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第6話 ヨ・タロ。もしかして、日本語読めるの?

――天原恵子


「待った! 待った! 待った!」


 侵入者の正体がヨ・タロであることを知ったマモちゃんは慌ててヨ・タロを捕獲しようとする警備隊の前に割って入る。

 ヨ・タロに好き勝手引っ掻き回された警備隊の隊員はかなり殺気立っていたが、マモちゃんに続いてミ・ミカやハ・マナが立ちふさがって壁になるとなんとか踏みとどまってくれる。


「すいません。こいつは知り合いなんです」

「犬の知り合いって、こいつは忠犬ハチ公か?」

「犬みたいに見えますが、彼はウルディン。ニビルに住む、地球人と同等の知能を持つ知的生命体です」


 ヨ・タロのことを知的生命体だと説明したが、長谷川さんも警備隊の隊員も訝しげな視線をむけている。

 無理もない。

 予備知識が無ければどこにでもいる大型犬にしか見えないヨ・タロが知的生命体だと言われても与太話にしか聞こえないだろう。


 “ヨ・タロ、なんでこんなところに居るのよ?”


 事件のあとヨ・タロには札幌までダーク・ウォーカーの兵士達を護送するのを手伝ってもらったが、東京まで追いかけて来るなんて想像のナナメ上の事態だ。


 “お前達と別れる直前、総理大臣からの呼び出しで東京に行くという話が聞こえたからな。ニビルに関わる重大な決定があるかもしれないと思って様子を探りに来たんだ”

 “そんな思い付きで東京まで来たの!! だいたいどうやって津軽海峡を越えたのッ!?”

 “函館から出てる新幹線に潜り込んだ。20000エン以上の距離を4時間で移動できるなんて、この世界の文明はスゴイな”


 こいつマジか!?

 確かに新函館駅からは東京まで乗り換えなして移動できる新幹線が走っている。

 それを知っているということは、ヨ・タロは日本の社会情勢について相当勉強したようだ。

 それに……。


 “ヨ・タロ。もしかして、日本語読めるの?”

 “日本について知るために必要な知識だからな。アイリスに頼んで主要な単語の意味を教えてもらった”


 その言葉を聞いて私は驚きのあまり顎が外れそうになった。

 ともかく、大まかな事情を把握した私はタッチペンを口にして、ヨ・タロから聞き取った情報をグループチャットに投下する。


『ヨ・タロ、新幹線に密航して東京まで来たみたい。あと、こいつアイリスさんに日本語の読み書き教えてもらったって』


 私がメッセージを投下すると。

 グループチャットを目にした全員の視線がアイリスさんに集中する。


「いや、私が教えたのは簡単な挨拶とか、主要都市の名前とか、そのくらいですよ」

「まあ、小学校低学年レベルの日本語を教えただけで、こんな大事になるなんて想像つかないよな」


 日本語の理解度が低レベルでも、ヨ・タロの知能は大人だし、身体能力は超人だ。

 少ないヒントから推理を働かせて私たちの足取りを追うこともできるだろう。


「なんか盛り上がってるけど、このワン公が日本語読み書きできるってお前ら本気で言ってるのか?」


 論より証拠と言わんばかりに、アイリスさんはタッチペンをヨ・タロに咥えさせて、彼の目の前に自分のスマホを置いた。


「ヨ・タロさん、自分、名前?」


 アイリスさんは簡潔な質問をすると、ヨ・タロはタッチペンでメッセージアプリを立ち上げてグループチャットに「ヨ・タロ」と自分の名前を書いて投下する。


「ヨ・タロさん、この場所、名前?」


 続く質問にヨ・タロは、「東京」と入力してグループチャットに投下する。

 入間基地は正確には埼玉県にあるのだが、日本について詳しくないヨ・タロが首都圏一帯を全て東京だと勘違いしているのは仕方のないことだ。


「ヨ・タロさんは日本語の接続詞を覚えていないので、キーワードになる単語を並べて質問してあげるのが日本語で意思疎通をするコツですね」


 アイリスさんが、ヨ・タロと日本語で筆談するコツを説明してくれるが。

 それに対して誰も言葉を返さず、辺りはヒッソリと静まり返る。

 ヨ・タロがスマホの操作を覚えていることに私たちもビックリした。

 しかし、長谷川さんや、ヨ・タロを追いかけていた警備隊の人達の衝撃はそれ以上だったようで口をポカンと開けて呆然としている。


「マジかよ!? このワン公、完璧にスマホ使いこなしてるじゃねえか」

「何度も言いますが、彼は犬ではなくニビルに住む知的生命体ウルディンです。日本語には慣れていませんが知能レベルは地球人と同等ですよ」

「んんんん……」


 長谷川さんは悔しそうにうなり声をあげる。

 受け入れるのは難しいかもしれないが、ヨ・タロがスマホを使って人間と意思疎通をしている姿を目の当たりにするとさすがに彼が普通の犬ではないと認めてくれたようだ。


「天原、牙門――ヒーローになったり、読み書きができるワン公と仲間になったり、お前らいったい何してたんだ?」

「異世界に行ったんですよ。ニビルっていう、ヨ・タロみたいなホモサピエンス以外の知的生命体と、マモノっていう現代兵器では対処の難しい化け物が存在している異世界に」


 マモちゃんがニビルの存在について簡潔に説明すると、長谷川さんはあきらめたようにため息を吐いた。


「了解だ。お前らが、俺が考えていたよりも遥かに危険なヤマに関わっているのは理解した。それで、お前らこのワン公をどうするんだ?」

「ヨ・タロのことか……戦力的に考えたら作戦に参加してくれると心強いですね。恵子、ヨ・タロに俺達の行先と目的、あと作戦を手伝ってくれるなら歓迎すると伝えてくれ」


 マモちゃんに言われた通り、私はヨ・タロに行先と目的を説明する。

 ①行先は、地球のほぼ反対側にあるアメリカ合衆国。

 ②アメリカでの目的その1。子供を兵士にしている悪党の逮捕と、子供達の保護。

 ③アメリカでの目的その2。アメリカで暴れまわっているマモノの駆除。


”子供兵というのは、昨日エンオウに襲われていたクサリクの子供の仲間か?”

”うん。地球の反対側に集めた子供たちを訓練している大規模な基地があるから、そこを潰しに行くの。手伝ってくれるなら大歓迎だけど”

“なら協力させてくれ。子供を兵士にする外道はニヌルタ様に喰われるべきだ”

“本当にいいの? 地球の反対側に行くってことはウルクに帰れなくなるかもしれないわよ”


 作戦に参加するリスクを説明すると、ヨ・タロは小さく首を振った。


“問題ない。それに俺は、ウルクから遠く離れた広い世界を見てみたい”

“それが本音かよ”


 ヨ・タロの意思を確認した私はグループチャットで、彼が作戦に協力してくれることを周知する。

 すると、仲間の中でも特にヨ・タロを気に入っているアイリスさんが駆け寄ってきた。


「サンキューッ! ヨ・タロ。PHCアマハラはあなたの入社を歓迎します」


 こうして、私達はヨ・タロを含めた8人でアメリカへ向かって飛び立つことになった。

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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