表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/27

7

末藤が家を離れて歩いていると、声がした。

見れば一軒家の狭い庭に中年女性がいて、ブロック塀の上から顔をのぞかせている。

その顔はやけに険しかった。

「あなた、あの家にいったい何の用ですか?」

中年女性の家は数軒先だがあの家がよく見えた。

末藤が家を訪ねるところを見たのだろう。

「いいえ、家を間違えただけです」

そう言うと、女性の顔から眉間のしわが消えた。

「そうだったんですか。てっきり新しい信者かと思いましたよ」

「新しい信者?」

「聞いてくださいよ。半年ほど前です。神井と言う男があの家に越してきたんです。それまでは空き家だったんですが」

「はあ」

「するとなにかの宗教活動を始めたみたいで、あの家にだんだんと信者が住むようになったんです」

――信者……。

なるほど。

どうりで家族には見えなかったはずだ。

若い背の高い男が神井で、あとの四人は信者と言うわけか。

しかし新興宗教団体。

そのあまりにも怪しすぎる単語。

おまけにあの家は、あれの復活となんだかの関係がありそうなのだ。

「そうですか」

「ですからあの家には近づいてはだめですよ。間違いなく勧誘されますから」

「わかりました。わざわざありがとうございます」

末藤はその場を離れた。

しばらくすると携帯が鳴った。

刈谷からだ。

「もしもし」

「末藤、刈谷だ。あの家のことがわかった」

「新興宗教団体だろ」

「もうわかったのか。さすがと言うか。それにしても救世主を降臨させるのが目的だなんて」

「救世主?」

末藤がそう言うと、刈谷が答えた。

「あっ、それは知らなかったんだな。至福教団と言って、救世主を降臨させ、信者とともにこの世に楽園を作るのが目的のようだな」

「救世主、と言うと」

刈谷の声が大きくなった。

「そうだ。あれだ。その教団は、あれを救世主だと思って、復活させようとしているようだな」

「……」

末藤は思った。

そう考えると、ある程度つじつまがあう。

あれの一部が復活してしまった理由も。

しかしあれのことを救世主だなんて思っているとしたら、とんでもない間違いだ。

あれは人類を一人残らず殺すものだ。

まさかあの若い男は、あれをコントロールできるとでも思っているのか。

あれは人間にどうこうできるような存在ではない。

人間の思うようにはけっして動かない。

「どうしよう」

刈谷の問いに末藤が言った。

「刈谷、会社辞めろ」

「えっ?」

「あんなブラック企業に勤めている暇なんかない。会社を辞めて、この家を徹底的に見張るんだ」

「ええっと、そうだな。俺もあんな会社は常々辞めたいと思っていたし、今はあんな会社に貢献している場合ではないな。わかった。明日から無断欠勤するわ。そのうち首になるだろうさ」

「やり方はどうでもいいが、そうしてくれるか。これが落ち着いたら次の仕事はみんなで考えよう」

「じゃあ今から見張りに行くわ」

「頼んだ」

「わかった。任せておけ」

末藤は電話を切った。

ここはとりあえず刈谷に任せて、他を探ることにしたのだ。

何かを感じる力は末藤にしかない。

一か所にとどまっておくわけにはいかないのだ。


――まただ。

日向は感じた。

それもなんと授業中にだ。

もやの黒い手が現れて、日向の首を絞めてきたのだ。

――ええいっ!

日向は渾身の力を出した。

すると首を絞めていた手が消えた。

日向は少しむせた。

近くの学生がちらりと日向を見たが、それだけだ。

教授も気にしていないようだ。

それにしてもこの疲労感。

どうしようか。

――自力で下宿まで帰れるかな?

日向はとにかく帰りたかった。


――これは!

末藤は感じた。

またあれが人を襲ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ