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9名前を変えよう

 撫でまくられた後に、ようやく落ち着けたところで、俺はこの世界に来てからずっと気になっていたことを口に出す。


「三人共ちょっといいか?」

「どうしたの?」

 

 アメリアが返事をすると、すぐに三人は善吉の下に寄って来る。


「三人に確認しておきたいことがあって」

「急にどうしたのだ。旦那様」

「そうそれ。それだよ。キルラ」

「どういうこと?」

 

 その俺の言葉の意味が分からず、三人はきょとんとした表情で俺を見る。


「それとは何だ?」

「俺ってさ。みんなからしたら許嫁だろ。だから旦那様って呼んでいると思うけど、他にも呼び方とかなかったのかなって」

「それは、旦那様って呼ばれることが嫌だったの?」

「アメリア。そういうこととじゃないよ。ただ、気になっただけで…………」

 

 俺の話を聞き終えた三人は、神妙な顔で静かになったまま俺を見続けた。


 その無言の視線に耐え切れず俺が、声を出そうすると先に当然のようにキルラが言う。


「それは旦那様って言えばとりあえずいいかなって、ことで決めていたからだ」

「………………はい?」

 

 その言葉を理解出来なかった俺は、思わず声を漏らす。


「この世界に来てから旦那様が起きる前に三人で話し合った結果、一番呼ぶのにふさわしく、間違いがないと思われる呼び方こそが旦那様だったのだ」

「候補は他にもあった」

「そうだよね。あたし的にはぜんくんとかぜっちゃん。とかが、愛嬌があっていいと思ったけど、会ってすぐにそんな呼び方をしたら馴れ馴れしいってなってね。それで馴れるまでは旦那様にしようってことになったんだ」

「あ…………そうなんだ」

 

 別にぜんくんでもぜっちゃんでも好きに呼んでくれていいのだが、意外とすんなりと話をされるので俺も戸惑う。


「それとも旦那様は、なにか希望があった?」

「うーん。そう言われてもなぁ。まさか異世界に来たら許嫁がいるなんて、考えてもいなかったから」

 

 でも、このまま三人に旦那様と言われ続けるのもどうだろうか。

 

 ならば、ここで一つ聞いてみよう。


「その……三人はどうしたい?」

「それは旦那様以外で呼ぶとしたら、ということかな?」

「そうなるな」

「うーん。それなら二人共こっちに来て」

 

 アメリアは俺に聞こえないようにするために、二人を集めて耳打ちする。


「善吉君もやっぱり違和感があるみたい。でも、旦那様って言うようにするのはお母さんから言われていることだし、どうすればいいと思う」

「私は今後に関わるから賛成だ。それに善吉も違和感があるなら、早めに取り除いてあげた方が楽だろう」

「キュンも一緒。おっけ」

「わかった。二人もそう言ってくれるなら、私もそうする」

 

 アメリアがキルラとキュンティアを呼んでから、そのまま部屋の隅で静かに話し合いを続け、善吉はその三人を遠目で眺めながら待つことにした。



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