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しかもまた跳ね返されている。
跳ね返したのは、前回と同じ人物のようだ。
――近いぞ。
近ければ方向も距離もある程度分かる。
末藤は感じた方向に歩いた。
すると見えてきた。
大学だ。
この市に一つだけある私立大学。
間違いなくこの中にあれを跳ね返した人物がいる。
しかし平日の昼間。
中には大勢の学生がいることだろう。
方向と距離はある程度はわかるが、個人を特定するには至らない。
――どうしようか?
末藤はとりあえず待つことにした。
ここは正門だ。
多くの人間が出入りするところだ。
あれを追い返した人間も出てくることだろう。
末藤は待った。
大学の入り口で待つ二十代前半の男。
なんとか大学生に見えないこともない。
誰かと待ち合わせでもしているのだろう、と見た人は思うだろう。
今はあれを追い払った人物からは距離が離れているため何も感じないしどこにいるのかもわからないが、すぐ近く、この正門を通れば感じ取ることができるだろう。
中に入って広い大学を探すよりは、入れ違いにもならないし確実と思われる。
なにもじっと中を見つめる必要もない。
末藤は大学の中を覗いたり、門に背を向けてスマホをいじったりしながら待った。
しかし末藤の気を引く人物は一向に現れない。
それでも末藤は待った。
やがて空が赤く染まり、暗くなってきた。
中を覗いたが、もう人はほとんど残っていないだろう。
末藤は大学の中に入ってみた。
しばらく歩くと、何かが聞こえてきた。
音楽だ。
近づくと、ブラスバンド部が練習をしていた。
さりげなく近くを通り、何かを感じる人間がいないか確かめたが、そんな人物は誰もいなかった。
末藤は結構広い大学の構内を歩いた。
すると目に入った体育館らしき建物から音が聞こえてきた。
入ってみるとバスケットボール部が練習をしていた。
みな末藤に気づいたが、特に気にはしていないようだ。
末藤は何食わぬ顔でそれら集団に近づき、探した。
しかし目的の人物はいないようだ。
末藤は体育館を出た。
出ると同時に「なんだあいつは」と言う声が聞こえてきたが、もちろん末藤は無視した。
それから一時間余り大学内をうろつき、何人かの人間に会ったが、末藤が探す人物はいなかった。
――ひょっとして入れ違いになったのか?
その可能性が高い。
末藤はそう思った。
――そのまま待っていた方がよかったか。
そう思ったがもう遅い。
末藤は大学を後にした。
教室で倒れ、日向は大学の保健室に運ばれた。
保険医が診察し、おそらく極度の疲労、と診断された。
それは日向にもわかっていた。
必要なのは休息で、病院に行くほどではないと保険医は言った。
「しばらく寝ているといい」
保険医がそう言い、日向はそれに従った。
そのままベッドで寝ていたが、すぐに回復するわけもない。
やがて外が暗くなった。
「そのまま朝まで寝ててもいいよ」
保険医はそう言い、明かりを消して帰ってしまった。
消される前に時計を見ると、午後七時だった。
――寝るか。
日向は眠りについた。
日向が起きると、すっかり日が昇っていた。
時計は午後を過ぎている。
「ようやく起きたか。本当に疲れていたんだな」
日向は体を起こした。
まだ本調子にはほど遠いが、ずいぶんとましになったようだ。
「とりあえず帰ります。ありがとうございました」
「いやいや仕事だから」
日向はそのまま保健室を出た。
腹が減っている。
学食に行き、いつものように定食を食べた。
食べるのに普段の倍以上の時間がかかった。