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1 ひとりぼっちのヒロシ



「.....シ、..ロシ」


 遠くの方で声が聞こえた。誰かが俺を呼んでいる。


「ーーーヒロシ!」


「グフッッッ」


 お腹への強烈な衝撃で目が覚めた。


「ゴホッ…ゴホッ、ゴホッ」


「ヒロシ起きろ、着いたぞ」


 軽く虫の息になっている俺を見下ろす死神には当然の如く心配のしの字もない。

 

 仕方なく身体にむちを打ち、立ち上がる。


 死神は気にせずに言葉を続けた。


「ここがブローディアだ」


 そこにはただただ緑が広がっていた。


「……………」


 木と草に囲まれたここでどうしろというのですか。死神様は。


「あの……ブローディアって町じゃないんですか?」


 機嫌を損ねないように恐る恐る尋ねる。死神は俺の質問に面倒臭いという感情を隠しもせず重く口を開いた。


「ここは外れの森だ。 お前は異世界人で貧弱だ。 その状態で暮らしたら100%…いや120%死ぬだろ」


 なぜ増した。


「そんな自信満々に言わなくても....」


 死神は続けて話す。


「というわけでお前にはこの森で1週間一人で生き抜いてもらう。 あ、あと魔術も覚えろよ」


 魔術のマスターがメインみたいにいってたのにおまけみたいなつけ方。多分この死神、ガイド役にまったく向いてない。


「題して、 ヒロシ一人でデッドオアアライブだ」


 どこから出したかわからないフリップを掲げながら、どや顔で言われた。


 なにを言ってるのだろこの人、いやこの神は....。


「さっき言ってたけど死ぬんだよね。 それって死ねっていってるよね」


 死神はフリップを消して、今度はひとふりの刀を出した。


「俺は鬼畜じゃないからな、 武器と1日分の水と食料だけ用意してやろう」


「1週間たったあと迎えにくる。 それまで生き延びてみろ。生き延びるためには魔導書のマスターが必要になる。一石二鳥だろ」


 一石二鳥の使い方あってる?!


「ちょっと待って。 ムリだって、死ぬよ?」


「大丈夫だ!」


 絶対今じゃないだろ、という晴れやかな笑顔で宣言する。


「今のままじゃどっちにしろ死だ。 死ぬ気で生きてみろ。 仕返ししたいんだろ!」


 死神の目から伝わる本気。俺はなにも言わず強く頷いた。

死神は言葉を続ける。


「俺の名前はギルバート、ギルでいい。 あと忘れてたがこのネックレスをつけてろ、 お前がどこにいるかがわかる」


 ギルが渡してきたのは綺麗な青色のひし形のネックレス。


「わ、わかった!」


「じゃ俺は行く。 せいぜい生き延びろよ。 死んだらお前の命俺が刈ってやるから安心しろ!」


「それできないわー!!」


 って叫んでいる途中で消えやがった。


 静かな森に、一人きり。


 ふと我に返る。広い草原に一人。俺、ひとり。


 訳もわからず連れてきて、置き去りなんて、ありえなくない?


「しかも死神とか、意味不明」


 死神ってアレでしょう。鎌持ってて、命を狩るのではないの?急に一人になって、心許なさで足が震え始めた。


 置き去りにされたその場所で、座り込む。ちょうどメートルほどの巨大な木の根元でに隠れるように、小さくなった。


 1日分の水と、食料?


 この森の何も知らないのに?


 ひとりぼっちは、いつものことだけど……


 蹲ってひとしきり心細さで泣いた。涙も枯れた頃、いつまでもそうしてもいられないと思い、森の中をよろよろと歩き始めた。


 恐怖に打ちのめされた森も一度入って歩いてしまえば、そこまで怖くなかった。ヒロシは少しずつハイになって歌も口ずさむようになっていった。歌うはあの名曲。


「あるーひー ある~ひ」


「もりのな〜か〜 もりのなか」


「くまさーんーにー くまさーんに」


「でああった〜 でああた」


「はなさ、く」


 ん??


「も」


 え???


「り」


 え????


「の、み、ち…はっゥァッッッーー!!!!」



 居た!!!!!


 森のくまさん歌ったら、居た!!!!!!


 目の前にいるのは恐らく熊さんではない、だが、全長2メートルほどの紫色の獣が仁王立ちで、目の前にいる。全体がイボのようなトゲトゲに覆われている。


「クハッ」


 なんの構えもできず酷い衝撃が右頬に走った。


 痛すぎて例えられないが鉄棒に失敗して地面に立たきつけられたときのような痛みの何倍も何倍も痛い。


「うう………」


 はい。死にます。死にました。怖い。死にたーい。


 よろよろと辛うじて立ち上がったが俺はただただ泣いた。


 俯き涙で霞んだ視界にはたと【初心者ヒロシ】の名札が見える。


 ピロリとその名札ははためいて名前を変えた。


【クソ】


 と。


 ブフォッと魔獣は吹き出し突然戦意を無くして森の中へ消えて行った。


「………うそだろ……」


 命が助かった。なのに、ほっとは、しなかった。


 魔獣は名札が読めたのだ。


 一撃くらって泣きじゃくる【クソ】は、相手にする価値もなかった。そういうことなのだろう。


「なんだよ……っ」


 それは俺の大嫌いなクラスの連中と同じ態度だった。


 俺はクラスの誰からも相手にされていない今の日常を思い出してしまった。


 グループを組んでもらえないから先生が気を使って足りないグループへ連れて行ってくれる。


 休んでも誰もノートを見せてくれないから休めない。


 LIMEのクラスのグループに俺はいない。


 プリントを渡す時ものすごく端を掴んで距離を取って渡される。


 給食は誰も机をつけてくれない。


 テストの総合得点が1位でも、誰も触れない。


 中学校に入学して最初につまづいてから、二年生になった今でも引きずっている。


 俺は別の地域から中学入学のタイミングで引っ越してきたから誰も知り合いがいなかった。


 そしてある失敗をしてから、前髪を長くして、目を覆って、誰にも顔おみられないように何もみないように過ごしてきた。


 入学当初、周りは小学校からの持ち上がりが多く、すでにグループが出来上がっていた。


 人見知りな俺は、仲良くなるきっかけが掴めなかった。


 暇で心許ない時間を埋めようと詩を書いていた。


 その頃天使や悪魔の出る海外ドラマにハマっていたため、それらをキーワードに各授業の合間に授業用ノートに書き連ねていた。

 ある日それらを消すのを忘れて教師に課題提出のためにノートを出したところ、次の授業でその教師は俺の詩をとりあげて話題に取り合げ、「俺もこんな時代があったよ」と馬鹿にした。クラスのみんなは大いに笑った。


 そこから、もうダメだった。



 俺は魔物が去った後も、同じ場所で座り込んで、泣き続けた。






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