空色バッグと二人の少女
彼女たちは、一つの鞄を見つめていました。
淡い空色のショルダーバッグ。
それは、海岸に置かれていた落とし物です。
中は空っぽでスカスカ。
あまりにも軽いその鞄は、波風でも飛んで行ってしまいそうなくらいでした。
彼女たちは、話していました。
好きな鞄の形について。
青い目の彼女はリュックサックが、黒い髪の彼女はハンドバッグが好きだと言います。
そしてまた、議論を始めます。
リュックサックは大きいから荷物がいっぱい入るのよ。見た目も可愛いでしょ?
と、青い目の彼女。
どこにでも大きな鞄を背負っていくつもりなの?
第一ものが取り出しづらいじゃない。
と、黒髪の彼女が言います。
そして、またショルダーバッグを見つめるのです。
顔くらいの大きさの鞄には、色々なものが入ります。
青い目の彼女の好きな本もたくさん入るし、
黒髪の彼女が好きなcdも入ります。
そして、二人は心の中だけで意見が一致するのです。
ああ、ショルダーバッグっていいかも、って。
そして気づきます。
どんなものも利点があり欠点がある。
ときに利点が欠点にも、欠点が利点にもなり得ることに。
そして、黒髪の彼女がショルダーバッグをかけて、
二人は海岸を歩きます。
裸足で歩く砂浜はどこか心地よくて、眠れそう。
そんなときでした。
彼女たちの横を、美青年が通り過ぎて行きます。
彼は長い髪を波風になびかせていました。
彼の目に陽の光が反射していました。
二人は彼に釘付け。
通り過ぎた後も、彼を目で追いかけていました。
美青年が見えなくなったころ、彼女たちは顔を見合わせます。
今の人、髪がきれいだったね。と、青い目の彼女。
あの人、目がすごく素敵だった。と、黒い髪の彼女が言います。
二人は同時に地面に座り込みます。
またまた、議論を始めるのです。
青い目の彼女は、彼のきれいな髪を。
黒い髪の彼女は、彼の素敵な目を褒めました。
波が砂を濡らしていき、やがて足に冷たい水が触ります。
彼女たちは、同時におんなじことを言いました。
あなたはいいよね、と。
これがよく言う隣の芝は青く見えるというやつでしょうか。
青い目の彼女は、真夜中の空みたいな黒髪を。
黒い髪の彼女は、明け方の海みたいな碧眼を。
お互いに羨ましいと思っていました。
そして二人はまた気づくのです。
誰かの普通は、また誰かの羨望。
誰かの羨望は、また誰かの普通。
彼女たちは笑い合います。
自分たちは同じなんだなって、安心して。
そして立ち上がり、また歩き始めます。
今度は二人並んで。
二人は、もう鞄の話をしませんでした。
ただただ、仲良く歩いていきます。
なにか大事なことに気づいたのかもしれませんが、二人の頭の中には、さっき見た美青年の姿しかありませんでした。