96、スチーム星 〜ドラゴン族マーテルの故郷
大きな岩の上から、周りを見回していると、レンフォードさんが、無口な男性を支えながら、こちらに歩いて来るのが見えた。
その前には、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように歩く赤いワンピースの少女の姿も見える。
(無事だったんだ、よかった)
僕が見ていることに気づくと、魔王サラドラさんは、タタタと駆け寄ってきた。そして岩の下から見上げ、僕をビシッと指さす。
「やっぱり、ここに置いておいたから、起きたわねっ。名探偵サラドラに解けない謎はないわっ」
(いや、目覚めたのは岩の上じゃないよ)
だけど、シャインが慌ててここに僕を案内したんだっけ。言わない方がいいか。
「サラドラさん、その人は大丈夫だったんですか」
「大丈夫じゃないよ。ライトの、ハーブの匂いのポーションを使っただけだもん」
(10%ポーションで効かないの?)
ドラゴン族のマーテルさんの眷属の彼は、マーテルさんから離れていることで、エネルギーの供給が届かないんだよね。
だけど、魔力は回復しすぎるとマズイんだっけ。マーテルさんは、眷属の魔力残量は10%以下にしていたみたいだもんな。
「怪我は治っているみたいですよ? 体力の回復をしますね」
僕は、大きな岩から、飛び降りた。着地時には、念のために、重力魔法を使っておいた。
(うん、足は大丈夫)
マーテルさんの眷属の彼は、なんだか顔色が悪い。僕は、彼の身体に、手を半分霊体化してスッと入れ、回復魔法を使った。
すると、顔色は少しマシになったように見える。モヒート風味のポーションを使ったのなら、体力は10%しか回復しないもんな。
彼は、ゲージサーチをしても、体力も魔力もわからない。リュックくんと同じく、ゲージがないんだ。
「顔色は、マシになったみたいですけど、どうですか?」
「大丈夫です。はぁ、俺は、何の役にも立たない……」
(あれ? どんよりしてる)
レンフォードさんの方を見てみると、なんだか複雑な表情をしている。何かあったのかな。
「マーテルの眷属ちゃんは、役に立ってるよ。竜の姿になんて、あたし変身できないもん」
(うん? 竜に変身?)
「俺は、ただのおとりにしか……」
「魔王マーテルの眷属は、彼女が魔王になるために働いたという誇りがあるんだよね。だけど、キミは眷属だよ? 魔王マーテルではない。最古の魔王サラドラさんと張り合う方がおかしいよ」
(張り合う? ケンカしたのかな)
レンフォードさんがそう言うと、マーテルさんの眷属の彼は、少し肩の力が抜けたみたいだ。
「でも、街の警備隊の所長でさえ……」
「俺は、長く生きているからだよ。通常時はライトを守る必要があったから、慣れているだけですよ」
(僕は、レンフォードさんに守られていたんだ)
「ライトさんの周りにいる人達は、なるほど、確かに」
何かを納得したような彼に、レンフォードさんは優しい笑みを向けている。話が見えないけど、まぁ、いっか。
「頑固な爺さんは、まだ戻ってきてないのね?」
魔王サラドラさんは、チラッとシャインを見上げ、そう呟いた。
「僕は、寝てたからわからないです」
「ここが集合場所だから、居ないということは、まだですよ。地下は、穴を掘って進まないといけないから、時間がかかるんじゃないかな」
レンフォードさんがそう話しているときに、少し離れた場所に、ジャックさんが現れた。ノームの魔王と一緒に、地下の調査をしていたんだよね?
「おい、誰が頑固な爺さんだ? お調子者のサラドラ。この星の住人は見つかったのか」
不機嫌そうなノームの魔王が、すぐ側に現れた。なんだかんだ言って、二人は互いに、心配しているような気もする。
「誰がお調子者ですって〜!? うん? お調子者って何?」
魔王サラドラの頭の上の花が、ピコピコと動いている。ほんと、この花が何よりの謎だよ。
「は? これだから、バカとは付き合っていられない。こっちは、見つけたぞ」
ノームの魔王は、サラドラさんを無視して、レンフォードさんに視線を向けた。近寄ってきたジャックさんも、つられるように、レンフォードさんの方を向いた。
「こちらも、だいたいわかりましたよ。彼が竜の姿に変わった直後に襲撃された。いま、この星の住人は、青の星系の人達の狩りの対象になっていますね。弱い神々も来るから、神殺しを狙った人も集まってきている」
(何? 突然、何の話?)
「やはり、そういうことっすか。そもそも神スチームの言動には、違和感があったんすよね。この時代が転換期っぽいっすね」
ジャックさんは、レンフォードさんの話に頷いている。ノームの魔王もジッと話を聞いているようだ。魔王サラドラさんは、シャインの様子を見に、岩の上に行ってしまったけど、たぶん話はわかってる。
(僕だけ、わからない)
「あの、僕、全く話がわからないんですけど」
「あはは、ライトさんは、寝てたっすからね〜」
(はい、すみません)
「ライト、説明するよ」
レンフォードさんは優しい。僕は、コクリと頷いた。
「俺達は、まず、神スチームに話を聞きに行ったんだ。この時代の神スチームにね」
「えっ? あ、はい」
「110年ほど時間を遡ったことがわかったよ。そして、転移事故で、ここに転移してしまった人達の居場所を尋ねたんだ」
(うん? 居場所?)
「その場所をサラドラさんが見つけたから、ここに魔道具でタイムトラベルして来たんですよね?」
「あぁ、そうだよ。だけど、この星は、とんでもなく巨大でね。場所を表す軸が示す範囲も広いんだ。俺の住むロバタージュがある王国側の大陸くらいの広さがある」
「えっ……大陸全体?」
「そうなんだ。魔王ノムと魔王サラドラが、再びゴーレムを作ってくれたんだけど、星全体に仕込まれた魔道具の干渉を受けてしまって、使えないんだ」
「星全体の魔道具?」
「神スチームだよ。住人を守るために考えたのだろうね。どこかで転移事故が起こると、魔道具がそれを捕捉して、この星に誘導するんだ。だから、様々な種族が空から落ちてくる。巨大な星だから、住人を隠すために、他の星からの遭難者で地上を埋め尽くそうと考えたらしい」
「はい? 住人を隠すために、誘拐してるのですか」
「まぁ、そうとも言えるね。強制的に捕まえてくるわけではないけどね。だけど、それでもやはり、青の星系の人達による狩りは、減らないみたいだ」
(うーむ、理解が追いつかない)
「スチーム星の住人は、なぜ青の星系の人に狙われているんですか?」
「それを調べに行ったんだよ。彼が竜の姿に変わった直後に、襲撃されることから、わかったんだ」
レンフォードさんは、マーテルさんの眷属の彼をチラッと見た。彼は、軽く頷いた。何か秘密があるのかな。
「ライト、たぶん魔王マーテルは、この星の生まれだ。彼女は、この時代より少し前に、星から逃げたみたいだけどね」
「えっ? 逃げた?」
「うん、神スチームが、狙われやすい特定の住人を、星から逃したようだ。青の星系から出るようにとね。だけど、特定の住人だけじゃなく、すべての住人が狩りの対象だったようだ。しかも、逆効果だったらしい。戦闘能力の高い白い竜を、星から遠ざけたからね」
(白い竜……マーテルさんは、白いのかな。だけど、竜?)
「レンフォードさん、この星の人は、ドラゴンじゃないですよ? 巨大すぎる巨人です」
「ライト、この時代のスチーム星の住人は、知性ある者はすべて、竜なんだ。ドラゴンとは少し違う細長いヘビのような種族だよ」
「竜なら、なぜ狙われるんですか? ドラゴン族って、魔族の中で、物理戦闘力は最強ですよね?」
すると、岩の上から、赤いワンピースの少女が飛び降りてきた。そして、ビシッと僕を指差している。
「ライト、竜の生き血を飲むと、魔力値が上がるらしいよっ。魔導系の青の星系の人達は、マーテルの眷属ちゃんを斬って舐めてたよっ。食べ物なんだよっ」
(げっ? 何、それ)
あー、だから、シャインを襲ってきた人達は、犬のような魔力のないモノには、用はないって言ってたんだ。
シャインは、犬じゃなくて狼なのに、違いが、わからないみたいだったよな。
「白い竜は、特に魔力が高いから狙われるみたいだよ。だけど、白い竜が居なくなると、他の色の竜も狙われ始めたらしい。だから住人は、地下に隠されている。たぶん、イロハカルティア星からの転移事故の被害者達は、そんな住人を守っているんじゃないかな」
「えっ? じゃあ、地下にいるんですか」
僕がそう尋ねると、レンフォードさんはジャックさんの方に視線を移した。
「地下に、特殊な結界のある場所を見つけたっす。『眼』の力さえ弾くっすよ。多重結界バリアっす」
そうか、だから、なかなか見つからなかったんだ。それを探し当てた魔王二人って、めちゃくちゃすごいな。
「みんな! シャインを起こして、出発だよっ!」
赤いワンピースの少女は、またビシッと僕を指差した。
(好きだね、決めポーズ)




