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第4話 C-130って飛行機ってダメなの?

――天原衛


 4月3日午後22時。


「ありがとうございますッ!」

「ありがとうございますッ!!」


 俺とアイリスは、遅くまで残ってパスポートを作ってくれた外務省の職員に土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。

 いくら、アメリカ大統領と総理大臣がバックについているとはいえ、通常の手続きをすっ飛ばして特別対応でパスポートを作ってもらった。

 こんな夜遅くまで残って仕事してくれた外務省の人達には感謝しかない。


「大臣から事情は聞いたよ。天原君達が渡米できないとたくさんの子供が死ぬかもしれないんだろ。人の命がかかってるのに残業はイヤとか、そんなこと言うつもりはないよ」


 外務省の担当官はパスポートを2冊。

 俺と恵子のパスポートを手渡してくれる。


「だけど個人的に、こっちの三冊は渡したくないな。天原君、なんでミ・ミカさん達まで戦場に行かないといけないんだ? 彼女達は日本人ならまだ学校に行ってる年だぞ」


 見覚えのある顔だと思ったら、パスポートを作ってくれた外務省の職員は、ミ・ミカ達が講師をやっているウルク語講座に参加している人だった。


「心配してくれてありがとうございます。でも私は自分の正義を貫くために戦いたいです」

「カッコいいけど、その生き方しんどくないか?」

「う~ん」


 外務省の職員に問われてミ・ミカは、目をつぶって少しだけ考え込む。


「えっと……人を助けるために戦うのは、私の生き甲斐です」


 彼女の答えを聞いて、外務省の職員はあきらめたようにため息を吐いた。


「本当にかっこいい生き方してるな。ミ・ミカさん、ハ・マナさん、ハ・ルオさん、絶対に死ぬなよ」


 外務省の職員はミ・ミカ、ハ・マナ、ハ・ルオの3人にパスポートを直接手渡ししてくれた。



 アメリカ大使館でビザを、外務省でパスポートを入手して、アメリカに行くための法的な障害はクリアになった。


「次はアメリカ行きの飛行機か」

「一応、アメリカ政府からは横田基地のC-130を飛ばしてもいいと申し出がありました」

「C-130かあ。できれば乗りたくないなあ」


 在日米軍は他に輸送機を持っていないから仕方ないとはいえ、機種名を聞いて俺は思わずため息を吐く。


「えっと、アメリカが飛ばしてくれるC-130って飛行機ってダメなの?」


 飛行機の性能に疎い恵子が素朴な疑問をぶつけてくる。

 彼女からすれば、飛行機なんて全て同じものに見えるだろう。


「C-130は、アメリカ軍が50年以上使ってる実績のある輸送機なんだが……太平洋を渡るには致命的に足が遅くて、航続距離が足りないんだ」


 牙門がアメリカ軍の輸送機を使う問題点について吐き捨てるように答える。


「太平洋を無補給で横断する使い方、想定して設計された機体じゃないからな。C-130で渡米しようと思ったら、ハワイに着陸して途中給油が絶対に必要になる。おまけに巡航速度が時速600キロ以下の鈍足だからカルフォルニアにたどり着くのに確実に20時間以上かかる」

「アメリカ行くのにそんなに時間かかったら48時間以内に作戦決行できないじゃないッ!」

「だからC-130は使いたくないんだよ」

「アメリカに一番早くたどり着ける飛行機は、民間で使われている大型の旅客機ですね」


 だけど、こんな夜遅くに離陸するアメリカ行きの定期便は存在しない。

 日本の航空会社にチャーター便を飛ばすことを依頼しても、たった7人を乗せるために貴重な大型機を貸してくれるとは思えない。


「悔しいですが、明日一番早く離陸するアメリカ行きの定期便に乗るのが現実的ですね」

「それって午前8時発とかだろ? 一晩足止めかあ」

「この状況で10時間以上足止めを食うのはキツイな」


 こうしている間にも、ダーク・ウォーカーの連中は自分達の悪事の証拠隠滅を進めている。

 作戦開始が遅れたら、ウインド・リバーにたどり着いたとしても基地はモヌケの空になっているかもしれない。

 俺と、牙門と、アイリスは、顔を『ウ~ン、ウ~ン』と無様なうなり声をあげる。


「しかし、軍用機より旅客機の方が速くて航続距離も長いなんて、なんか意外ね」

「飛行機は目的に応じて作られてるからな。旅客機はお客さんを出来るだけ早く目的地に送り届けるって目的があるから軍用機より速く飛べるように作るんだよ」

「じゃあ、軍隊で今回みたいに急いで目的地に行かないといけない場合はどうするの?」

「軍隊で急ぎの用事があるときは、旅客機をチャーターするか、速く飛べる専用の輸送機を……あッ!?」


 俺の脳裏を自衛隊の最新鋭機の名前が横切っていく。


「牙門、前にちらっと聞いたんだけど、入間基地にC-2輸送機が配備されてなかったか?」

「C-2か、確かにあれが使えれば、無補給でアメリカまで行けるな」

「C-2ってなんですか? 自衛隊に特殊な航空機が配備されてるんですか?」


 さすがのアイリスも、アメリカ軍が使っていない軍用機のことは知らないみたいなので、C-2輸送機の性能について説明する。


「C-2は、自衛隊が2016年に配備を開始した新型の輸送機だ。C-130よりサイズが一回り大きい機体で、巡航速度は時速800km以上、航続距離は燃料満載にすれば1万キロ近く飛べる」

「その機体なら無補給でアメリカの西海岸にたどり着けますッ! グレイト!! 日本はそんなすごい飛行機を開発したんですね」


 C-2輸送機の性能を知ってアイリスが歓声をあげる。

 他国の軍隊で採用されている輸送機と性能を比較してみると一目瞭然だが、自衛隊にしか配備されていないC-2輸送機は巡航速度と航続距離という点では世界で最も高性能なスペシャルな輸送機だ。


「あとは防衛省がC-2輸送機を飛ばしてくれるかだな、とりあえず梓別班長にかけ合ってみるか」


 俺はスマホに登録した梓別班長の電話番号にコールを入れる。

 昼間、防衛大臣は米軍のオントネー分室襲撃に関わった別班員を全員処分すると息巻いていたが、今の段階ではまだ処分は降りていないはずだ。


「はい、梓です。ご用件はなんですか天原衛君」


 電話を受けた梓別班長は昨日と同じくひょうひょうとした口調で応答して来る。

 近いうちに処分を受けるはずなのだが、あまり気にしてはいないようだ。


「別班というか自衛隊の力を借りたい。ヤボ用があって、24時間以内にアメリカ大陸の西海岸まで行きたいんだ」

「噂は聞いていますよ。異世界生物対策課を辞めてPMCを立ち上げるんですよね」

「PMCじゃなくて、PHCだ。俺達が引き受けるのはマモノ退治だけだ」


 しかし、何処で情報を手に入れたんだ?

 アイリスが会社を立ち上げることを提案したのはほんの7時間前。

 PHCアマハラはまだ正式な法人登記すら済んでいない会社だ。


「でも、新会社の最初の仕事はダーク・ウォーカーのウインド・リバー訓練キャンプ制圧作戦でしょう。これは立派な軍事作戦だと思いますよ」

「人間相手に戦うのは、これが最初で最後だ。とにかく、そこまで知ってるなら話は早い。俺達はダーク・ウォーカーの連中が子供兵を使っていた証拠を隠滅する前に、訓練キャンプを制圧しないといけないんだ」

「そうですね彼らが子供達を口封じする前に検挙するなら。48時間――いや、あと40時間以内に作戦を開始する必要がありますね」


 梓別班長は、俺達の腹のうちは全て承知していると言わんばかりに作戦開始までのタイムリミットを指摘して来る。


「そうだよ、だから自衛隊にC-2輸送機を飛ばして欲しい。40時間以内に作戦を開始するには今夜中にC-2輸送機でアメリカに飛ばないとムリだ」

「簡単に言ってくれますが、C-2を飛ばす費用はタダじゃないし。自衛隊の輸送機がアメリカ軍の基地に着陸するのも大変なんですよ」

「だったら、アメリカ大統領と、総理大臣経由でこの話をねじ込むぞ。俺は、アメリカ大統領と取引してダーク・ウォーカーの連中を吊るす許可をもらってるんだ」


 アメリカに着いたら国防総省の発注するダーク・ウォーカーの訓練キャンプ制圧任務の業務委託契約を結ぶ予定だが、この作戦は実質アメリカでマモノ退治をすることに対する報酬の前渡しだ。


「そこまで言われたら断れないですね。防衛大臣には私から説明しておくので、貴方達は準備ができたら入間基地に来てください」


 電話を切った直後、俺は緊張が解けた安堵感に押されて深く大きく息を吐いた。

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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