98、スチーム星 〜ポーションの行商人のフリ?
後書きに、更新連絡を追記しました。【11月10日、11日、14日】
ジャックさんの言葉の意図がわからない。
「未来人だからって何よ!?」
サラマンドラの魔王サラドラさんの声が、少し大きくなる。
「サラドラさん、叫ばないでくださいっす。ゆるい阻害認識バリアを張ってるっすけど、声は通り抜けるっすよ」
ジャックさんは、何かを指差している。天井に近い高さを何かが飛んでいるのが見えた。偵察の魔道具かもしれない。
「魔王マーテルの眷属さんが、俺達をここに連れて来たことにするんすよ。未来人だと強調すれば、この多重結界をすり抜ける転移ができることも、不思議じゃないっすよ」
(まぁ、そうかもしれない)
だけど、魔王マーテルさんの眷属の彼は、戸惑っているようだ。マーテルさんの知識の一部はあるみたいだけど。
「なぜ連れてきたのかと言われませんか?」
(だよね、逆に彼が責められるかも)
「ライトさんっすよ? この時代には居ないけど、伝説のポーション屋っすから、行商に決まってるっす」
(はい?)
「ジャック! こんなに、ちっこいポーション屋なんて、怪しまれるわよっ」
「サラドラさんの方が、ちっこいっすよ?」
「あたしは、魔王サラドラ……じゃなくて、名探偵サラドラちゃんだからいいのっ」
(意味がわからない)
なぜか、両手を腰に当てて、ふんぞり返っていらっしゃる。赤いワンピースからの白いかぼちゃパンツのチラ見せも、相変わらず完璧だ。
「俺達は、他の星から来た未来人なんすよ? 見た目と年齢は合致しなくていいんす。俺達は、行商団ってことで」
「じゃあ、あたしが名探偵担当で、ノームの魔王は穴掘り担当、ジャックとレンフォードが護衛担当で、シャインはポーション屋見習い担当ねっ」
(魔王ふたりの担当が、意味不明だな)
ノームの魔王ノムさんは、つっこむ気もないのか、冷たい視線を向けている。
「サラドラさんとノムさんの担当は、魔力系の護衛担当でいいんじゃないっすか? 他の星から来た未来人なら、武闘系も魔導系も……」
「ちょっと、ジャック! あたしは、名探偵担当なのっ」
魔王サラドラさんが叫んだことで、偵察機のような魔道具が、近づいてくる。
「叫ぶなと言われただろ、バカか」
魔王ノムさんが、低い声で呟いた。
(なんだか、二人、面白いかも)
魔王サラドラさんは、思わず反論しそうになった口を、自分の手で押さえている。
(女神様と、似てるよな)
妖精族って、みんな、女神様に似ているのかもしれない。うるさくてたまらないね。でも、明るいムードメーカーだ。
ジャックさんは、半笑いで、認識阻害のバリアを解除したみたいだ。
偵察機っぽい魔道具が、急接近してくる。
『ナニモノダ! ナニモノダ! シンニュウシャ、ハッケン!』
「マーテルの眷属ちゃん、あの魔物をなんとかしなさいよっ」
機械のような魔道具は、魔王の目には魔物に映るのかな。
赤いワンピースの少女に、背中を押され、彼は戸惑いの表情を浮かべている。
『ナニモノダ! ナッ? ナヌ? コウゲキジュンビ、カイジョ! カイジョ、カイジョ』
集まって来ていた偵察機みたいな魔道具は、クルクルと回転しながら光っている。
(住人を呼んでいるのかな)
「あの魔物は、眷属ちゃんを見たら、目を回したよっ。眷属ちゃんの魅了?」
「い、いえ。たぶん、通信をしているのかと」
「サラドラさん、彼の名前は、眷属ちゃんじゃないと思うっすよ?」
「ジャック! いちいち名前は覚えてらんないよっ。眷属ちゃんでいいじゃない。かわいいもん」
(はい? けんぞくの何がかわいいんだろう?)
「ふん、サラドラは、バカだからな」
「穴掘り担当、何か言った?」
魔王サラドラさんに言い返されると、魔王ノムさんは面倒くさいなるのか、無視するんだよね。
だけど、彼が黙ったことで、赤いワンピースの少女は、勝ち誇ったような笑顔だ。
(あはは、やはり面白い)
しばらくすると、この場所の住人らしき人達が現れた。だけど、その姿は、竜人だ。頭は、完全に竜だな。身体は、服でわからないけど、二足歩行の人型だ。
「白き竜か……なぜ戻ってきた? 狙われ、殺されるだけだ」
竜人達は、僕達のことなど見えていないのか、マーテルさんの眷属の彼だけに視線が向けられている。
「眷属ちゃん、言っちゃいなさいっ」
魔王サラドラさんが、彼を突いている。サラドラさんが話す方がいいんじゃないの? いや、でも、それならジャックさん……。
「キミ達が、エサにされていることを知った。俺達は、この時代の者ではない。時を越えてやってきた」
マーテルさんの眷属の彼は、静かにそう話した。
「まさか、そのような神のごとき技を……」
「キミ達のチカラは、俺にはわからない。俺が暮らす星には、多くの神々が住んでいる。俺は、いや、俺の主人は、そんな神々が悪さをしないように見張る役割をいただいている」
(何の話? マーテルさん?)
「そうか、神スチーム様の判断は正しかった。白き竜を外に放てば、きっと、どこかの星に定住し、そして我らを迎えに来るとな」
竜人達は、何か祈りのポーズをしている。
(彼らが、神スチーム様を生み出したのかな)
竜の願いから生まれた思念だけの神だもんね。
だけど、竜人を迎えに来たわけではないんだよな。連れて行ってしまうと、この国の住人が……。
あっ、もしかして、巨大なロボットみたいな住人に変わったのは、僕達が彼らをイロハカルティア星に連れて行くからなのかな。
(誘拐じゃない?)
「迎えでは、ないっすよ。貴方達は、神スチームを捨てるつもりっすか?」
ジャックさんが、少し強い口調でそんなことを言った。竜人達の鋭い視線が、こちらに向いた。
「そうだな、もし、おまえらを連れ帰ることになったら、その後の世話が大変だ。その姿からして、地底に住むことになるだろうが、ふっ、放っておくと一瞬で絶滅するだろう」
ノームの魔王ノムさんが、めちゃくちゃなことを言っている。竜人達が怒ってるじゃないか。
「では、何をしに来た!? 我々をあざ笑うためか!」
竜人の一人が、持っていた槍のような武器を、ノームの魔王に向けた。
(ま、まずいんじゃないの?)
だけど、ノームの魔王は、ふふんと鼻で笑っているんだ。
「ワシに武器を向けているつもりか?」
ノームの魔王の挑発に、カチンときた竜人は、威嚇するかのように、武器を振った。
バキッ!
彼に当たっていないのに、槍のような武器は、ポキリと折れてしまった。
(な、何?)
「ふん、ガードも見えていないようだな。言っておくが、ワシは、この中で、ソイツの次に弱いぞ」
ノームの魔王は、何か意図があるのだろうか。いや、でも、もしかして、事実かも。
マーテルさんの眷属の彼は、力がわからないけど、魔王ノムさんの方が上な気がする。
ということは、シャインは強いんだ。レンフォードさんは、警備隊の所長だから、強いだろうと思ってたけど。
「ノムさん、魔王の悪い癖っすね。力比べは必要ないっすよ。スチーム星の住人の皆さん、俺達は、ポーションの行商に来たっす」
ジャックさんが、頃合いを見計らって、話しかけた。槍みたいな武器が折れたことで、竜人達は、引きつっているんだよね。
「行商とは? ポー……なんだ?」
(あれ? 話が通じない)
「行商人は、品物を売り歩く商人っすよ。ポーションは、怪我を治したり体力を回復する薬っす」
ジャックさんの説明に、竜人達は、呆然としているようだ。この星には、商人はいないのかな。
苦笑いを浮かべつつ、ジャックさんは再び口を開く。
「この集落の長に、行商の許可をもらいたいんすけど」
「乗っ取るということか!?」
「違うっすよ。俺達は、交易に来たっす。用事が済んだら、帰るっすよ。こんな過去の星に興味はないっす」
(未来人だと強調してる?)
「どうした? 救難信号などを出して」
数人の男性が転移してきた。普通の人族に見える。
「白き竜と共に来た者が……」
「なぜ、この場所に、結界を破らずに入ってきた?」
「別の時代から来たと……」
彼らが話しているのを聞き流し、退屈そうにしていたシャインを見たひとりが、アッと叫んだ。いや、違う。僕を見て叫んだのかな。
「シャインじゃん! どこにいたんだよ。ルシアさんが心配していたぞ」
(えっ? ルシア?)
シャインが、ピクッと驚いて顔をあげた。
「あ、あれ? シャインが二人いる」
なぜか、僕とシャインの見分けがついていないらしい。
僕は、ジャックさんの方をチラッと見た。彼は、勢いよく頷いている。
「当たりっすね。それに、奴隷にされているわけでもなさそうっす。じゃ、正直にぶっちゃける方がいいっすよ」
ジャックさんは、僕に話せと言っているのかな。
「ちょっと、あんた! イロハカルティア星の子ね? なぜ、あたしのことがわからないのよっ」
僕の目の前で、いつもの決めポーズをする少女。
「は? 誰だ? 俺は、ハロイ島に……」
「あたしのことを知らないのっ!? 名探偵サラドラとは、あたしのことよっ。あーはっはっはっは」
【11月10日追記】
皆様、いつもありがとうございます♪
昨日夕方に接種したワクチン2回目の副反応がひどく、少し落ち着くまで、更新をお休みします。
急な連絡になり、申し訳ありません。
【11月11日追記】
今日もごめんなさい。更新できません。
土曜日か日曜日から再開できると思います。
よろしくお願いします。
【11月14日追記】
ごめんなさい。画面を見ていられない変な頭痛がまだおさまらず、今日は更新できません。
この他の副反応は、モデルナアーム以外はだいたい消えてきたので、火曜日くらいから更新を再開予定です。
大変お待たせしていて、申し訳ありません。
よろしくお願いします。




