10
――今日は来ないのかも。
大学生はみんな毎日大学に来ているわけではない。
それは末藤も知ってはいるが、今のところあの教団以外に何かを探るとしたら、ここしかない。
――追い返されるまで待ってやる。
末藤はそうすることに決めた。
全人類の命がかかっているのだ。
迷っている余裕などない。
おそらく時間も、それほど多くは残されていないだろう。
末藤はそのまま待った。
ふと気づけば門の向こう側、大学の中で末藤から少し先のところに、三十代と見える男と四十代と見える男の二人が、じっと末藤のほうを見ていた。
スーツを着ていたのでおそらく教員だろうと思われる。
昨日から大学の外の門の外でずっと立っている男。
怪しまれないわけがない。
末藤は背を向けて、二人のほうを見ないようにした。
しかしその場からは動かなかった。
探している相手は直接見なくても近くにいれば感じ取れるはずなのだ。
しばらくそうしていると突然声をかけられた。
振り返ると、さっきの二人が末藤のすぐそばにいた。
「なにをしてるんですか?」
二人とも明らかに怪訝な目を末藤に向けている。末藤は言った。
「友達を待っているんです」
「友達とはこの大学の生徒ですか」
「そうです」
「なんという名前の学生ですか」
末藤は、自分の名前よりも末藤が言った友人の名前を聞かれたことに違和感を感じたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「鈴木です」
末藤は思いついた日本でも多い名字を言ってみた。
「鈴木。鈴木は確か数名いたはずだが」
「何回生の鈴木ですか」
「二回生です」
末藤ははっきりと言った。
はったりは自信たっぷりに力強く短い言葉でわかりやすく言うものだ。
詐欺師も特定の政治家も新興宗教の教祖もそうしている。
それにこちらは全人類の滅亡がかかっているのだ。
普段からめったに怒らないが怒ると怖いと言われている末藤だ。
自分が思っている以上の迫力があったのだろう。
二人は明らかにひるんだ。
「そっ、そうですか」
「わかりました。鈴木君に会えるといいですね」
それだけ言うと、逃げるようにその場から去って行った。
一人が「携帯で連絡すればいいのに」と言っているのが聞こえたが、いなくなってくれればそんなのはどうでもいい。
二人は去ったが、完全に安心できるわけでもない。
もし警察でも呼ばれたらアウトだ。
気迫だけで去ってくれるほど警察は甘くはない。
――とにかくあれを追い返した男を捕まえないと。
時間はどんどん過ぎてゆく。
気づけば学生らしき男が五、六人集まって末藤のことを見ていた。
どうやら大学内で末藤のことが噂になっているのだろう。
誰もが出入りする入り口にずっといるのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
――面倒くさいことにならなければいいが。
末藤はそう危惧していたが、末藤を見ていた集団はいつの間にかいなくなっていた。
もうすぐ日が暮れる。
――今日もダメなのか。
末藤がそう思った時、感じた。
すごく弱弱しいが感じたのだ。
これまでに二度感じたものを。
見ればひとりの男が末藤の前をふらつきながら歩いている。
疲労困憊と言った様相で。
――こいつだ!
ようやく見つけた。
あれを跳ね返した力は今はない。
あれがいないのだから当然なのだが。
しかし残り香と言うか燃えカスのようなものが残っているのだ。
末道は近づき声をかけた。
「君、最近二度命を狙われたね。化け物に」
「えっ?」
相手はわかりやすく驚いた。
末藤はたたみ掛けた。
「また狙われるよ。今度は助かるとは限らない」
「……」
「死にたくなかったら、話を聞いてくれるかい」
「……ああ」
かすれるような声だが、日向は肯定した。
日向の下宿は大学から近かった。
そこで話すことにした。




