9 ついでのヒロシ
その日は雨の音で目が覚めた。
「んーー…だるい」
もぞもぞと布団の中で芋虫のように動く。
いつまでもこのまま寝ていたい…。
時間は分からないが、お腹の空き具合が甚だしく、観念してヒロシは起きることにした。
そして期待を胸に、扉を開く。
「ギルさま!」
そこには昨日と同じように、包みが置いてあった。
中を開けると火を使わなくても食べることのできるサンドウィッチが入っていた。
「あいつい意外といいやつなんだなー」
サンドウィッチを食べ終えても雨は止まなかった。
「どうしようかな…」
食糧は1日は持つ。水もなんとかなりそうだ。この小屋の中にいても飢えることも困ることもなさそうだった。
その時、雨音の中をトントン、と来訪者を告げる音がした。
「ギル…?」
あいつはノックなんてするかな…いや、しない…。
戸惑っていると、催促するようにまたトントンされる。
恐る恐る開けた。
扉をあけた先には小柄な三つ編みの女の子。
ヒロシは安堵しすっかり緊張していた体の力が抜けた。
「エラ!いらっしゃい!どうしたの?」
エラは昨日と変わらずまるで太陽のように笑う。
「おはよう!お姉ちゃんが修行にいくからまたヒロシを連れてこいだってー」
ヒロシは一瞬戸惑ったが強くなるためには必要なことだと思いなおす。
「うん。わかった!すぐ支度するからすこし待ってて!」
いつものリュックと刀を持ち家をあとにした。
森の中をエラについて進んでいく。エラは気前よく道にあるキノコや薬草などヒロシに情報を与えてくれる。
前向きで明るいエラをヒロシは好ましく感じていた。
「今日は何するの?」
「なにもお姉ちゃんから聞かされてないからわかんない!魔物狩りかなぁ?」
エラからふわっとした答えしか返ってこないため、ヒロシは諦めた。
草むらを抜けると草原が広がる。その真ん中には昨日みた人影が見えた。その姿は凛としていてカッコいい。
エラは手を降りながらお姉ちゃんと叫んでいる。
ヒロシはその光景を犬がしっぽを振って喜んでいるようにしか見えなかった。
ヒロシは単刀直入に訊く。
「レイラさんおはようございます!今日はどうしたんですか?」
「ヒロシくんおはよう!来てくれてありがとね。ヒロシくん弱いじゃない?弱いのにあの山小屋に住んでたらいつか死んじゃうじゃないかと思って、エラのついでに修行つけてあげるわ」
笑顔で話すレイラさんからはすこしギルと同じ匂いがした。
「あ、はい。ありがとうございます…」