95、スチーム星 〜この時代の現状
シャインの駆けるスピードに、僕は必死でついて行った、見失いそうになったとき、水色の狼は、立ち止まった。
どうやら、大きな岩を目指していたらしい。もともと、少し離れた場所に見えていた岩なんだけどな。
「シャイン、めちゃくちゃ速いね」
「あっ、父さんを乗せて駆けるようにと、ジャックさんが言ってました」
それは、もう少し早く思い出してほしかった。まぁ、何とか見失わずに済んだけど。
だけど、その指摘はやめておこう。きっと、狼の姿でも、目が涙でいっぱいになるはずだ。
「その岩は、何?」
「ここで、待っていなさいって、言ってました」
「そっか……」
(なぜ走ったんだろう?)
単純に、見つけたから駆け出した、ってことかな。まだ、種族的に赤ん坊だから、仕方ない。見失わなくてよかったよ。
水色の狼は、高く跳躍し、大きな岩に飛び乗った。僕を見下ろして、なんだか楽しそうにしている。
(僕にも登ってこいってこと?)
この高さは、無理でしょ。仕方ないな。
僕は、霊体化! を念じ、ふわりと浮かび上がる。そして、岩の上で、解除した。
(うん、魔法は使ってない)
「父さん、綿菓子になったら、いつもと同じ大きさ?」
シャインが首を傾げて、不思議なことを言った。
「綿菓子?」
「あ……あぅ……」
うなだれる水色の狼。僕が知らないことを話してはいけないと、強く言い聞かされているんだな。
「僕の見た目が、綿菓子なんだっけ?」
そう尋ねると、シャインは明らかにホッとしている。
「はい。だから、ハロイ島の神族の街の名前は、ワタガシになったって、ティアちゃんが言ってました」
(あー、確か、僕は……)
「マリーさんから聞いたような気がするんだけど、僕がその街の長なんだっけ」
「はい、父さんは、街長です。星に移住してきた神々は、ハロイ島に多く住んでいるから、父さんを街長にしたって、ティアちゃんが言ってました」
(女神様は、ペラペラと……)
「そっか。その街に行けば、僕の記憶のカケラも見つかるかもしれないね」
「はい! あ、でも、父さんの記憶は、カースさんが何とかするって、ジャックさんが言ってました」
(あれ? なんだか、複雑な表情?)
シャインは、カースが苦手なのかな。それとも……。
「僕の記憶が戻ると、何か困るの?」
「えっ? いえ……」
(図星かな)
水色の狼は、しょんぼりと岩の上に伏せてしまった。そんな、息子の背を撫でる。ツヤツヤでモフモフだな。
すると、すぐに、シャインは眠ってしまった。
(よく寝る子だな)
だけど、お腹が減っているみたいだったよな。
僕は、岩の上から、『眼』のチカラを使って、あたりを眺めた。
◇◆◇◆◇
「ジャック、この先だな」
「そうっすね。一度、戻る方がいいっすね。ライトさんが起きたみたいっす」
地下の調査をしていたジャックとノームの魔王は、強い結界バリアを見つけ、互いに頷いた。
ジャックの神族の『眼』を使っても、その先はただの地層しか見えない。だが、明らかに、違和感のある魔力を感じた。
「ジャック、おそらく、アホのサラドラを連れて来ないと、この先へは進めない。様々な特別結界が重ねられている」
「ノムさん、俺の『眼』のチカラも弾かれるっすよ。ライトさんなら、霊体化してすり抜けることができると思うっす」
「転移事故の被害者に、そんな特殊な結界を張る能力を持つ者がいたのか?」
「うーむ、他の星からの侵略者も、転移事故に巻き込まれたかもしれないっすね。もしくは、この星の住人に捕らえられているのかもしれないっす」
ノームの魔王は、掘り進めてきた穴に、魔力を放った。すると、穴が押し広げられるようにして、広がっていく。
「一応、通路を一つ確保した。使わないようなら、すぐに潰すが……掘りながら進むのは、時間がかかるからな」
「あざっす。普通にトンネルになったっすね。避難に使うならありがたいっすけど……」
「心配はいらない。ワシは、用心深いのだ」
そう言うと、魔王ノムはニヤリと笑った。
「あー、罠を仕掛けてあるんすね? それなら安心っす。地上は、とんでもない状態っすからね」
「あぁ、スチーム星が、青の星系から抜けようとしているのだったな。まだ、黄の星系は誕生していないというのに」
「俺達は、100年前の神戦争より少し前の時代に、来てしまったっす。青の星系は、ダーラが覇権争いを激化させていた時代っすよ」
「アホのサラドラが調子に乗っていないか心配だ。戻るとしよう」
ノームの魔王は、特殊結界のある岩壁に目印をつけると、ジャックと共に、掘り進めたトンネルを戻り始めた。
◇◆◇◆◇
「ちょっと、あんた達! 少しは遠慮しなさいよっ」
「は? 弱き妖精は、引っ込んでいろ。この星は、狩り場だぜ?」
「その子は、あたしの知り合いの下僕なんだからねっ」
「狩り場に迷い込んだ不運を呪うんだな」
ドラゴン族の前魔王マーテルの眷属は、白い竜に姿を変えていた。
その身体は、襲撃者からの攻撃を避けきれず、あちこちから出血している。もはや、動くことも厳しい状態だった。
ドラゴンをかばうようにして前に立つのは、赤いワンピースの少女。頭の上の花がピコピコと、せわしなく動いている。
そして、その少女の横ではレンフォードが、あたりを警戒していた。
白い竜を狩ろうと、次々とハンターらしき者がやってくるようだ。
「あんた達は、ここで神狩りをしてるんでしょ。あっちの砂漠に青の神がいるよっ」
「力の弱い青の神より、白い竜の方が役に立つ。生き血を飲むだけで、こんなにも魔力が増幅されるのだからな」
「群れから離れた竜が悪いんだよ。俺達は、群れている竜は狩らない。神スチームが出てくるからな」
「しかも、そんな、サーチ対象外になるほど弱い妖精とは、ククッ、どこの星から流れてきた?」
「あんたねー、あたしのどこが弱いって言ってるのよっ。サーチできないのは、あたし達が……」
「サラドラさん、ダメですよ」
魔王サラドラの言葉をレンフォードが止めた。そして、彼は剣を抜いた。
「ガハハ、クッソ弱い奴まで、ヤル気か?」
隙があれば白い竜に近づき、その血を舐めようとする者、白い竜を狩ろうとする者、楽しそうに狩りを眺める者。
そんな者達が、3人の周りをぐるりと取り囲んでいる。
「おまえら、邪魔するなよ。他の星の住人を殺して、後から面倒なことになると困るんだ。どの星から来たか教えてくれたら、場合によっては殺してやるぜ」
「剣を抜いたってことは、赤の星系じゃないか? ここに流れてくるなら、たいした星からではない」
「そうだな、サーチ対象外の住人がいるような赤の星なら、その神も、簡単に狩れそうだぜ」
取り囲む者達は、それぞれ手に魔力を集めている。
「チカラ加減を間違えて、白い竜を消し炭にするなよ?」
「氷なら安心か」
「おまえの術は、可燃性のガスが溶け込むだろ。火がつくと、白い竜の肉が、焦げるじゃないか」
「火を使わなければいいだけだ」
魔王サラドラは、レンフォードに合図を送った。その直後、レンフォードは、自分と白い竜にバリアを張る。
そして……。
取り囲む者達が、一斉に魔力を放った。真っ白な氷の霧が、皆の視界を奪う。
「ははん、これで、カッチコチの氷漬けだぜ」
だが、次の瞬間、白い霧は、真っ赤な炎へと変わった。
「ギャアァァ、だ、誰が火をつけた!」
「消せ、消せ、消せ!」
襲撃者の一人が強い魔力を放ち、この付近だけに、強い雨を降らせる。
だが、炎は消えない。
「俺は、こんなに可燃性のガスは含めていない。火をつければ氷が溶ける程度のガスだ。大きな炎が広がるわけがない」
やがて、視界が戻ってくると、そこには、燃える炎をまとった小さなトカゲがいた。
「げっ? ドラゴンか? 竜の変異種か」
「火竜の子供じゃないのか。これは、貴重だ」
「だが、近寄れないぞ」
「あんた達、バカでしょ。燃えちゃいなさいっ」
サラマンドラの魔王サラドラは、一気に炎を広げる。
「ギャアァァ、白い竜に騙された。白い竜は、おとりだ!」
「逃げろ! 殺される。住人の逆襲だ」
取り囲んでいた者達は、次々と転移で逃げていった。
「サラドラさん、もう大丈夫みたいですよ」
「うん、わかってるよっ。ほんと、信じらんないよね、この星。あ、レンフォード、その子の治療をしてあげなさいっ」
「はい、とりあえずは、ライトさんのポーションで」
レンフォードは、小瓶を取り出し、白い竜に振りかけた。みるみるうちに、出血は止まり、傷は消えていく。
あたりには、ミントの香りが広がった。
「すみません、逆に迷惑をかけてしまいました」
うなだれる白い竜。
「マーテルの下僕ちゃん、だけど、あんたがその姿になった瞬間、襲撃されたんでしょ? 役に立ったよ。だよね? レンフォード」
魔王サラドラは、赤いワンピース姿に変わった。
「ええ。この星の状況がわかりました。集合場所に戻りましょう。ライトも起きたはずです」
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次回は、11月7日(日)に更新予定です。
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