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木本の行方は知れず、まだ逮捕にはいたっていないが、教団としては身内から殺人未遂の容疑者が出るのはかなりの痛手だと思われる。
刈谷には悪いが、刈谷が刺されたことで、物事がいい方向に流れたようだ。
末藤はそう思った。
神井はいつになくいらだっていた。
何度も何度も警察に呼び出されているからだ。
信者の木本が刈谷を刺した。
それは事実だ。
それは木本の単独的な犯行である。
それも事実だ。
しかし警察は教団を、特に神井を疑っていたのだ。
犯行が教祖の指示によるものではないのかと。
それは事実ではない。
違うのだから違うとしか言いようがないのだが、違うという言葉は、無実の証明にはなんの役にも立たないのだ。
いつかは無実が証明されるとは思われるが、それがいつになるのかまるでわからない。
しかも自分の教団の信者が人を刺したことはニュースにもなっている。
ただでさえ近所の人からは冷たい目で見られていたが、その目には今や恐怖を宿している。
刺した木本ももちろん悪いが、相手はストーカーのようにこちらを探っていたやつらだ。
それに関しては警察者は何もとがめないらしい。
「不公平だ」
神井は口に出してそう言った。
誰も聞いていない。
神井一人だ。
事件が発覚した日から、連日のようにやっていたよう集会を控えているのだ。
信者も神井の言うことを聞いて、この家を出て行った。
今は誰もいない。
それが神井をさらにいらだたせていた。
――こっちはこの世を救おうとしていたのに、あんなやつらがしゃしゃり出てくるから、こんなことになったんだ。あいつらいったいどうしてくれよう。
神井のいらだちや怒りは、全て末藤たちに向けられていた。
――またか。
末藤はまた感じた。あれが人を殺している。やはり人を殺すペースが上がっているように思える。
――あの教団はとりあえず大人しくさせたが、元凶はまだ野放しだ。
みんなであの手この手でなんとかしようとしてはいるが、解決には程遠い状況だ。
――せめて神魔の剣があればな。
末藤はいつの間にか自分でも気づかぬうちに、神魔の剣に頼るようになっていた。
双子が神社にやって来た。
「おおっ、かなえちゃんとかなでちゃんじゃないか。よく来てくれたね」
「おじさん、お久しぶりです」
「ごぶさたしていました」
「かなえちゃんとかなでちゃんなら、いつでも大歓迎だよ」
「ありがとうございます」
「それで、ちょっとここでやりたいことがあるの」
「なんだい」
「この神社を隅々まで見たいの」
「見せてくれる、おじさん」
「いいよいいよ。どうぞ好きなだけ」
「はい」
「それじゃあ、遠慮なく」
双子は神社をいろいろと見始めた。
何かを探しているようにも見えるし、神社のこまごましたものを記憶しているようにも見える。
――何をしているんだろう?
神主は、そういえば双子が神社のなにを見に来たのかは聞いていなかった。
いまさら聞くのもなんだし、それよりも双子の醸し出す雰囲気がそれを許さない。
必死というか、とてつもなく真剣な様子と目で、神社を見回っている。
神社の中はもちろんのこと、その上床下まで。
さらに外では敷地内の蔵、そしてその先の裏山まで見回っているのだ。
見たところ何かを探しているようにも見える。
――まさか神魔の剣を探しているのか?
兄があれのことを娘たちに伝えたと聞いた。
当然、神魔の剣のことは知っているはずだ。
だからそれを探しているのだろうか。
しかし大道二郎は思った。
――あれはもう私がさんざん探したのだが。刈谷と一緒に。
だが二郎は考えた。
好きなだけ探させよう。




