2 泣き虫のヒロシ
魔物に相手にされなかった屈辱とぶり返した過去の辛い記憶とで俺はしばらく泣き続け、泣き止んだ後も頭がぼうっとして動けないでいた。
そうすると森の中からはいろんな声が聞こえる。鳥の声、風に揺れる草木の音、どこかに流れる小川の音。
しばらくすると遠くから、子供の泣き声が聞こえてきた。声の大きさなどからそんなに遠くなさそうだ。
俺にはなにも出来ない....
こんな泣き虫に人を助けれるとは思えない。聞こえないフリを決めた。
けれど続けて魔物の鳴き声と子供の叫び声が聞こえた。
ーーそれでいいのか
俺はボロボロの身体を起こした。なにが出来るかはわからない。
あのクソ怪物の目線、俺のことを白い目でみたクラスメートと教師、やっぱり許せない。
そしてこんな弱虫な俺がなにより許せない!
ギルからもらった刀を手に取って、声の方に走り出した。
正直、怖くて仕方ない。
でも見捨てたら、自分が嫌いになる。
それは嫌だ!
刀を力強く握りしめ、前を向くと先ほどの魔物が子供を襲っていた。
「くそっ!」
自分のせいであの子が襲われてんじゃねーか!
幸いこっちには気づかれてない。
このまま気づかれずに行けば倒せる。
「さっきの傷が疼くぜ」
本当にこんなセリフが出てくるとは思わなかったわ。
気付かれないように近づきながら、刀を抜く。刀身が光り輝く。
ーーあいつを殺す!
一気に走り出し、勢いをつける。
気付くな!気付くなよ!
魔獣が今にも子供を襲おうとした瞬間、寸前のところでこちらを向いた。
だがもう遅い!
「クソがっ! 死ね!!」
あいつは身体をひねり、急所を外した。
だが身体にささりダメージは与えたはず、あいつも紫の血が流れている。
大丈夫だ!勝てる。
あいつも唸りながら近づいてくる。
来いよ。クソ魔獣が。
魔獣のしっぽが消えたのが見えた。必死で俺は後ろに下がって避けた。
一撃食らえば死んでしまうかも知れない。
俺に後はない!
しっぽを避けたときに、魔獣がよろけたのが見えた。
俺はジャンプして、体重を刀にのせて頭に向かって降り下ろした。
頼む神でも死神でもなんでもいい、今だけ力をくれ。
ザシュッッ
紫の血が俺にかかる。
ゴトッッという音がして今まで魔獣の顔があった場所にはなにもなかった。
俺は放心状態となり膝から崩れ落ちた。その瞬間目から涙が溢れてきた。
「出来た...出来た..出来た…っ」
俺はなりふり構わずに泣いた。後ろから声が聞こえる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん大丈夫?」
さっき襲われていた子供だった。
「あぁ大丈夫だよ。無事で良かった!」
「お兄ちゃんでもその怪我だよ……」
俺はその子が指を指したところをみると、あいつのとげが身体に刺さって服が赤黒く染まっていた。
ふと目線が名札にいく。
"【ヒロシ瀕死】"
ーー語感とかどうでもいいわ!
「……せっかく倒したのにまじかよ.…...」
これはやべぇかなって思った瞬間、目の前が暗くなった。