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3 連れて行かれたヒロシ


「あら、起きた?」


 朝日の眩しさで目を覚ますと、そこには正真正銘の美女がいた。


 ブロンドの流れるような長い髪に、青い瞳。


 なんて贅沢な目覚めなんだ。女神がいる。


 俺は知らない家のベッドで寝ていたようだった。


 彼女はちょうど、俺の額に乗せていたタオルを変えてくれるところだったらしい。まだ少し寝ぼけたような俺の横でタオルをとって、手で熱を測った。


「うん、大丈夫そうね」


 あなたは倒れてから熱を出して、もう何時間も意識がなかったのよ、と女神は言った。


「あの子供は?」


「あの子は大丈夫よ、 わたしの弟なの。 一人では森に行かないでって言ってたのに、 好奇心に

負けたみたい…。 助けてくれて、本当にありがとう」


 開いた扉から、助けた子供がひょこりと顔を出した。


「お兄ちゃん! 起きたんだね!」


「お前...…」


 元気そうな様子に、胸が安堵でいっぱいになる。


「俺は、ピコ! お姉ちゃんはアンナ。 お兄ちゃん突然倒れたからさ、慌てて義兄さんを呼んで家に連れてきたんだよ。 目が覚めてよかった」


 ピコとアンナが俺が目覚めたことを喜んでくれている空気の中、さらに人の声が増えた。


「お、目が覚めたか」


 そう言って顔を出したのは、180cmを超えるだろう高身長に、余計な肉が一切ない引き締まった体躯。

 ジーンズに白いTシャツを合わせただけのどシンプルな組み合わせを、モデルのように着こなすイケメン。


「義兄のラウドだよ! 姉ちゃんの旦那!」


 ああ〜、俺の女神~・・・


 ほんの少しだけ気落ちした空気を隠したくて、ありったけに笑顔を作って、お礼を伝えた。


「無事でよかった。 こいつはほんと無鉄砲なところがあって、手を焼いてるんだ。 ピコを助けてくれてありがとな」


 ラウドは人の好さそうな笑みを浮かべていた。


「いや、なんでもないんです。 助けられて良かったです」


「何かお礼をさせて貰えたら良いんだが…。 君の名前は、珍しいが、……初心者 ヒロシ君、なのかい?」


 ラウドの沢山の気遣いが込められたその言葉


「初心者 ヒロシ君…?」


 なんていう名前なんだ。

 胸元を見ると、【クソ】という酷い称号から【ヒロシ瀕死】へと名称を変えた名札は元の【初心者ヒロシ】に戻っていた。


「あの、ヒロシです。 田中 ヒロシです。」


「なるほど! ヒロシ君は、なんであんな所にそんな姿でいたんだい?」


「それはいろいろとありまして、 あそこでキャンプをしていたんです.....」


 俺はちょっと無理やりかなぁと思いつつも誤魔化しながら答えた。


 ラウドが言う。


「あの森は魔獣が出るから危険なんだ、 普段は誰も近づこうとはしないんだよ。 ここはブローディアの街の外れにある、俺たちの家さ!」


「ところでヒロシ君は家族はいるのかな?」


 ラウドさんは怪我を心配しながらそう言ってくれた。


「そうですね、すこし遠くに家族はいます。 今はひとりです。」


 そうだ、今はひとりぼっちだ。知ってるひとはギルしかいない。


 知らない場所で、魔獣に遭遇した。


 すごく、怖かった。


 改めて実感したら、目頭がまた熱くなってきた。ダムが決壊したかのように、涙が溢れてくる。

 

 頭の中では、初めて死を感じたことや元の世界の親の顔がよぎった。


「ヒロシ君さえ良ければ好きにここにいるといい、 君は私達の大事な家族を守ってくれた」


 ラウドさんから優しく暖かい言葉をかけてくれた。俺は幼い子供に戻ったかのようにただただ涙を流すだけだった。


 暖かいスープをもらい、すこし落ち着いた頃、コンッコンッとノックの音が聞こえてきた。


 アンナさんが扉に向かいながら言う。


「誰かしら? お客さんなんて珍しい。」


 ギィーと音をたてて扉をあけた。


 そこには黒いスーツを身にまとった男の姿が。


 その男がアンナさんに話しかける。


「夜分遅くに失礼する。 うちのヒロシがお世話になった」


 礼儀正しくお礼をいうその姿。俺を連れてきた死神ギルだった。


「あらっ、 ヒロシ君のお知り合いの方かしら?」


 アンナさんはおっとりとした雰囲気でギルに尋ねた。

 

「そうだ。 遠縁にあたる親戚で、 こちらにお世話になっていると風の噂で聞いて来た。」


 風の噂早すぎだろ。 口に出したらギルが何をしてくるかわからなかったので黙って様子を見守る。


「怪我の手当てと食事までいただき感謝する」


 ギルは頭を深々と下げてお礼を言った。そして頭をあげてギルは言葉を続ける。


「これ以上迷惑をかける訳にはいかない、 ヒロシの治療は家で行おう」


 あの毒舌の死神様はどこにいったのだろう。そこにいるのは爽やかなイケメンであった。


 俺がキョトンとしていると、ギルと目が合い話かけてきた。


「さぁヒロシ帰ろうか家へ、 荷物を持て。」


 ギルは爽やかに微笑みながら右手を差し出してきた。


 怖い 怖すぎる


 ラウドは慌てて止めてくれた。


「せめて、朝になるまで待ってはどうだ? 夜道は危険だ」


「ここらへんの魔獣であれば大丈夫だ。 あんな獣に負けはしない、安心してくれ」


 落ち着いたギルの言葉にラウドさんは、わかったと納得した。


「さあヒロシ君、行こうか」


 ギルの目に、抵抗したら殺すの文字が見える。俺は諦めて軋む身体を起こして、荷物と刀を握りしめた。


 扉の方に歩きラウド一家にお礼を伝える。


「お世話になり、ありがとうございました」


 ラウドさん達はまたいつでも遊びにおいでと言ってくれた。


 後ろ髪を引っ張られる思いで扉をしめ、ギルのあとに続いて歩く。辺りは真っ暗だったが死神の力なのかギルの姿は明るいのでただ着いていけばよかった。

 

 しばらく無言で歩いたあと、ギルが話しかけてきた。


「まさか初日で死にかけるとはな、予想外だ……! 面白すぎるぞお前!」


 ギルは吹き出しながら言う。先ほどの好青年はもうどこにもいない。


「いや笑えないわ、まじで魔獣に殺される所だからね? ホントに死ぬと思ったんだから」


 げらげら笑っている。


「というか見てたの? 見てたなら助けてよ!」


 俺はマシンガンの如く言葉を紡ぐ。


「助けたら修業にならないだろ。 お前は馬鹿なのか、 頭に綿でもつまっているのか?」


 辛辣な言葉が返ってきた。


「もういいです。 スイマセンデシタ」


 もうなにも言うまい!


「それで、 これからどこにいくの?」


 ギルは無表情な顔からニヤッと笑い、質問に答えた。


「森だ。 まだ六日は残っているだろう? 修業の続きだ!」


 俺は心底嫌な表情を浮かべてみるが、それを無視してギルは話を続けた。


「だが今回死にかけたからな。 特別に山小屋を見つけてきた。 ほら死神を称え、敬え」


「最初から必要だったよ!」


 ギルは聞こえないふりをした。


「そこがお前のしばらくの拠点となる」


 俺はすかさずギルに言う。


「それってもうキャンプ関係ないよね? 完全に森に暮らしてるよねそれ?」


 ギルは俺のツッコミを華麗にスルーして、前方を指さして言った。


「着いたぞ。 ここがお前の家だ。 自給自足だからな、 頑張れよ」


 そしておもむろに真っ黒な衣服についていたらしいポケットを漁り、乾いた草を手渡した。


「このままだと死ぬからな。 薬草をやろう」


「ねえ、使いっ」

 

  かたー・・・


 俺の言葉を最後まで聞かずにギルは姿を消した。


 手には飲み方のわからない薬草。前には木でできたログハウス。どうしろというのだ。あの死神様は.....


 俺は盛大に途方に暮れた。


 そしてひとしきり茫然とした後、気合を入れてまずはログハウス内を確認することにした。


 ログハウスは四畳ほどの大きさで何もなかった。気合を入れて確認するまでもなかった。


 トイレはログハウスの横にバイオトイレが設置されていた。

ベッドとかキッチンとかそんなものは無かった。都会のもやしっ子にはきつい現実だった。


 俺…魔導書をポチっただけなのにどうして……


 魔法の魔の字も出てないよ…………


 塗るか飲むか迷った薬草をとりあえず塗ってみた。


 傷に染みて悶絶しているうちに力尽きて気絶した。






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