8 食い意地のはったヒロシ
俺は心強い姉妹と共にいま森の中を散策している。
レイラのいった通り、森のなかには果物などが実っていた。ヒロシは実っていた木の実や果物をリュックに入れていく。
見る人から見ればヒロシがにやけながら果物を詰めている姿は、まるで盗みに入っている泥棒のように見えるだろう
ヒロシは気にせず詰めていく。一心不乱なその様を見て、美人姉妹はあの子大変だったのね。とこそこそ話ながら遠くから暖かい目で見ていた。
ある程度時間が経つとヒロシは落ち着いたのかパンパンに膨れたリュックによりかかり、取れた果物をモグモグ食べていた。
レイラがヒロシに声をかける。
「ヒロシ君もう行くわよ。日が暮れると魔物の動きも活発になるわ。はやく帰りましょう!」
エラが持っていた身の丈ほどのかごも果物や木の実で溢れていた。
「わふぁりましたぁぁ」
ヒロシは頬にパンパンにつめて返事をする。
「行儀が悪い」
レイラがぴしゃりと叱る。叱られることに慣れないヒロシは顔を真っ青にして口の中の食べ物を必死に飲み込んでむせた。
エラは物珍しい生き物を見たような目でじっと彼を見ていた。ヒロシは我に返り無性に恥ずかしくなったのだった。
帰る途中でヒロシは魔物について話を聞いた。
魔物や魔獣においては夜になると活発となり、一番力が強くなるときが満月の夜で月の光を力として、普段の夜よりも強くなるらしい。
またレイラはこの間助けてくれたときにピンク色の魔物を倒してくれたが、通常灰色や黒が主流で、希に多彩な魔物が生まれる。その魔物は通常の魔物よりも強く狂暴だとか。手練れのハンターですら命を落とすことがあるという。
ヒロシは話を聞きながら冷や汗を書いていた。
ーレイラさんが来なかったら首と胴体がおさらばしてたな。
ヒロシはレイラさんを敬うことに決めた。
森は気が生い茂り日光が直接入ってこないところがよくある。
そのため日が落ちてきてることに三人は気がつかなかった。
先頭を歩いていたレイラが手のひらを後ろにだし、止まるように指示をだす。
二人は素直に従った。
なんとも言えない無言の時間がつづき、レイラを見ると聞き耳をたてているようであった。
森は静まりかえる。
ヒロシもレイラの真似をして聞き耳をたててみる。
「ぐぉぉぉおぉ」
近くから大きな声で鳴き声が聞こえた。
ヒロシは今まで聞いたことのない声に恐怖した。
エラもヒロシと同様に震えている。
森がガサガサと激しくゆれる。
ヒロシたちは岩場の影に逃げ込み息を殺した。
レイラをみると口元に指をあてシーっと指示をだす。
ガサガサと音は大きくなり、さっきまでいたところになにかがいるようだった。
ヒロシは岩場の影からそっと覗きこんだ。そこには紫色色のなにかが動いている。
顔はわからないが、魔物や魔獣の類いであることは容易に想像ついた。
全長まではわからないが、とにかく大きく、しこたま成長した熊よりもひとまわり大きいくらいだ。
歩く度に大地が揺れていた。
ヒロシは一目みて冷や汗を滴ながらそっともとの位置にもどった。
レイラとヒロシの間に挟まれているエラはずっと下を向いたまま震えている。
当たり前の反応だ、エラが今回ついてきたのが初めてだと果物を食べているとき聞いた。
もともと幼い頃から病弱だったエラはいつも凛としている姉に憧れていたそつだ。
レイラは剣も強く、エラがそんな姉に憧れるのは容易だった。いや必然だったのかも知れない。
姉と一緒に仕事がしたいと思うようになり、目標ができたことで精神的な部分が良くなっていったせいか、病弱だった身体も剣の稽古が出来るくらいまで回復していった。
だがエラには剣の才能はなかったのである。
くる日もくる日も剣を振り続けても、レイラのような才覚はなかった。
それでも諦めずに努力してレイラの仕事の手伝いを今回認めてくれた。
ヒロシはエラのことを勘違いしていた。
果物が実っている場所に向かう道中、魔物が何体か現れた。ヒロシが倒し慣れてきたゼリー状のアイツである。
エラは剣をかまえ切りかかったが逆に捕らえられアイツの養分として食べられるところだった。
知らないうちにヒロシはエラよりも自分は強いと認識していた。
だが、果物をとっているときにエラの話をきいて、自分がどうしようもなく恥ずかしくなった。
それは魔獣を倒した経験からくる慢心。
本当に強いのは才能がないとわかっていても諦めないエラだったことに気づいた。
それと同時にもっと強くならないとという意志。
いま紫色の魔獣は地響きをならしながら遠くに去っていく。
タイミングを見計らって、静かに森を抜けた。
幸い紫色の巨大な怪物が荒らしてくれたお陰か、他の魔物には遭遇しなかった。
ヒロシは自分の家(小屋)についた。
レイラたちには朝になるまでいればいいと提案したが、森の入り口も近いので、今日は帰るわと颯爽と帰ってしまった。
「無事に帰れればいいなぁ」
また1人になったヒロシはボソッと呟いた。ずっと2人と行動していた分、より寂しい気持ちに襲われる。
「クラスの人ともこんな風に普通に喋れたらよかったのにな…」
緊張の糸がほぐれたのか、倒れこむように布団にダイブして、その日は眠った。