これは事故チューなんかじゃない
忙しい朝、学校の廊下の曲がり角。
俺と君は真正面からぶつかり、額と額をくっつけた。唇と唇を重ね合わせた。
「あ……」
目を白黒させて立ち尽くす君。
俺は君に「ごめん」とだけ言ってその場を走り去る。頬が尋常じゃなく熱かった。
「事故チューしちゃった、事故チューしちゃった」
そして放課後、君の教室から聞こえてくる声。他の女子たちの憤慨する声もする。
事故チューなんて最低だ。でもこれは事故チューなんかじゃない。俺が毎朝試行錯誤を重ねてやっと成功させた悪戯なんだ。
君は気づいていないだろう。俺のこの想いに。
そしてこれが恋の始まりになるかも知れないことに。
明日からも俺は君と事故チューをしよう。真実を君が知るその日まで。