12
「力のスケールから言えば、神のレベルにいる」
「そんなものを封印したんですか。八百年前の人は」
「強力な能力者が数人集まったそうだ。それ以上に神魔の剣の存在が大きいが」
「神魔の剣?」
「子供が考えたような名前だが、異能の力に対しては絶対的な力を持つと言われている。理論上は神でも封印することができる」
「そんなものがあるんですか」
「ある」
「誰が作ったんです?」
「それがわからない。あれを封印した人の先祖、私の先祖でもあるのだがそのうちの誰かが作ったもののようだ。それが先祖代々伝えられてきた」
「じゃあそれを使えばいいんですね」
「それが今はどこにあるのかがわからないんだ」
「えっ」
「六百年ほど前から行方不明になっている。その時代の先祖が何かやらかしたみたいだな」
「それじゃあどうするんですか。なくても大丈夫なんですか」
「大丈夫じゃない。ないとかなり厳しい戦いになるだろう」
「それじゃあ」
「だからできるだけのこと、やれるだけのことをする。今はそれしかない。私もそうだが残りの三人も必死で動いてくれているはずだ。そうするしかないんだ」
「そうですか」
「今は君にも具体的な指示は出せない。しかしあれを追い返す力、必ず何かの役に立つはずだ。一緒にやってくれるな」
「わかりました」
「ありがとう。じゃあ私は他にやることがある。いろいろとあるので一旦ここで失礼する。今後ともよろしくお願いしたい」
「はい」
末藤は出て行った。
日向は考えた。
考えたが頭が追い付かない。
自分の命を狙われているだけでも、それこそ命がけの問題なのに。
その上それが神にも匹敵する力を持ち、人類を滅亡させることが可能だなんて。
いきなりそんなことを言われても「ああそうですか」とすんなり受けいれられるわけがない。
でもそうかといって、何もしないわけにもいかない。
無視するにはあまりのも問題が大きすぎる。
――やるしかないか。
日向は心にそう決めた。
しかし何をどうすればいいのか、今は全く分からないのだ。
刈谷は近所に聞いて回った。
その結果はどれも同じようなものだった。
何人かに話を聞いたが、その人たちはみな教団を煙たがっており、話の内容もほぼ一緒だった。
刈谷は末藤をはじめとしてみんなにその旨を伝えた。
全員に伝えた後に末藤から連絡があった。
「もしもし」
「どうした」
「あの男を見つけた」
「あの男。ああ、あれを追い返したという男か」
「そうだ」
「どんな男だ」
「見た目はどこにでもいる大学生だ」
「そうか、そしてどんな力があるのかわかったのか」
「残り香のようにあれを追い返した力がわずかに残っていた。今までに感じたことのない力だ。子供の頃から特別な力を持つ人間には何人もあったことがあるが、あんな力は初めてお目にかかった」
「どんな力だ」
「わからない。ただ邪悪なものではないようだ。むしろ逆だ。一種の神聖な力だ」
「そうか。それでその人はこっちに協力してくれるのか」
「協力してくれる。協力せざるをえないだろう。自分の命、そして人類の存亡がかかっているんだ。知らん顔ができる奴なんていないだろう」
「そうだな。そして何をしてもらうつもりなんだ」
「それは今は具体的には考えていないが、あの力、あれを追い返すことのできる力はきっと何かの役には立つだろう」
「そうか」
「おまえも考えてみてくれ」
「わかった。そうする」
「それじゃあ」
「ああ」
電話は切られた。
刈谷は一息つくと歩き出した。
――んっ。
苅谷と話した直後に感じた。
あれだ。
あれがまた人を殺している。
今日も少し離れていた。
いまから駆けつけてもとても間に合いそうにはない。
しばらくすると感じなくなった。
あれは目的を達成し、襲われた人はどうやら死んでしまったようだ。
――三人目か。
何人殺せばあれの封印が完全に解けるのか、末藤にはわからなかった。
しかし殺せば殺すほど、それは確実に近づいているのだ。