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――明日かあ。
何もかもいきなりだが、自分の命や両親や友人の命、そして全人類の命がかかっているとなると、とても断れない。
日向は思った。
――死ぬとしても、明日死ぬか数日後に死ぬかの差だけだ。
と。
末藤が日向のアパートに来た。
呼び鈴を押すとすぐに出てきた。
「いよいよですね」
「ああ」
それ以降は無言になった。
二人とも。
神社までは距離がある。
その間二人は、一言も口に出さなかった。
「ついたぞ」
末藤が久しぶりに口を開いた。
神社に着いたのだ。
二人して車を降り、本堂へと歩く。
中に入ると大道兄弟がいた。
「来たか」
「いよいよだな」
「おじさん、この人が日向君だ」
「おお、彼が」
「あれを二度にわたって追い帰したという」
「そう聞いた」
「すごいなあ。期待しているぞ」
「はあ」
期待されても、と日向は思った。
確かにあの化け物を二度にわたって追い帰したが、それだけだ。
しかもその後数日間、まともに動けないほどに疲労している。
そして追い払われた方は、おそらく無傷だと思われる。
日向がそんなことを考えていると、神主姿の二郎が末藤に言った。
「あれはどうだ」
末藤が答える。
「昨日言った通り、あれの封印は全て解けた。今はまだすべての力は出していないが、それでも封印が解けて一日たった現時点で、百人近くの人を殺している。しかも目に見えてペースが上がってきているようだ」
「すると今後どんどんペースが上がるということか」
「ペースは上がり続けるだろう。問題なのは人を多く殺せば、本来の力に目覚めてしまう。そこからは全人類を殺すのに、おそらく一日とかからないだろう」
「そうか」
「だから今日中に何とかしないと。ところでおじさん、かなえちゃんとかなでちゃんはどこにいるの?」
「やらなくてはいけないことがあるかとかで、少し遅れるとか言っていた」
「やらなくてはいけないこと。あれを呼び出して封印するということを差し置いて、なにをやらないといけないんだ?」
「わからん。わからんが、どうしてもやらないといけないと言っていた」
「……」
「少し待つか」
「……それは」
二郎が口をはさんだ。
「一時間だけ待ってみよう。どうせ今日中にはなんだかの結果が出る」
「……いや、それは」
正也が言った。
「あの二人のことだ。何か大事なことをしているのに違いない。待ってくれないだろうか」
もうすぐ正午だ。
末藤が言った。
「それじゃあ一時間だけ待ってみよう。一時ちょうどになったら、あれを呼び出す」
そう言って、末藤は小さなトライデンを取り出して、目の前に置いた。
「ありがとう」
正也は甥っ子に頭を下げた。
待った。
わざわざ置時計を持ってきて、全員が見える位置に置いた。
神社の門は閉じられ、部外者は誰も入っては来ない。
――それにしても。
末藤は時計を見た。
十二時十五分だった。
もうとっくに一時が来たかと思ったのに。
時間の流れがとてつもなく遅い。
それは二人の叔父も同じだった。
二人とも見たことがないくらいに、そわそわしている。
日向だけは大人しかった。
何も言わず、いらいらした様子もなく、静かに座っている。
あれがもうすぐ来るというのに、恐怖も緊張など何も感じられない。
まるで自分の部屋でくつろいでいるかのようだ。
――俺もこのくらい落ち着かないと。
末藤は日向に感心し、とにかく不安とか焦りを押さえるようにした。
日向は考えていた。
それもいろいろと膨大な量を。




