14 鍛えられるヒロシ-(4)
ヒロシの目の前にまるでピクニックのような光景が広がっている。
敷物の上にかわいらしいランチバックが乗り、レイラとエラはランチバックを囲むように座っている。
楽しい行楽に縁のなかったヒロシが何をしていいか分からずボーッと立って見ているとエラは早く来いと言わんばかりに隣をポンポン叩いた。
ヒロシは所在なくなくちょこんと座る。
ランチバックをレイラが開けた。
中にはサンドイッチやおかずなどが所狭しとぎゅうぎゅうに詰められていて、夢のような光景だ。
ただヒロシは一点だけに視線が吸い寄せられていた。
ひときわ目立つ黒いなにか。
申し訳なさそうに端っこにあるが存在感はそれでも隠れきれてないなにか。
エラはお皿を持ち、黒いそれをのせてヒロシに渡してくる。
ヒロシが目を合わせようとするとエラは視線をよけた。
そのまま言葉を紡ぐ。
「今日はおねぇちゃんと二人でお昼を作ったのよ。これはおねぇちゃんの自信作だから食べてみて!」
レイラを見ると目を輝かせ、期待に満ち溢れた誇らしげな表情をしている。
「ありがとう。ちなみにこれはなんて料理?」
「野生の猪と川魚をあえて強火で焼いたわ。味付けは企業秘密よ!」
それで生臭さと野生っぽい臭いがしてるのか!
ヒロシは納得したが食べられるかは別である。
ただレイラの顔をみると食べないと申し訳ない。
エラは顔をそむけ肩が小刻みに震えてる。
あれは笑ってるなとふつふつと込み上げるものがあるが我慢した。
「いただき、ます…」
ヒロシは渡されたフォークで恐る恐る黒いものを突き刺す。
レイラの爛々としたひしひしと視線を感じる。
口元に近づけると臭いが強いが、たまに甘い匂いもする。意外といけるかもしれない。
「…よし、」
大きく息を吸い込んだ。意を決して一口食べる。
鼻から抜ける獣と魚を追いかけるようにフルーツの甘味。
ヒロシは初めて食べ物に嫌悪感を抱いた。
噛むな飲み込めと頭でエマージェンシが鳴り響く。
レイラがにこにこしている。
エラがにやにやしている。
ヒロシは自己暗示をかける。
これも修行。これは修行。修行、修行、修行…!
いけいけ俺!やれやれ俺…!
「ふんぐっ…」
出すな。飲め。
「食べまじだあ」
「美味しいでしょう?」
「あ"い」
「また作るわね!」
「ひ、ヒロシ…!お水のんで!」
エラがこみ上げる笑いを抑え込むように苦しそうにしながら、震える手でヒロシに水を手渡した。
ヒロシは流石にエラを睨んだ。エラはごめんごめんと小声で謝る。
「美味しかったでしょ?」
レイラは自分の料理が受け入れられて嬉しいらしく、また同じことを聞いた。
「はい…おいしかったです。ところでフルーツいれました?」
「よくわかったわね。臭み消しに野いちごをすりつぶしていれたのよ。」
うん、なにも消せてなかったとヒロシは心のなかでつっこみをいれた。
他の料理はどれも美味しく作られていた。
凄まじい勢いで無くなるランチバックの中身からラスイチのサンドイッチを死守する。
ヒロシは美味しすぎて涙が出るほどだったのはここだけの話。
「さて食べ終えたことだし、魔法のトレーニングをしましょう」
レイラが立ち上がり、楽しいランチの終わりを告げた。
○ ○ ○
魔法のトレーニングも反射神経同様にスパルタだった。
内心魔法の修行と聞いてわくわくしていた自分を殴り倒したい。
修行は座禅を組んで頭を無にするところまでは修行僧と何ら変わらなかったが、1つ違うのがビー玉サイズの火の玉を維持することだった。
さっきまではバリバリの体育会系の修行、今度は修行僧のような修行。
しかも頭を無にするのと維持するのが、難しすぎる。
無にしすぎると火の玉は消えるか落ちてしまう、しかも足のうえに....
極めつけはとなりでキャッキャッとはしゃいでいる女性陣だ。集中力を奪っていく。
しばらくやっていると身体がどんどん重くなっていく感じがした。
レイラさんいわく、体内には魔素と呼ばれる魔法を使う上でのエネルギーみたいなものがあるようだ。
体内の魔素が減るとその分影響がでるとか。
別の世界から来たのになぜ魔素があるのかはさておき、なるほどと俺は納得した。
かれこれ数時間、隣からは寝息が聞こえる。
俺は魔法の維持については慣れてきた。
いつまでやればいいのかな。
というか二人寝てるんだけどこれ忘れてないよね?
身体はどんどんダルくなり精神力で維持してるような状態なんだけどな。
「ん…思い切ってヒロシくんは頭をとりましょう…」
レイラさんは寝言いってるし、たまに怖いこと言って笑ってるし、どんな夢だよ!
あぁダメだ頭が真っ白になってきた。
これはやばいやつだ....
「ふたりともおき....て」
ドサッと音を立てて気を失った。