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プロローグ



 ――やった、ついに手に入れた……!


 かねてより所望していた商品、『黒の魔導書』を手に入れた。

 たまたま中古で販売されており、見つけた時には歓喜で震えながら即ポチってしまった。

 そわそわしながら数日を過ごして、やっと現物が届いた。


  黒く禍々しい革の表紙。刻印された文字は外国語なのか全く読めないが、金色に妖しく輝いている。

 本を開くためには鍵がかっており、入っていた箱の中を探してみると古びた袋が一緒に入っていた。

 

 焦る気持ちが先行して袋を開けるの苦戦する。やっとのことで開けると中にはカギと四つ織りにされた羊皮紙。


「おお……」


 出品者のこだわりに感心しながら開いてみる。


 羊皮紙の中にはただ一言、【善き人生を】とかかれていた。


 メッセージに首をかしげながらも、本の鍵を外す。中は見たこともない文字で埋め尽くされていた。


 本をパラパラと捲っていく。しかし最後のページまでいっても読める文章がなかったため深いため息をついた。

 

 期待が大きかった分の反動でバラバラのチリチリにして捨ててやろうかと自棄になって引きちぎるべく手をかける。


 と、その時だった。


  ”  ー ー ー ー ”


 頭の中で声がした。


「ん……?」


 ふと手元の本を見る。


 空いたままのページに浮かぶ、ただ一文だけが読めるようになっていた。


「    」


 その言葉を、俺は無意識に口に出したらしい。


 ――その瞬間、突然目の前が暗くなり、そこで意識は途切れた。




***




「ッチ、なんだ。 とんだハズレだな!」


 あからさまにがっかりした声に起こされて、目が覚めた。


 目の前には、突然倒れた俺を心配する美少女…なんて事はなく、胸に【死神】と書かれた名札をつけている男がいた。


 ーいや、がっかりなのは俺なんですけど……。


 横になっていた俺は状況が分からないままとりあえず体を起こす。

 男は真っ黒の衣服に身を包み、明らかに怪しい。


 なけなしの強がりをかき集めて、なめられないように腹に力を込めて声を出す。


「は? あんた誰?」


 張りぼての強がりは男の鋭い眼光に一蹴された。


「お前にこのプレートは見えないのか? 死神だ」


「は?」


「あ”?」


「すみません」


 ーこの不審者、めちゃくちゃ怖い!

 

 死神(自称)はあからさまにうんざりといったため息をついた。


「ッチ。めんどくせぇ。ハァ。……あのなぁ、今から言うことを一度で覚えろ。お前がこの魔導書の中身をマスターするまで、俺はお前を鍛えないといけない。いいか、死ぬ気でやれ。死んでくれてもいい」


「なんで俺が」


「お前が中途半端な興味であの本を買うからだ。ど阿呆」


「あの、拒否します」


「お、拒否するか?」


 死神はおかしさを耐えられないといった風ににやにやと笑った。


「はい」


「一回自分の胸、見てみれば?」


 胸元を見る。


「はっ???なにこれ!!」


 そこには【初心者】と太く大きく書かれた名札が付いていた。

 自動車免許でお馴染みの若葉マークも添えてある。幼稚園児が付けるワッペンのような愛らしさだった。


 10代も半ばの男の胸についているのはなかなか痛々しさがある。


「てか!はあああああああ?」


 慌ててプレートを取ろうとするにも、この謎のワッペン、触れない。

 服を上にめくって隠そうにも、常に一番手前に位置して目に見えるようになっているようだ。


「何これ!取ってよ!」


「お前が詠唱なんてするからだ。 俺には取れない。 ………で、拒否、するか?」


 にっこり。


 ー悪魔だ。あー・・・死神か…...。


「……励ませていただきます……」


 俺の涙声に、ヤツは盛大に笑った。嘲笑っていやがる。この野郎!


「どこまでも残念な奴だな。 始めるか……さて、お前、名前は?」


 自棄だ自棄だ。俺はにやりと笑い、盛大に名乗ることにした。ポーズもつけて。


「俺の名前は、聖なる魔獣をしたがえる、西園寺さいおんじ そらだ」


 ………


「ははは……ははは……」


「おい」


 その顔はまったく笑っていない。


「お前は死神を舐めてるのか」


 俺はこのよくわからない状況に頭が可笑しくなっていた。


「舐めてなどはおりません。ユーモアです!」


「死神はな、人の名前が見えてるのだよ」


「ひっ」


「もちろんお前の名前も」


 ーー名乗らせるくだりいた?


 もちろん怖くて口には出せない。


「自己紹介は初めましての基本だろ? 早く名乗ってナカヨシと行こうじゃないか」


「田中ヒロシです」


「よろしい、魔獣というのは下の階で吠えてたチワワのことか」


 釈然としないが答える。


「そうです」


 死神は俺に手を向けた瞬間、光った。


「お前のプレートを見てみろ」


 俺は言われた通りプレートを確認した。


 プレートには 【初心者ヒロシ】 と書かれていた。


 格段にダサさが増した。


 死神が淡々と誤魔化した罰だといった。俺は口からでる言葉をグッとこらえ、死神に尋ねる。


「あのう、鍛えるとはどうゆうことでしょうか」


「ヒロシ、何故魔導書を手に入れようとした?」


 死神は聞く。俺は適当な嘘を言うか本当のことをいうか迷うが、疲れてきたから本音にする。


「クラスの奴らが俺を馬鹿にするから。 馬鹿にする奴ら、 全員消したいんだ」


「ハッ」


 鼻で笑われた。


「小さいな」


 明らかに馬鹿にした発言に、怒りに何も言えずにいると、そのまま死神は続ける。


「そんな事で俺はお前に呼ばれたのか」


「俺にはおっきいです!」


「お前が手にしたのは、黒の魔導書」


「そうですよ?」


「極めれば、人を呪い殺せる」


「………」


「せいぜい励んで全員消せたらいいな」


 そこで彼は一呼吸おいて、また話を再開した。


「書を習得するために、世界を移す。適当に着替えを持て、今すぐだ」


「え! 習得って何するんですか」


「人を襲い魔物がでる世界がある。 お前はそれを倒せ」


「まじですか」


「まじだ」


「その国の名はブローディア。人間が暮らし、魔法を使えるものは尊敬される。魔物は人間を襲い、食い物にするそうだ。たいそうなご馳走らしい」


「はあ…」


「魔物討伐をしながら魔導書の中の魔術をマスターしたら、 この世界に返してやる。 その時には俺とも、さよならだ。 晴れてクラスの糞どもを消せばいい」


「さて、ヒロシ。 準備がないならこのまま行くが、 いいのか?」


 鬼畜だ。慌てて準備しようとした刹那に、死神は指をぱちんと鳴らした。


 待ってなど言う隙もなく、俺たちは光に吸い込まれた。





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