15 鍛えられるヒロシ-(5)
[ヒロ...ヒロ.....シ]
呼ばれている声がする。
なんだろ懐かしいような、元の世界で聞いたことあるような声がする。どこだっけな。
[ヒロシ起きて!!]
「グフッッッッ」
声が明確に聞こえたと同時にお腹に衝撃が走った。
「ヒロシくんようやく起きたわね?寝てたら風邪引くわよ?」
拳から煙を出しながらレイラさんは優しくほほえみかける。
「たった今風邪引くどころじゃありませんでしたけどね!危うくあの世の扉ノックしてましたけど?」
レイラはヒロシの悲痛な訴えをあしらい、言葉を続けた。
「ヒロシくんは魔素切れで倒れたのよ?長時間の魔力の消費は身体に毒なのよ?1つ間違えると死ぬところだったわ」
ヒロシは自分の言葉がスルーされてることの不満をこらえた。
「それで身体がダルく感じたんですね。」
「そうよ!というわけで魔素が切れしまったときに回復する飲み物があるから私が用意したわ」
ヒロシは嫌な予感が止まらなかった。
レイラが用意したこともそうだが、レイラの遥か後ろで遠くからこっちを見ていることに気づいてしまったからだ。
にやにやもしていないし、にこにこもしていない。
まるでなにかに怯えているかのように....
レイラは入れ物から飲み物をとりだす。
「なんですかこの物体は?」
「魔素回復の飲み物よ!ぐいっと一気に飲みなさい!」
ヒロシは初めてみる紫色の物体に戸惑う。
なんでブクブクしてるんだろ?
たまに悲鳴みたいな声も聞こえる気がする。
パッケージがあったら確実にドクロマークがついてると思う。
「レイラさんこれなに入ってるんですか?なんでこの色なんですか?」
「企業秘密よ!!強いて言うなら身体にいい薬草等々よ!」
ヒロシは思う。
などなどの部分が一番しりたいんですけど!!
「わかりました!あとあと大事にいただきます!ありがとうございます!」
「ダメよ!いま飲むのよ?じゃないと死ぬわよ?」
笑ってはいるけどレイラの目は本気だった。
ヒロシは諦める。
「それでは遠慮なくいただきます」
コップを近づけると激臭がした。
確かに薬の臭いはするが、他にもなにか混ざっている。
「さぁぐいっと一気に飲んで!大丈夫よ?身体に良いものだから!」
ヒロシは息を止めて一気に飲み込む。
ひたすらまずい、いろいろな味覚が刺激され自然と涙が出てくる。しかも喉が熱くなる。
あぁこれはダメなやつだな。
見た目通りのやつだった。
ヒロシはなんとか飲み干した。
「よし!偉いわ!これで魔素を回復するはずよ!」
確かに身体は楽になり、ダルさもおさまった。
エラは近くで心配そうに見ている。
「さっそくだけどヒロシくんは魔法の維持の仕方を覚えたわ!今度は火の玉を大きくする練習よ?」
「まず火の玉を出してみて?」
レイラに言われた通りに火の玉をだす。
「いいわね!ゆっくりと火の玉を膨らましていくのよ。シャボン玉を膨らましていくイメージよ!」
「はい!やってみます。」
ヒロシが出した、火の玉がすこしずつ大きくなる。
ビー玉が野球ボールサイズくらいに成長していった。
「初めてにしては良くできたじゃない!ついでだから放出してみましょうか!」
「最初はボールを投げるイメージでやってみて!」
「そうね!あの岩に向かって投げてみましょう!おもいっきりが大事よ!」
「レイラさん?あそこにエラが寝てるような気がするんですけど?」
「大丈夫よ!頑丈だから!あの子ならいけるわ!」
レイラはいつも通りに話してるが目は笑っていなかった。
ヒロシは逆らうと怖いため言う通りにする。
「それではいきます。そりゃっ」
火の玉をボールを投げるかのように振りかぶりおもいっきり投げた。
火の玉は一直線で岩の方に向かっていき着弾したと同時に岩が爆発する。
遠くから小さくギャッと悲鳴が聞こえた気がするが気のせいであろう。
料理の件では見てみぬふりをしてくれたからこれくらいは許してくれるであろう。
レイラさんの方をみるとご満悦そうな表情をしている。
「よし上出来だわ!今日はこの辺にしときましょう。また魔素切れで倒れられるのもめんどくさ....心配だからね!」
レイラさんの心声を気にしながらも、精神的に疲れていたため帰り支度をする。
エラは軽く焼けた形跡はあったがほぼ無傷であった。
帰り道、明日は修行もないらしい。
この二人にも仕事があるとかで忙しいとのこと。
この二日間何度か死にかけたけど、誰も教えてくれないことを教えてくれた二人には感謝している。
今まで望んで教えをこうたことなんてあっただろうか。
ましてや人に感謝したことなんてあっただろうか。
俺は今まで人と向き合ったことはあっただろうか。
今まで色眼鏡でみられるのが怖くて人と接するのを避けてきた。
この世界に来てからいろんな人と出会い、優しさをもらってきた。
俺は軽い気持ちでこの世界にきたけど、このままでいいのかな?
ヒロシは心は未熟である。
だからこそ今まで経験したことがない気持ちに戸惑いを感じていた。
あと二日でギルから提示された期間がおわる。
その先になにが待っているかも彼はまだ知らない。