俺は元デルタだぞと言って上官と揉めているところだ”


 さらりと言ったが助手席に座るルーペ中尉は、元デルタフォースの隊員だったようだ。

 デルタフォースはアメリカ陸軍が対テロリスト戦を想定して作った特殊部隊なので、彼の市街戦の経験が豊富という言葉に嘘はないだろう。


“もっとも、この足じゃもう前線に出るのは無理だけどな”

「その左足、やっぱり中東の方でケガしたんですか?」


 ツッコミ待ちに思えたので質問すると、ルーペ中尉はニヤリと白い歯を見せて笑った。


“ウクライナだ。俺は昨年までウクライナ義勇兵に参加していた”


 ハ・ルオの証言からデトロイトの街で暴れまわっているマモノがトビサソリであることに気づき、アメリカ政府にトビサソリの存在とその脅威を伝えたところまではよかった。

 しかし、実際にトビサソリ駆除作戦を実施するにあたって、俺達は大きな問題に直面した。

 問題は単純にして致命的。

 トビサソリ駆除作戦の作戦計画が作れないのだ。

 普通に考えれば作戦指揮は、自衛隊で軍隊のイロハを教わった俺か牙門がやらなければならないが、残念なことに俺も牙門も市街戦の経験がない。

 俺と牙門が所属していた北部方面隊普通科は、北海道の山岳地帯で戦うこと想定して編成された部隊なので市街戦については実戦経験どころか訓練を受けたことすらない。

 ウインド・リバー訓練キャンプの戦いは、軍事基地の攻撃作戦だったので周囲にある建物や設備を手当たり次第に破壊しても問題なかったが、民間人が住んでいる市街地で戦う場合なにも考えずに暴れるわけにはいかない。

 俺達に課された交戦規定は、デトロイト市内の3割に達する空き家のどこかに潜むトビサソリを捜索し、可能な限り周囲に被害を出さないように駆除すること。

 そんな作戦を実行するには市街戦の経験が豊富な指揮官の存在が絶対に必要だった。

 アイリスを介して、その辺の事情をマモノ災害対策チームに相談した結果、派遣されてきたのがグリーン・ルーペ中尉だ。

 助っ人を頼んだ俺がいうのも変な話だが、想像してたより10倍くらいスゴイ人が来てくれた。

 どこの業界でもそうだが、軍人の間でも有名無実の格というやつが存在する。

 基本的には大国の特殊部隊。アメリカ陸軍のデルタフォースや、イギリス陸軍のSASが世界最強クラスの特殊部隊として格が高い。

 しかし、実のところ現段階で世界最強の陸軍を保有しているのはウクライナだ。

 国力が低い、軍隊の規模が小さいという問題はあるが、兵の練度という一点においてウクライナ軍は世界最高だ。

 ウクライナは戦時中の国だ。

 戦争相手は数年前まで世界第2位の軍事力を持つ大国ロシア。

 そんな大国相手にウクライナ軍は、最新の装備、最新の戦略、最新の戦術を駆使して何年も戦い続け、そして実戦通して得られた戦訓を元に、装備、戦略、戦術を日々アップデートし続けている。

 アメリカを含む西側諸国は、ウクライナ軍が行っているドローンを多用する戦術を自軍でも行えるよう装備や訓練内容の更新を行っている途中なので格の違いは明らかだ。

 そして、グリーン・ルーペ中尉は元ウクライナ義勇兵。

 彼は、この世の地獄と呼ばれているドローン戦争の経験者なのだ。

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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