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第11話現在マモノによる被害が発生しているはミシガン州のデトロイトです

 ――天原衛


 アメリカに来た一つ目の目的。

 PMCダーク・ウォーカーのから子供兵を救出する作戦は、一応の終わりを迎えた。

 証拠隠滅をする前に俺たちがウインド・リバー訓練キャンプを制圧されたため、ダーク・ウォーカーの役員達は逃げ場を失い、全員がFBIに逮捕された。

 ここから先は俺達にできることは何もない。

 犯罪者の運命はアメリカの司法に委ねられ、保護された子供たちは自分の意志で自らの運命を切り開いていくことになる。

 俺たちはピーターソン宇宙軍基地に間借りさせてもらい、FBIの事情徴収に協力しながら、しばしの休息と次の作戦への準備を進めていくことになった。


 二つ目の目的。

 それは、アメリカ政府から俺たちへの真のオーダーである、アメリカ国内で暴れまわるマモノの駆除だ。


「HSSからの報告によると、現在マモノによる被害が発生しているはミシガン州のデトロイトです」


 アイリスは手に持った教鞭で、ホワイトボードに張り付けたアメリカ地図の最も北にあるエリアを指し示した。

 俺達は、基地内にある小さめの会議室を借りて今後の方針について話し合っている。

 ウインド・リバー訓練キャンプ制圧作戦は、ダーク・ウォーカーの奴らが証拠隠滅を図る前に行動する必要があり、とにかく時間がなかった。

 そんなわけで、1つ目の作戦が終わったあとようやく俺たちはいまアメリカで発生しているマモノ災害の概要を知ることになった。


「マモノがデトロイトで暴れてるってマジか!?」

「はい、大マジです」


 俺の問いかけにアイリスはニコリともせずそう答える。

 自分の古巣がこんな大事件を隠蔽していたのだ。

 彼女も内心、この場で叫び声をあげたい気分だろう。


「衛さんも、アイリスさんも渋い顔しているけど、デトロイトって場所なにか問題があるの?」


 アメリカの地理について知識のないミ・ミカが素朴な疑問を口にする。


「デトロイトっていうのは街の名前なんだ。人口は――何人くらいいるか知らないけど、とにかくたくさん人が住んでる大都市のど真ん中だ」

「まっ、街中にマモノ!? すぐに退治に行かないとッ!!」


 牙門にデトロイトが街の名前だと聞かされて、状況のヤバさを理解したミ・ミカが大声をあげる。


「デトロイトの人口は最新の統計データによると63万人ですね。最盛期は180万人の人口を有する大都市だったのですがアメリカ自動車産業の衰退に伴ってデトロイトも大きく衰退しました」

「63万人って、ウルクの人口の2倍以上じゃない。そんなたくさんの人がマモノの脅威にさらされているのに何で騒ぎになってないのよ!?」


 ハ・マナは自分のスマホを取り出してデトロイトに関する情報を調べ始めるが、デトロイトで大きな事件が発生しているという情報は出てこなかった。


「事件が報道されていないのは、アメリカ政府がマモノによって発生した被害を隠蔽していたからですね」

「隠蔽っていっても、キュウベエやグレンゴンみたいな大型のマモノが暴れまわったら隠蔽なんてできないでしょ」


 キュウベエやグレンゴンみたいなマモノは怪獣映画に出てくる怪獣と同じだ。

 奴らは建物も人も力ずくでバラバラにしてしまう暴力の化身なので、どんなに政府が強力な情報統制を敷いても被害を隠蔽できるとは思えない。


「情報の隠蔽が可能だったのはデトロイトで暴れているマモノがグレンゴンのような大型のマモノじゃなかったからです」

「なるほど、デトロイトで暴れているのは強力な大型種じゃなくて、隠密行動が得意な小型のマモノってことか」


 マモノといってもその種類は千差万別だ。

 グレンゴンのように強大な体躯と強力な攻撃魔法で破壊の限りを尽くすマモノもいるが、ノウウジのように他の生き物の中に潜んで隠れて悪さをするマモノもいる。


「そのとおりです。そして、恥ずかしながら米政府はいまだにデトロイトに存在するマモノの正体をつかめていません」

「正体をつかめていないって、それ変じゃない? デトロイトでマモノが魔法使って派手に暴れてるわけじゃないんでしょ。かといって、マモノがコソコソ動き回っているのを見つけたわけでもない。それなのに、どうしてマモノによる被害が発生しているってわかるのよ」

「それは……本日までに54名分、マモノによって殺害されたと思われる死体が確認されているからです」

『はぁぁぁ!?』


 アイリスは目をつぶって絞り出すように発した言葉を聞いて、その場にいる全員が一斉に大声をあげた。


「なんなのッ!? なんなのッ!? なんなのッ!? 最低でも54名もの人がマモノの犠牲になっているのに情報を隠蔽するって、アメリカの偉い人は脳にウジが沸いているんですか?」


 ハ・ルオがあふれだす感情のままに言葉をまくし立てる。

 マモノが市街地に入り込み多数の犠牲者を出しているのに、注意喚起をするどころかマモノによる被害が出ていることを隠蔽する。

 ニビルで生まれたハ・ルオからすれば信じられない対応だろう。


「ハ・ルオの言う通りアメリカ政府の高官は頭にウジが沸います。被害を隠蔽している理由は二つ。一つはマモノを速やかに駆除できない政府の失態を国民に隠すため。二つ目が、被害にあっている人の大半がスラム街の所得の低い人達だからです」


 アイリスが絞り出すような口調で語るアメリカ政府のどす黒い思惑を聞かされて、その場にいる全員が口をつぐむ。


 ズガーンッ!!


 沈黙を打ち破ったのは豪快な打撃と破壊によって引き起こされた轟音だった。

 恵子が自分の目の前にある会議テーブルを力いっぱい殴りつけて叩き壊した。


「ふ・ざ・け・る・なッ!! アメリカ政府は人の命をなんだと思ってるのよ!?」


 恵子は、テーブルを叩き壊し、血を吐くような叫びで怒りを爆発させた。

 ヒートアップした恵子を落ち着かせるために、俺は背後からギュッと彼女を抱きしめた。


「ちょっとマモちゃん。人前で抱きつかないでッ!」


 人前じゃなければ抱きついてもいいのか? とツッコミを入れたくなるが、とりあえず羞恥心が怒りを上回ったようで恵子は顔を真っ赤にして肩からスゥーっと力が抜ける。


「天原妹、気持ちはわかるが、とりあえず騒がずにアイリスの話聞こうぜ。ハラワタ煮えくりかえっているのはあいつも同じなんだからさ」


 恵子がブチ切れるのも無理はない。

 怒りで泣き叫ぶほど感情が昂ったりはしないが、アメリカ政府の対応に納得できる部分はなにひとつない。

 アイリスは後ろから俺に抱きつかれて顔が真っ赤になっている恵子を一瞥してから話を続ける。


「大変腹立たしい話ですが、被害者の大半がスラム街の住人だったことが事件を隠蔽した理由の一つですが、デトロイトの街の構造上仕方ない面もあるんです」


 アイリスはホワイトボードに赤黄色緑で色分けされた町の地図を張り付けた。


「先ほども言いましたが、デトロイトはゼネラルモータースというアメリカでもっとも大きな自動車メーカーの本社がありアメリカの自動車業界が好調の時には180万人もの人口を有するアメリカ最大の都市の一つでした。しかし、自動車業界の衰退に伴って多くの人が町を去り現在の人口は63万人まで減少しています。その影響で最盛期に人口が集中していた都市中央部から人がいなくなり地図上の赤で記した地域ではビルも住宅も6割以上が空き家で、そこにホームレスやギャングが不法に住み着いて急激に治安が悪化、町の中心部はスラム街と化しています」

「6割が空き家って、古いビルを取り壊して再開発としないのか?」


 人が減ったといっても人口が50万人以上いる都市なら日本なら確実に行政主導で再開発が行われる。


「しないというより出来ないという方が正しいですね。先ほど自動車産業の衰退とともに人口が大幅に減ったとお話ししましたが、デトロイトを去ったのは白人の富裕層と中流層。そしてデトロイトに残ったのは黒人の貧困層です」

「世知辛ないな。景気が悪くなっても貧乏人は逃げ出す金もないってことか」


 戦争が起こったときと同じだ。

 金がある奴は戦争の匂いを感じると外国に逃げるが、貧乏人は逃げる金がないので戦争が起こるとそのまま戦火に巻き込まれる。


「そして、税金を納めてくれる住民の大半を失ったデトロイト市は財政破綻しました。当然、廃ビルや空き家を取り壊して再開発する資金はありません」

「じゃあマモノは街中にある空き家のどこかに潜んでいるってわけか、厄介なことこの上ないな」

「今のところデトロイトに潜んでいるマモノの目撃情報はありません。しかし、人間には不可能な特異な方法で殺害された犠牲者の遺体が多数見つかったことで、アメリカ政府はデトロイトのスラム街にマモノが潜んでいることを認識しました」


 その死体すら、最初は殺人事件の被害者だと思われていたらしい。

 スラム化したデトロイトは犯罪発生件数が大量で、全米で最も危険な都市の一つと言われているとアイリスは付け加える。


「これから、マモノに殺された被害者の写真を見せます。割とショッキングな写真なので見たくない人が目を閉じてください」


 アイリスがホワイトボードに張り付けたのは血色を失い肌が土気色に変色した黒人女性の遺体だった。

 大きな外傷はないようだが、首筋に死因となった一センチほどの穴が開いている。


「死因は出血性のショック死。首筋に直径一センチほどのクダ状のパイプで突き刺され、そこから大量の血を奪われたようです。そして、昨日まで彼女と同様に理由で殺害された死体が……」

「54人同じ方法で殺された死体が上がったから、アメリカ政府もこれがマモノの仕業だと気づいたってわけか」

「そのとおりです」


 それだけ言ってアイリスはガックリとうなだれた。

 正直、オントネー分室に軍事侵攻する暇があるならもっと早く相談して欲しかった。

 アメリカが事態を自力で解決しようとせず、異世界生物対策課に助けを求めてくれたら被害者の数を減らせたかもしれない。


「恵子、この死体を見てなにかわかるか?」


 マモノ退治の専門家である恵子達なら何かわかるかと思い、話を振ってみると、恵子。ミ・ミカ、ハ・マナ、ハ・ルオの4人は全員目を額にしわを寄せて険しい表情を浮かべていた。


「衛さん、激ヤバだよ。そのデトロイトって街にいるマモノはトビサソリ。そして間違いなくツガイだ」


 全員を代表してハ・ルオが絞り出すような声でマモノの正体について教えてくれた。

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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