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異世界帰りの妹は、ケダモノになっていましたッ!?  作者: カイ
第3章 敵はアメリカ
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第33話 こちらAチーム。異世界へのゲートがある洞窟に到着しました

――アリー・シーナー


 ザパザパザパザパザパザパッ!


 水が水面を叩く音が鳴り響く。

 暗視装置を通して見える足元は小石が積み重なってとてもデコボコしている。

 おまけに石が全て滝の飛沫を浴びて濡れているため靴のソールを通してヌルヌルと滑る感触が伝わって来る。

 少しでも気を抜けば転んでしまいそうな道を、ボクはソロリソロリと歩き続ける。


「チビ、コケるなよ。滝ツボに落ちて無線機をオシャカにされたらたまらんからな」

「ハイ、気を付けます!」


 大人の兵士は怖い。

 彼らはボクの故郷を焼いた政府軍の奴らとは違って、理由なく殴ったり蹴ったり、気まぐれに撃ち殺すようなことはしない。

 だけどヘマをして大声で怒鳴られたら背筋が凍るような恐怖を感じるし、彼らの気分次第で父さん、母さんのように遊び半分に殺されるかもしれないという不安でお腹が痛くなる。


「隊長、なんでAチームにガキが居るんですか? ガキ共はBチームだけで使う予定だったでしょ」

「作戦決行が前倒しになったから頭数が足りないんだよ。こんな状況でも通信手は必要だが、これを撃てる奴を1人でも多く確保する必要があったからな」


 先頭を歩く隊長が、鉄の筒を数珠つなぎにした形の大きな銃を掲げる。

 隊長が持っているはグレネードを6連射できる巨大なグレネードランチャーだ。

 本体重量が6キロもあり、反動も大きいので、とうてい僕の手には負えない代物だが、ボク以外の全員が巨大なグレネードランチャーを抱えている。

 一方、ボクが持っているのは背負式の軍用無線機と、護身用の拳銃だけ。

 ボクの任務は、直接戦うことではなく通信機でBチームに状況報告をすることだが、これから戦闘が始まるのに武器が小さな拳銃だアリーいうのはとても心細い。


「アリー、気負うな。お前は後ろに隠れてシンドラーの野郎に状況報告だけすればいい。バケモノ退治は俺達がやる」


 隊長はそう言うと、足に吸盤がでもついているんじゃないかと思う速さで滑りやすい道を進んでいく。

 滝の裏側に回る込むと事前の情報通り、大きな岩が積み重なった岸壁の一画に直径3メートルくらいの大きな穴が開いていた。

 穴の中はかなり傾斜キツイ斜面になっていたが、穴の縁にピッケルが深く埋め込まれ、そこから少しくたびれたロープが垂れ下がっていた。


「命綱か、ちょうどいい利用させてもらおう。アリー、シンドラーにこれからゲートに潜ることを連絡して、最後尾からついてこい」

「イエスサーッ!」


 僕は通信機のレシーバーをつかんでBチームに交信を求める。


「こちらAチーム。異世界へのゲートがある洞窟に到着しました」


 ジ…ジジジ……ジー


「こちら、Aチーム。Bチーム応答してくださいッ!」


 変だ。

 何度かBチームに向けて交信を試みたが、シンドラーさんから応答が返ってこない。


「どうした、アリー?」

「隊長、変です。Bチームから応答が返ってこないです」

「通信が接続してないだけじゃないのか?」

「そんなことは……」

「貸せッ!」


 隊長が来て僕の手からレシーバーをひったくる。


「通信回線は間違いなく繋がっているな」


 隊長渡したレシーバーには、Bチームの通信機と接続していることを示す『LINK』の文字が表示されていた。


「Bチーム、応答せよ。Bチーム、応答せよ。おい、シンドラー出ろッ!」


 隊長は最後には怒鳴り声をあげたが、Bチームから応答は返ってこない。


「隊長、通信が繋がらないってヤバイんじゃないですか?」

「ああ、Bチームになにかあったのは間違いないな」

「今すぐ逃げましょう!? もし、Bチームが壊滅しているなら我々も危険です」


 チームの一人が即時撤退を進言する。

 正直僕も、その意見には諸手をあげて賛成だ。


「うーん……逃げたところで、どうするかなんだよな。アリーの持ってる通信機じゃイオー・ジマまで電波が届かん。ここで逃げたところで、イオー・ジマから回収艇を出してもらえなきゃ俺達全員警察に捕まってブタ箱行きだ」

「じゃあ、どうするんです?」

「当初の予定通りアイリス・オスカーを確保しよう。彼女を人質に取って日本政府と交渉すれば、ペンタゴン経由でイオー・ジマにから回収艇が来るだろう」

「そんな上手くいきますかね?」

「文句を言うなら、もっとスマートにアメリカに帰る手段を提案しろ。いいアイディアがあるなら乗ってやる」


 けっきょく外に代案が思い浮かばなかった僕達は、アイリス・オスカーが来るのを待ち構えるため洞窟の中へと潜り込む。

 傾斜のキツイ斜面を滑り落ちるように侵入すると、人が入って来たことに反応して天井にある照明が一斉に点灯する。

 慌てて暗視装置を目から離すと、そこはテニスコートくらいの広さのある開けた空間が広がっていた。


「自動照明に、監視カメラか――まあいい、総員ここでアイリス・オスカーを待ち伏せする」

「イエスサーッ!」


 隊長の掛け声に呼応して、僕以外の隊員が巨大なグレネードランチャーを腰だめに構える。


「ぶおぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 僕達の待機している広い空間に、地獄の底から聞こえてくるような重低音の咆哮が響き渡る。

 声のした方に目を向けると、とてつもなく巨大なグリズリーが向かって来るのが見えた。


「ぐっ、グリズリーだ。デカいぞッ!」

「慌てるな、この装備なら倒せる。総員構えッ!」


 ダンッ!!!


 グレネードランチャーから、鼓膜を引き裂くような激しい銃声が鳴り響く。

 彼等の持つランチャーに装填されているのはアメリカ軍が対マモノ用に開発している30ミリ特殊徹甲弾だ。

 砲弾の大きさはグレネードとほぼ同じ。

 人間が反動で吹き飛ばされない限界まで火薬の量を増やし、タングステン製の弾芯をマッハ3以上で射出する人間相手には明らかにオーバーパワーな代物だ。

 僕達に向かって来たグリズリーは9発の徹甲弾の集中砲火を浴びて仰向けにひっくり返った。


「やったぜッ!」

「しょせん獣だ。この特殊徹甲弾なら楽勝だな」


 Aチームのメンバーはため息を吐きながら軽口を口にする。

 なんとか倒せたが、あまりに巨大なグリズリーを目の当たりにして動揺していたのが見て取れる。


「おい、なんか変じゃないか?」


 最初に疑問を口にしたのは隊長だった。


「隊長、どうしたんですか?」

「なんで、あいつ徹甲弾が刺さってるんだ!?」


 隊長の言う通り、仰向けに倒れたグリズリーの身体にはタングステン製の弾芯が貫通せず肉に突き刺さって埋まっている。


「音速の3倍以上のスピードで発射された徹甲弾だぞッ! 人間の身体ならソニックブームで肉がえぐれて確実に貫通するはずなんだ」


 そう言われたら確かに変だ。

 弾芯が貫通せず刺さったままという事は、グリズリーの肉体の強度がソニックブームの衝撃波に耐え切ったことを意味する。

 そして、隊長の違和感は最悪の形で的中する。

 仰向けに倒れたグリズリーがヌラリと起き上がった。

 それから、奴は前足の爪を目の上に刺さった徹甲弾の弾芯に引っかけて器用に引き抜いて足元に投げ捨てる。


「どういうことだ!?」

「生きてるッ! あいつ、生きてるぞッ!」


 30ミリ徹甲弾9発を全身に浴びてもグリズリーが生きていたという事実に、Aチームの隊員達は動揺する。


「ぶおぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 動揺する僕達をあざ笑うかのように、グリズリーはとんでもない声量の咆哮を発して、僕達の居る空間全体をブルブルと震わせる。


「あいつは生物じゃない。マモノだッ! 総員構えッ! 集中砲火であいつを仕留める」


 隊長の指示に従って全員がグレネードランチャーを構えると、グリズリーはボクサーの様に前足を顔の前に突き出して守りを固める。


「フャイヤーッ!」


 草魔法≪コウカ≫


 徹甲弾が放たれる直前、巨大なグリズリーの身体が空気を入れた風船のようにボコンと膨張した。


 カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!


 それは衝撃的な光景だった。

 膨張したグリズリーの肉体は、装甲車にすら通用する30ミリ徹甲弾の弾芯を一発残らず弾き返した。


「は、弾かれた……」

「撤退しましょう。我々の武器はあのバケモノに通用しません」

「慌てるなッ! さっきは通用しただろ、もう一度し……」


 獣魔法≪ケモノノハドウ≫


 徹甲弾の集中砲火に耐えたグリズリーがロケットみたいなスピードで突っ込んでくる。

 最後までAチームの隊員を鼓舞し続けていた隊長は、グリズリーに引き潰され、ボクの目の前で血と肉の塊に姿を変えた。

本作を読んでいただきありがとうございます。

私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。

お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。

そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。

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