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97、スチーム星 〜竜の願いから生まれた神

 僕はいま、ツルツルの壁のトンネル内を歩いている。ノームの魔王ノムさんが、こんな風に作ったらしい。


 魔王サラドラさんが、本来のサラマンドラの姿で、僕達を先導している。炎をまとうトカゲだから、たいまつの代わりかな。


 ノームの魔王は、こうなることがわかっていて、ツルツルの壁にしたのかな。魔王サラドラさんの炎の明るさが、壁に反射して、トンネル内全体が明るく、とても歩きやすい。


 この二人って、仲が悪そうに見えるけど、やはり互いのことを、よく理解しているよね。


 そして、トンネルの突き当たりが見えた。



「ライトさん、この先っす。神族の『眼』の力を使っても、透視できないっす」


 ジャックさんがそう話すと、サラドラさんが赤いワンピース姿に変わった。辺りが真っ暗になる。


「おい、おまえは灯り係だろう。何をしている」


 ノームの魔王ノムさんが怒鳴ったけど、たぶん、魔王サラドラさんは知らんぷりだ。真っ暗で見えないけど。


「結界の謎は、名探偵サラドラに任せなさいっ!」


 たぶん、決めポーズをしているのだと思う。やはり、真っ暗で何も見えない。『眼』の力を使ってもいいけど……あれ?


 暗闇に目が慣れてくると、突き当たりの壁に、不思議なマナの光が見えた。これが多重結界ってことかな。




 僕は、指先から小さな火を出した。ライターみたいな小さな火だけど、トンネル内に、視界が戻ってくる。


 すると、決めポーズをキープしたままの赤いワンピースの少女と目が合った。なんだか自慢げな表情だ。


(あっ、わざと、暗闇にしたのかな)


「魔王サラドラさん、壁にマナの流れが見えましたよ。これを知らせるために、暗闇にしたんですね」


 すると、彼女はキョトンとしている。


「ライトさん、魔王サラドラは、何も考えてないっすよ。だけど、俺も一瞬、嫌なマナの流れが見えたっす。さっき来たときは、気づかなかったんすけど」


「強い光を突然消したから、マナの流れの残像が残ったのだ。やはり、壁には罠が仕掛けられているようだな。ここで止めて正解だった」


 ノームの魔王は、胸を撫で下ろしている。彼にも察知できない罠があるのかな。



「あたしが、解決してあげるわっ! だけど……これって性格の悪い感じよね。あたしがぶち破ると、何かが起こりそう」


 魔王サラドラさんはこれを破れるのか。炎で溶かすのかな? だけど、性格悪い感じって何だろう?



「神スチームの結界と、魔道具の結界、さらに、魔法での結界バリアが重ねられているようですね。それを妙な何かがまとめている。これは……」


 レンフォードさんは、何かの魔道具を操作して、壁の結界を分析しているみたいだ。そして、マーテルさんの眷属の彼の方をチラッと見た。


(なぜ、マーテルさんの眷属の彼を見るのかな)



「竜の結界です。これは破るわけにはいきません。破ると、術者の命が奪われます」


 マーテルさんの眷属の彼が、強い口調でそう言った。


(えっ? なぜ、そんなことがわかるの?)



「なるほど、やはり、マーテルさんはこの星の生まれだったんだね。そして、神スチームは、実体なき思念体かな」


 レンフォードさんが、そう言うと、ジャックさんは頷いている。実体がない? いや、タイムトラベル前に、会ったじゃないか。


 マーテルさんの眷属の彼は、何か迷っているのか、言葉を探しているのか、口を開こうとしては閉じている。


 僕達を見回し、意を決したように口を開く。


「神スチームは、竜の願いから生み出された神のようです。そして、その形なき神は、竜のすみかとなる星を作り出した。星の命は神と繋がります。実体のない神が作る星は、無機質な物になる。だから、星全体に、様々な魔道具を仕込んでいるようです」


(竜の願いの神?)


 マーテルさんの眷属の彼の言葉に、魔王二人も頷いている。理解できていないのは、僕とシャインだけなのかもしれない。



「魔法を禁じているのも、そのためっすね。魔法を発動する大きなマナの流れが魔道具の障害になるっす」


「ジャック、この時代は、まだ魔法を禁じてないわよっ。まだ、神スチームは、きっとわかってないんだよっ」


 赤いワンピースの少女は、ビシッとジャックさんを指差している。


「そうだな。まだ未熟なようだ。神スチームは、生まれてから、まだ、それほど長くはないのだろう」


 ノームの魔王が、サラドラさんに同意している!


「実体のない思念体の神は、少なくないっすけど、願いから生まれた神は珍しいっすね。この時代では、神スチームは、失敗ばかりしているっす。確かに未熟な神っすね」


「だから、青の星系に取り込まれたのよっ。中立なら、近くの中立の神が、手助けしてくれたかもしれないのに、焦ったのね」


(話が難しいな)


 神スチームが、若いことは理解できた。だから、カースが叱ったのかな。


 でも、この時代の住人が竜なら、スチーム星で会ったロボットみたいな巨大すぎる巨人は、何なんだろう? 


 あっ、もしかして、竜が喰われて絶滅するのかな。


 あのロボットみたいな住人は、外から転移事故で落ちてきて棲みついた種族なのかもしれない。


 僕は、神スチームが、いろいろと反省していたことを思い出した。でも、自分を生み出した種族が絶滅しても、神は存在し続けることができるのかな?


(竜の願いから生まれたなら……)




「ライト、ちょ、また聞いてないね」


 レンフォードさんに、ゆさゆさと揺らされて、ハッとした。


「えっと、なんでしたっけ?」


「ライトさんが、運べるのは何人っすか?」


(ジャックさんは、何を言ってるんだ?)


「どこに何を運ぶんですか?」


「あはは、そこから聞いてなかったのか。ライトなら、この壁を通り抜けられるだろう? 俺達を連れて行ってよ」


 レンフォードさんは、何を……あっ、そうか。霊体化して、壁を通るのかな。


「今までは、一人しか霊体化させたことはないです。姿は完全には消えないから、壁の先に人が居たら、見つかります」


「ライト、その心配はないよ。ここに罠が仕掛けられているなら、隠れている人が巻き添えにならないように、壁から離れているはずだ」


「全員は、無理っすね。3回に分けるっすよ」


 ジャックさんは、僕の右手を握った。左手にはライターのような火があるんだよね。


「サラドラさん、明かりをお願いするっす。ライトさん、シャインくんと、もう一方の手を繋いでくださいっす」


 魔王サラドラさんが、手に炎を出した。


(ちょ、その方が明るいじゃん)



 僕は、シャインと手を繋ぎ、霊体化! を念じた。


 うん、ジャックさんもシャインも、壊れたテレビ画面のように変な感じになっている。



「じゃあ、行きますね」


 僕は、ふわふわと、壁を通り抜ける。ジャックさんもシャインも、騒がないんだよね。半分霊体化したことがあるのかな。



 壁の向こう側は、明るかった。背の高い草が生い茂っている。地下なのに、なんだか地上みたいだ。


 霊体化を解除すると、ジャックさんは、無言で合図をしてきた。あとの4人を連れて来いってことだよね?


 僕は再び霊体化! を念じた。そして壁の向こう側へと戻っていく。



「向こう側は、どうだった?」


「なんだか、昼間みたいな感じです。とりあえず、順に運びますね」


 僕は、まず魔王二人、そして、レンフォードさんとマーテルさんの眷属の彼を運んだ。


 魔王二人は面白がっていたけど、マーテルさんの眷属の彼は、半分霊体化することに抵抗があったみたいだ。


(だよね、幽霊だもんな)



 ◇◇◇



 背の高い草むらの中で、ジャックさんは、動かないようにと、合図をしてきた。


(僕達は、侵入者だもんな)


 誰も声を発しない。辺りの様子を探っているようだ。


 僕も『眼』の力を使って、見回してみる。


 地下なのにこんなに明るいのは、魔道具かな。空というか天井に、自然光のような光を放つ照明の魔道具が並んでいる。


 この地下空洞は、かなり広いようだ。



「ライトさん、ここで当たりっすね」


 ジャックさんが小声で囁いた。


「僕の娘も、ここにいますか」


 シャインと双子の娘ルシアだ。シャインとは違って、人族の血が濃いから、見た目は大人だと思う。もしかすると、老婆かもしれないな。シャインは80代なんだから。


「ルシアさんの姿は、見つけられていないっす。一ヶ所に固まっているわけでもないみたいっすよ」


(かなり広い空洞だもんな)



「ちょっと、ジャック、どうやって入り込むつもり? 怪しまれると、遭難者が危険になるよっ」


 魔王サラドラさんの言葉は、一瞬、理解できなかった。だけど、そうか、ここでの遭難者の扱いがわからないもんな。


 竜を助けているかもしれないというのは、あくまでも予測だ。



「ここは、ストレートに行くっすよ。魔王マーテルの眷属さんは、この星の住人の子孫に見えるっすよね」


「だからって、何をしに来た? ってことになるよっ。しかも、どこから入り込んだか探られるよっ」


「俺達は未来人っすよ? ね、ライトさん」


(うん? だから何?)



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