16 鼻歌を歌うヒロシ
また朝が来た。
昨日はなにごともなく家につき、めずらしく自分の意思で寝ることができた。
帰り際にレイラがテストと言って突然習熟度を測ってきたが、ビー玉サイズの可愛い火の玉は野球ボールサイズの頼もしいものに見事成長してくれた。
しかしそのせいで身体の魔素を持っていかれた。
レイラさんからあの物体Xの怪しい薬を薦められたが丁重にお断りした。
自分でもびっくりするくらいの腰の低さを見せた。
そのあまりレイラさんはすこし引いていた気がするが、命を大事にがモットーだと俺は思う。
「今日はふたりともいないのか。どうしようかな?」
1人だと自然とひとりごとが増える。
「とりあえず外に行ってみるか!なんかあるかもしれないしね」
ヒロシは軽く支度をすませ、取ってきた果物を頬張りながら扉をあけて外にでた。
○ ○ ○
「散歩は気持ちがいいなあ…」
都会では味わうことのできないような緑が生い茂る森に、朝の日差しが差していてとても気持ちがいい。
いつのまにかさっきまでのダルさは嘘のように無くなっていた。
ヒロシはとりあえず川に向かうことにした。
その道中にスライム以外の小型の魔物にもあったが、修行のお陰か、なんなく倒すことができた。
ヒロシは元の世界でひとの目を気にしていたせいか、動きを見ることに長けていた。
40時間弱ではあるが、レイラの攻撃を避けるトレーニングのようなものでヒロシの見る目が強化されたといっていい。
それはまさに偶然の産物ではあった。
ただ当の本人はまったくそのことに気付いていなかった。
ヒロシは鼻唄を歌いながら刀で草をかき分けて目的地に向かう。
進むにつれて水が流れる音が聞こえ、さっきよりも涼しくなってきた。
ヒロシは自然と歩みを早めた。
近づくにつれて水の音以外の音も聞こえる。
「なんだろ…」
ヒロシは慎重に近づくと、川から歌声が聞こえてくる。
綺麗な澄みきった歌声に、誘われるようにヒロシは近づいていく。
音をたてないように川に近づくと岩に誰かが座っている。
後ろ姿だがフワッとしたブロンド色の髪の毛が風になびいており、民族衣装の様な格好をしていた。
ヒロシは綺麗な歌声に気をとられて地面からパキッと音がする。
「あっっ」
「誰ですか??」
目の前の女の子は美しい整った顔立ちで、綺麗な青色の瞳。
ただ顔には恐怖の表情が浮かんでいた。
女の子はすぐに逃げ出す。
「ちょっと待って!なにもしないから!」
ヒロシの声は届かない。
女の子の姿は森のなかに消えていった。