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Hang OuT!!  暇人たちよ、遊ぼう  作者: ぽぽぽーん
2/2

1、後半

活動記録5.『ヒャッハー! ひと狩りいこうぜェェェ!』


文化部棟である旧校舎の3階。

そこには、ヒマなやつらが集まる、ボランティア部(仮)という部活がありました。


「やっぱり、ゲームは1日1時間だよなっ!」

いつものように何の脈絡もなく唐突に、長い茶髪のツインテールをなびかせながら、この部の部長である、ひなたがまたくだらないことを言い出した。


だが、今日はひなたの言葉に、誰も反応しない。

詩、つばさ、萌子の3人は、ひなたの言葉が耳に入らないくらい夢中になって、スイッチで楽しくゲームをしていた。

「よし。足引きずり始めました」

「ないすっ、うーちゃん。こっちに落とし穴設置したから、誘導して」

「了解です。あ、やばい。回復がもうないや」

「わたし、大粉塵もっとるけん、使うねぇ~」

「あ、本当ですか。ありがとうございます」

「うふふっ。いぇいぇ~」

「おおーし、落とし穴に引っ掛かったよ」

「どうします、もう捕獲します?」

「そーだね。そうしよっか」「そうだねぇ~。それがいいばい」

「じゃあ、麻酔玉投げますね」

「おっけー」「おねがぁ~い」

「…………」

 ひとり仲間外れのひなた。我慢の限界に達したのか、急に立ち上がり叫び始めた。

「フンガァァァァッ! うちを無視すんなぁッ!」

 ひなたはそう叫ぶと、詩のスイッチを奪い取る。

「ちょっと、部長?」

「ばっきゃろー!」

「ちょっ」

 ひなたはそのまま窓をばっと開いて、そこからスイッチを「せいやっ」と言いながら、両手で思いきり放り投げた。

 3階の窓から綺麗な放物線を描き、落ちていくスイッチ。

「あーあ」

 詩は落ちていくスイッチを見つめながら、他人事のようにそう声を漏らす。

 ひなたは「ハハハッ」と高らかに笑い声を上げた。

「どうだ、参ったかッ! うちを無視するからこうなるんだよ! ばーか、ばーかっ!」

 そんなひなたに、つばさと萌子が珍しく本気で怒ったように、眉根を寄せて怒声を上げる。

「ひなたっ! さすがにやりすぎだよっ!」

「そうだよ、ひなちゃんっ! 人のゲームを3階から投げちゃダメばい!」

「だって!」

「だってじゃないよっ」

「ひなちゃん、反省しんさいっ!」

 2人に本気で怒られたひなたは、ポロポロと涙を流し始めた。

「……だって、みんなゲームに夢中で、うちのこと無視するんだもん。うちにかまってくれないんだもん」

(……かまってもらえずに、泣くって。この人、本当に高2かよ。——ったく。部長に泣かれるとなんか調子狂うなあ)

 詩は肩をすくめ、呆れながら口を開いた。

「もう泣かないでくださいよ、部長。てか、大体、部長が昨日『ハンターランク上げたいから、明日はモ○ハン持ってくるように』って言ったんじゃないですか」

「……だって、しょうがないじゃんっ! しきにぃが、勝手にうちのスイッチ彼女に貸して、持ってこれなかったんだからっ!」

「はあ」

(お兄ちゃんが勝手に自分のゲームを他人に貸すって、なんだその兄弟あるあるみたいなやつ)

 詩は思わず嘆息した。

 ひなたはなかなか泣き止まない。涙ぐんだ声で続ける。

「……だから……だから、私悪くないもんっ!」

「悪いに決まってるでしょっ! ひなたがゲームできないからって、うーちゃんのゲームを窓から捨てる理由にはならないよ!」

つばさが強い口調で言う。

「そうだよ、ひなちゃん。もし逆の立場になったらどぉ? ひなちゃんは、勝手にゲームを窓から捨てられたらどう思ぅ?」

 諭すように萌子が続けた。

 2人の言葉を受けて、ひなたは瞳をうるうるさせたまま、詩に顔を向けてガバッと頭を下げた。

「ごめんなざい。勝手にスイッチ窓から捨ててごべんなざい」

「はははっ」

(この人は、葵先輩や天羽先輩と、本当に同い年なのだろうか。あまりにもガキンチョすぎるんだが。……だがまあ、それが部長の長所でもある。いつまでも子供の心を持っているのは決して悪いことではないのだから)

 詩はそう思うと、思わず微笑んだ。

「いいですよ、部長。頭を上げてください」

 ひなたは詩の言葉を受けて、親の機嫌を伺う子供のような顔をしながら、ゆっくりと頭を上げた。

「……ありがど。でも、ゲーム壊しぢゃっだ」

「いいですよべつに。僕、金持ちなんで。スイッチくらいなら無限に買えます。なんなら任○堂ごと買っちゃえます」

 詩は優しく微笑みながら言う。

「……でも」

 それでも、ひなたの顔は曇ったままだった。

(……なんか、しおらしい部長見てると、ムカついてきたな)

 詩はそう思いながらクールな表情で言葉を続ける。

「気持ち悪いんで、早くいつもの部長に戻って下さい」

「き、気持ち悪い……?」

「はい、キモいです。僕に気を遣う部長なんて、しょうもなカップルのティックトックくらい見ていられません」

「そんなにひどい?」

「はい、だからもう泣かないでください」

「ぐすん。うん、わがっだ」

 詩の言葉に、ひなたはゆっくりと頷いた。

「ほら、さっさと涙と、鼻を拭いて」

「うん」

——ズビビビビビィィッ。

「おい。誰も人の袖で拭けとは言ってねえよっ」



 ——閑話休題。

今日のボランティア部(仮)の活動は、例によってひなたのワガママによりみんなでできるゲームをすることになった。


「で、何のゲームする?」

 泣いていたことなど遠い昔のことのように、満面の笑みでひなたが訊ねた。

「トランプはどうです? この前みたいに、ポーカーしましょうよ」

「えー、やだよ。だってお前、ポーカー無双するじゃん。強すぎてつまんないもん」

「じゃあ、TRPGでもやるー? 隣のボドゲ部なら持ってるだろうし」

「TRPGか。あれってめっちゃ時間と精神使うからな。もっと気軽なやつがいい」

「あ、じゃあ、ワードウルフはどぉ~? それなら気軽にやれるばい」

 萌子の提案に、ひなたは「おっ、それいいなっ」と手を叩いた。

「じゃあ萌子の意見を採用して、今日はワードウルフしまーす。それでいい人~?」

「「「はーい」」」

 詩、つばさ、萌子は元気よく手を上げた。


 ひなたが部室にあったワードウルフ用のカードをシャッフルしながら提案する。

「どうせならなんか賭けるか」

「お、それよかねぇ~、おもしろそぉ~」

 萌子がみんなに紅茶の入ったティーカップを差し出しながら、ひなたに賛同した。

(……賭けか。まあ、ゲームが盛り上がるならそれもいいかな。この人たちとなら、賭けの勝ち負けでギスギスすることもないだろうし)

「それじゃあ、なに賭けます?」

詩が訊ねた。

ひなたは「んー」と悩んでから答える。

「そだなー、血液とかどうだ?」

「ア○ギかよ。なんでそんなにワードウルフを命がけでやらなきゃならないんですか」

「じゃあ、ペリカ」

「いや、それカ○ジ」

「ざわざわ……ざわざわ……」

「いや、なんで急にざわざわし出した?」

 ひなたは唐突に「くっくっ」とのどを鳴らして紅茶を飲んだ。

「キンキンに冷えてやがるっ……! あ……ありがてえ……っ!」

「淹れたての熱々紅茶だよ」

「犯罪的だっ……! うますぎるっ……!」

「もうただカ○ジのセリフ言いいたいだけじゃん」

 ……もう意味が分からん。

 詩が頭を抱えていると、つばさが満面の笑みで、ひなたに続く。

「じゃあ、パンツ賭けよっ!」

「なんでだよ。パンツ賭けてどうするんですか」

「もちろん履くよっ! ボク、うーちゃんのパンツ履きたいっ! もしくはかぶりたいッ!」

「いや、何言ってんの」

「げへへへ。うーちゃんのパンツ」

「葵先輩にパンツあげるくらいなら、まだ血液賭けます」

「ひどーい。じゃあ、パンティー賭けよっ!」

「嫌ですよ。てか、そもそも、そんなの持ってません」

「じゃあ、パンストっ!」

「だから、持ってねえよ」

「じゃあ、ニーソ」

「持ってねえよ」

「じゃあ、青のしまパン。昔のアニメでよく見たやつね」

「持ってねえよ」

「じゃあ、ブラっ!」

「だから持ってないって。僕が、ブラジャー持ってるわけないでしょ」

「ん? ブラジャー? なに言ってるの? ボク、ブラって、ブラッ○サンダーのこと言ったつもりだったんだけどな~。もぉー、うーちゃんのエッチ!」

「…………」

「なにそんな顔して~。あ、もしかして、うーちゃん、ボクのブラジャー欲しかったの~? 

この変態さんめっ!」

 顔をニヤニヤさせ、「このこの~」と言いながらツンツンとつついてくるつばさ。

「チッ」

 詩は生まれて初めて、女の人を殴りたいと思った。

「じゃあ、シンプルにジュースでも賭けるか?」

「それ普通すぎて、ちょっとつまんなくないですか?」

「じゃあ何がいいんだよッ! ほんっとお前、ワガママだなっ」

「その言葉、部長にだけは言われたくないですよ」

 詩は嘆くようにそう言った。

 すると突然、なにか閃いたようで、ひなたが「あ、そうだっ!」と手を叩いた。


「部長の座を賭けようッ!」


「部長の座ですか?」

「そう、部長の座。優勝者は、うちの代わりに部長になれるっ」

(……この部の部長になったところで、なんになるんだろうか。それに、部長が部長として、機能しているところを見たことがないんだが……)

 詩はそう思いながら訊ねる。

「部長になったらどうなるんですか?」

 すると、ひなたは「ふふふっ」と笑い、


「部長になったら、自分の思うがままにこの部のすべてを自由にできるっ!」


 と満面のドヤ顔でそう答えた 

「自由?」

 詩が首を傾げる。

 ひなたは「ふっ」と鼻を鳴らした。

「自由は自由だ。この部を自由になんでも、自分の好きなようにできるっ。例えば、この部を、ぬこ部や、ごらく部、第二ボランティア部や、囲碁サッカー部なんかに変えることも出来る!」

「……全部ウソみたいな名前の部活」

「もちろん、部員たちも自由にできるぞ! 部員たちも全部、部長の所有物だからなっ!」

「いつから僕は、部長の所有物になったんですか」

「最初からだ。お前の財産や家族も、うちのものだ」

「カルト宗教より怖い」

「てことで、お前の義妹よこせっ!」

「ふざけんな」

 詩は顔を顰めてそうツッコんだ。

ここで、つばさが「でも」と話しに入ってきた。

「部長を賭けるのはありだねっ! ボク、部長になりたいし」

「へえー、意外ですね。葵先輩、部長になりたかったんですか」

「うん、まあーね。ボク、この部を違う部に変えたいんだ」

「どんな部に?」

 詩が訊ねると、つばさが急に立ち上がり堂々と宣言する。


「ボクが部長になったら、この部をおっぱ部にしますっ!」


……しょうもな。

この人は、本当に悪い意味で期待を裏切らない。

 詩はそう思いながら、「ふぅ~」とため息を吐いて、つばさに訊ねる。

「聞きたくないですけど、それ、どんな部ですか?」

「もちろんおっぱい揉み放題の部活だよ。げへへ、うーちゃんのおっぱいいっぱい揉むぞぉ~」

「なんで僕なんですか」

 詩は嘆息しながらツッコんだ。

「わたしも部長になりたかなぁ~」

萌子も便乗してそう言ってきた。

「天羽先輩もですか」

「うん、わたしもやりたい部があるんよぉ~」

「どんな部ですか?」

 詩が訊ねると、萌子が急に立ち上がり堂々と宣言する。


「わたしが部長になったら、この部をホークス応援ファンクラブにしますっ!」


「いやそれはもうありますよ。学校にじゃないけど……」

「うふふ。さあ、ペ○ペイドームにホークスのユニホーム着てみんなで行くばい! うたくんはリチャードのユニホームねぇ~」

「なんでリチャードなんですか。せめて僕が知ってる、柳田とか千賀にしてくださいよ」

「り、リチャードを知らない……?。それ本気で言っとると、うたくん……?」

「え。いや、まあ」

 ……これは、嫌な予感。

「じゃあ、わたしがリチャードについて教えちゃっけんっ! 砂川リチャードオブライエンは、右投げ右打ちの選手で、沖縄の—————」

 ……最悪だ。絶対に長くなる。

萌子が揚々と語りだした。


~~3時間後。


「————ってな感じの選手なんよ~。分かったぁ?」

「はい、もう十分すぎるほどに。二度と知らないなんて言いません。本当にすみませんでした」 

 詩は生まれて初めて、額をこすりつけるほど頭を下げた。

本当に長かった。本当に辟易した。もう2度と萌子の前でホークスの話をしない。詩はそう固く心に決めた。

 そんな2人を呆れながら傍観していたひなたが、詩に訊ねる。

「後輩、お前はどうすんだ? 部長になったらなに部にすんの?」

(……なに部にするかあ。別に部長の座に興味はないし、やりたい部活もないけれど。まあ、一応考えてみるか)

 詩は少し考えてから、それに答える。

「じゃあ、GJ部にします」

「おいっ」

「で、どうせなら、この作品のタイトルもGJ部にして、作風も4コマ小説にします」

「いろいろダメだろっ!」

「でも、売れている有名な作品を、堂々とパクるなんて革新的な考えじゃないですか?」

「どこがだよっ!」

「今のライトノベルに求められているものは、型にはまらない個性ですよ。堂々とパクっていくスタイルのライトノベル。ほら、型にはまってないでしょう?」

「それ以前の問題だよッ!」

「もうワガママですね」

「その言葉、お前にだけは言われたくない」

 ひなたが嘆くようにそう言うと、詩が「じゃあ」と続ける。

「GJ部が駄目なら、少し変えてNJ部にします」

「なんだよ、NJ部って」

「ノージョブ」

「それ無職じゃねえかッ! 働けよッ!」

 ひなたが大きな声でツッコんだ。


そんなこんなで、今から部長の座を賭けて、ワードウルフをすることになった。



——ワードウルフ。

 それは全国の高校生、大学生、はしゃぎ足りない社会人を中心に、男女で行うパリピなゲーム。主に合コンや飲みゲーで用いられる。1人では決して出来ないゲームのため、陰キャには縁がない。また男だけでこのゲームをやってるやつは、クソダサいと言われている。こうゆうゲームは、男女でやるからいいんだよ。(※あくまで個人的な意見です。本気で怒らないでください。これで怒ったあなたは、ずばり器が小さいでしょう)

ルールは、3人の市民と、1人のウルフに、別のカード(お題)が配られ、雑談の中でウルフを探し、最後に投票でウルフだと思う人を吊るす。簡易版人狼みたいなゲームである。

吊るされた人がウルフだった場合、市民の勝利(1pt)。吊るされた人が市民だった場合、ウルフの勝利(3pt)となる。


 ひなたがカードをシャッフルする手を止め、口を開いた。

「んじゃ、はじめっか」

「「「はーい」」」

 それに3人が元気に返事した。

 ゲームが開始し、お題が書かれたカードが全員に配られていく。

 お題は、詩が→『牛乳』 ひなた・つばさ・萌子→『母乳』だった。

 高らかにひなたが宣言する。

「では、スタートっ!」

 つばさが議論の口火を切った。

「みんなは好き?」

 つばさがニヤニヤしながら訊ねると、それに詩がすぐに答えた。

「僕は結構好きですね」

「「えっ⁉」」

 まさかの詩の発言に、ひなたと萌子は驚きを隠せない様子で声を上げた。

「後輩、お前まじで言ってんの?」

「はい。あれ? もしかして、部長はあんまり好きじゃないんですか?」

「す、す、好きなわけねえだろッ!」

 顔を真っ赤にしながら叫ぶひなた。そんなひなたを、詩は不思議に思いながら首を傾げた。

「そうですか? まあ、苦手な人は苦手ですもんね。においとか」

「においなんて知らねえよッ!」

「搾りたてとかは、濃厚で甘みが強く美味しいんですけどね」

「知らねえよッ! なんだよ搾りたてってッ! お前、ずっと何言ってんだよッ!」

「? ……はあ」

(部長こそ、なにをそんなに動揺しているんだろうか……)

 詩はそう思いながら、今度は萌子とつばさに問いかける。

「天羽先輩は好きですか?」

「わたしは、どげんやろぉ~。小さい頃は好きだったと思うよぉ~」

「ふーん。なんか曖昧な答えですね。葵先輩は?」

「ボクは、もちろん大好きだよッ! できることなら毎朝飲みたいねっ!」

「なるほど」

 詩は深く頷いた。

(……大好きで、毎朝飲みたいか。葵先輩は、たぶん僕と同じお題『牛乳』だな。よって、僕と葵先輩は多数派なので市民になる。天羽先輩は曖昧な答えだったが、どちらかといえば市民よりの意見。……となるとウルフは、キモいくらいに動揺していた部長だろう)

 詩はそう考え、ひなたに問いかける。

「部長に質問します。もしこれを飲むなら、どうゆうときに飲みますか?」

「えっ⁉ ど、どんなときに飲むかだって⁉」

 詩の問いかけに、ひなたは『母乳』をどんなときに飲むのか、必死に頭をフル回転させ考え始めた。

(も、もし飲むならか。いや、母乳ってどうゆうときに飲むんだよッ! はあ、わからん。

……あ、そう言えば、前につばさが『赤ちゃんプレイ』について熱弁してたな。あんとき、なんか言ってたんだよなあ。なんだっけ……。…………あ、そうだ! 思い出したっ!)


「授乳手コキのときに飲むッ!」


「いや、まじでなに言ってんだよ」

 自信満々で答えたひなたに、詩は本気でツッコんだ。

——ピピピピピピピッ。

 ここで話し合い終了の合図であるタイマーがなった。

「じゃあ、誰がウルフと思うか、せーので言うぞ」

「「「「せ~の」」」」

「部長」「後輩」「うーちゃん」「うたくん」

 まとめると、詩→『ひなた』 ひなた・つばさ・萌子→『詩』だった。

「後輩、お前が最多票でーす。んじゃ、せーので答え合わせな」

「「「「せ~の」」」」

「牛乳」「「「母乳」」」

 詩のお題が『牛乳』だと分かると、萌子が「うふふ」と微笑み、ひなたが「なるほど、牛乳だったのか」と納得していた。

そんな中、詩は眉根を寄せ、つばさに顔を向ける。

「葵先輩、僕と一緒のお題じゃなかったんですか? 『大好きで、毎朝飲みたい』ってほざいてたくせに」

「ふふふ。だってボク、母乳大好きで、毎朝飲みたいもん」

「ハァ?」

 詩は「まじでお前何言ってんの?」という顔をしながら、つばさに鋭い視線を送る。

 すると、つばさは純粋な子供のように、にっこり笑った。

「うーちゃん、これだけは忘れないで欲しい」

「なんですか」


「——ボクは、生粋の変態だよッ!」


 詩は苦い顔して、思わず机を叩いた。

「くそ、失念していた。この人、ガチの狂人だったわ」

 そんな会話を呆れ顔で聞いていたひなたが言う。

「きしょい会話してないで、2回戦やるぞ」

「「はーい」」


——気を取り直して、2回戦。

 それぞれにカードが配られる。

 お題は、ひなた→『人にキス』 詩、つばさ、萌子→『人にキック』だった。

 ひなたが高らかに手を上げ宣言する。

「んじゃ、スタートッ!」

 今回もつばさが議論の口火を切った。

「みんな好き?」

 つばさがそう訊ねると、詩が眉根を寄せた。

「いや、好きも嫌いもないでしょ」

「そうかなー。ボクは、結構好きだよー。もちろんやる方じゃなくて、やられる方ね。強烈なのを思いっきりやられたい。どう、うーちゃんやってみない?」

 つばさが詩にそう言うと、ひなたが顔を真っ赤にさせながら「なっ!」と声を上げた。

「つばさッ⁉ お前、何言ってんだよッ⁉」

「ん? なにが?」

「『ん? なにが?』じゃねえよッ! お前、後輩を誘惑すんなバカッ!」

「えー、誘惑してないよ~。ねえー、うーちゃん♪」

 つばさはいたずらな笑みを浮かべながらそう言うと、詩に向かって「ちゅっ♡」と投げキッスをする。

 詩は鬱陶しそうな顔をしながら、それを手で打ち払った。

「部長、葵先輩の言うことを真に受けたらダメですよ。この人はリアル狂人なんですから」

「……そうだったな」

 ひなたは落ち着きを取り戻し、それに深く頷いた。

 つばさはいたずらな笑みを崩さずに、みんなに問いかける。

「みんなは、これ、何回くらいしたことあるー?」

 つばさのその問いかけに、ひなたが顔を赤くしながら即答した。

「な、何回って。1回もしたことねえわッ!」

 声を荒げてそう言うひなたに、詩が「え?」と意外そうな顔をする。

(傍若無人で短気の部長が、人に『キック』したことないなんて、そんなことありえるのか……?)

 詩はそう思いながらひなたに訊ねた。

「部長、本当に1回もしたことないんですか?」

「え? おん、まあ」

「本当の、ほんとに?」

「ほんとだって!」

「へえー、そうなんだ。意外です」

「い、意外? え? そ、そうか?」

 詩が目を見開きながらそう言うと、ひなたは照れながら頬をかいた。

(うち、後輩に『キス』の経験がありそうだと思われてたんだなあ~。悪い気はしねえなあ。やっぱ、後輩からしたら、うちって大人に見えるんだろうなあ。えへへ)

 ひなたが「えへへ」と笑っていると、微笑みながら詩が言う。

「部長のことだから、所かまわず、イラついたらいろんな人にしてそうですけどね」

「お前、うちのこと、どんなやつだと思ってんだよッ! てか、イラついたらするってなんだよッ!」

 ひなたは叫ぶようにそう言った。

 そんなひなたの発言に、つばさは満足げに頷くと、次に萌子と詩、それぞれの証言を得るべく、2人にも問いかけた。

「萌子はこれ、何回くらいしたことあるー?」

「わたしはたぶん1回もないかなぁ~」

「なるほどねー。うーちゃんは?」

「僕ですか? んー。僕は、数えきれないほどですかね」

 詩がこともなげにそう言うと、ひなたは顔を真っ赤にしながら突っかかってきた。

「なっ⁉ お前、嘘つくのはなしだぞっ! お前が経験あるわけないだろがッ! しかも数えきれないほどなんて、そんなんありえねえよッ!」

「嘘じゃないですよ。僕、サファーデやってたんで」

「サファーデ関係あんのかよッ! てか、サファーデってなんだよッ⁉」

——ピピピピピピピッ。

 ここで話し合い終了の合図であるタイマーがなった。

「じゃあ、誰がウルフと思うか、せーので言おうかー」

「「「「せ~の」」」」

「部長」「つ、つばさ?」「ひなた」「ひなちゃん」

 まとめると、ひなた→『つばさ』 詩・つばさ・萌子→『ひなた』だった。

「ひなたが最多票だね。じゃあ、せーので答え合わせねー」

「「「「せ~の」」」」

「人にキス」「「「人にキック」」」

 答え合わせをすると、ひなたが「そゆことか」と納得し、ぽつりと呟く。

「おかしいと思ったんだよっ。後輩が『キス』の経験があるなんて……。『キック』だったら納得だわ。はあ、安心した」

「ん? ……なんですか、安心したって?」

 ひなたの呟きが、少しだけ聞こえた詩が首を傾げる。

「な、な、なんでもねえよっ!」

 ひなたは慌てながらそう叫んだ。

 詩は、そんなひなたに肩をすくめながら、ふと時計を見た。

 気づけば、もうそろそろ完全下校の時刻だった。

「そろそろ終わりましょうか」

「はやかねぇ~。もうそげん時間~? まだワードウルフ2回戦しかやっとらんのにぃ~」

 頬に手を当て、同じように時計を見ながら、残念そうに萌子が言う。

 そんな萌子に詩は眉根を寄せた。

「いや、あんたがリチャードのこと3時間も話してたから、時間なかったんだよ」

「あらあら~」

「あらあらじゃねーよっ」

詩はそう言い、嘆息して話しを進める。

「ポイントは、僕と部長が1ptで、葵先輩と天羽先輩が2ptですね」

「つばさと萌子の優勝か。んじゃ、どっちか今後、部長だな」

 あっさりとそう言うひなたに、詩は面食らっていた。

「部長、ずいぶんあっさりと部長の座を譲るんですね。部長のことだから、絶対駄々こねると思ってました」

「駄々こねるって……お前、うちのことクソガキだとでも思ってんだろ?」

「はい、めちゃくちゃ思ってます」

「素直に認めんなやッ! 改めろッ!」

 ひなたはそうツッコみ、嘆息する。

そして——、

「うちからすれば部活ってのは、何をするかより、誰とするかの方が大事だからなっ。誰が部長だっていいさ。お前らと一緒に毎日楽しく遊べるならなっ」


 にぃーっと無邪気な笑みを浮かべながらそう言った。

 ひなたの言葉に、つばさと萌子は思わず微笑む。

 詩も、こんなことを素直に、それも本心から言えるのってなんかいいなって、この少しの打算もない関係ってなんかいいなって、心から思った。

「んだよ、お前ら、その顔わッ! ……ああ、くそ。めっちゃハズイこと言ったわ」

 ひなたは、3人から微笑ましい目を向けられ、恥ずかしくなり思わず頭をかいて、誤魔化すように言う。

「さア、早く。じゃんけんでもして、どっちが部長するか決めろっ」

「「うんっ」」

 つばさと、萌子はそれに笑顔で頷き、じゃんけんをする。

「「じゃんけん・ぽんっ」」

 つばさが『グー』をだし、萌子が『チョキ』をだした。

「やったっ! ボクの勝ちだねっ!」

「「……あ。」」

 ひなたと詩の顔が同時に引き攣る。

しかしそんなことは気にもせず、勝者のつばさは、堂々と宣言した。


「じゃあ、明日からこの部は、おっぱ部になりまーすっ!」


「「ふざけんなっ」」

「あらあら~」



 ——こうして、次回からこの部が「おっぱ部」になる。……ってことはたぶんない。




活動記録6.「フランスの許嫁が元カノだった」


1年生の教室がある新校舎。

そこには、豪華な弁当を食べている、詩の姿がありました。


「なあ、詩。お前、A4って知ってるか?」

 唐突に友人Aが、弁当を箸でつつきながらそう訊ねてきた。


「藪から棒にどうした、友人A」

「誰が友人Aだよっ! 俺にはちゃんと、氷室涼って名前があるわ!」

「冗談だよ。涼の名前があまりにも主人公っぽかったからね、ついつい」

 詩の友人、涼は詩の態度に嘆息し、話しを戻した。

「ついついじゃねえよ、ったく。まあいい。それより、お前、A4って知ってるか?」

「知ってるよ。コピー用紙のサイズでしょ」

「違う」

「じゃあ、牛のランク?」

「違う」

「じゃあ、フランスのオートルート?」

「違う」

「じゃあ、アウディ?」

「違う」

「じゃあ、航空機?」

「違う」

「じゃあ——」

「もういいよっ! お前どんだけ、A4の引き出しあんだよッ!」

「あと、108個くらい」

「多いわッ! 除夜の金かッ! 多すぎて、年が明けるわッ!」

 涼は再度嘆息し、話しを進めた。

「——ったく。もういいわ。A4ってのは、この学園でトップクラスに可愛いと言われている、天使(Angel)の4人組のことだ」

「なにその明らかに、F4パクったやつ。死ぬほどダサいじゃん。まあでも、フラワー4よりはましか」

「おっと悪口はそこまでだ。とにかく、この学園にはA4と呼ばれる、超絶美少女で、超絶人気のある4人がいるんだよ」

「へえー」

 詩は興味なさげにそう呟くと、弁当に視線を落として、伊勢海老を頬張り始めた。

「へえーってお前、少しは興味ないのかよ」

 そんな詩に、涼は眉根を寄せる。

「ないよ。ツイッターで鼻息荒く政治語るやつらのしょうもなツイートくらい興味ない」

「まじかよ。そんなに?」

「うん。だって僕、そのA4って人たちのこと微塵も知らないからね」

 詩がそう言うと、涼はその言葉を待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。

「じゃあ、しょうがねえなっ。それなら俺が、A4のことを詳しく教えてやんよ!」

「あー、うん」

(……正直、教えてもらわなくていいんだけど。まあ、ここは普通の高校生らしく、空気くらいは読んでおこう)

詩はむしゃむしゃと伊勢海老を頬張りながら、テキトーにそう返事した。

 涼は鼻息荒く語り始める。

「A4のメンバーはな、4人ともタイプが全く違うんだ。今日は、ちゃんとひとりずつ説明してやる」

「あ、うん」

……え、めんど。

 そうは思っても口には出さない。

 詩の内心など知らずに、涼は揚々と続ける。

「まずA4の1人目のメンバーが、2年生ながらにこの学園の生徒会長である、綾瀬来夏だ。この人はな、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能はもちろんのこと。なんと彼女は、社長令嬢で、実家は超が付くほどの金持ちなんだっ! おまけに『綾瀬来夏親衛隊』っていうファンクラブまであるらしい」

「へえー。なんかアニメとかで100万回くらいは聞いたことあるキャラ設定の人だね。もしかして、その人の語尾って、『~ですわよ。』?」

「ちげーよ。んなやついるわけねえだろが」

「じゃあ、ロールスロイスで送り迎えされてる?」

「されてねえよ」

「じゃあ、髪型が金髪縦ロール?」

「ちげーよ」

「じゃあ、ツンデレ?」

「ちげーよ」

「家にセバスチャンか、じいやいる?」

「それは知らねえ」

「家にでっかい犬飼ってる?」

「それも知らねえ」

「うちは、グレートデン飼ってるよ」

「それは聞いてねえ」

「名前は、パンチね」

「だから聞いてねえ」

「じゃあ、苗字は、三千院とか、有栖川とか、道明寺とか、特殊なやつ?」

「綾瀬って言っただろうが。聞いとけよっ」

 詩は思わず肩をガクリと落とした。

「なんだ、普通過ぎてつまんないね。金持ちのくせに」

「なんだ金持ちのくせにって。大体、お前も金持ちだろーが。弁当箱に伊勢海老入れやがって」

「伊勢海老いる? 食べかけだけど」

「いらんわっ! 食べかけの海老を口から出すな、汚ねえなっ。やっぱお前、ほんとに金持ちなんかっ⁉」

「うん。こ○亀の中川くらい金持ち」

「え? そんなに?」

 詩は肩をすくめ、伊勢海老をそっと口に戻した。

(……生徒会長、綾瀬来夏か。たぶん入学式で挨拶してた人だと思うんだけど、あんまり覚えてないなあ。入学式は、『もしこの式場内にテロリストが襲撃してきたら、どう対処するか』を考えるのに忙しかったから)

 詩はそう思い返しながら、伊勢海老をむしゃむしゃと頬張った。

 そんな詩をよそに、涼は続ける。

「じゃ次、二人目な」

「まだ続くんだ」

「そりゃ、続くだろ」

「ふーん。あ、そ」

 詩は興味なさげにそう言った。

「2人目のメンバーは、この学園のアイドルである、明里ひなた!」

「——ゴホッ、ゴホッ」

……まさかの知ってる名前が出てきた。

 詩は思わずせき込み、口から伊勢海老を吹き出した。

「どうした詩、大丈夫か?」

心配そうに涼が声をかけてくる。

 詩はすぐに、いつものクールフェイスに表情を戻した。

「大丈夫、大丈夫。ちょっと伊勢海老の活きが良くて。……口から出た伊勢海老いる?」

「いらねえよッ!」

 涼はそうツッコみ、「——ったく汚ねえな」と嘆いてから、話を戻す。

「明里ひなた。この人は、色々な騒ぎを起こす問題児らしいんだが、それを余裕で補うほどのトップ・オブ・トップアイドルさながらの美少女らしくて、2・3年生男子を中心に絶大な人気を誇るらしい。おまけに、この人も『ひなたんを守る会』っていうファンクラブがあるんだってよ」

「へえー」

(……ひなたんを守る会、か。シンプルにキモいな。なんとなくだけどファンクラブの人たち、チーズ牛丼めっちゃ食べてそうだし、未だにお母さんに服買ってもらってそう。大体、ひなたんってなんだよ、たんって。……もしかして、痰のこと? ひな痰ってこと? 可哀そうに部長、めっちゃディスられてんじゃん。お大事に)

「じゃ、3人目な」

 詩の内心をよそに、涼はまだまだ元気に続ける。

「3人目のメンバーは、この学園のカリスマ、葵つばさ!」

「………」

 ……でた。また知ってる名前だよ。

 まあ、予想はしてたよ。だろうなと思ったよ。

「葵つばさ。この人は、身長172センチで、9頭身の超絶スタイル。おまけに顔も超絶美人。去年のミス花森では1年生ながら、圧倒的票数でグランプリを受賞してる。その外見や、凛とした雰囲気から、簡単にはお近づきになれない気高い存在で、この人も『CLUB TSUBASA.』っていうファンクラブがあるらしい」

「へえー」

(……いや、その人、本当は、ドMでド変態のヤバい人なんだけどなあ。みんな騙されてるよ。もし葵先輩の正体が、ファンクラブの人たちに知れ渡ったら間違いなく、「ふざけんなっ!」って暴動が起きるだろうなー。完全に葵先輩、パッケージ詐欺じゃん。よし、そうなる前に、消費者庁に連絡しとこう)

「そして、次が最後な」

 詩の内心をよそに、涼は笑顔で続ける。

「最後の4人目のメンバーは、この学園のマドンナ、天羽萌子!」

「…………」

 ……うん、でしょうね。そりゃそうだ。

 あの2人が出たら、そりゃこの人も続くよな。

「天羽萌子。この人は、グラビアアイドルさながらの抜群のスタイルで、容姿は、大人っぽさと、あどけなさを併せ持つおっとり美人。おまけに性格も、非常に穏やかで、物腰柔らかく、誰にでも優しい完璧人間。まさに童貞男子の夢がつまったお姉さん的存在の人なんだ。噂では、彼女の怒った姿をみたことがある人はこの世に存在しないらしいぜ。この人も『萌子fam.』っていうファンクラブがある」

「へえー」

(……怒った姿をみたことがある人はこの世に存在しない? あれ? 僕、ラーメン屋で死ぬほど怒られたんだけど、あれって夢だったのかな。……ははは、夢だったらよかったのになあ。残念ながら、あの人は、ラーメンとホークス狂いのサイコパスなんだよなあ)

 詩が遠い目をしていると、涼がドヤ顔で言う。

「ちなみに俺は、萌子先輩のファンクラブに入ってるんだっ!」

「……マジで?」

「マジでっ!」

 涼は満面の笑みでそう言うと、スマホを開き、『萌子fam.』という名のライングループを見せてきた。

「……激イタじゃん」

 詩は呆れながら小さな声で呟くも、幸い、涼には聞こえていないようだった。

「俺さ、A4のことを知れば知るほど、他のファンクラブにも興味わいてきたんだよ」

「あ、そ」

(……こいつ、暇すぎだろ。勉強しろよ)

詩はテキトーに頷くも、涼は気にせず提案してくる。

「——ってことで今から、A4の方々を一目見に、2年の校舎行こうぜっ!」

「いや、いい」

 詩は間髪入れずに断った。

「なんでだよ~。いこーぜ~」

「いや、いいって。今から、ユーチューブで、TK○木下のき○ちゃんねる見るから」

「なんだそれ、しょうもねーなっ! そんなのいいから、さア、行くぞッ!」

 そんなふうに詩と涼で押し問答していると、

「う、う、うたくんっ! ちょっといいかなっ⁉」

 急に数人の女の子たちが現れ、ぞろぞろと詩を囲んだ。

「ん、なに?」

 詩は慌てず、クールにそう返す。

「いっ、今から、体育館でバスケするんだけど、あのさ、も、も、もしよかったらでいいんだけど、う、うたくんも一緒にやらない?」

 ひとりの女の子が代表して、緊張した様子でそう言った。

「……バスケか」

(……さて、どうしたものか。正直、ちょっとメンドクサイ。だけどこのまま、涼と一緒に、2年生の校舎に行って、部長たちに会うほうが、よっぽどメンドクサイことになりそうな気がする……)

「うん。いいね、やろうかな」

 逡巡したのち、詩はそう答えた。

すると、「きゃー」「やったぁー」「嬉しぃ」などと、詩を囲んでいる女子たちはもちろんのこと、教室の外からこちらの様子をうかがっていた女子たちからも黄色い声が上がった。

「行こっ、うたくんっ!」

 女の子たちに引っ張られていく詩。そんな詩の後ろ姿を見ながら、ひとり取り残された涼は呟く。


「チェッ。やっぱ詩は、そうゆうの興味ないか。……まあ、あいつも、A4に負けないくらいモテるからなあ。なんせあだ名が、王子だもんな」


実は、詩にも『UTER』というファンクラブがあるのだが、詩はまだ知らない。

 

詩は、教室を出る前にふと立ち止まると、不思議そうな顔して振り返り、涼に向かって声をかける。

「なにしてんの、涼も早く行くよ。僕のイグナイトパス・廻とれるの涼だけなんだから」

「いや、それは俺もとれねえよッ!」



 時間が経って、今は、放課後。つまり、部活の時間。

文化部棟がある旧校舎、そこにあるボランティア部(仮)の部室には、ひなた、詩、つばさ、萌子の部員4人が揃って、いつものようにのんびりしていた。


「なあ、知ってるか。サルサソースのサルサって、ソースって意味らしいぞ」

 何の脈絡もなく唐突に、小さなほっぺにグミをつめながら、ひなたが言った。

「へえー。じゃあサルサソースって、ソースソースなんだ」

 頬杖をついてファッション誌を読んでいる、つばさが続けた。 

「ソースソース。なんか、マコーレ・マコーレ・カルキン・カルキンみたいやねぇ~」

みんなに緑茶を渡しながら、萌子が微笑んだ。

「だれだっけそれ?」

「ホームア○ーンのひとじゃない?」

「そうばい。あれ、ひなちゃん好きって言いよらんやったぁ~? マコーレ・マコーレ・カルキン・カルキン」

「あー、ちっちゃい頃は好きだったかもな。でも今は、別に好きじゃねーよ、マコーレ・マコーレ・カルキン・カルキン・カルキンなんか」

「ひなた、間違ってるって。カルキンが1個余計に入ってるよ。正しくは、マコーレ・マコーレ・カルキン・ウィルキンソンだよー」

「いや、つばさちゃんこそ間違っとるばい。最後、炭酸水になっとるよぉ~。正しくは、マコーレ・マコーレ・カルキン・ヒカキンソンやねぇ」

「いや、萌子、お前も間違ってんじゃねえか。なんだヒカキンソンって。ユーチューバーの大御所がブンブンハローしてんじゃねえか。正しくは、アモーレ・フィナーレ・タマキン・ギャルソン・シャンソンショーだろうが」

「いや、ひなたそれもう、原形とどめてないよ」

「あれ。いつのまに」

「「「あはははっ!」」」

 楽しく笑い合う、ひなた、つばさ、萌子の3人。

「…………」

 そんな3人を輪の外から眺めながら、詩は思った。……いくらなんでもその会話は、しょうもなさすぎだろう、と。本当にこいつらは、A4とやらで、この学園で超絶人気なのかよ、と。

 詩がそんなことを考えていると、ひなたが声をかけてきた。

「おい、どうした後輩。そんなにぼけーっとして、眠いの?」

「いえ、べつに眠くないです」

「じゃあ、おなか減ったん? チョコ棒食う?」

「いらないです、べつにお腹も減ってないんで」

「じゃあ、なんでそんなぼけーっとしてたんだよ」

「ちょっと考えごとしてたんですよ」

「考えごと?」

 ひなたがチョコ棒を頬張りながら、首を傾げる。

 詩は小さく肩をすくめて口を開いた。

「実は今日昼休みに、友達から、A4とやらについて教えてもらったんですよ。この学園には、超絶美少女で、超絶人気のある4人がいるって」

「「「おおーッ!」」」

「どうやらみなさんが、そのA4ってやつらしいですね」

 詩がそう言うと、3人は「「「えへへ♪」」」と照れながら頭をかいた。

「バレちまったらしょうがねえな。そうだぜ! 何を隠そうっ、うちたちがその学園の人気者、ANGEL4だっ!」

 満面のドヤ顔で「えっへん」と小さな胸を張るひなた。

 詩はにっこりと微笑んだ。

「部長は、学園のアイドルで、葵先輩は、学園のカリスマで、天羽先輩は、学園のマドンナらしいですね」

「「「えへへ、まーね♪」」」

まんざらでもない様子で頭をかく3人。

 詩はそんな3人に「はあ」とため息をつくと、微笑みを消しいつものクールな表情で告げる。


「でも僕は、それ嘘なんじゃないかと思ってます。だって、あんたらが人気なわけねーもん」


「「「なっ⁉」」」

「だから、どんな錯誤があって、そんなデマ情報が、僕のとこまで流れてきたんだろうって、ずっと考えていたんです」

「デマじゃねえよッ!」

 ひなたが声を荒げる。つばさと萌子も不服そうに「そーだよー」「うんうん」と頷く。

 しかし、詩は嘆息しながら、頭をゆっくり左右に振った。

「いや、絶対デマでしょ。……だってあんたら——」

 詩は冷めた目で、3人の顔をそれぞれ見渡す。

「——自己中で自分大好きのお子ちゃまに、いろいろ残念なド変態に、ラーメン屋でキレるヤバイコパスじゃないですか。……いやいや、絶対にデマでしょ」

 詩が嘲笑いながらそう言うと、ひなたは怒り出した。

「お前、ちょー失礼だなッ! お前、うちたちが先輩ってこと忘れてない⁉」

「忘れてないですよ、先輩(仮)」

「だれが(仮)だよッ!」

「じゃあ、先輩(笑)」

「わらってんじゃねえよッ!」

「先輩www」

「草生やすなッ!」

「草輩」

「なんだクサパイって! 合体させんなっ!」

「じゃあ、貴様」

「き、きさまッ⁉ さすがに見下しすぎだろッ! お前は、初期のベジ○タかッ!」

「へっ。きたねえ花火だ」

「なにがだよッ!」

 ひなたはそうツッコんで、嘆息する。

「——ったく。うちたちは、ほんっとに人気者だっつーの」

「はいはいwww」

「こいつ、まじでムカつく」

 憤慨するひなたを、「まあまあ」とつばさがなだめた。

「もう諦めるしかないって。うーちゃんの前で、ボクたち素の自分を全部さらけ出しちゃってるんだから。今さら取り返せないよ」

 つばさはそう言い終えると、ニヤリと笑って詩を見つめた。

「ボクたちが素になるのは、うーちゃんの前だけだからね」

「? ……はあ」

「ほんと、うーちゃんは罪な男だよ。ボクたちを丸裸にさせるなんてね」

 つばさの言葉に、詩は「ハア?」という顔をする。

「いやいや、先輩たちのメッキが勝手に剥がれていっただけですよ」

「違うよ。うーちゃんがボクたちを丸裸にしたんだよ! ……もうっ、うーちゃんのエッチ!」

「なんでだよ」

「ボクたちを丸裸にしたんだから、うーちゃんも、おちんちん見せてよねっ!」

「なんでだよ。今世紀最大に意味分かんねえよ」

「いいじゃん。減るもんじゃないし」

「減るよ。むしろ、大事なものを失うよ」

「触るのはいい?」

「いいわけねえだろ」

「じゃあ、パンツちょうだい」

「なんでだよ。やるわけねえだろ」

「もおー、ケチだなー。じゃあ、おちんちんちょうだいッ!」

「Shut the f*ck up.【もうまじで黙れよ】」

詩は、つばさに冷たい視線を向けながら思わずそう言う。

 つばさは「うーちゃんに、英語で罵倒されるのも悪くない」と言いながら興奮していた。

 我に返った詩は、口元を抑える。

「Oops, excuse me French.【おっと、すみません……】」

「おちつけ後輩。言語変わってるぞ」

「おっと、すみません。気が動転しちゃって」

 詩は自分を落ち着かせるようにずずずずずと緑茶を啜る。

 そして一息つくと、そっと湯呑を置いてから3人に告げた。


「でも、これで確信しました。先輩たちは、絶対に人気ないし、絶対にモテない」


 ひなたは「くっ」と机を叩く。

「つばさのせいで、もう強く否定できない」

 ……うん、そりゃそうだ。

(こんな変態がいるのに、ANGEL4はどう考えてもおかしい。頭もおかしい。いろいろおかしい。この人たちは天使じゃなくて、せいぜい天魔だろう)

詩はそう強く思った。

 しかし、ここで萌子が助け船を出すように、切り出す。

「でもね、うたくん。実際、モテるのはほんとなんよぉ。わたしはそげんなかけど、ひなちゃんはよく告白されよるばい。今日も、3年生の野球部の人に呼び出されよったしねぇ~」

「ほんとですか、それ」

 詩は露程も信じていない様子で、顔を顰める。

「ほんっとだって。まじでうちモテるんだってっ!」

 ひなたは真剣な顔でそう言い返した。

 だが、詩は微塵も信じない。

「絶対ウソでしょ」

「ほんっとだってっ!」

「絶対ウソ」

「ほんっと!」

「絶対ウソ」

涙目になりだすひなた。

「……ほんとだもん」

 それでも詩は遠慮ない。

「いや、絶対にウソ。ありえないです」

「モテるもん! ほんとだもんっ!」

「いやいや、絶対ウソでしょ。ひとりの男として断言しますよ、絶対に部長はモテないです」

 一歩も引かない詩に、ひなたは涙を拭って「ふんっ」と鼻を鳴らした。

「なにがひとりの男としてだよ。脱毛要らずの女子より女顔のくせにっ! 大体さ、お前が、うちの女としての魅力を分かってねんだよッ!」

「? 女としての魅力……なに言ってるんですか。そんなの部長にあるわけないでしょ。冗談はそのお子ちゃまフェイスだけにしてください」

「ふんっ。ごめん、ごめん。お子ちゃまなお前に、うちの魅力がわかるはずもなかったなッ!」

 べーと舌を出すひなた。

詩はムッとした表情を見せる。

「お子ちゃまって、部長にだけは言われたくないですよ」

「ハア? お前の方が、お子ちゃまだろうが! 女のことなにもしらないクソガキのくせに!」

「なに言ってるんですか。絶対に僕の方が、部長よりは異性のことを理解してますよ」

「絶対ない。ありえないッ! うちの方が絶対、お前より大人!」


「じゃあ、部長は恋人いたことあるんですか?」


「…………」

 詩の問いかけに、ひなたは思いっきり顔を逸らした。

「なんだ、彼氏いたことないんだ」

 詩はバカにしたように「プッ」と吹き出す。

「それで、よく僕をお子ちゃまなんて言えましたね。彼氏いたことないけど、大人の部長さん」

 ひなたは悔しそうに机を叩きながら「ぐぬぬ」と唸った。

「ぐぬぬって。可愛いな、ひなた」

「うふふ。頑張れぇ~、ひなちゃん」

 ひなたと詩の舌戦を他人事のように聞いてずずずずずっとお茶を啜る、つばさと萌子。2人は微笑ましそうにひなたを見つめる。

 そんな2人の視線に気づいたひなたは、ジト目で彼女たちの方に顔を向けた。

「いや、お前らも彼氏いたことないじゃん」

「…………」

 ひなたの言葉に、つばさは顔を逸らし、口笛をぴゅーと鳴らす。

萌子は「うふふ、まあね~」と微笑んでいた。

 すると、詩は「プゥー、クスクス」と3人をバカにしたように笑いだした。

「まったく。みなさん、とんだお子ちゃまですね。クスクス」

 詩の言葉に、ひなたとつばさはそれぞれ強がったように言い訳を始める。

「いや、うちは、彼氏とかそうゆうの興味ないから作らないだけだし。……べつに作ろうと思えばいつでも作れるし」

「いや、ボクは、ボクに合う良い人がいないから作らないだけだし。……べつに作ろうと思えばいつでも作れるし」

「なんですか、そのイカ臭い言い訳。イキリ童貞みたいなこと言わないでくださいよ」

「じゃあ、お前は彼女いたことあんのかよッ?」

 ひなたが憤慨しながらそう訊ねると、詩は余裕な表情で答えた。


「もちろん、ありますよ」


「「ん、なァァァァァァッ!」」

 今世紀最大の驚きの声を上げる、ひなたとつばさ。

 萌子は「へえー、そうなんだぁ~」と言いながら微笑んでいた。

「なんですか、その反応。そんなに驚かれるのは心外なんですけど」

詩が口を尖らせながらそう言うと、ひなたが険しい顔して、ドンッと机を強く叩いた。

「ありえねえよ、嘘つくなっ! お前に彼女がいたわけねえよっ! 嘘つきは焼き肉屋の始まりなんだからなっ!」

「いや、泥棒の始まりですよ。……べつに嘘はついてないですって。

僕、彼女いたことありますから、みなさんと違って。みなさんと違ってねwww」

「マウントとられたッ!」

 つばさはそう言うと、「くぅー」と悔しそうに声を上げる。

「でも、マウントとられるのも悪くないッ! なんなら、物理的にもマウントとられたいっ! ボク、うーちゃんに覆いかぶさられたいッ! ヘイ、うーちゃん、カモーンッ!」

 訂正。つばさは悔しそうじゃなく、楽しそうだった。

 そんなつばさを無視して、萌子がにっこりと微笑みながら口を開く。

「まあ、うたくんは、バリ可愛いかし優しかけんねぇ~。彼女さんおったことあっても、不思議じゃなかばい。で、どんな人やったとぉ~? うたくんの元カノさん」

 萌子がそう訊ねると、詩は目を細め、小さく口元を緩ませた。

「……どんな人か。そうですね、僕の元カノは——」

 詩は、元カノ、正確には、元許嫁の姿を鮮明に思い出すように目を瞑る。

 

——彼女との出会いは、詩がまだ5歳のときだった。



今から、10年前に遡る。


「おいっ。なに勝手に、回想シーン入ろうとしてんだよ」

……と思ったのだが、遡らず。

ひなたが、詩の回想を強引に引き留めた。

「ちょっと。邪魔しないでくださいよ」

「うっせいッ!」

「なんですか、うっせいって。ここはふつう、回想シーンに入る場面でしょう」

「回想シーンなんかに行かせるわけねーだろっ! ばーか!」

「ハア? なんでですか」

「なんでかって? そんなのお前の回想シーンが、めっちゃ時間の無駄だからだよッ!」

 強く断言する、ひなた。

「……な。」

 詩は思わずそう声を上げた。

「……時間の無駄って。そんなことないでしょ。絶対、読んでる人も含めて気になってますよ」

「なってねえーよっ! いや、まじで時間の無駄だからッ! パ○プロのマイライフ30年やるくらい時間の無駄だからッ! まじであれ、30年やった後の虚無感ハンパねえからなッ!」

「知りませんよ。てか、大体、なにを根拠に時間の無駄なんて言ってるんですか」

「……根拠って。お前、3話で勝手に回想シーンに入ったこと忘れてねえか? あの最初に、しょうもないお前のモーニングルーティン見せられたやつ。あれ、まじで時間の無駄だっただろうがっ!」

「そんなことないですよ」

「そんなことあるわっ! あの回、結局うちたち最初しか出番なかったんだぞ。まじで作者と、お前のことブチコロしてやろうかと思ったんだからなっ!」

 ひなたが憤慨しながらそう言うと、詩は眉根を寄せる。

「しょうがないじゃないですか。あの回の部長たちの会話、いつも以上にくだらなさすぎたんですから。あの回は、絶対、回想やった方がましだったんですって」

「ましなわけあるかいっ! まじで、お前の『回想』やるぐらいだったら、まだうちの好きな『海藻』ランキングやった方がましだったわっ!」

「……なんですか、海藻ランキングって」

 詩が呆れながらそう訊ねると、ひなたは急に立ち上がり、どこからかフリップを取り出した。

「さア、始まりましたっ! ひなたの好きなものザ・ベスト30ゥゥゥゥゥッ!」

「……なんか始まった」

「ひなたの好きなものザ・ベスト30。記念すべき第1回は、なんと、ひなたの好きな海藻ランキングですッ!」

「……いや、だれも興味ないですって。あと海藻でベスト30は多すぎるわ」

「今日は、観覧のお客さんがちょっとウルサイですけれど。まあ、気にせず参りましょうっ!」

「……いや、参るな、参るな」

 詩をスルーし、ひなたは意気揚々とランキングを始める。

「では、第30位——」

 どこからかドラムロールが鳴り響き、それに合わせて、ひなたが勢いよくフリップをめくっていく。

——ドゥルルルルル、ドゥンッ!

「——こんぶぅ! おにぎりの具としても人気高い、こんぶ。うちのおすすめは塩昆布です!」

「…………」

「第29位——」

——ドゥルルルルル、ドゥンッ!

「——海ぶどう! 沖縄に行ったら絶対食べちゃう、海ぶどう。あのプチプチがたまらない!」

「…………」

「第28位——」

——ドゥルルルルル、ドゥンッ!

「——きくらげぇ! 中華丼の必需品である、きくらげ。あのコリコリ触感がくせになるぅ!」

「…………」

……いや、なんだこれ。

 黙って聞いていた詩は、顔を劇画タッチにこわばらせた。

「なんだか、だんだんお腹が減ってきましたね。それでは、次、参りま——」

「参らせねえよ」

 詩は、ひなたの言葉を強引に遮った。

「邪魔すんなよっ! まだ、あと27個、海藻の紹介すんだからっ」

「長いわ。まじで長すぎるんだよ。誰も、部長の好きな海藻30個も聞いてられませんって。……あと、きくらげ、海藻じゃないし」

 詩は「はあ」とため息を漏らし、ガクリと肩を落とした。

「僕の負けです。もう回想シーン入らないんで、部長の海藻ランキングも勘弁してください」

「なんだよ、つまんねえなあー。うちは、まだまだ海藻ランキングやりたいのに」

「つまんないのはこっちですよ」

「チッ。じゃあ、うちの海藻ランキングやめてやるから、お前も元カノのことを回想シーン入らずに話せ。できるだけ手短になっ」

「……手短って。少しは思い出に浸りながら話させてくださいよ」

「海藻ランキングゥゥゥゥッ! 第27——」

「わかりました、わかりました。手短に話すんで、海藻ランキングは勘弁してください」

「チッ。じゃあ、さっさと話せ」

「はいはい」

 頬を膨らませ、どこか不機嫌なひなた。

つばさと萌子もどこか緊張した様子で、詩の元カノの話を待っていた。

 いつもはほんわかしている部室には、なんだか今日は少し重苦しい空気が流れている。

 詩はそれを不思議に思いながら、そっと話し始めた。

「僕の元彼女、元許嫁はフランス人で、僕と同い年の子でした。その子はいつも笑顔を絶やさずに、明るく、可愛いく、礼儀正しい子で、そして何より僕のことを好きでいてくれていました。付き合ってたのは、5歳から8歳の3年間でしたけど、とても充実した時間でしたね」

(……家のゴタゴタがなければ、もしかしたら、今でも——)

 詩が思い出に浸っていると、首を傾げたひなたが声を上げる。

「……ん? 5歳から8歳?」

「はい、そうですよ。5歳で許嫁の関係になって、8歳でそれが解消されました」

 詩が答える。すると、ひなたのふくれっ面が、満面の笑みに変わった。

「なんだそれっ、子供の頃の話かよっ! しかも許嫁という謎の関係かいっ! いや、それもう実質付き合ってないようなもんじゃねえか! お前、それで彼女マウントとってたのかよ!」

「いやいや、お互い好き合ってたのは、事実ですから」

「うるせー。イキんな、ばーか!」

 ひなたは、どこか嬉しそうにそう言った。

 頬杖をつき微笑みながら、つばさが呟く。

「はあ~、安心、安心。やっぱり、うーちゃんは、うーちゃんだったね」

「うふふ、そうやね~。やっぱり、この部は、みんな子供が一番ばい」

萌子も楽しそうに、そう続けた。

「? ……はあ」

 みんなの言葉の意味が分からず、首を傾げる詩。

だが気づけば、さっきまでの重苦しい空気はいつのまにか消えていた。


 ひなたが肩をすくめ、締めくくるように言う。

「まあ実際、モテるとか、人気とか、正直どうでもいいんだよなあ。うち、A4にも、あんまし興味ないし。それに、今はまだ彼氏なんて欲しいと思わねえし。……結局、今のままが一番なんだよなあ」

それに、つばさと萌子が苦笑しながら同意した。

「それは賛成。ボクもそう思うよ」

「うふふ、わたしもぉ~」

 ……たしかに、そうかもしれない。

今は、まだ——。

「僕も、今は彼女なんていらないですね」

 詩も笑って頷いた。


「なんだそりゃ。これじゃ当分、誰も恋人なんてできねえーな」


 ……誰も、恋人は作らない。いや、作りたくはないのかもしれない。

だって、皆、この時間が、今は何より大切だと思っているから。こののんびりして、くだらない時間を、何よりも大切にしたいと思っているから。


——口には誰も出さないが、皆がそう思うのだった。


 

 

活動記録7.「デリカシー裁判、ただいま開廷ッ!」


文化部棟である旧校舎の3階。

そこには、思春期なやつらが集まる、ボランティア部(仮)という部活がありました。


「やっぱりさ、人間誰しも、自分の変化には気づいてほしいものだよなっ」

いつものように何の脈絡もなく唐突に、長い茶髪のポニーテールをなびかせながら、この部の部長である、ひなたがまたくだらないことを言い出した。


「……まあ、そうですね」

 詩が、読んでいた漫画から顔を上げ、曖昧にそれに頷く。

 すると、ひなたが自分の綺麗な長い髪を、クルクルと指に巻きつけながら訊ねてきた。

「お前さ、うちになんか言うことないの?」

「僕が、部長になにか言うことですか……? なんかあるっけ?」

 詩は、意味がわからず首を傾げた。

 ひなたは、髪の毛をやたらといじいじ触る。

「じゃあさ、うちに対して気づくことないか?」

「……ふむ」

 ひなたの問いかけに、詩は本気で頭を悩ませた。

 時間が経つたびに、ひなたのほっぺたが風船みたいに膨らんでいく。

「ほらっ! うち、今日、いつもと違うだろうがっ!」

ひなたは、髪の毛をいじいじさせながら、不機嫌に言った。

「…………?」

「うちのこともっとよく見ろよっ! 変化してるとこあんだろがっ!」

(……変化したところ——? ……なんだろう?)

詩は首を傾げたまま、とりあえずテキトーに言ってみることにした。

「きのこ派から、たけのこ派になったとか?」

「ちげーわっ! そんなしょうもない変化じゃねえよッ!」

「じゃあ、もう駄菓子屋で万引きするのやめました?」

「1回もやったことねえわッ!」

「あ、わかった。歯が全部生え変わったんでしょ?」

「それはだいぶ前に変わっとるっ!」

「じゃあ、やっと食べるものが、離乳食から普通食に変わりました?」

「それはもっと前に変わっとるわッ!」

「ああ、それじゃあ、トイレちゃんと座ってするようになったとか?」

「うちはわんぱく小僧かッ! 元から座ってやっとるわッ! てか、立ってする女がこの世にいるなら連れてこいッ!」

「葵先輩は立ってしてみたいって言ってましたよ」

「おい、つばさッ! テメエは、なに後輩にクソみたいな性癖カミングアウトしてんだよっ!」

「てへっ☆」

「てへっ、じゃねえよッ!」

 ひなたはそうツッコむと、「はあ。もういいよ」と言って、大きく肩を落とした。

「髪型だよ、髪型! うち、今日はいつもと違って、ポニーテールにしてんだろーがっ! 気づけよ、おバカっ!」

「ぽにーてーる? ああ、もしかして『Ponytail』のことですか?」

「いや、発音いいなっ! 帰国子女かっ!」

「はい、そうですよ」

 ひなたは「……ああ、そうだったな」と呆れながら呟くと、嘆息しながら詩に言う。

「お前ってさ、たまに英語出してくるよな」

「すみません……ついつい」

「いや、別にいいんだけどさ、なんか気になるんだよ」

「そうですか。じゃあ、今度から気をつけますね」

 詩は苦笑気味でそう言うと、ひなたの髪を注視する。

「でも、たしかに言われてみれば、今日の部長の髪型『仔馬の尾』ですね。そう考えると新鮮だなあ、部長の『仔馬の尾』」

「だからと言って、和訳すなっ!」

「でも、またなんで『घोड़े की पूंछ』にしたんですか?」

「会話が入って来ねえよっ! 何語だよそれっ!」

「ヒンディー語です」

「なんでヒンディー喋れんだよっ!」

「似合ってますよ部長、その『Konjski rep』」

「コロコロ言語変えんなっ! 今度は何語だよそれッ!」

「ボスニア語です」

「なんだそれっ! 初めての出会いだわっ!」

「知らないんですか? ボスニアヘルツェゴビナの公用語ですよ」

「どこだよっ!」

 ツッコみ疲れたのか、ひなたはぜぇぜぇと肩で息をする。

 そこで、小休止するようにか、萌子がトレーにティーカップを載せて、紅茶を運んできた。

「はい、紅茶どうぞ~。熱かけん気をつけてねぇ~」

「ありがとうございます」

 詩はカップを受け取り、すぐに口をつける。

 芳醇な香りと爽快な渋み。クセがなく飲みやすい。

萌子の淹れる紅茶は相変わらず美味しかった。

「今日はセイロンですね。これ、ディンブラですか?」

「そうばい~。お友達に茶葉貰ったけん淹れてみたんよぉ~。さすがうたくん、ようわかったねぇ~」

「紅茶が変わったのくらい、さすがにわかりますよ」

 詩がクールに言う。

すると、ひなたがすねたように唇を尖らせた。

「紅茶の変化には気づいて、うちの髪型の変化には気づかないんかい。……お前って、ほんと女心がわかってねえなあ」

 詩は、ひなたの言葉にきまり悪く頭をかく。

「すみませんって。……でも、男がいちいち『髪型変えた?』って聞いてくるのもウザくないですか?」

 詩がそう訊ねると、優しく笑いながらつばさが答える。

「たしかに、チャラ男とか、下心がある男の『髪型変えた?』はウザいし、しんどいけど。うーちゃんみたいな男の子に『髪型変えた?』って気づいてもらえるのは嬉しいよ」

「へえー、そんなもんですか」

「そんなもんだっ! お前はもっと女心を勉強しろっ。じゃないと、彼女はおろか、女友達すらできないぞっ!」

「? ……はあ」

「なんだその反応。お前だって女友達くらい欲しいだろっ」

 ひなたは眉根を寄せながら言う。

詩は小さく肩をすくめた。

「いや、てか僕もう女性の友達いますから」

「はいはい。そうゆーのいいから。妄想乙っ!」

「妄想じゃないですよ。だって——」

 詩はきょとんとした表情で、当たり前のように言う。


「——部長、葵先輩、天羽先輩、3人は先輩だけど、友達でもあるでしょう?」


「…………。……いや、まあ。そだな」

 あまりに純真に言う詩に、ひなたは素直に頷いた。

「あれ、もしかして、友達と思ってるの僕だけでした?」

 詩がそう訊ねると、萌子が頬を綻ばせ、詩の頭をナデナデしながら答えた。

「うんん、そんなことなかよぉ~。わたしたちみんな、うたくんのことは友達と思っとるばい」

「それなら良かったです。安心しました」

 詩が表情を変えずにそう言うと、つばさがぽつりと呟く。

「うーちゃん、可愛いすぎ」

 ……詩も、ひなたに負けず劣らず純真だった。

 毒気を抜かれたひなたが肩をすくめながら訊ねる。

「じゃあ、クラスとかには女友達いんのか?」

「はい。いますよ」

 詩は平然とした態度でそう答えた。

「ほんとだろうなっ?」

「ええ。サツキとか、メイとか、千尋とか、サンとか、キキとか」

「いや、名前が全員ジ○リっ!」

「あとは、ブリュンヒルデとか」

「へえー、留学生? ……ん? いや、それポ○ョの本名っ!」

「あとは、ニギハヤミコハクヌシ」

「それは、ハクの正体っ!」

「リュシータ・ト○ル・ウル——」

「——ラピ○タっ! ってもういいわっ!」

 ひなたはそうツッコむと、「ふぅー」とため息を吐く。

「お前に女友達がいるかどうかは、もうどうでもいいや。……とにかく、お前はもっと女のことを観察しろ。そんで少しでも気づいたことがあったら、ドンドン伝えていけっ!」

「わかりました。じゃあ、これからはそうします」

「ああ、そうしろっ!」

「頑張れ、うーちゃん」

「うたくん、ファイトぉ~」

「はい、頑張るぞい」

 

こうして詩は、心を入れ替え、女性の変化に敏感になったのだった。



——そして、次の日。

放課後になり、詩はいつものように部室に向かう。

 がらりと扉を開け中に入ると、もう既に、スマホをいじるひなたと、奥で鼻歌交じりにコーヒーを淹れる萌子の姿があった。

「お~、後輩。やっほ~」

「こんにちは~、うたくん♪」

 ひなたと萌子は、詩に気づくと顔だけこちらに向けて挨拶してきた。

「お疲れ様です」

 詩は2人に会釈して挨拶を返すと、定位置であるひなたの前の席に腰かけた。

(クンクン、クン。部長からお風呂上りの匂いがする。これは、なにかつけてるな。

よし、昨日の部長の教え通りに、気づいたことがあったらドンドン伝えていかないと)

 心入れ替えた詩は、正面に座っているひなたに向かって話しかけた。

「部長。もしかして、ボディミストかなんかつけてます?」

 詩がそう訊ねると、ひなたは嬉しそうに頷いた。

「おお、気づいたかっ! おんっ、つけてるぞっ」

「やっぱり。部長からいつもはしない石鹸の匂いがしたんで」

「友達に貸してもらってつけたんだよ。いい匂いだろっ?」

「はい。とてもいい匂いですね」

 詩がそう褒めると、ひなたは心底嬉しそうに口元を緩ませた。

(こいつ、めっちゃいいじゃん! 成長してる! 女心分かってきてるじゃん!)

 だが、ひなたがそう思った矢先——

「部長、たまに『え? フルマラソン走ったん?』ってくらい汗の匂いするときあるから、絶対毎日ボディミストつけた方がいいですよ」

 詩は、いつものクールな表情でそう告げた。

「……え?」

 ひなたは思わず、スマホを床に落とす。彼女の顔は、痙攣したように引きつっていた。

 だが詩は、そんなひなたの様子など気にもせずに言葉を続ける。

「あっ、部長。よく見ると、口の下にニキビできてますね。化粧で必死に隠してますけど、それでもわかるくらいの大きさですよ。ビタミンしっかりとらないと」

「…………」

 ひなたは、詩のあまりにもアレな発言に、動揺しすぎて言葉を返すことができなかった。

 そんな中、奥でコーヒーを淹れていた萌子が、詩にコーヒーカップを運んできた。

「うたくん、コーヒーどうぞぉ~。熱かけん気をつけてね~」

「ありがとうございます」

 詩は礼を言ってカップを受け取ると、萌子の腹部あたりを見つめながら、彼女に告げる。

「あれ? もしかして、天羽先輩少し太りました?」

「……え? う、うん。少しだけ太ったかも~。でも、そげんこと直接言わんでよぉ~」

 萌子は頬をピクピク引き攣らせながら、大人の対応を見せた。

だが詩は止まらない。

「あと、天羽先輩、今日顔がむくんでますね。『顔面ソフトボールかっ!』ってくらい顔がパンパンですよ。たぶん塩分の過剰摂取が原因ですね。ラーメンを食べるのも、ほどほどにしないと」

「…………」

 詩のヤバ発言に、動揺を隠せないひなたと萌子。

 部室は、シーンと静まり返っていた。

 そんな中、ガラガラっと扉が開かれ、つばさが部室に入ってきた。

「おつかれー! 遅くなっちゃった~」

「お疲れ様です」

 つばさはスクールバックを置くと、いつもの席である詩の横に腰かける。

「ふわぁ~」

 そして席に着くとすぐに、目を擦り、大きな口を開けてあくびをした。

「ごめん、ごめん。実は、さっきまで保健室で寝ててね~。あはは」

 つばさが照れくさそうに言うと、詩は真剣な表情でつばさを見据えた。

「葵先輩」

「ん?」

 つばさは、真剣な顔つきをする詩を、何事かと思いながら首を傾げる。

 そんなつばさに詩は告げる。

「葵先輩のベロってよく見ると、ちょっと長いし、うす紫っぽい色してますね。キリンの子供の舌みたいでちょっとキショイです」

「……え?」

 つばさは、詩の発言に目を丸くした。

 詩は気にせず続ける。

「あと、さっきあくびしたとき、口がちょっとだけネバついてましたよ。もしかして口の中で、とろろかオクラでも育ててます?」

「…………」

 つばさも、ひなたや萌子と同じように言葉を失い、ただただ唖然とした。


「「「…………」」」

「どうしたんですか、みなさん? そんな顔して黙りこくって。……あ、部長の口元にもうひとつ、ニキビみっけ」

「「「アウトォォォォォッ!」」」

 3人は立ち上がり、天高く右手を掲げながらそう叫んだ。

「え?」

 詩は不思議そうに首を傾げる。

 そんな詩に、ひなたが声を荒げた。

「お前、神経存在してないの⁉ それとも全神経死んでの⁉ デリカシーって言葉知ってる⁉」

「知ってますよ。大正時代に起こった——」

「いや、それデモクラシー! ってこれ前やったわっ!」

「冗談ですよ。知ってますって、『Delicacy』でしょ?」

「発音いいなっ! 帰国子女アピールすんなやっ!」

「してませんって、やだな。HAHAHA!」

「笑い方が、陽気なアメリカ人ッ!」

「ここで小話をひとつ。先日、3年ぶりにガールフレンドのナンシーとデートをしたんだ。

久しぶりに会ったナンシーは、身長も伸びて、顔つきも大人っぽくなって、とても綺麗になっていたんだ。だから、僕はナンシーに向かって照れながら言った。

『ナンシー、しばらく見ないうちにずいぶん変わったね』

すると、ナンシーは僕に向かってこう返したんだ。

『私はナンシーじゃなくて、ナタリーよ』ってね。

おいおい、彼女まさかの名前まで変わってたよ。HAHAHA!」

 肩を揺らしながら大袈裟に笑う詩。

そんな詩にひなたは声を荒げる。

「……いや、なんだそれッ! 急にアメリカンジョーク披露すんなやッ! うちたち、長々となに聞かされたんだよッ! 帰国子女通り過ぎて、アメリカ人ぶってんじゃねえッ!」

「ウップス!」

「リアクションうざッ!」

「先日、ワイフと一緒に——」

「なに二つ目のアメリカンジョーク披露しようとしてんだよッ!」

 ひなたはそうツッコむと、酷使した喉を潤すため、萌子が淹れたコーヒーを飲む。

そして、ほぉっと一息つき少しだけ落ち着くと、目を鋭め詩に訊ねた。

「で、お前、なんで今日そんなに毒舌なの? 昨日、有吉さんのラジオでも聞いてきたの?」

「毒舌? なにがですか? 僕は、部長の教え通りに、女性の変化に敏感になって、気づいたことがあったらドンドン伝えていこうと、心入れ替えただけですけど」

 詩が肩をすくめ、不思議そうな顔をしながら言う。

 すると、ひなたは「お前バカなの?」と言わんばかりの視線を詩に送った。

「うちがドンドン伝えろっていったのは、あくまで、気づいて言ってくれたら嬉しいこと。そんで、お前がうちたちに伝えたことは、気づいても絶対に言っちゃいけないことだよっ!  おバカ! ……はあ。お前は、女心より、まず人間としての心を学ばにゃいとな」

「なんですか『学ばなにゃいと』って。あ、もしかして大事なとこで噛んじゃいました?」

「うたくん。それも言わんでいいことやねぇ~」

「ごめんなさい。ついつい」

ひなたは「ついつい、じゃねーよ」とボヤいて、ため息を吐く。

「お前ってさ、よく考えたらずぅっとデリカシーないよな」

「それ、部長がいいます?」

「うっせえわっ!」

「あなたが思うより?」

「健康ですッ! ——ってなにやらせんだっ! だれもAd○やってねんだよッ!」

「うわっ。部長、唾飛んだ」

「…………」

 ひなたは「こいつはもう救いようがねえ」と天を仰ぎながら、嘆息する。

 そして、懐からガベルを取り出し、カンカンカンッと鳴らすと、厳かに宣言した。


「ただいまより、第1回。デリカシー裁判を開廷しますっ!」


——パチパチパチパチッ。

 立ち上がり、真面目な顔して拍手するつばさと萌子。

 詩は思わず呟いた。

「……いや、デリカシー裁判って何?」

 

 こうして、第1回デリカシー裁判(?)が開かれるのだった。



気づくと部室が、裁判所風に作り変えられていた。

隣の隣の法律研究部の部室から借りてきた証言台。詩はその証言台の前に、太いロープで縛られながら座らされ、つばさの私物である手錠と、口枷をされていた。

「ウゥーン。フゴフゴ、フゴフゴフゴォッ【訳 なんですかこれ、外してください】」

 詩が暴れながら叫ぶ。

 すると、法服(これも法律研究部から借りてきた)を着たひなたが、カンカンカンッとガベルを鳴らした。

「被告人、静粛に」

「フゴフゴ。フゴフゴフフゴッ【訳 なんですかこの仕打ち。僕は懲役100年の罪人かっ】」

「静粛に!」

「…………」

「静粛に!」

「フゴフゴ。フゴフゴフゴフ【訳 なんも言ってねえよ。もう静粛にって言いたいだけだろ】」

「しーずーまーれぇぇぇぇ!」

「フゴフゴフゴフゴ【訳 ダ○ブルドアの言い方やめい】」

 ひなたは、詩のツッコミをスルーし、ガベルを3度真剣な顔で鳴らすと、立ち上がり宣言した。

「では、今から、デリカシー裁判を開廷します。弁護人、被告人の口枷を外してやりなさい」

 ひなたが言うと、黒のスーツを着たつばさがゆっくりと詩の口枷を外す。

「ハアハア……ハアハア……。ボク、もしかしたらSもいけるのかもしれない」

 興奮したような声を漏らし、目をとろんとさせるつばさ。

つばさは、タイトなスーツを着ているせいか、いつも以上に凛々しくクールで、大人の色気を漂わせている。……しかし、変態は相変わらず、ド変態だった。

 口枷を外された詩は「プハー」と息をすると、ジト目でひなたを睨んだ。

「なんですか、これ。てか、デリカシー裁判ってなんですか。今から、何が始まるんですか」

 詩が矢継ぎ早にそう訊ねるも、ひなたはそれをスルーし、裁判を始める。

「それでは、これから被告人、通称『デリカシー欠落系男子』に対する、『デリカシーなさすぎだろ事件』について審理します。では、検察官は、起訴状を朗読してください」

「は~い」

 どうやら、裁判官がひなた。弁護人がつばさ。検察官が萌子のようだ。皆、しっかりとそれっぽいコスプレをしていた。

 萌子は元気に手を上げながら返事すると、椅子から立ち上がり、台本らしき紙を持って、それをつらつらと読み始めた。

「公訴事実ぅ。被告人、通称『デリカシー欠落系男子』は、ボランティア部(仮)の部室において、『フルマラソン走ったかと思うくらい汗臭い。ソフトボールくらい顔がむくんでる。ベロがキリンの子供の舌みたいでキショイ』などと、デリカシーが欠如しているとしか思えない発言をしましたぁ。これは、刑法X条1項のデリカシーなさすぎ罪に該当しますぅ。なので、以上のことより審理を願いま~すぅ」

 萌子が読み終わり席に着くと、ひなたが詩に訊ねた。

「今、検察官が朗読した公訴事実について被告人に聞きますが、どうですか。なにか言うことはありますか」

「もちろんあります。たしかに、そのような配慮に欠ける発言をしたのは事実ですが、悪気があったわけではございません。あくまで、先輩たちのためになると思って発言しました」

 詩が真摯に訴えかけるように言うも、ひなたは半笑いで肩をすくめ、つばさに顔を向けた。

「弁護人、あなたのご意見は?」

「……ボク、ずっと自分はMだと思ってたんですけど。手錠とボールギャグをされている、うーちゃんの姿を見て、Sもいけるなって気づきました」

「いや、何言ってんの。今誰も、葵先輩の新たな性癖の目覚めについて意見求めてないから。弁護人なら、弁護してよ」

「でも、やっぱりボクは、いじめられたいですっ!」

「……いや、間違いなく、この人こそ裁かれるべきだろ。さっきからヤバ発言しかしてないんですけど。まじでお願いですから、弁護人をかえてください」

 詩はそう懇願するも、彼の意見が通ることはもちろんない。

「被告人、静粛に。その弁護人は優秀です」

「どこがだよ」

 ひなたは無言でガベルを鳴らし詩を制すと、台本的な紙を見ながら言葉を続けた。

「それでは次に、えーっと、証人尋問をおこなうので、被告人、通称『デリカシー欠落系男子』は一度下がって下さい。弁護人」

「はいっ!」

つばさは真面目な顔で返事をすると、一度懐にしまった口枷を意気揚々と取り出した。

「おい、ちょっと待って」

「さア、弁護人、その変態の道具を被告人の口につけなさい。検察官は、被告人が暴れないように体を押さえておきなさい」

「はいっ」「了解で~す」

 萌子が、暴れようとする詩の身体を後ろからぎゅっと抱きしめる。

「うたくん、ごめんね~。うふふ、ぎゅぅう~」

 萌子の身体が密着し、デカいおっぱいが背中に触れる。そして彼女に、耳元で「これバリ恥ずかしかねぇ~」と囁かれる。

柔らかな身体と、恥じらいを含んだ甘い声。

思春期の男子高校生ならば、誰しもが前かがみになってしまう状況ではあるのだが、詩は今それどころではなかった。

 なぜなら——

「げへへ、げへへ、うーちゃ~ん。ハアハア……ハアハア……。げへへ、げへへ、ぐへへへ」

 目の前に、ヤバい変態が迫ってきていたから……。

「ちょ、や、や、やめてください。おい、まじでやめろ」



「フゴフゴフゴフゴフゴ。【訳 確実に僕が一番の被害者だろ】」

 後ろに下げられ口枷を再度つけられた詩は、嘆くようにそう呟くも、それは誰に届くこともなかった。

「それでは裁判を再開します。検察官は、証人の取り調べを請求してください」

「は~い。それじゃあ、証人として、被害者のひとりであるひなちゃんの尋問を請求しますぅ」

「では、証人は前に来てください。——はい。」

 ひなたは自分の言葉に、自分で返事する。

そして、法服を脱いで裁判官の席から降りると、制服姿になり証人として証言台の前に立った。どうやら、ひなたは裁判官と証人の2役をするようだ。

「じゃあ、証人尋問を始めまぁ~す。ひなちゃんは、被告人、通称『デリカシー欠落系男子』から、デリカシーのない発言を受けたとのことですが、それは本当ですかぁ?」

「はい、ほんとです。うちは、被告人に、『フルマラソン後くらいの汗の匂いがするから、ボディミストつけたほうがいい』、『でかいニキビがあるからビタミンをとれ』などというデリカシーが欠落している発言を受けました」

「それは本当につらい思いをされましたねぇ。では、被告人にデリカシーがない発言を受けたのは、その1度きりですか~?」

「いいえ。よくよく考えれば、以前から、そのようなデリカシーが欠落した発言を受けていました」

「ほぉー。では、具体的なエピソードなどはありますかぁ~?」

「はい、あります。あれは、よく雨が降った日のことです——」

 ひなたは出てない涙を拭って、胸の前に手を組みながら、悲痛なフリして話し始めた。

「フ? フゴフゴフーゴ?【訳 え? 回想シーン入んの?】」



 ——雨の日。

 ひなたは、いつものように部室に向かおうと、2年生の教室がある西校舎から、文化部棟である旧校舎に歩いていた。

「あー、雨うざー。これが雪だったならな~、遊べるのにな~」

 ひなたは、水玉の傘をクルクル回し、雨にぼやきながら歩いていると、道の途中で大きな水溜まりを発見した。

「でかっ。なんだあの水溜まり! デカすぎて、もはや池じゃん。いやもう、水溜まり○ンドじゃん!」

 ひなたは「よし」と意気込むと、一目散に水溜まりの前に移動する。

「これは飛ぶしかないだろ。フライングハイだろ。ひなた、行きまーすっ!」

 そして、傘を閉じ、勢いよく助走をつけると、子供のような笑みを浮かべながら、思いっきりジャンプした。


「ああくそ。なんだあの水溜まり、まじウザすぎだろ。どうせなら、飛べる距離に設定しとけよな。もう水溜りボ○ドのチャンネル登録解除してやるわ」

 ひなたは部室に入ると、びしょ濡れになった靴下を脱ぎ、顔を顰めながら悪態をついた。

「帰りまでに乾くかな~。あーん。母ちゃんにバレたら絶対怒られるよーん」

 小テストのプリント数枚を机の上に広げ、その上に靴下を置く。そして、ひなたは、怒った母親の顔を想像し怯えながら、部室にあったドライヤーで必死に靴下を乾かし始めた。

「乾けぇ~、頼むから乾け~。じゃないと、母ちゃんに怒られるぅ~」

そんなふうにひなたがバタバタしていると、ガラガラガラッと扉が開かれ、部室に詩が入ってきた。

「お疲れ様です。部長、なにしてるんですか?」

 詩はひなたに目をやると、そう問いかけた。

「見て分かれよ。靴下乾かしてんだよ」

「いや、それは分かってますよ。僕が聞きたいのは、なんで靴下乾かしてるのかってことです。傘ささなかったんですか?」

「さしたよ」

「じゃあ、なんでそんなに靴下びしょ濡れになるんですか。傘さすのヘタなんですか?」

「るっせーなっ! なんでもいいだろっ! 女の子にはいろいろあんだよっ!」

「へえー、女の子って不思議だなー」

詩はテキトーにそう言うと、肩をすくめながら自分の席に着いた。

「ん? なんかクサいな」

 詩は小首を傾げながら、すんすんと周りの匂いを嗅ぐ。

「もしかして、これかな」

 詩はそう言って、乾かしてる最中のひなたの靴下をひとつ手に取り、自分の鼻に近づけた。

「すんすん。あ、クサいのこれだ。雨と汗が混ざった匂いがする。雑菌すごそー。女の子って不思議だなー」

「…………」


 ひなたは、詩のデリカシーがない発言に、ただただ戦慄したのだった。



 ひなたは、カピカピに乾いている目許をハンカチで拭った。

「うちは、あれ以来、水溜まりをみつけても飛ぶことができなくなりました」

「フゴフゴフゴ、フゴフゴフゴ【訳 水溜まりを見つけても、飛ばないのが普通なんですよ】」

 詩は、嘆息しながらフゴフゴ言う。だが、それが誰かに理解されることはなかった。

「ひなちゃん、さぞつらかったでしょうに、話してくださりありがとうございました~。それでは、元の席にお戻りください」

「はい」

ひなたは返事すると、再び法服を着て、裁判官の席に腰かけた。

 そして、台本的な紙を見ながら裁判を続ける。

「えーっと、弁護人、なにかご意見は?」

「ありません」

 ひなたの問いかけに、つばさは清々しい顔でそう答えた。

「フ、フゴフ。フゴ、フゴフゴフ。【訳 おい、弁護人。あんた、まじでなにしに来たんだよ】」

 ひなたがカンカンカンッとガベルを鳴らす。

「静粛に。それでは、これで審理を終わりますので、被告人は証言台に。検察官」

「は~い」

 萌子は微笑みながら返事すると、詩を証言台の前に誘導し、優しく口枷を外した。

「ごめんね~、うたくん。苦しかったやろぉ~?」

「プハー」

 詩は息を整える。心底どうでもいい情報だが、この口枷はとても呼吸がしづらい。あと無理やりされると、恥辱より、ムカつきが勝つ。

「被告人は、判決の言い渡し前になにか述べておきたいことはありますか?」

「はい。もちろんあります」

 ひなたがそう訊ねると、詩は愛想よく返事する。

そして、爽やかな笑みを浮かべ、ピンっと中指を立てると、ゆっくりと口を開いた。


「ピ———————————————————————————————。【自主規制】」

「お前は、ゴッ○ムシティ出身かっ! マジでどんだけ口悪ぃんだよ。ジョーカーもびっくりだわっ!」

「゛あぁん?」

「後輩と思えないくらい喧嘩腰だっ。……やんばい。まじでキレてる」

 ひなたは、詩から目を逸らし「こっほん」と咳払いすると、切り替えるようにガベルを鳴らした。

「それでは、判決を言い渡します。えー、懲役100年」

「重すぎんだろ」

「じゃあ、死刑」

「もっと重くなったわ」

「処刑方法は、千本ノックです。お前めがけて、ピッチングマシーンから高速のボールを無数に噴射しますので、頑張ってください」

「処刑方法がダ○ガンロンパ」

「処刑日時は、決まり次第、ラインしまーす」

「軽いわ。コンパのノリで、処刑日時伝えんな」

「じゃあ、インスタのDMで」

「変わんねえよ」

「処刑は生配信しますので、スパチャお願いします」

「垢バンされるわ。いや、されろ」

 詩がそうツッコむも、ひなたはそれをスルーし、締めくくるように言葉を続けた。

「では、飽きてきたので、これにて裁判終わります。おつかれした~」

「お疲れー」「おつかれさまぁ~」

 3人はそう挨拶すると、扉を開け、ぞろぞろと部室から出て行った。

 ……詩は一人、部室に取り残された。


「おい、ロープと手錠を外してけ。おーい。おおーいっ。え、まじ?」



——デリカシー裁判。

 それは、デリカシーがない発言をしたものを裁くための裁判。

このデリカシー裁判の有罪率は100%。無罪を勝ち取ることは不可能である。

そのため、誰しもが不用意な発言には、必ず気をつけなければならない。


……でないと、次、証言台に立つのはあなたかもしれませんよ。

活動記録8.「くだらない日常も悪くない。」


文化部棟である旧校舎の3階。

そこには、ロハスなやつらが集まる、ボランティア部(仮)という部活がありました。


「なんかさ、ピクニックしたくねっ?」

いつものように何の脈絡もなく唐突に、長い茶髪のツインテールをなびかせながら、この部の部長である、ひなたがまたくだらないことを言い出した。

 

しかし、ひなたの言葉は誰にも届いていなかった。

 萌子は部室の奥で「ふふふーん、ふーん♪」と鼻歌交じりになにか飲み物の支度をして、詩とつばさは、購買のお菓子を賭けて仲良く将棋を指していた。

「王手」

「ぬぬぬ。やりおるな、お主」

「もう待ったなしですからね、葵先輩」

「えー、ケチんぽ! ちんぽ! ちんぽこわっしょい!」

「なんですかそれ、しょうもない。いいから早く指してください」

「あーい。ごめんこ、ごめんこ」

 つばさは熟考してから、駒を置く。

「よし。これなら、どうだ」

「はい」

 詩は、つばさが駒を置いてから、ほぼノータイムで駒を進めた。

「ぬぬぬぬ。うーちゃん、指すの早すぎ! もう早漏じゃん! 指すのもイクのも詩に候!」

「やかましわ。いちいち下ネタ挟まないでください。もう次、下ネタ言ったら、葵先輩の負けにしますから」

 詩が眉間に皺を寄せながら言う。

「あーい。わかったよ~ん」

つばさはヘラヘラと笑いながら、テキトーに返事した。

「むむむむ。どうしよ~。あ、ここに逃げちゃえ」

「王手」

「あぁ~ん。うーちゃんの責め、激しいよぉ~。も、もう、ボク、ら、らメェ~~」

 詩は冷たい視線をつばさに送る。しかし、つばさはにんまり顔をさらに強めた。

「うーちゃん、こわ~い。なんでそんなに睨むのさ? ボク、下ネタ言ってないのに~。あっ、もしかして、うーちゃん、なにかエッチなことでも想像しちゃったのかな~?」

「チッ。いいから、早く指してください」

「ふふふ、はーい。ほれ、これでどうだ」

「王手」

「ぬ、ぬぬぬぬ」

 楽しそうに将棋を指す2人。

「…………」

 で、そんな2人に対して、ここまでだれにも相手にされずにずっと黙っていたひなた。

……彼女は、もう我慢の限界だった。

 ひなたは、椅子から立ち上がり将棋盤の前に移動する。

 そして、両手でクロスをつくり構えると、

「バキクロスッ!」

「ちょっ」「あ」

 将棋の駒を一斉に振り払った。

「あーあ、なにすんですか部長」

 詩がジト目をひなたに向ける。

 しかし、ひなたは気にもせず、駄々をこね始めた。

「うっさい。かぁーまーえっ、かぁーまーえっ、かぁーまーえっ!」

 ……でた。ひなたの「かまえ」コール。これほどメンドクサイものはない。

 詩は一度、頭を抱え嘆息すると、膝を曲げて、部室に散らばった駒を拾い始めた。

「分かりましたから。とりあえず部長も駒拾ってください」

「え~、メンドいよ~。メンドすぎて、メンドーサだよ」

「いいから拾ってください」

 詩は目つきを鋭め、強い口調で言う。

「わ、わかったよ」

 ひなたはビクッと首を縮め、詩から目を逸らしながら頷いた。

「もう、まったく。あと2手で詰みだったのに……」

「まあまあ。ひなたの前で将棋してたボクたちが悪いよ」

「おいっ、うちを暴君みたいに言うなよっ」

「いや、実質そうじゃないですか」

 詩は呆れながらそう言った。

3人は仲良くしゃがみ込んで、散らばった駒を拾っていく。

駒40個がすべて揃うと、今日は将棋をすることを諦めて、棚に将棋盤を片付けた。ジ○オウガの前で、砥石が使えないように、ひなたの前で、将棋をすることなど不可能だった。

3人はいつもの定位置の席に腰かける。

すると、奥から萌子がなにやらトレーに載せて運んできた。

「はい、テールスープどうぞ~。熱かけん気をつけてねぇ~」

「ありがとうござ——って、テ、テールスープ?」

 詩は、萌子からティーカップを受け取ると、すぐに中を確認する。

 澄んだスープに、彩を添える青ネギと細切りの白ネギ。そして堂々と鎮座する牛テール。

それは、かなり本格的なテールスープだった。

「うん。紅茶とか緑茶とかコーヒーには飽きたと思ったけん、おもいきってテールスープ作ってみたんよぉ~」

 微笑みながら萌子が言う。

「それはまた思いきりましたね」

この人の場合、ボケなのか、本気なのかわからない。

 だがまあ、詩はとりあえず一口飲んでみることにした。

「おいしっ」

「それなら、よかったぁ~」

萌子は「うふふ」と嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


 ——仕切り直し。

「なんかさ、ピクニックしたくねっ?」

テールスープを食べ終わり一息ついてから、ひなたが再度言った。

「ピクニックですか?」

 今度はスルーせずに、詩が訊き返した。

「おんっ。ほら、今、春だろっ!」

「まあ、もうすぐ5月ですけど。確かに、天文学的には春ですね」

「じゃあ、春といったらなーんだっ?」

 ひなたがにっと笑いながら訊ねてくる。

 それに、詩、つばさ、萌子がそれぞれ答えた。

「んー。春といったら、春に告げる、春泥棒ですかね」

「お前って、意外とミーハーだよな」

 頬杖をつきながらつばさが続く。

「やっぱり、春といったら、変態の季節かなー」

「暖かくなると変態って湧くからな」

 微笑みながら萌子が続く。

「春といったら、食欲、スポーツ、芸術ぅ~」

「いや、それ全部、秋!」

「じゃあ、真夏の果実、TSUNAMI、海ぃ~」

「いや、それ全部、夏! てか、サザンっ!」

「じゃあ、斉藤、和田、杉内、新垣ぃ~」

「……いや、それはなんだ?」

「ホークス4本柱ばい」

「わかるかいっ! てか、春全く関係なくなってるよっ!」

 ひなたは「——ったく。こいつら、まぢでダメだな」と言って嘆息すると、気を取り直して、にぃーと笑って白い歯を見せた。

「春といったら、ピクニックに決まってんだろっ! てことで、今週末ピクニックを開催しますっ!」

「「おおーッ!」」

 ひなたの言葉に、高く手を掲げるつばさと萌子。詩は「この人はまた急に……」と半笑いでそう呟くも、後から続いて、2人と同じように「おー」と小さく手を上げた。



——そして、週末。

 駅の広場に設置された大型ビジョンの前。通称、大画面前。この辺では、よく待ち合わせ場所に使用されるスポット。詩はそこでひとり佇んでいた。

 スマートウォッチで時間を確認すると、時刻は9時46分。待ち合わせの時間から、もう16分が過ぎていた。

先ほど、遅れるというラインが入ったばかりだから、もう少し待たなければならないだろうか。ヘッドホンをつけて音楽を聴きながら、そんなことを考えていると、トントンと優しく肩を叩かれた。

「うーちゃん、お待たせー。ほんっとごめんね」

 詩は、顔を上げヘッドホンを外す。するとそこには、申し訳なさそうな顔をして謝る、スポーツミックスな格好をしたつばさの姿があった。

オーバーサイズの白のトップスに、横にスリットが入ったラインパンツ。そして、黒のボディバックを前掛けし、頭にはシンプルな黒のキャップ。つばさのその私服姿は、まるで変装している芸能人のようだった。

「いや、僕も今来たところです」

 本当30分以上待っていたのだが、いつものクールな表情で詩はそう言う。

 すると、つばさはくすぐったそうにくすくすと笑った。

「なんか今のできる男っぽかったよ」

「いや。実際、僕できる

「ふふっ。そうだったね」

「じゃあ、いきますか」

「うんっ!」

 つばさはにっこり微笑むと、詩の腕にぎゅーっと抱きつきながら歩き出した。

 詩とつばさは、部長であるひなたの命により、先に集合して、ピクニックに必要なものを買い出しすることになっていた。

 買い出しと言っても、萌子が弁当を手作りし、ひなたが遊び道具を家から持参してくるそうなので、買うものはそこまで多くはない。そのためはじめは、詩ひとりで買い出しを行おうとしていたのだが、つばさが自分だけ何もしないのは、ドMの名折れだと意味不明なことを言い出したので、結局2人で買い出しを行うことになった。

 

2人は、スーパーに向かって歩いていく。

詩とつばさ。美男美女が歩く姿は、まるで恋愛映画のワンシーンのように、とても絵になっていた。

「なんかうーちゃんの私服、新鮮だな~。まさかストリート系だとは思わなかったよ」

つばさが、詩の恰好をまじまじ見ながら言った。

詩の服装は、派手なプリントが施されたオーバーサイズの白色のロンTに、ヴィンテージもののワイドデニム。そして、胸元には太めのシルバーチェーンを輝かせ、複数の指に幅広のリングを嵌めていた。

それは、あどけない容姿で、スタイルがいい詩が着ていればオシャレに見えるものだが、着る人が着れば、フリースタイル激強ラッパーか、金持った元ヤンが必死にオシャレしてるようにしか見えない服装だった。

「うーちゃんのことだから、もっとキッチリした格好してるのかと思ってたよー」

「変ですか?」

 詩がそう訊ねると、つばさがぶんぶんと首を左右に振った。

「んん。ギャップがすんごくてよいっ! さかなクンがサックス吹けるくらいのギャップがあるよ!」

「それ褒めてます?」

「もちろん!」

 満面の笑みで言うつばさ。

「そうですか。それならよかったです」

 詩は照れくさそうにしながら、小さく肩をすくめた。


 やはり買い出しは、すぐに終わった。

 いろんなものをたくさん買ってしまっても、余ってしまったら荷物になるだけということで、結局買ったものは、飲み物とお菓子だけ。

飲み物が入った袋を詩が持ち、お菓子が入った袋をつばさが持って、2人はピクニック会場である、公園に向かって歩いていた。

「うーちゃん、ありがとね」

 ふとつばさが言った。

「ん? なにがですか?」

 礼を言われる理由が分からずに、詩は首を傾げた。

「ひなたのワガママに付き合ってくれて」

「べつに。もう慣れましたよ」

 詩は呆れたように小さく笑った。

「それならよかった。……あの子さ、ずっとあんな感じの性格だからさ。嫌われちゃうこともたまにあってね。ひなたは、そうゆうの全く気にしないんだけど。でも、やっぱりね……親友が嫌われちゃうのは、嫌だから……」

 ぽつりと呟くように言うつばさ。

「嫌いじゃないですよ。むしろ僕、部長を含め、3人のこと好きです」

 詩は食い気味でそう返した。

「うーちゃんは、ほんと優しいね」

つばさは、嬉しさと気恥ずかしさを混ぜたようにくしゃっと笑った。

詩は、クールな表情で言葉を続ける。

「僕は、自分に有益の人間か、一緒にいて楽しい人じゃないと関わりたくないですから……

それがたとえ『家族』でも」

 そう言った詩の顔には、憂愁の影が差していた。

 つばさは、詩の言葉を追及することはせず「……そっか」とだけ呟くと、口を閉ざした。

「「…………」」

 もの憂い沈黙が流れる。それは、少しだけ窮屈で重苦しいものだった。

 詩は、余計なことを言ってしまったと後悔するように頭をかくと、自分がつくってしまった沈黙を破るように、苦笑しながら明るい口調で言葉を紡いだ。

「でも、ほんとこの部って、変な部ですけど居心地良いですよね。ラクそうってだけで選んだ部活ですけど、今ではこの部選んで良かったなって思ってます」

「え、ほんとっ⁉ うーちゃんにそう思ってもらえてたなら嬉しいなあ。ボクたち、うーちゃんに、いつも迷惑ばっかりかけてるから」

 つばさはホッとしたように胸をなでおろしながらそう言った。

 詩は苦笑し「迷惑かけてる自覚はあったんですね」と言い、言葉を続ける。

「なんだか毎日くだらないことしてるなあって思うんですけど、そうゆうのがいいんですよね。この部に入って、こんなくだらない日常も悪くないって心から思えるようになりました」

「ふふっ。うん、そうだよね。ボクもこうゆう青春も悪くないって思うよ」

 思わず2人は、顔を見合わせ、優しく微笑んだ。

……こうゆう青春も悪くない、か。

恋に友情、勉強に遊び、インターハイに甲子園、他にもいろいろ。青春ってのは、大抵が忙しく、多くの労力や精力を必要とするもの。汗をかき、涙を流し、笑い合い、怒り合い、喜び合う、そんないろんな感情をさらけ出すもの。たぶん大体の人が、そんな青春を望んでいる。

……でも、それは大体の人であって、すべての人ではない。だから、きっとこんなふうに、くだらなくて、のんびりしている青春があってもいいはずだ。ベクトルが違うだけで、青春の良し悪しは変わらないのだから。

詩の海外での生活は目まぐるしく、忙しないものだった。勉強、仕事に、社交、ほかにもいろいろ。それは様々な経験ができ、多くの成長ができる、とても充実した毎日だったと言える。……だが、詩の心が満たされることは決してなかった。

 だからこそ、今の詩は言えるのだ。『くだらない日常も悪くない』と。

 いたずらな顔してつばさが言う。

「ひなたにも言ってあげてね。ボクに行ったこと全部。きっとひなたも喜ぶよ」

 詩は顔を少しだけ顰めた。

「嫌ですよ。絶対、部長調子乗るし。僕、部長のそんな顔見たらいじわるしたくなっちゃいますもん」

「ははは。うーちゃん、好きな子いじめるタイプなんだー」

「違いますよ」

「ならボクとうーちゃん、相性ぴったりだね。ボクはいじめられるのが好きなタイプの人間。うーちゃんは好きな子いじめるタイプの人間。それでうーちゃんは、ボクのことが好き。ほら、相性ぴったりだ」

「……違うって言ってるのに。はあ。好きって言ったのは失敗だったな」

 詩は嘆息しながらそう呟いた。



 しばらく歩いて、詩とつばさは、自然豊かな大きな公園に辿り着いた。

 そこは入り江をもとにした、大きな池が特徴的な公園で、池を貫くように複数の島が存在し、それぞれが橋でつながっていた。園内には、レストランやカフェ、庭園、美術館などの様々な施設も併設してあり、間違いなくここらでは一番大きな公園だった。

 さすがに4月も終わりということもあってか、桜名所と知られるこの公園でも、花びらのほとんどが散り落ちて、儚い桜並木になっていた。

「部長たちもう来てますかね?」

 詩がスマートウォッチで時間を確認しながら言う。

「あ、ボク、ひなたたちと位置情報共有してるから見てみるね」

 つばさは、スマホを取り出すと、アプリを立ち上げた。

「もう2人とも来てるみたいだね」

「ほんとですか。じゃあ、部長に文句言われないためにも急ぎましょうか」



「あ、部長と天羽先輩いた」

 位置情報を頼りに5分程度歩くと、可愛い動物のイラストが描かれたレジャーシートを広げている、ひなたと萌子の姿を見つけた。

 ひなたの服装は、さわやかなグリーンのボーダーシャツのインナーに、ブルーデニムのオーバーオール。萌子の服装は、顔周りがざっくり開きⅤネックになったグレーのニットに、白のシースルーのトップス、そしてプリーツスカートだった。

「おー、やっときたか! 遅かったなっ」

「こんにちは~。うたくん、つばさちゃん」

 にこにこ顔で腕を組むひなたと、優しく微笑む萌子。

 詩とつばさは挨拶を2人に返すと、飲み物とお菓子の入った袋をレジャーシートに下ろした。

 ひなたが詩の服をジロジロと見て、顔をにやりとさせながら言う。

「それにしても、後輩。お前、私服チャラッ! ラッパーじゃん」

「変ですか?」

 詩は自分の服を見つめながら訊ねた。

 つばさにも、同じようなことを言われたせいか、なんだか気になってきた。

 そんな詩に、ひなたがからかうような口調で言ってくる。

「変ではないけど、喧嘩強そうだし、ブレイ○ングダウンめっちゃ見てそう。卍っぽい」

「なんですか卍っぽいって。まあ、ブ○イキングダウンはめっちゃ見てますけど」

「見てるんかいっ! やっぱお前ってさ、帰国子女で金持ちのくせに、意外とミーハーだよな」

「流行に敏感って言ってください。新しい情報はどんどん取り入れて行かないと」

「生意気言うなって。ブレ○キングダウンの情報を取り入れてどうすんだよ。なんに活かすんだよ」

「うるせえな。やんのか、雑魚」

「めっちゃ悪影響受けてる!」

「いいから喧嘩やろうぜ? ビビってんのか? ああん? オレ、武器持った卑怯な奴ら10人を、ひとりでボコボコにしたことあっから。バキボキ、バキボキ」

「10人ニキかっ! 嘘つけよっ! 武器持った相手をひとりで倒せるわけねえだろッ!」 

「゛あ? まじだから。オレのトンファーは、誰も止められねえよ」

「お前も武器使うんかいっ! で、武器トンファーって特殊かっ! お前は、リボ○ンの雲雀恭弥かっ!」

「咬み殺すよ」

「なんでだよっ!」

 ひなたはそうツッコむと、「ふぅー」とため息を吐いた。

「……もう、お前ボケ過ぎ。集合して10秒でボケ倒すなよ。ピクニック始まる前に疲れるっての」 

「ドン、部長」

「なんだドンって、マイまで言えよ! うちは小西かッ! ——たく。最近、お前より、うちの方がツッコみ役になる割合高いぞ。プロット段階では、お前が完全なツッコミ役だったのに」

「……プロット段階って。メタ発言やめてくださいよ。いいじゃないですか、みんなボケてみんなツッコむ。笑い飯みたいで」

「どこがだよ。笑い飯なめんなっ!」

「コンビ名どうします? やっぱ、泣きパンですかね?」

「話聞けよ! なんだ泣きパンって!」

「じゃあ、怒りナン。それか、喜び麺。もしくは、無感情イモ」

「無感情イモっ⁉ イモに一体、何があったんだよっ!」

「ノー芋ーショナル。イモだけに」

「やかましわっ!」

 

詩の小ボケが一段落すると、みんなはレジャーシートの上に座り、いつもの部室のように、くつろぎ始めた。

木々の隙間から、燦々と輝く太陽の光が差し込み、まだら模様の影をつくる。遠くに見える池には、数台の白鳥ボートが優雅に進んでいた。

 ヒューと春の終わりの気配を感じさせる暖かな風が吹く。

「あー、風が気持ちいい。ロハスしてるね~」

 つばさがごろんと寝転がりながら言った。

「そうですね。ロハスしてますね」

「うん。ロハスしとるばい~」

 つばさと同じように、詩と萌子もごろんと寝転んだ。

 大自然の中、のんびりした雰囲気が漂う。

気持ちよさそうに寝転んでいる詩、つばさ、萌子の3人は陽気にやられて、思考を停止させたように、ぼけーとし始めた。

「ねえ、うーちゃん」

 ふとつばさがのんびりした口調で言う。

「ロハスとエロスってなんか似てないー?」

「いや、ぜんぜん」

「じゃあ、エロエロハスハスと、ロハスって似てないー?」

「いや、ぜんぜん。てか、エロエロハスハスってなんですかぁ~」

 詩のツッコミもどこか勢いがない。

 大きく伸びをし、のんびりした口調で萌子が続く。

「ロハスと言えば、ロハス・ジュニアって選手がねぇ~、阪神におるとよぉ~。うたくん知っとるぅ~?」

「いや、ぜんぜん」

「じゃあ、『ハメス・ロドリゲス』は知っとるぅ~?」

「コロンビア代表の? それは知ってますよ。天羽先輩、サッカーにも詳しいんですか~?」

「いや、ぜんぜん~」

「じゃあ、なんで名前出したんですかぁ~?」

「なんとなく~。とりあえず頭に浮かんだから名前上げてみた~」

「なんだそりゃ~」

 顔をこちらに向けて、つばさが訊ねる。

「え? 今、『ハメます。ロリ好きでゲス』って言ったぁー?」

「言ってねーよぉ~」

 詩はのんびりした口調でツッコんだ。

 そんな中、ひとりだけノットロハスのひなたは立ち上がり、ロハストリップ中の3人を見下ろしながら、告げる。

「お前ら、のんびりしすぎだよッ! のんの○びよりかッ! しょうもない会話してないで、せっかくみんなでピクニック来たんだから、さア、遊ぶぞっ! ほら、みんな立てっ!」

 元気にそう言うひなたに、詩は寝転んだまま言葉を返す。

「部長。大自然のなかで、のんびりするのもピクニックの醍醐味ですよ」

「うるさいっ! 遊ぶったら、遊ぶのっ!」

 子供のように駄々をこねるひなた。

「えぇ~。のんびりしましょうよ。にゃんぱすー」

「にゃんぱすー」「にゃんぱすぅ~」

 そんなひなたに、3人はのんびりした口調でそう言った。

 ひなたは「なんだよにゃんぱすって。微塵も意味わかんねえよ」と呟くと、目に涙を浮かべ、ぐずり始めた。

「せっかく遊び道具たくさん持ってきたのに……。みんなでたくさん遊びたいのに……」

 ぐすんぐすん。と鼻をすするひなた。

 やばい。これはメンドクサイやつだ。

 3人は、ひなたがこれ以上ぐずって不機嫌になる前に、ロハストリップから抜け出して、ゆっくりと立ち上がった。

「わかりました、わかりました。ほら、みんな立ちましたから、もう泣かないで。さあ、遊びましょ」

 詩が優しい口調で言う。

「うん。あそぶっ!」

 ひなたは涙を拭って、満面の笑みで頷いた。


 いつものようにすぐに気を取り直したひなたは、持ってきた大きなエナメルバックをガサゴソと探り、様々な道具をレジャーシートに出し始めた。

「なにして遊ぶ? いろんなもん持ってきたぞっー!」

 使い古されたグローブと、レジャー用のグローブ3つ、それに軟式の野球ボール(M号球)。バトミントンセットに、フリスビー、ふわふわのソフトバレーボールなど他にもたくさん。

 詩はその中から、使い古されたグローブを手に取った。

「ずいぶん年季の入ったグローブですね」

 グローブを左手に嵌め、ポケットをポンポンと拳で少しだけ強く叩く。おそらく硬式用のグローブだろう。皮が厚いおかげで、左手は全く痛くない。しかし、手入れ用のオイルのせいか、叩いた拳がベタベタになった。

「あ、それボクのだ。ひなたの家に忘れてたみたいだね」

 つばさが、詩からグローブを受け取りながら言った。

「葵先輩の? 葵先輩、野球してたんですか?」

 詩が不思議そうな顔して訊ねる。

 つばさはグローブを嵌め優しく撫でると、笑顔で頷いた。

「そだよー。ボク、中学まで野球してたんだ」

「つばさちゃん、野球とっても上手かったとよぉ。小学校のときはソフトバンクジュニアやったし、中学校のときはシニアでも有名なピッチャーやったとよぉ~。高校のスポーツ推薦もきとったしねぇ。ほんっとすごかったとよぉ~」

 微笑みどこか自慢げな顔で萌子が言う。

 ひなたが苦笑しながら続ける。

「おかげでこいつ中学んとき、めっちゃもてはやされてたんだぜ。雑誌とかに『美人過ぎる野球少女』って何回も特集組まれてたしな」

「へえー。すごいですね」

 詩が感心したようにそう言うと、つばさは照れながら「えへへ」と微笑んだ。

「まあ、シニアのときは、2番手ピッチャーだったんだけどね」

「それでもすごいじゃないですか。なんで高校では野球やらなかったんですか?」

 詩が訊ねる。それにつばさは何気ない顔で答えた。

「野球は中学までで精一杯やったからね。だから、高校では、ひなたと萌子と精一杯遊ぼうと思って。それに——」

「それに?」

 つばさは、すっきりした笑顔で言葉を続ける。


「——ボクはボールを投げるよりボールをぶつけられたい! もしくはねじ込まれたいんだ!」


「最悪かよ。何言ってんだよ」

 詩は海より深いため息を吐いて、そう言った。

 良いこと言いそうな雰囲気醸し出してたのに、やっぱりド変態はド変態だった。

「ボク、最近、野球ボールより、ア○ルボールに興味あるんだ」

「知らねえよ」

「どう? うーちゃんも興味ない?」

「ねえよ」

「うーちゃん、ア○ニーしないの?」

「しねえよ」

詩は即答して答えると、軟式ボールとレジャー用のグローブを手に取った。

「じゃあ、キャッチボールでもしましょうよ」

 詩がそう言うと、ひなたと萌子もグローブを左手に嵌め「やるっ!」「やりた~い」と声を上げた。

こうして4人は、まずキャッチボールを行うことにした。


等間隔に10メートル程度離れて、四角形をつくる。

 まずひなたがボールを持った。

ひなたは、グローブをクイクイと動かし、萌子をキャッチャー座りさせると、ニヤッと笑いながら大きく振りかぶる。そして、

「くらえっ。ファイアブリザードっ!」

 と大きな声で叫びながら、典型的な女の子投げで、萌子に向かってボールを投げた。

「いや、それ超次元サッカー」

ボールは詩のツッコミを無視して、山なりののんびりした軌道で、ぽすっと萌子のグローブに収まった。

「ストラアアアァァァイッッッッ!」

 萌子が右拳を正拳突きするように突き出し、馬鹿みたいに甲高い声でストライクコールする。

「うるさっ。クセつよ審判やめてください」

詩は顔を顰めながらツッコんだ。

 次は萌子が、つばさに向かって投げる。萌子は、キャッチャー座りをやめて立ち上がると、ボールを指に挟み、思いっきり腕を振った。

「行くばいっ。千賀直伝、おばけフォーク」

 ボールはすぐに地面にたたきつけられ、ポンポンとバウンドすると、ほとんどゴロでつばさのもとに向かって行った。

 どうやら野球好きの萌子は、野球の知識があるだけで、べつに野球がうまいわけではないら

しい。……でも、そうゆうシロウトに限って、野球観戦のときヤジがうるさい。

 次につばさが、詩に向かって投げる。

「うーちゃん、いくよー」

「本気で投げても大丈夫ですよ」

 詩がそう言うと、つばさは「ふふっ」と笑い真剣な表情になった。

「よーし。じゃあ、少しだけ力入れて投げるね」

足を上げ、綺麗なフォームでボールが繰り出される。パァーンッ! っとボールはまっすぐ一直線に詩のグローブに収まった。

「さすがにおもちゃ用のグローブじゃ、手が痛いですね」

 こともなげにつばさの速球を取った詩はクールにそう言った。

「すごっ。お前、野球やってたん?」

 興奮した様子でひなたが言う。

「いや、やったことないですよ」

 詩はクールな表情で言葉を返した。

「素人でよくあんな球とれんなあ」

「まあ、ボールは友達なんで」

「……ボールは友達? なに言ってんの? お前、ヤバい薬でもキメてんの?」

「とりあえず翼くんに謝ってください」

 詩は小さく肩をすくめると、

「ほら、部長」

そう言って、ひなたに向かって軽くボールを投げた。

「わわわわっ! こっちが準備する前にボール投げんなよっ」

 ひなたは慌ててグローブを構える。詩が投げたボールは、山なりのスローボールだったのだが、ひなたのグローブは間に合わず、彼女の頭にクリーンヒットした。

「いたぁぁぁぁぁいっ! あーん。うえぇぇーーん」

 ひなたは頭を抑えながらうずくまり、子供のように泣き出した。

 すぐに3人は、ひなたのもとに駆け寄る。

「ごめんなさい、部長。部長が、まさかそこまで運動神経が無いとは思わなくて……」

 詩が心配した口調でそう言うと、ひなたは自分の頭をさすりながら声を荒げた。

「うっさいっ! 神経腐ってるお前に言われたくねえよッ! ああ、もおっ。おバカっ!

……もうキャッチボールはやめるッ!」

ということで、残念ながら、キャッチボールはたったの一周で終わることになった。


「よし、バトミントンやんぞっ!」

 例のごとく、すぐに機嫌を直したひなたは、ラケットとシャトルを持って満面な笑みでそう言った。

「本当、機嫌直るの早いですね」

 詩が呆れた様子で、ボソッと呟く。

「まあ、それがひなたのいいとこでもあるから」

「そうやねぇ」

 それにつばさと萌子が苦笑いを浮かべながら頷いた。

「はやくやんぞっ! うちの波動級は百八式まであるからなっ!」

「いや、それ超次元テニス」

「え? 今、ペ○スって言った?」

「言ってねえよ」

「うふふ。まだまだだねぇ~」

「なにがだよ」


 バトミントンは詩が全勝し、ひなたが全敗するという結果となり、それで案の定ひなたが「ぜんぜん勝てなくてつまんないっ。うぎゃぁぁぁぁ」と喚き出したので、バトミントンは終了し、みんなでお昼ごはんを食べることになった。

「おひっるごはんっ♪ おっひるごはんっ♪」

 さっきまでバトミントンで負けすぎて、膨れっ面になっていたひなただったが、お昼ご飯になると、また異常な早さで上機嫌になった。

(……この人の情緒、不安になるくらいやんばい。もうなんか怖いよ)

 詩がバトミントンの道具を片付けながらそんなことを考えていると、萌子から声がかかった。

「うたくーん! ごはん食べよぉ~」

「はーい。今行きます」

 昼ごはんは、萌子が作ってきてくれたお弁当。

 中身は、ハンバーグに、エビフライ、からあげ、オムレツ、旗付きのチキンライスのおむすびに、タコさんウィンナー、皮つきポテト、彩りサラダに、ナポリタン。完全に、お子様ランチ。すなわち、ひなたの好きな物ばっかりだった。

「うわわわわぁ~! 最強弁当じゃん! この弁当には、高級水売りシェフも、MAXキャッホーの黒い人も、絶対に勝てねえよっ!」

 目をキラキラ輝かせ、興奮した様子でひなたが言う。

もうひなたの両手には、スプーンとフォークがしっかりと握られていた。

「美味しそうですね。これ全部手作りですか?」

 詩が訊ねると、萌子が微笑みながら答える。

「そうばい~。今日は張り切って作ったんよぉ~」

「ありがとな!」

「ありがとうございます」

「ありがとー」

 3人が元気に礼を言うと、萌子は嬉しそうに「いいぇ~」と優しい笑みを浮かべた。

 全員分の取り皿、飲み物、プラスチックのフォークが配られると、みんなで仲良く手を合わせた。

「「「「いただきまぁ~すっ」」」」

 こうして、始まったお昼ごはん。外で食べるごはんは、子供の頃からいつだって非日常を味わえる特別なもの。ひなたはもう待ちきれない様子で、取り皿も使わずにフォークでからあげを刺すと、そのまま口に運んだ。

「んまぁ~。ヤミィ~」

 ひなたは目を細め、頬を蕩けさせた。

——ドゥルルルルル、ドゥンッ。

「これはもう星三つですぅっ!」

「部長、はしゃぎすぎですよ」

 前のめりで興奮したように叫ぶひなたに、詩は呆れた顔でそう言った。

 そんなふうに詩がひなたに苦言を呈していると、いつのまにか萌子が、詩の取り皿におかずを取り分けてくれていた。

「はい、うたくんもどうぞぉ~」

「ありがとうございます」

 詩はそれを受け取り、まずハンバーグから手をつける。

 デミグラスソースのかかったシンプルなハンバーグ。フォークで中を割ると、肉汁がぶわぁーっと溢れ出てきた。

(おお、時間が経ってるはずなのに、ぜんぜん肉がパサついてない。すごいな。まあそれでも、部長は大袈裟すぎだと思うけど。星三つなんて簡単にでるもんじゃない。そんな簡単に星三つがでるなら、海○雄山が黙ってないはずだ。……いやまあ僕、美味し○ぼ、ちゃんと読んだことないから、海原雄○がどんな人かは知らないけど)

 詩は、幼少期からほとんど毎日、お抱えの一流シェフの料理を食べ続けている。そのため、彼の舌は、そこらへんにいるエセ美食家よりは、はるかに肥えていた。彼は簡単に「味のIT革命や~!」なんて絶対に言わないのだ。絶対に。

 なぜか詩は、勝ち誇った笑みを浮かべながら、ゆっくりとハンバーグを口に運んだ。

 肉肉しいハンバーグ。たぶんだが、お肉は、合いびき肉ではなく、牛肉100パーセント。牛肉のうまみを存分に感じられるのに、全く肉の臭みを感じない。そして、この究極に近いデミグラスソース。ソースの酸味と、玉ねぎとバターの甘みと、ワインのコクと苦みが、最大限に感じられ、口の中でハーモニーを奏でている。

「んー。美味しい。これはもう、味のIT革命や~」

「うーちゃん、彦摩呂さんになってるよ」

「あ。」

 ……てへ。思わず出ちゃった。

「あと、口にデミついてるよ。拭いてあげよーか?」

 つばさが、からかうような口調で言ってきた。

「自分で拭けます」

 詩はぶっきらぼうにそう返すと、少しだけ耳を紅くしながらウエットティッシュで上品に口元を拭う。

 そして、クールな表情で、唐突にパンパンっと手を叩いた。

「すまない、シェフを呼んでくれ」

「は~い。わたしが、シェフです」

「君がシェフか。いい腕だ。君の料理は、間違いなく星三つ。素敵な時間をありがとう」

「お前もだいぶ、はしゃぎすぎだろ」

 エセ美食家ぶる詩に、ひなたは呆れた顔でそう言った。



——黄昏時。

燦々と輝いていた太陽もゆっくりと姿を隠し、若々しかった青い空も、成熟したように黄金

色に染まっていた。

「だいぶ遊びましたね」

 詩がレジャーシートを小さく畳みながら何気なく言う。

「そうやねぇ~」

 それに萌子が、ごみをまとめながら頷いた。

 お昼ご飯を食べた後もたくさん遊んだ。真剣にセパタクローをしたり、犬役をしたいといったつばさに何度もフリスビーを投げたり、みんなで白鳥ボートに乗ってワ○ピースを探したり、遊具で色鬼をやったり。童心に返ったように全力で遊んだ。

(……考えてみれば、こんなふうに遊んだのは、母さんが死んでからは初めてかもな)

ヒューと冷たい風が吹く。黄昏時の少し肌寒い風を感じながら詩が物思いに沈んでいると、さっきまで電話をしていたひなたから声がかかる。

「おーい、後輩。みつにぃがここまで車で迎え来てくれるんだけど、お前も乗ってくだろ?」

 詩は首を左右に振った。

「いや、大丈夫です」

「なんでだよ。遠慮すんなって。たぶん帰り道に、みつにぃから夜飯おごってもらえんぞ」

 ひなたがそう言うも、詩は微笑み、再度首を振る。

「いえ。僕は、家の者に迎えを呼んだので大丈夫です」 

「なんだ家の者って? 母ちゃん?」

 首を傾げながら訊ねるひなたに、詩は苦笑して答えた。

「いや、執事です」

「ひ、ひつじ? どゆこと? なんで急にメルヘン?」

「いや、羊じゃなくて、執事です」

「はっ⁉ お前んち執事いんのっ⁉」

「はい。いますよ」

「え、なに。お前、実はメイちゃんだったの? それともシエルだったのっ?」

「いや、ただの金持ちです」

 詩がそう言うと、ひなたは顔をしかめた。

「うざっ!」

「あと、ついでにめっちゃ天才です」

「うざっ!」

「あと、運動神経もめっちゃいいです」

「さらにうざっ!」

「あと、芸術方面にも恵まれてます」

「もう、うざっ超えて、UZA!」

「そして、人にもめっちゃ恵まれています」

「……うざ?」

 ひなたは首を傾げる。

 それに詩は「ふっ」と声を漏らすと、双眸を細め、にぃーっと笑って言葉を続けた。


「今日はありがとうございました、部長。部長たちのおかげでめちゃくちゃ楽しかったです。……いや、正直毎日が楽しいです。ありがとうございますっ」


 その笑みは、純粋で綺麗な笑みだった。

 まるで、小さな子供みたいな笑みだった。

「きききき急にどうしたんだよっ!」

 そんな笑みを向けられたひなたは、顔を真っ赤に染め慌てふためく。

 詩はそれにクスッと笑った。

「部長、動揺しすぎてスクラッチみたいになってますよ」

「うっせえわっ!」

「あなたが思うより?」

「健康ですッ! ——ってだから誰もAd○やってねんだよッ!」

 声を荒げるひなた。

そんなひなたに、詩は「ふふっ」と笑うと、表情をいつものクールなものに戻し、言葉を続ける。

「すみません。ただ『毎日が楽しい』ってことを言葉にして伝えたかったんです。……自分のためにも」

「……自分のためにも?」

「はい。初めて自分で選んだ道は間違いじゃなかったんだって、心から思えるように」

「……そっか。よくわかんねーけど、楽しかったならよかったなっ!」

「はいっ」

 詩は元気に頷いた。


「そうだ。最後にみんなで記念写真とろーよっ」

詩の言葉を傍から聞いていたつばさが笑顔で提案する。

「よかねぇ。撮ろう、撮ろう~」

 それに優しく微笑みながら萌子が頷く。

「いいな、それっ! もちろん、真ん中はうちなッ!」

 元気にひなたもそう続けた。

程よい高さの遊具を見つけると、そこにひなたのスマホを置き、レンズをこちらに向ける。

 10カウントのセルフタイマーが動き出した。

「準備できました」

「よし、走れっ!」

「うたくん、ダッシュ~」

「ほら、うーちゃん真ん中に!」

詩は全力で走り、みんなと一緒に並んだ。 

「じゃあ、うちたちっぽいポーズでとるかっ」

「なんですか、うちたちっぽいポーズって」

「そんなの決まってんだろっ!」

「いや、なにも決まってないですよ」


「ほらいくぞっ! せーのっ」


——パシャッ。



 夜の道をゆっくりと走る、ロールスロイス。

 詩は、ゆらゆら揺れてる街灯の影を眺めていた。

——ピンコーンッ! ピンコーンッ!

 通知が続けざまに鳴る。

 詩はスマホを取り出し、ラインを開いた。

 差出人は、ひなただった。

『おつかれい。今日の写真送ったからトプ画にでもしとけよ! んじゃ、また明日部活でな!』

 その文章とともに送られてきた1枚の写真。

「ふっ」

 詩は思わず笑みを漏らした。

「どうかなさいましたか?」

車を運転しているソフィアが、バックミラー越しにこちらを見ながら訊ねてくる。

「いや、べつに。なんでもないよ」

 詩はクールな表情でそう答えると、再びスマホに目を落とした。

 写真を保存し、アルバムのお気に入りにいれるためハートマークを押す。そして、ひなたとのトーク画面に戻り、スタンプを押そうとすると——

「詩様、今日は本当に楽しかったのですね」

ふとソフィアが言った。

「ん? なんで?」

 スマホの手が止まる。

詩は顔を上げ、なぜソフィアがそう思ったのか分からずに、首を傾げながら訊ねる。

 ソフィアは「ふふっ」と笑って、言葉を続けた。

「お優しい顔をされていましたので」

「……なにさ、優しい顔って。僕、変な顔してた?」

 詩がぶっきらぼうな口調でそう言うと、ソフィアは微笑みながら首を左右に振った。

「いえ。とても素敵なお顔です。日本に来てからの詩様は、よくその表情をされていますよ」

「え?」

 ……そうなんだ。……気づかなかった。

「私は、詩様の新たな一面が見れてとても幸せでございます」

「そっか」 

 詩はなんだか気恥ずかしくて、素っ気なくそう返した。

「詩様。今の生活は楽しいですか?」

 ソフィアが優しい笑みを浮かべながら訊ねる。

 詩は「んー」と逡巡して、

「まあ、悪くないよ」

 と肩をすくめながら答えた。

「ふふっ。よかったですね、詩様」


 夜の道を走って行く。

 ふと窓から、空を見上げると、今宵も月がきらきらと輝いていた。


青春というと、みんな熱いドラマを期待する。

のんびりして、くだらない日常。それはきっと退屈だろう。

でもそんな退屈から、見つかることだって沢山ある。

だから意外と、そんなどうしようもない日常を送るのも悪くはない。


——シュッポ。

詩は、ひなたにラインを返した.。


『Let's hang out again.【また遊びましょう!】』



部活週報.「4月」

                       ボランティア部(仮) 部長 明里ひなた


【4月1週目】

 なんか新入部員が入ってきた。しかも男。また、うちたち目当てのイタイやつかと思ったんだけど、どうやらそうじゃないらしい。

なんか変なやつ。

まあ、悪いやつじゃなさそうなので入れてやることにした。

……ちょうど、後輩欲しかったし。


【4月2周目】

 後輩のキャラが実は濃いことが発覚した。なんとやつは、帰国子女で、ハーバード卒で、義妹がいるらしい。キャラ濃いなっ! ペヤングかッ! あいつほんっと、いろいろやんばい。

……でも、一番やんばいのは、もうすっかりうちたちに馴染んでいることだ。

なんかまるでずっと昔から一緒に遊んでいるみたいな感じ。へんなのー。

  

【4月3週目】

 萌子がラーメン屋でブチギレた。はあ、あいつはまったく。

まさか後輩の前でも、ああなるとは思ってなかった。あの後輩もさすがにびっくりしてたぞ。

 まあ、次の日には、後輩、そんな萌子をめっちゃイジってたけど。


【4月4週目】

 最近、みんなでいっぱい遊んで、めっちゃ楽しいっ。

 トランプしたり、ワードウルフやったり、裁判ごっこしたり。

 うち後輩のことなめてた。あいつ、めっちゃオモロいし、めっちゃノリいい。まぢでウケる。

なんだかんだ、つばさも萌子もめっちゃ気に入ってるしな。あいつら前に、男には今んとこ全然興味ないって言ってたクセに。

 もしかしたら、後輩はそこらへんの男とはひと味違うのかもしれない。まあ、あくまでひと味だけどな。パクチーみたいなもんだ。


【4月5週目】


 ピクニックさいこうっ!

                           

エピローグ.「サ○エさん風次回予告」


さぁ~て! 次回のヒナタさんは~?


ヒナタです。

きのう、いつにぃの部屋で、赤色のおしゃれなタンブラーを見つけました。うちはそれを可愛くて気に入り、いつにぃに頂戴と言ったのですが、なぜかいつにぃは顔を真っ赤にしながら泣きだし、「これだけはあげられないよ~」と言ってきました。そんなにTE○GAというブランドは高級なのでしょうか。


 さて次回は、

『詩、ローランドに憧れる』

『つばさ、エロサイトのポップアップ広告にブチギレ』

『ヤムチャ死す! おそるべしサイバイマン』

 の3本です。


 次もまた見てくださいねっ! 

 じゃんけん、ぽんっ! アハハハハハハッ!




ガガガを余裕で落ちたやつ

これ書いてた時、どうかしてた


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