第8話 衛さん、無茶しすぎですッ!
――天原衛
4月5日午前5時。
俺、恵子、牙門、ミ・ミカ、ハ・マナ、ハ・ルオ、ヨ・タロの7人は輸送機のキャビンから飛び降りて大空に身を躍らせた。
高度2000メートルからの空挺降下。
数秒自由落下した後に、俺は安全帯を引っ張ってパラシュートを展開する。
直後、落下速度が急激に下がった影響で俺は自分の身体が急激に上空に引っ張り上げられるような錯覚を覚えた。
パラシュートを開き落下速度が落ちると周囲を見渡す余裕が生まれる。
顔を上げると視界一杯にウインド・リバー山脈の雄大な自然が広がっていた。
観光名所にもなっている美しいウインド・リバー山脈の美しい景色、その一画を切り取るようにコンクリートで塗り固められた司令塔と、塔を取り囲むように建てられたプレハブ小屋が立ち並んでいる。
さて、どうしよう?
俺達は空挺降下の専門訓練を受けていないので、パラシュートを操って1か所に集まって降下するようなスキルは持ち合わせていない。
だから作戦はかなりアバウトで、戦闘を開始するまでのスキームは、各個に落下傘降下して、着陸後個別に基地に向かい、個々の裁量で戦闘を開始することしか決めていない。
このまま風に任せて降下して、走って基地に向かってもいいが、それでは空挺降下作戦の最大の利点である奇襲性が失われる。
幸いパラシュートが落下速度を落としてくれたおかげで体勢を整える余裕がある。
俺はマジンだ。
せっかくなら、マジンにしかできない戦い方を見せてやる。
「いっくぞぉぉぉぉッ!」
俺はナイフでバックパックのベルトを切り、身体の動きを阻害するパラシュートを切り離した。
パラシュートを失い、再び自由落下を始めた直後、俺は魔法を発動させる。
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
背中から魔力が噴き出し俺は水平方向に大きな推力を得る。
全身が空気の壁にぶつかり、ブオォォォォ!!と鳴り響く激しい風切音を聞きながら俺はウインド・リバー訓練キャンプに向かって突き進む。
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
俺は2回目のケモノノハドウを使い、進路のズレを修正する。
ケモノノハドウは圧縮した魔力を体外に噴出させて運動エネルギーを作るだけの単純な魔法だが、単純故に身体の何処からでも魔力を噴出できる利点がある。
自由落下中にケモノノハドウを利用して水平飛行して直接敵基地に突っ込む。
それが俺の考えたマジンの戦い方だ。
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
俺は敵基地にたどり着くための推力を確保するためケモノノハドウを連続発動させる。
ウインド・リバー訓練キャンプが目前に迫って来る。
こうなると気を付けないといけないのは着陸地点の選択だ。
俺が着地した際の衝撃は砲弾やミサイルが着弾した時と同等の破壊力があるので、下手な場所に着地すれば訓練を受けている子供達に多数の死傷者を出してしまう。
そうだな……あれがいいッ!!
俺が目を付けたのはプレハブ小屋の側に駐車されたホロ付きのトラックだ。
おそらく兵員輸送用の車両だ。
見たところ人が乗っている様子はないし、あれを破壊してしまえば敵の逃げるための足を奪うことができる。
ボガァァァァァンッ!!
俺が着地すると、足元のトラックの車体は飴細工のように折れ曲がり、断線した燃料パイプから噴き出たガソリンに小さな火花が跳び移る。
結果、兵員輸送用のトラックは轟音を立てながら爆発炎上した。
奇襲の一番槍としては申し分ないだろう。
トラックが爆発炎上したことで非常事態を知らせるアラームがけたたましく鳴り響く。
それを聞きながら、俺はピョンとジャンプして炎上するトラックから脱出した。
「衛さん、無茶しすぎですッ!」
俺がトラックから脱出した直後、ミ・ミカから注意の声が飛んでくる。
俺と同じようにケモノノハドウを使って水平飛行して来たミ・ミカは、俺みたいな無茶な突撃は行わず着地する直前に足元から魔力を噴射させてスマートな着地を決める。
「ミ・ミカ、速かったな」
「速かったな、じゃないですッ! 衛さんがいきなり突撃を仕掛けたからみんな急いで追いかけたんですよ」
ミ・ミカに続いて、基地に到着したのはハ・マナとハ・ルオだった。
ハ・マナはパラシュートを装着したまま風魔法≪オイカゼ≫を使って追いかけてきたようだ。
そして、ハ・ルオはパラシュートを切り離してオイカゼで飛ぶ姉にミノムシの様にぶら下がっている。
「ハ・ルオの奴、どうやってハ・マナに引っ付いてるんだ?」
「虫魔法のクモノイトを使っているみたいですね。魔法で作った糸は簡単には千切れないので」
ハ・マナが基地に上空に到達すると、ダーク・ウォーカーの連中は対空機銃で彼女を撃ち落とそうとしてくるが、ハ・マナは慌てずパラシュートを投棄して俺達の目の前に着地する。
「到着っと」
「姉さん、ありがとうございます。助かりました」
「いいのよ、ハ・ルオは作戦の要だし到着が遅れたら私が困るもの。それより衛さん、飛んで突っ込むなら最初からそう言ってよ。いきなり突撃するから、みんな大慌てだったのよッ!!」
ミ・ミカに続いて、ハ・ルオからも独断専行したしたことについて文句を言われる。
どうやら、自由落下中にケモノノハドウを使って飛ぶという思いつきは、ミ・ミカ達にとって想像以上に突飛なものだったらしく俺が先行したことで混乱させてしまったようだ。
「すまなかった。俺も、こんなに上手く飛べるとは思っていなかったんだよ」
ゲームで見たロボットの挙動を真似したら予想以上に上手く飛べてしまった。
たかがゲームだと思っていたが、最近のゲームはきちんとした物理法則にそって作られているらしい。
しかし、ここは戦場だ。
いつまでも言い争っている時間はない。
「総員ッ! 気を抜くな。囲まれてるぞ」
基地に降り立った俺達は、いつの間にか敵兵に囲まれていた。
俺達を包囲している敵の大半は子供兵で、彼等は物陰から銃口覗かせて俺達の様子を伺っている。
「俺は正面の部隊に突撃して突破口を開く。ミ・ミカは、ハ・ルオが射撃位置につけるように援護。ハ・マナは俺の背中を頼む」
「行き当たりばったりねえ……衛さんも、間違っても子供を殺さないよう気を付けて」
「では、状況開始ッ!」
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