17 リンとヒロシ-(1)
偶然出会った少女はすぐに姿を消してしまった。
「少し話がしたかっただけなのに…」
ヒロシはしばらく悲しい表情をしていたか、気分を変えるために川でガシガシと顔を洗う。
「ふぅーー」
ヒロシはスッキリしたのか、深く息をし、背伸びをする。
すると、何かが聞こえる気がする。
「うん?」
耳をすます。森から悲鳴が聞こえてきた。
ヒロシは刀を持ち急いで悲鳴が上がったところに向かう。
走っていると獣の唸り声がする。
女の子の声もする。
ヒロシは刀を抜き、唸り声がするほうに向かった。
物音を立てないように草を掻き分ける。
そこには倒れてるさっきの女の子と、いまにも襲いかかりそうな灰色の獣。
狼のような見た目で二本脚で立っている。それはまるで狼男のようあった。
「…よし」
ヒロシは刀をかまえて、草むらを飛び出す。
そのままの勢いで狼男に走り出す。
狼男はとっくに気づいており、鋭い爪を構えた。
鋭く尖った爪を一撃でも喰らうと命はないかも知れない。
だがもう後には引けない。
ヒロシに緊張が走る。
間合いに入った瞬間に、相手の手が消える。
ヒロシはスライディングをし、間一髪避けた。
そのまま相手の死角に入り込み、刀を振るった。
狼男の腕があったところは血が吹き出て、そのままドサッと腕が落ちる。
狼男は声にもならない声をだして苦しみだした。
左腕で右側を抑えながら狼男は逃げ出した。
「良かった。逃げ出してくれた。あのままやってたら死んでたかも知れない…」
狼男が完全に立ち去ったことが確認できたとき、いつから息を止めていたのかヒロシはやっと息を吐くことができた。
「はあ…怖かったぁ…。それより女の子は大丈夫かな?」
ヒロシは女の子に近づく。
見たところ傷はないようだった。
「大丈夫ですか?生きてますか?」
ヒロシは女の子に話かけたが反応はなかった。
息はあるようで、上着を上からかけて、川から水を運ぶ。
バケツはないので布を濡らして運び。
女の子の顔の真上で絞り水をかける。
ワイルドな方法だが今のヒロシが考える限り最善の方法だった。
改めて顔を見ると整っており、そして耳が尖っている。
「これはゲームでみたな、確かエルフ族…」
ヒロシが考えてるうちに、女の子の意識が戻った。
「うっっ!!ここは?」
女の子はヒロシと目が合い、恐怖の表情を浮かべる。
「ひっ!!人間!」
後ろに退き、その行動をみてヒロシは分かりやすくへこむ。
「話したいだけなのに、そんなに嫌がらなくても…」
女の子は地面に落ちている獣の腕をみて、察した。
「あなたが助けてくれたのですか?」
「獣に襲われてたからね。見てみぬふりが出来なかっただけです」
「助けてくれたこと、ありがとうございます」
彼女はお礼をいってはいるが、恐怖からか緊張で張り詰めている。
「いいえ!それはいいんです。俺はヒロシといいます。それよりも俺のことが怖いですか?信じれるかわかりませんが危害を加える気はありません」
ヒロシはそう言って刀を地面におき、両手をあげる。
「なにも知らないのですか?昔から私たちエルフは人間に蔑まれて、差別されてきました」
「そうなんですか?すいません。ここに来たばかりでなにも知りませんでした」
ヒロシは自分が経験したイジメと重ねてしまい、心がギュッと締め付けられるような感覚におちいった。
「辛かったですね。怖がらせてしまってすいません」
ヒロシはそのまま頭をさげて謝る。
「いいえ!知らなかったなら仕方ないですし、ヒロシさんせいじゃありません」
「わたしの方こそ、助けていただいたのに失礼な態度をとってしまいすいません」
「私の名前はリンといいます。改めて助けてくれてありがとうございました」
そのころにはリンの表情に恐怖はなくなっていた。
リンから話を聞いたが、昔人間はエルフを含む各種族と争いをしていたらしい。
心の優しいエルフ族は人間を信じ、そして裏切られたという歴史があった。
俺はなにも知らなかった。
そして人間の汚い部分がこの世界でも見えてしまう。
どこの世界でも同じだと思った。
この話をしているリンはなんとも言えない複雑な表情をしていた。
俺はただただリンの話を聞いてるだけだった。