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10 図星をつかれたヒロシ

 

「じゃあまずね、体力測定しようかしら」


 レイラはにっこりと笑みを深めて、いつのまにか手に持っていたテニスボール大の玉をヒロシの両掌に乗せた。


 ドオオオン!


「えっ」


 突然のことで対応できず玉はすぐさま地面に落ち、おどろおどろしい音を立てて土にのめり込んだ。


「うん、全然ダメ。まるでダメ」


 ヒロシは冷や汗を流し立ち尽くした。


 その重さは昔手伝わされた引越しのファミリー向けの大きな冷蔵庫運びを思い出すほどだった。いや、それよりもうんと重たいかもしれない。


「エラは持てるよね?」


「うん!」


 そう軽快に応えるとエラは土にのめり込んだ玉を片手でしっかり掴み取り、そのまま持ち上げた。


 そのままお手玉しはじめ、次第にはレイラはもうひと玉増やして三玉で大道芸人のような光景になっていた。


「無理」


「はい、じゃ次はすばやさと反射速度を見させてもらうわ」


 レイラさんは手のひらをヒロシに向ける。すると赤く光出す。


「なっ」


 ヒロシが反応する前に、ヒロシの頬をなにかが通った。


 スーっとヒロシの頬から血が流れる。


 青白い顔をしているヒロシにレイラは変わらず笑顔で話しかける。


「ヒロシくんだめね、それだと死んじゃうわよ?」


 ヒロシは思った。

 この人本気だ。ここで殺される。

 善意のため断れないが、出来れば今すぐにでも逃げ出したい。


「はい、じゃ次はエラねぇー」


「うん!」


 放心状態となっているヒロシを置いて、二人のやりとりが聞こえる。

 ヒロシの時と同じくエラに手ひらを向けると赤く光始めた。

 その瞬間手のひらからなにかが飛んでいく。

 エラは見えているのか器用に避けていく。


「エラすげぇ...」


 ヒロシは小さく呟いた。


 まるで小動物の様に気持ち良さそうに撫でられているエラがいる。

 レイラがヒロシを見た。


「ほらヒロシ!ボケっとしてる場合じゃないわよ!」


 レイラさん、性格違いませんか。

 ヒロシは修行となると性格が変わるレイラに戸惑う。

 普段クラスメイトの女の子ともまともにかかわったことのないヒロシにはこのギャップはまだ刺激が強いものだった。


「次は魔力測定よ」


「えつ、あ、はい!!」


「魔導書第一章の炎は出せる?」


「はい」


「それ以外はどこまで覚えたの?」


「それだけです…すみません」


 ヒロシは小さくなった。


「いちいち小さくならない!シャキッとして!じゃあ、出してみて」


「イエッサー!!」


 ヒロシは思わず敬礼する。


 そして、最初に出したときのように手を前にだし、呪文を唱える。


「聖なる炎よ。出ろ!」


 ヒロシの右手が赤く光、その瞬間、赤いビー玉ほどの火の玉がでた。勢いはなく放つというよりは、下に落ちていった。


 その光景を見ていた二人は目を丸くした。そしてそのあと腹を抱えて笑っている。エラに至っては軽く過呼吸気味になっている。

 ヒロシは恥ずかしさか顔が赤くなってきていた。


 ある程度落ち着いたのかレイラが話し出す。


「この呪文はこの間覚えたばかりかしらね。鍛えればきっとちゃんと飛ぶようになると思うわ。気を落とさないで!」


 レイラにいたってはさっきのスパルタとは違い、涙目になりながらフォローをいれてくる。


「エラも私も最初はうまくできなかったのよ。エラは今も放出系は得意じゃないわ」


 さっきまでヒーヒー言ってたエラもそんなことないもん!っていいながら頬っぺたを膨らませている。


 レイラはエラの言葉を流しながら大きな石の目の前に立った。


「エラこの石を肉体教化で切りなさい。」


 レイラは石をペチペチ叩きながらエラに指示した。


「はぁい!わかったよう」


 エラはお姉ちゃんの指示に素直だった。


 エラと石の位置は三メートルほど距離があったが、その位置から剣に手をかけて助走をつける。


 エラに光を纏った瞬間、石は真っ二つに切れていた。


「うん、ちゃんと成長してるわね。エラは肉体教化のほうが得意なのよ。どう?」


「エラはすごいです」


 エラは素直に喜びを示す。


「でしょでしょー!」


「俺には、得意とかないです!できないことならたくさんあるけど」


 ヒロシはにこりと言った。レイラは大人だったからその虚勢を受け入れた。


「ヒロシくんは、この森に修行に来てるって言ったけど、ずっと迷った顔してる」


 レイラはいつのまに真剣な表情をしていた。


「納得してないんじゃないの?」


 ヒロシは困った。

 図星を突かれて固まったヒロシにライラは優しい彼女に戻った。


「困らせちゃってごめんなさいね。でもこの森は、そういう生半可な気持ちでいると死ぬわ」


 エラは静かに見守っていた。


「もう少しちゃんと考えてみたらどうかしら」


 さらにヒロシは困って黙り込んだ。

 ふ、とレイラは笑う。

 そして重くなった空気を切るようにパチンと手を叩いた。


「さて、おばさんの説教は終わり!お昼よ〜」


 そういうと手早く当たりの小枝を集めてあっという間に火をつけて昼飯の用意をしはじめた。

 ヒロシは考えていた。

 納得してないということがどういうことなのか。

 そもそも安易な思いつきで魔導書を購入し、いきなり異世界に連れ出され、意味不明に強い魔獣に闘って強くなれと言われた。

 魔導書をぽちったこと以外は何も自分で望んでないことなのだ。


「はい」


 ハッとして意識を戻すと目の前にエラがいて

 串焼きのジューシーなお肉を目の前に差し出していた。


 ぐうううう…


 どんな時でもお腹は空くようだ。


「うまそ…」


 モヤッとした気持ちに蓋をして、ヒロシは目の前の肉にかじりついた。


「おいしい...」


 元の世界では考えれないほどの美味しさだった。思わず涙があふれてくる。ヒロシはそのまま泣きながらお肉を頬張る。


 誰かと食べるご飯は初めてではないのに、レイラとエラのおかげで居場所があるように感じる。


 二人は戸惑うように見守るように何も言わずに食べていた。


 食べおわるとまた修行を再開した。





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