夏がくると思い出す
*この作品は習作のために書いたものです。深い意味はないので軽い気持ちでお読みください。
押し入れの奥で眠るアイツを気にかけ始めたのは仕事から帰ってすぐのことであった。
6月に入ったばかりだというのに梅雨の梅の文字も無い程に連日の暑さに私は我慢ならなかった。
地球温暖化がどうとかエルニーニョ現象の影響で今年は暑いなど私にとっては至極どうでもいいことであった。
とにかく暑い。来ているシャツが汗のシミが明確に分かるぐらいに濡れ、額には汗が浮かぶ。
田舎でこの暑さなのだから都会や群馬県あたりの人たちはどのように生活をしているのだろうか。
冷蔵庫に冷やしてあったお茶をお腹を壊すように少しずつ飲みながら、下着だけになる。
テレビをつけ適当にチャンネルを変えながら、スマフォをいじる。
今日の晩飯は冷凍の炒飯で済まそう、忘れないうちに洗濯物を取り込もう。
あれこれやる内に気づけば19時を周り、一日の汚れを落とすべくシャワーを浴びる私はふとアイツを再び思い出す。風呂からあがり、髪を拭きながら素っ裸のまま押入れを開けた。
幾つかの家電製品が置かれ、それらは随分と余裕がある置かれ方をしていた。
私はあまり物を買わない主義でそのため、押入れを十分に活用できないでいたが、ごった返すくらいならと思いこのままの状態を保っていた。
手前は部屋の電灯で分かるのだが、奥のほうは完全に暗く何も見えない。
懐中電灯は常備してないのでスマフォの電灯機能を使って照らしてやると、すぐにアイツを見つけることができた。
右隅の方で半透明の大きなビニール袋に頭を完全に隠され首を垂れて佇む姿はどこか哀愁感を漂わせる。
手を伸ばしてアイボリー色の首を掴み手前に引くと素直に応じてくれる。
押し入れの棚から降ろす前にビニール袋を取ってやる。
埃やゴミの類は見当たらず、そのまま使っても問題はなさそうである。
「でも一応洗おうかな」
私は前ガードを外し、羽根を止めるボタンのような部品をひねった。
少々硬くなっていたため苦戦してしまったが、それも無事とれたところで羽根が本体側の鉄芯からすっぽりと抜け、改めてどこか傷や割れが生じていないか確認する。
すると、一枚の羽根に製造年度が書かれており、それによると今年で3年目にあたる。
型落ち品なので実際使用するのは2年目なのだが寿命はどのくらいなのだろうか。
浮かんだ疑問を調べるべくスマフォを取り出したが、熱を帯びた風呂あがりの体は冷たさを欲して汗をかかせる。
私は何のためにアイツを出したのか思い出し、急いで羽根を風呂場のシャワーで洗い流すと元通りに取り付けた。
念のためにコンセントもティッシュで軽くふきとってから差し込み、準備は完了した。
私は畏まってアイツの目の前に座り、ゆっくりと"強"と書かれたボタンを押す。
途端に羽根が回り始め、私の火照った体に風が叩きつけられる。
「ああ、涼しい」
再び夏がくる。
今年も存分に働いて欲しい。
お読みいただき、ありがとうございました。




