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――こりゃあとてつもない重荷だな。
末藤はまず歩くことから始めた。
足腰には人一倍自信がある。
とにかく歩き続ければ、何かに当たるかもしれない。
今のところはこれ以外の方法はなさそうだ。
――何事もないな。
あれから数日たったが、日向の身にこれと言ったことは起こらなかった。
追い返すことはできるが、恐ろしく体力を消耗するので、続けてこられると厄介だと思ったからだ。
もしかしたらそうなると命の危険すらあるかもしれないのだ。
しかし当面はそんな心配は無用のようだ。
――それにしても。
気になると言えば当然気になる。
明らかに幽霊ではない、人間としての人生など送った事がないとてつもなく邪悪なもの。
おまけにこいつは明確な殺意を持って日向のところに来たのだ。
何が何だかわからない。
悪霊ではないとしたら、妖怪、はたまた悪魔か。
そんなものがこの世に存在するのかなんて、日向にはよくわからないが、日向の頭に浮かんできたのはこの二つだった。
とにかくまた来られるとやっかいだ。
前回の女の幽霊のように地縛霊というわけでもなさそうだ。
相手がその気なら、また日向のところにやって来るだろう。
――それは勘弁してくれ。
今の日向にできることは、そうならないように祈ることだけだった。
刈谷はただ調べていた。
仕事以外のわずかな時間の大半を使って。
しかし何一つ目新しい情報は出てこない。
どんなマニアックなものでも探せばどこかにあると言われるネット上にも、全くなにもない。
そもそもあれを知っている人間が非常に少ないうえに、全員その情報をネットに流したりはしないだろうから、あるはずもないのだが。
図書館も郷土資料館もアウト。
刈谷がこれまで子供の時から聞いてきた以上のものは何もなかった。
下手をすれば、いやしなくても人類滅亡の恐れがあるというのに、それに携わる人間が少なすぎるのだ。
駄目でしたではすまされない。
失敗は許されないのだ。
刈谷はとにかく調査を続けた。
何一つ進展のないままに。
――うん?
末藤は一軒の家の前で立ち止まった。
少し大きめだが、ただの一軒家だ。
なぜそこで自分が立ち止まったのかもわからない。
ふと何かを感じたような気もしたが、何を感じたのかもよくわからなかった。
何かを感じたことさえ、自信がないような状態だった。
自然に足が止まった。
それに近い。
末藤は意識を家に集中したが、今は全く何も感じなかった。
表札は神井となっていた。
――しかしこれは……。
この家にはなにかある。
なにかはわからないが。末藤は他の調査をしつつ、時々この家に寄ってみることにした。
今のところ、この市で見つけた唯一の手掛かりのような気がした。
神主は兄である大道正也に連絡を入れた。
八百年間あれを見守ってきた一族。
神主と兄、そして甥にあたる末藤と刈谷。
今はこれだけだ。
兄には双子の娘がいるが、まだ中学生になったばかり。
あれのことは全く知らないと兄は言っていた。
自分は小学校の時から両親に言い聞かされてきたと言うのに。
あれのことを知るのは日本中、いや世界中でも四人しかいない。
そのなかで特別な力を持つ者は末藤一人だけだ。
しかし四人でやるしかないのだ。
だが自分にできることはなにがあるだろうか。
自分には知識しかない。
あれに関する知識なら、四人の中でも一番だろう。
神主はとにかくあれに対抗できそうなもの、道具類をできるだけ集めることにした。
もちろん兄にも手伝ってもらうが。
あれが一部だけとはいえ復活したことは今まで一度もなかった。
あれはどこからともなく現れて、人を殺し始めた。
そして殺せば殺すほど力をつけていき、人を殺す人数が飛躍的に多くなっていった。
それに自分たちの先祖が気付き、一族を集め一族の家に代々伝わる神魔の剣を使ってあれを封印したのだ。
人を殺す人数が飛躍的に増えていっている途中のことで、正確にはあれが現れてから四日目のことだったと記録にある。
そして八百年前にいたあやかしの力を見抜くことにたけていたと言う人によると、あれは人を殺せば殺すほど力をつけ、そんなに時間がかからないうちに本来の力に目覚めると言う。
本来の力とは、この世の全ての人間を一人残らずに殺す力なのだそうだ。
あれは何がどうなってこの世に現れたのかはわからないが、現れた理由と言うか目的は、地上の全ての人間を殺すこと。
それ以外はないと言うことだ。
そして本来の力に目覚めれば、全ての人間を殺すのに一日かからない力があると、そう見抜く人は言っていたと記録にある。