13
――なんとかしないと。
末藤は思った。
まずは教団だと。
神井仏馬が信者を集めて言った。
「私たちのことを探っている人間がいますね」
「えっ?」
「それはどういうことですか」
「敵ですか?」
「この間から数回、変な力を持った人がこの家の前に現れました。よくない力です。その後、教団のことを近所の人に聞いて回っている人が現れました。この人は普通の人で何の力も持ってはいないようですが。そしてその人が、何かを感じた人と関係があるのかどうかはわかりませんが。どちらにしても誰かが、それも複数が私と教団のことを探っているのは確かなようです」
「そうですか」
「それはよくないことだわ」
「そうだな」
「どうします?」
神井は少し考えてから言った。
「今はしばらく様子を見ましょう。相手がだれか、目的が何なのかがわかりませんから。でも教団に害をなすものだとわかれば、その時はあなた方に動いてもらいますから」
「わかりました」
「何でも言ってください」
「何でもしますから」
「僕もです」
神井はそれを聞いて、満足そうに笑った。
教団を、神井をなんとかしなければ。
末藤は思った。
あれを何とかするのは当然のことだが、あれを後押ししている人間がいるのは、よくないことだ。
現にあの教団はあれの一部の封印を解き、それをこの世に開放した。
教祖の神井からは、なんだかの異能の力を感じた。
日向の力とは違うが、日向と同じく末藤が今までに感じたことがない力だ。
その力の質もわからなければ、その量、つまりエネルギーの大きさもわからない。
日向の場合は力の質はいまいちわからないが、その量はある程度はわかった。
あれを追い返した時の力は、かなりのものだっただろう。
しかし神井の力は相変わらずわからないのだ。
あれの封印を一部とはいえ解くことができると言うのは、ある意味強力な力であることは確かなのだが。
――どうしよう。
いろいろ考えてみたが、その中にはあれがいかに危険なものであるかを直接正直に伝えるという方法も、末藤は思いついたのだが。
――いや、でも。
数は少ないとはいえ、自分の家を捨ててまで同居している信者のいる教団の教祖。
あれをおそらく本気で救世主だと思い込んでいる教団の教祖。
そして他人にない特別な力を持ち、それを充分自覚しているであろう若き新興宗教の教祖。
それがすんなりと、ああそうですかと言うことを聞くとはとても思えない。
――どうしようか。
末藤はまた考えた。
考えたがその考えはまとまらなかった。
大道正也は悩んでいた。
人類史上最大の危機と言っていい状況。
それに対して動いているのは自分も含めてたった四人しかいない。
自分と神主である弟の二郎。
そして姉の子供である末藤と、妹の子供である刈谷だ。
自分と二郎もそうだったが、末藤と刈谷も若くして両親を亡くしている。
二郎と末藤、そして刈谷は未婚で子供はいない。
他の親族であれのことを知っている人は一人もいないし、今更巻き込んだとしても信じてもらえるとは思えないし、たとえ信じたとしてもいったいどれほど役に立つというのか。
下手をすれば変に騒がれて逆効果、邪魔になることだって充分にあり得るのだ。
――ほかに頼りになる身内と言えば……。
思いつくのはどうしても大道正也の二人の娘になる。
まだ中学一年の双子だ。
親の目から見てだが、二人とも真面目でしっかりとした娘に育ったと思う。
しかし二人はあれのことは全く知らない。
大道がまだ知らせていないのだ。
大道は小学五年の時に、初めて両親からあれのことを知らされて、それから徹底的に叩き込まれた。
それは末藤も刈谷もほぼ同じくらいだった。
だから中学一年の娘に教えても早くはなく、むしろ遅いくらいなのだが、大道は今まで一言もあれについて語ったことはなかった。
それは自分の娘にあれを代々監視するという役目を負わせることを、大道がためらったからだ。
それに二人は女の子なのだ。
母親が死に、大道が男手一つで育てている。
目の中に入れてもいたくないというのはこのことか。
年頃の娘特有の反抗期もなく、素直に父を慕っている。
そんな二人にいきなりあれの話をしてもいいものなのか。
しかし人類がすべて滅ぶのかもしれないという時に、いやその可能性が断然高いという危機が迫っているこんな時に、伝えてよいものなのだろうか。
いやこんな時だからこそ、伝えなければならないという考えもある。
大道がいくら大事に守ろうとしても、人類がみな殺されれば、大道も娘二人も死んでしまうのだから。