93、スチーム星 〜神スチームの悩み
魔王サラドラさんが魔法袋から出した小屋の中で、僕は、適当に朝食を作った。
みんなが何を食べるかは、わからないから、いろいろと作ってみた。なんだか変な組み合わせになってしまったな。
だけど、シャインが、キラキラと輝く笑顔を見せている。以前の僕も、こんな感じで作っていたのかな。
「ライトの経営するバーの、朝食メニューが全部並んでる感じだね。食べてみたいと思っていた料理もある」
(えっ? バー?)
レンフォードさんも興味深そうだ。僕の店って、バーを経営していたの? 僕は、この世界で、念願のバーテンダーの夢を実現していたんだ。
どんな店なのか詳しく聞きたいけど……良くないよね。神スチーム様も、いらっしゃるもんな。
「バイキング形式にしてあります。ご自由にどうぞ」
僕がそう言うと、シャインが身を乗り出した。だけど、神スチーム様を優先する方がいいよね。
「シャインは、塩ダレがいるかな?」
「はい!」
「ちょっと待ってね」
「はい!」
(ふふっ、待てをしている犬みたいな顔だな)
だけど、先に他の人が、次々と料理を取ってくれるから、これでいいよね。
「はい、どうぞ」
「はい!」
塩ダレを作って渡すと、シャインは、バイキングに参戦していった。この調子だと、すぐに無くなりそうだ。
僕は、減っている料理を追加で作り始める。あぁ、そうか、こういうことをしていたのかな。
たぶん女神様も、バイキングに参戦していたような気がする。スイーツバイキングは、おとなげなく必死に我先にと食べていたような気がするんだよな。
記憶のカケラが現れたわけじゃないけど、普通に過ごしていれば、断片的に思い出すのかもしれない。
ということは、僕の記憶は、消えてしまっているわけじゃないのかな。
「どうぞ。ティアちゃ……じゃなくて、女神様は、いつもこれを食べていました」
(おぉ! シャインが!!)
神スチーム様に、料理を取り分けている。気が利く良い子に育っているんだ。僕は、ちょっと胸が熱くなった。
「へぇ、ありがとう。いただくよ」
神スチーム様は、不思議そうな顔で、ミニオムレツを眺めている。シャインは、自分の分には、ガッツリ塩ダレをかけているみたいだ。
肉が好きだと思ってたけど、シャインはオムレツも食べるみたいだ。まぁ、あのオムレツの中身は、ミンチ肉と玉ねぎだから、ハンバーグっぽいけどね。
「ティアち……女神様は、このトマトソースで、絵を描いて遊ぶんです」
(そう、なぜか日本の調味料が揃ってるんだよね)
「どうやって描くのかな?」
「こんな感じです」
シャインは、自分のオムレツに、ハートマークを書いている。あんなの、誰が教えたんだ?
「へぇ、面白いね。俺も、やってみよう」
神スチーム様は、ケチャップをブシャッと出してしまっている。力が強いんだな。そして、苦笑いだ。
「ティアちゃ……女神様も、最初はそんな感じで、ぶちまけてました」
「そうなんだね。女神イロハカルティアは、ティアちゃんと呼ばれているのかな」
「は、はい。地上にいるときは、猫耳の獣人の姿に化けていて、ティアちゃんと呼ばないと叱られるんです」
(あー、ちゃん呼びを強要してたよね)
神スチーム様は、一瞬、目を見開いたが、すぐに、やわらかな笑顔を浮かべた。
「住人に溶け込み、住人の心を知るためだね。彼女ほどの偉大な神が、そんな気さくな方法を使うとは驚いたよ。しかし、中立の星系の神は、そうあるべきなのだ」
(女神様のやり方は、強引だけどね)
シャインは、神スチーム様の言葉の意味がわからないのか、首を傾げている。5〜6歳児に見える80代の子だけど、種族的には、まだ1歳に満たない赤ん坊なんだっけ。
「ティアちゃんは、妖精族なので、なんだか子供みたいな感じなんです。たぶん、みんなと一緒に遊ぶのが楽しいんです」
(シャイン、わかってるじゃん)
すると、神スチーム様は、優しく頷いている。神様って、こうあるべきだよね。包み込むような優しさにあふれている。女神様とは、大違いなんだよね。
僕は、次々と料理を作っていく。しかし、みんな、めちゃくちゃ食べるよね。材料が無くなるまで食べる気だろうか。
魔王サラドラさんは、特に、シャインと張り合うかのように食べている。そういえば、夜はあまり食べてなかったっけ。
「そろそろ、デザートにしますよ? さすがにもうお腹いっぱいでしょ」
僕がそう言うと、魔王サラドラさんが、パッとこちらを向いた。なんだか、無茶振りするときの女神様みたいな顔を、してるんだよね。
「デザートなら、パフェがいいよ〜。だいぶ前に、イロハちゃんが、うんこモリモリって言ってたけど、何?」
(はい? うんこ?)
僕が首を傾げていると、ジャックさんが口を開く。
「ライトさん、巨大なパフェに、ソフトクリームを乗せたやつですよ。チビっ子が喜ぶから、ティアちゃんは、よく注文してたっす」
(あー、ソフトクリームを盛り盛りにするのかな)
「いや、アイスクリームの材料がないから、それはできないですよ。シャーベットならできるかな」
「チッ!」
(誰の舌打ちだ?)
赤いワンピースの少女かな。
「イロハちゃんが、10人で食べるパフェだと自慢していたのに……。材料が足りないなんて、あたしの調査不足だよ。また、ハロイ島に買い物に行かなきゃ」
(なるほど、女神様へのライバル心なんだ)
「魔王とは、上手く付き合えないと聞いていたけど、そんな風に仲良くしているんだな」
ポツリと、神スチーム様が呟いた。
「スチームちゃん、それは誤解よっ。イロハちゃんは、魔族の国へは、立ち入り禁止なの。大魔王とは、腹黒仲間みたいだけど」
(うわぁ、腹黒って言った)
魔王サラドラさんは、手をぶんぶん振って、否定している。威嚇のポーズかな? 女神様と似てるよね。
「あはは、なるほど。自治権か。だから、イロハカルティア星の魔王達は、こんなにも戦闘力が高いのだな。俺の星では、種族が異なっていても、すべては俺の指示に従う。その差が、これほどまでに大きな差になるのか。勉強になる」
(えっ? 勉強にならないでしょ)
「スチームちゃんの方が、イロハちゃんより、神っぽいよ。イロハちゃんが勉強しなきゃいけないと思うよっ」
魔王サラドラさんの言葉に、僕は、思いっきり頷いた。ポケ〜っとしているシャイン以外、全員同意しているかも。
ここに、魔王カイさんが居なくてよかった。彼は、熱狂的な女神信者だもんな。
適当にジュースや果物を、氷魔法を使ってシャーベット状にしていく。デザートができた頃には、バイキングの料理は、完全に無くなっていた。
神スチーム様が、ずっと考え込んでいるように思えて、ちょっと気になる。
どう考えても、神スチーム様の方が、神っぽい。だけど、星の防衛力で考えると……おそらくイロハカルティア星が圧勝だろうな。
魔法を使ってはいけないという制約があるから、住人の魔法技術は、あまり発展していないだろう。
青の星系の神々に攻め込まれたら、きっとこの星は、すぐに負けてしまう。神スチーム様は、機械を作り出す技術は優れていても……。
「ライトさん、キミの配下のカース殿に言われたよ。俺の考えは、甘すぎるとね」
「えっ? えーっと……どういうことですか」
(話を聞いて欲しいのかな)
「俺は、中立の星系の神々の中で、最も、魔道具に関する知識が高い。だから、転移事故の犠牲者をこの星に誘導することで、中立の星系の住人を守ってやっているという絶対的な自信がある」
「はい、元の星に戻してあげるのは、素晴らしいことだと思います」
僕は、お世辞ではなく、心からそう考えて言った言葉だけど、神スチーム様は、辛そうに笑ってるんだ。
「カース殿には、自己満足だと叱責されたよ。転移事故の多くは時空を越えてしまうことを、俺は知らなかった。次元の狭間に落ち、時を越えてしまった遭難者を救う力は、俺にはないのだ」
「でも、装置がありました」
「あぁ、タイムトラベルの魔道具は作れる。だが、俺自身が捜し、救出には行くわけにはいかない。この星に転移してくる赤や青の星系の者を、宇宙に放り出すことは俺にしかできないからな」
(あっ、神スチーム様が不在だと、侵略されるんだ)
「俺は、この世界から、神戦争を無くしたい。中立の黄の星系を創った女神イロハカルティアにも、それは難しいと言われたよ。だが、イロハカルティア星は、あれほどの神々からの攻撃を受けても撃退している。俺の星なら、あの百分の一の数で攻め込まれても、消滅する」
(何か、不安げだな)
「もしかして、ここが他の星系の神から狙われているのですか?」
「俺がいれば、転移事故なら排除できる。だが……」
神スチーム様は、言いにくそうだ。だけど、そっか。たぶん、宇宙へ放り出しているから、反感を買っていてもおかしくはない。
なんだか、重苦しい雰囲気に包まれた。




