第7話 やぁぁぁぁぁと着いたぁ
――天原衛
ヨ・タロが合流したあとの旅路は順調に進んだ。
C-2輸送機は噂に恥じない高速巡航能力を発揮して、俺達はわずか10時間でアメリカ西海岸にたどり着いた。
着陸地点として指定されたワシントン州フェアチャイルド空軍基地に降り立つと、待ち構えていたアメリカ国防総省とアメリカ保健福祉省の職員に契約書にサインをするよう求められた。
全て英文なので俺には何が書いているかサッパリ判らなかったが、アイリスが書類の内容を確認して説明してくれる。
「これは昨日話していた『ダーク・ウォーカーのウインド・リバー訓練キャンプ制圧任務』の業務委託契約締結書と、『アメリカ国内に出現した特別有害鳥獣駆除』の業務委託契約締結書です。この二つの契約を締結すれば、私達のアメリカ国内での活動が合法化されます」
「合法化か……まあ子供達の保護も、マモノの駆除も、確実にドンパチになるからなあ」
いくら大統領のお墨付きがあろうと、何の法的根拠もなく戦争をするのは許されないようだ。
「あと、ヨ・タロさんはパスポートもビザもないので、軍用犬という扱いで見逃してもらいました」
「犬なら犬で検疫とかあるんじゃないのか?」
「それも含めて見逃してもらいました。ヨ・タロさんは落ち着いていて狂犬病に罹患している可能性は限りなく低いので、書類だけ整えてくれるそうです」
「狂犬病は出なくても、狂犬病の免疫抗体は出てきそうだけどな」
肉体強化魔法の一つ『回復力強化』は怪我の治りが早くなるだけでなく、狂犬病だろうとエボラだろうと瞬時に免疫抗体を作って有害な病原菌を殺してしまう。
ミ・ミカやヨ・タロを血液検査したら、とんでもない結果が出るかもしれない。
フェアチャイルド空軍基地で入国手続きを終えた俺達は、長谷川さん達と別れてアメリカ軍のC-130輸送機でアメリカの内陸部へ移動する。
小さな窓から見える、果てしない大平原と巨大な山脈が数珠なりに連なる光景にアメリカという国の広大さを思い知らされる。
C-2輸送機に比べて圧倒的に足が遅いC-130輸送機の巡航速度にイライラしながら飛行機に乗り続けること4時間。
俺達はようやく作戦の前線基地となるコロラド州ピーターソン宇宙軍基地にたどり着いた。
『ダーク・ウォーカー、ウインド・リバー訓練キャンプ制圧作戦』の実施決定から、ここにたどり着くまでにかかった時間は27時間。
なんとか目標としていた48時間以内に作戦を決行できそうだ。
「やぁぁぁぁぁと着いたぁ。なんか身体がバキバキする」
恵子、だけでなくミ・ミカ、ハ・マナ、ハ・ルオの3人も長いフライトで凝り固まった身体を屈伸運動で伸ばしはじめる。
ピーターソン宇宙軍基地は3本の滑走路が整備された大きな飛行場で。
駐機スペースには俺達が乗ったC-130輸送機だけでなく、戦闘機、爆撃機、ヘリコプターがズラリと立ち並んでいた。
「一昨日はどうなることかと思ったが、予定より早く作戦が始められそうで安心したよ」
「航空自衛隊がC-2飛ばしてくれたおかげだな」
「自衛隊の方々には足を向けて寝られませんね」
こんな短時間で前線基地にたどり着けたのは航空自衛隊の協力が大きかった。
アメリカ軍のドン亀輸送機で太平洋超えたら確実にプラス10時間はかかっていただろう
「ところで、マモちゃん、アイリスさんにも『ありがとう』って言わないとダメだよ。アイリスさんが居なかったら、私達ここまでたどり着けなかったもん」
「確かにその通りだな。アイリス、ありがとう助かったぜ」
俺は恵子と並んでアイリスにペコリと頭を下げる。
PHCアマハラの法人設立、アメリカ国防総省やアメリカ保健福祉省との連絡調整、アメリカへの入国手続きと、ここに来るまで全てアイリスに頼り切りだった。
強さだけでは、どうにもならないことがある。
そんな当たり前の事実を思い知らされる2日間だった。
「ノンノン、ライトスタッフライトジョブ。日本では適材適所って言うじゃないですか。私に出来るのはヒーローを相応しい戦場に連れて行くところまで。ここから先は衛達の出番です必ず子供達を助けてあげてください」
「応、任せとけ」
俺はアイリスとグータッチして、この先の仕事をやり遂げることを約束した。
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