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異世界帰りの妹は、ケダモノになっていましたッ!?  作者: カイ
第3章 敵はアメリカ
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第38話 なんか話を聞いていたら、すごく重要なことが議題から抜けていると思うんですが?

――天原衛


「なんか話を聞いていたら、すごく重要なことが議題から抜けていると思うんですが?」


 日米首脳会談という超大国の国家元首同士の話し合いで一人の少女が挙手して質問するという暴挙に出るのを見て、日米双方の閣僚が全員色めき立つ。


「えっと、お嬢さん。お名前を教えて頂いてもよろしいですか?」


 大統領の動揺を再現するかのように、通訳官が少し震えた声でハ・マナに名を訪ねる。


「私の名前はハ・マナ。あなた方が言うところのニビル人で、ウルクから交換留学生として日本に来ました」

「なるほど話は聞いています。確かハ・マナさんは、昨日オントネー分室に駐在していて地上攻撃に巻き込まれたそうですね。大統領として心からお詫び申し上げます。確かに、いままで攻撃に巻き込まれた貴方達への個人的賠償について話していなかったですな。これについて後ほど国務省の担当者から……」

「私への賠償なんてどうでもいいです。確かに、いきなり家を爆破されたときにはビックリしたけど、結果的に攻撃してきた連中は倍返しでぶちのめしたので」


 ハ・マナが会議の場に相応しくない乱暴な物言いを始めたので、由香が慌てて補足を入れる。


「ハ・マナさんは、オントネー分室が攻撃を受けた際に地上部隊と交戦して、指揮車両1、ブローニングM2を装備した戦闘車両2を撃破。その後、地上部隊の指揮官を拘束して同部隊の戦闘員を全員投降に追い込むという戦果をあげています」


 由香が、ハ・マナが昨日成し遂げたバケモノじみた戦果について説明すると、今度はその場に居合わせた日米のオエライさん達がザワザワと騒ぎ始める。

 一見、ただの女子高生にしか見えない女の子が、正規軍ではないとはいえ歩兵部隊一個中隊を1人で制圧したと聞かされるとさすがにショックが大きかったようだ。


「確かに報告書にも記録がある。君が昨日オントネーを襲撃した地上部隊を制圧したというニビルのマモノハンターか」

「そうです。そして、私が戦ったアメリカ軍の地上部隊は、年端も行かない子供を兵士として戦わせていましたッ! 子供を戦場に立たせた責任とか!? 今後あの子達がどうなるのかとか!? これってとっても重要な話だと思いますが」


 ハ・マナは相手の痛いところを的確に突いてしまったらしく、大統領は額にシワを寄せて露骨に不機嫌な表情を見せる。


「まず訂正させて欲しい。君が戦った子供兵はアメリカ軍の正規の軍人ではなく、民間企業ダーク・ウォーカーが雇っていたPMCの社員だ」

「でも、強襲揚陸艦イオー・ジマは地上部隊の主力が子供兵なのを承知で北海道に揚陸させたんですよね。これってアメリカ政府が子供を戦場に送り出すのを容認していたことになるのでは?」


 国ぐるみの大規模な犯罪行為に巻き込まれて怒り心頭のアイリスが、ここぞとばかりに大統領を追及する。


「それは誤解だッ! 子供を兵士として雇用するのはアメリカでも違法だ。だから、ダーク・ウォーカーに対して業務停止命令を下し、FBIの捜査を入れる」

「今回作戦に参加した子供達はどうなるんですか? ダーク・ウォーカーは東南アジア地域で政府軍の弾圧対象になっている少数民族の孤児を集めて兵士にしていました。まさか、雇用契約は違法だから出身国に帰れ、なんて言いませんよね?」


 なおも追及の手を緩めないアイリスに、大統領は顔を真っ赤に紅潮させながら隣に座っている男性と相談を始める。


「今回の作戦に参加した子供兵は96人居るそうだが、全員アメリカ政府が難民として受け入れる。彼等は保護施設に入ってもらいアメリカの子供達と同様に教育も受けさせる」


 渋々という感じで、大統領は子供兵を難民として受け入れることを宣言する。

 多国籍国家といっても、アメリカは基本的に白人が牛耳る国だ。

 アジア系の孤児なんて本音では絶対に受け入れたくはないだろう。

 とはいえ、自分達が対峙した子供兵達が無事保護されると聞いて、ハ・マナの表情が柔らかくなる。

 これで、異世界生物対策課オントネー分室襲撃という、アメリカ合衆国がやらかした国ぐるみの犯罪行為に一通りの落とし前を付けた。

 それを確認した俺は、未来の話をすることにするために挙手をする。


「異世界生物対策課の職員で天原衛といいます。昨日は、ハ・マナがダーク・ウォーカーの地上部隊を制圧したあと現場を引継いで指揮官の逮捕や子供達の保護を担当していました。その時に子供達から教えてもらったんですが、PMCダーク・ウォーカーはアメリカ国内でも同じことをやっています。具体的にはアメリカ国内や中南米の孤児を集めて最低限の訓練を受けさせたあと戦場に送り出す」


 俺がPMCダーク・ウォーカーの更なる違法行為を暴露すると、会議に参加しているオエライさんは一様に息を飲んだ。


「衛さん、今の話本当なんですか?」


 俺の語った話がよほど衝撃的だったのか、ミ・ミカが震える声で恐る恐る聴き返す。


「ホント、ホント、保護した子達から聞いた話はウワサレベルだったけど。別班に問い合わせたら詳しい話を教えてくれたよ。アメリカのウインドリバーってところに訓練キャンプがあって、常時400人くらいの子供が訓練を受けているらしい」


 梓別班長の話だと、PMCダーク・ウォーカーが違法に子供兵を使っていることは諜報機関の間では周知の事実だったらしい。


「ミスター衛。情報提供に感謝する。すぐに事実関係について確認させよう。ただ、ウインドリバーはネイティブアメリカン自治区で、FBIの捜査を入れるにも自治政府の許可を取る必要がある。それに、相手は正規軍には及ばないが軍事的な訓練を受け、軍隊に準ずる武器を持った集団だ。基地を制圧しようとすればデルタフォースを投入しても子供兵に多数の死傷者を出すのは避けられない」


 大統領はアメリカ国内の事情があり、ウインドリバーにいる子供兵達を即救出できないと告げる。


「ミ・ミカ、ハ・マナ、ハ・ルオ、あと恵子。お前達はどうしたい? アメリカさんは事件の解決には時間がかかると言ってるが、時間をかけたらダーク・ウォーカーは証拠隠滅したあと、集めた子供達と一緒に逃げちまうと思うんだよな」


 アメリカ政府がダーク・ウォーカーの基地を家宅捜索するという情報は、間違いなくCIA経由でダーク・ウォーカーに漏れる。

 別班と同じく、CIAもダーク・ウォーカーの違法行為については把握していた筈だ。

 それを黙認していたという事は、CIAはダーク・ウォーカーが雇用している子供兵を使い捨てにしても惜しくない便利に使えるコマとして利用していた可能性が高い。


「衛さん。私、子供兵を助けに行きたいッ!」

「子供を戦争に駆り立てるのはクサリクの正義に反する行為だし躊躇する理由は無いわね。急いで助けないといけないなら、なおさら私達が行くべきだと思う」

「私も二人と同意見です。クサリクの正義に反する行為を見過ごすわけにいきません」

「3人がアメリカに行くなら私も付き合うわ。私の居ないところで友達が死んだら目覚めが悪いもんね」


 恵子、ミ・ミカ、ハ・マナ、ハ・ルオの4人は口々にアメリカに行って兵隊にされている子供達を出すけたいと口にする。

 彼女達が自分のやりたいことをはっきり表明した以上、俺は大人としての義務を果たさなければならない。


「大統領。ウインドリバーにあるダーク・ウォーカーの訓練キャンプの制圧。俺達にやらせてください? 俺達なら最小限の死傷者数で基地を制圧できます」


 マジンもマモノハンターも、地球で最も普及している小口径のアサルトライフルが全く効かない。

 このアドバンテージを生かせば、子供達を殺さないよう手加減して戦うことが可能だ。


「衛さん、なにを言ってるんですか!? 日本政府の国家公務員がアメリカに行って軍事作戦に参加するなんて許されないですッ!!」

「ミス・ナカジマの言う通りだ。ダーク・ウォーカーの処分はアメリカ国内の問題だ。日本政府の公職にある君が事態に介入することは許されない」


 二人のいう事はもっともだ。

 もっとも、俺達がダーク・ウォーカーに手を出すことにダメ出しが入るのは予想していた。


「大統領、取引です。俺達をウインドリバーで戦わせてくれるなら。いま、アメリカ国内で暴れてるマモノ退治、俺が引き受けます」


 アメリカ大統領が口をつぐむ。

 国防総省とCIAは、アイリスを誘拐計画するという暴挙を侵してまでマモノに対抗できる人材を欲していた。

 俺やミ・ミカ達がマモノ退治を引き受けるのは、アメリカにとって非常に魅力的な提案のはずだ。

 ただ、アメリカが俺の提案を飲むとしてもまずは法的な問題をクリアしなくてはならない。


「由香。俺、今日付けで異世界生物対策課辞めるわ」

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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