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完全に動きを封じる有効な手段は殺してしまうことだが、生きている人間をそう簡単に殺せるものではない。
それに教団の動きを完全に止めてしまうには、教祖も信者も全員殺さなければならないだろう。
それは論理的にも法律的にも物理的にもできそうにない。
それに日本の警察は優秀だ。
この非常時に殺人犯として捕まるわけにはいかない。
――また無視するか。
末藤はとりあえずそうすることにした。
翌日も刈谷は神主とともに神魔の剣を探した。
しかし探せど探せど見つからない。
いったいどこにあるのか。
神社の敷地内にはないのだろうか。
もし神社の敷地内にはないとしたら、いったいどこにあるというのか。
「おじさん、ないね」
「ああ、ないな」
もう外は暗い。
その暗がりの中、足音がした。
「うん?」
「誰だ?」
しかしその足音は、足早に遠ざかっていった。
「誰だろういまのは」
「参拝客とも思えないし」
気にはなったが、二人ともそんなことを気にしている場合ではない。
神主が言った。
「別のところを探すか」
「別のところをって、どこを?」
「それは古文書を見て考える。もう暗い。おまえはいったん帰れ」
「わかった。じゃあおじさん、おやすみなさい」
「おやすみ」
刈谷は帰った。神主はそのまま自室に引きこもった。
刈谷が車に向かっていると、足音がした。
――んっ?
刈谷が歩みを止めると、足音も止まった。
――つけられている?
刈谷はしばらくその場にとどまった。しかし何の反応もない。
――むこうが気付かれたことに、気づいたか。
刈谷は再び歩き出した。
足音はもうしない。
刈谷はそのまま車に乗り込み、発進させた。
家路につくまで、自分を追っているような車やバイクがないかとまわりに注意を配りながら走らせたが、そんな車やバイクは見当たらなかった。
――やはり気づかれたことに、気づいたんだな。
刈谷はそう考え、家路についた。
神井の前に信者たちが集まっている。
四十代くらいの男が口を開いた。
「うちを調べている男をつけました。名前は末藤と言います。隣の県にある神社の関係者のようです。それ以上のことはわかりませんでした」
次に三十代くらいの男が言った。
「もう一人も調べました。名前は刈谷です。末藤と同じ神社の関係者のようです。その神社で神主と二人で何かをしていました。見た感じでは何かを探しているようでしたが、何を探しているのかまではわかりませんでした」
二人の後に、神井が言った。
「二人とも同じ神社の関係者なのですね」
「そうです」
「はい」
神井は何かを考えるような様子の後に言った。
「神社と言えば、立派な宗教施設です。その関係者が私たちを探っている。考えられることは、うちを邪教の集団ではないかと疑っている可能性が高いですね」
「そんなあ」
「こんなにも素晴らしい教団なのに」
「そんなの許せないわ」
「何とかしましょう」
騒ぐ信者たちを神井が制した。
「今はとっても大事な時です。教団にとっても、世界中の人々にとっても。ここはしばらく様子を見ましょう。わかりましたね」
「はい」
「わかりました」
「教祖様の仰せのままに」
「わかりました。そのようにいたします」
みなが同意の言葉を述べた。
しかし三十代の男の顔は納得がいかないようであり、そして黒い怒りがその顔からにじみ出ていた。
――まただ。
末藤は感じた。
また誰かが殺されているのだ。
あれに。
――ペースが早くなってきているのでは。
末藤はそう思った。
それはあれの封印が完全に解けるのが近いことを意味している。