85、迷宮 〜迷宮都市近くの休憩所へ
「ブルーくんを心配して、隠れてついて来てくれてるんじゃないの?」
「違うと思います。理由はわからないです」
後ろをチラッと確認すると、やはり、魔導士風なのに、ゲージは体力3本で魔力1本の、赤の星系の人っぽい男性がついてくる。
男の子の知り合いかもしれないらしい。男性は、変装しているから、はっきりとはわからないみたいだけど。
(だから、首を傾げていたのかな)
さっきから、男の子は何度も首を傾げている。すぐに忘れてしまうみたいだから、必死に思い出そうとしているのかもしれない。
休憩所を出てから、既に、かなり歩いている。
(どこにサクランドの大群がいるんだろ?)
男の子は、手を繋いで歩いていると、楽しそうだな。もう、後ろからついてくる魔導士風の男性のことは、気にしていないみたいだ。
チラッと振り返ると、やはり一定の距離を取りつつ、ついてくるんだよね。
僕は、『眼』のチカラを使って通路の先を『見て』みた。
(あれ? 数十体、いや百体近くいるかな?)
僕達の前方を、サクランドらしき魔物が歩いている。通路を塞いでいると聞いたけど、移動しているようだ。
(何かを追ってるのかな)
さらにその先を『見て』みると、僕達を突き飛ばして逃げていった人がいる。後ろを振り返りながら、必死に走っているみたいだ。
しかし、魔物の大群の移動速度は、たいして速くはない。僕達が歩いているスピードと、あまり変わらないかもしれない。
「ブルーくん、別に魔物が通路を塞いでいたわけじゃないみたいだね』
「うーん?」
(話が難しかったかな)
「もうすぐ、次の休憩所です。ごはん屋は、やってるかな」
「あはは、ごはん屋が営業してなくても、屋台みたいな店はあるかもね」
「はい!」
(めちゃくちゃ元気な返事だ)
男の子の歩くスピードが上がった。休憩所が近いのかもしれない。
通路の先を『見て』みると、サクランドの大群の先に、休憩所があるのが見えた。
(あっ、あの人が休憩所に入っていく)
そのためか、魔物の移動速度が上がった気がする。もしかして、サクランドは、次の休憩所を襲う気なのかもしれない。
外来の侵略者は、とことん、あの人を追わせる命令をしたのかな。ということは、数体の人の顔を持つサクランドの上位種のうち、少なくとも1体は生かしているんだ。
魔物の大群が休憩所を襲うと、店が壊されてしまいそうだ。そうなると、男の子は……。
(泣くよね、きっと)
だけど、この先の休憩所は、さっきの休憩所よりもかなり大きいみたいだ。それなら対策はできているかな。
休憩所付近では、転移してくる人が多い。もしかすると、休憩所には、転移誘導みたいなことがされているのかな。
さらに、先の方を『見て』みると、それほど魔力を込めなくても、大きな門が見える。あれが、迷宮都市だよな。
(だから、休憩所が大きいんだ)
迷宮都市に近い休憩所だから、きっと行き来する人も多いんだろうな。通路を向こうからこちらへと歩いている人もいる。
(うん? まずくないか)
まだまだ遠いけど、こちらに向かって歩いて来る人って、迷宮都市へ向かっている魔物の大群と、そのうち遭遇してしまうんじゃ……。
「ブルーくん、魔物の大群が休憩所に近づいているよ。大丈夫かな」
「うん、大丈夫」
(わかってないのかな)
男の子は、楽しそうに歩いているんだよね。
「あっ……」
突然、びっくりした表情を浮かべ、男の子は、僕と手を繋いだまま駆け出した。
(ちょ、速いな)
僕が遅れると、男の子は手を離した。
「ブルーくん、どうしたの?」
「怖がってる」
何のことか、わからないけど、僕は遅れすぎないように、必死に走った。
バァン!
何かの魔法が弾ける光が見えた。休憩所付近だ。
(あっ……交戦中だ)
魔物の大群を一掃しようと、休憩所から人が出てきたんだ。冒険者っぽい人が剣を抜いている。そして、魔物を次々と斬っているようだ。
そんなことをしたら、また、サクランドが集まって来るんじゃ……。
「やめてください!」
男の子が、叫んだ。人と関わることが苦手な子なのに、休憩所付近で剣を抜いている人達を、叱るように叫んだのだ。
彼らが対峙する場所に、僕もやっと追いついた。
「獣人の子供か。同じ系統か知らんが、こんなに集まった魔物は、狩るしかないんだ」
「集まっていたけど、もう帰るところです」
(そうなの?)
男の子は、魔物達と剣を持つ人達の間に、入り込んでいる。魔物を背にかばっているように見える。人の顔をした個体はいないみたいだ。
「このままだと、迷宮都市に向かっていくじゃないか」
「迷宮都市の近くには、他の通路がたくさんあるからです」
(あ、なるほど)
「獣人の子供には、理解できないだろう。邪魔をするな」
「サクランドは、迷宮を守っています。数を減らしすぎると、迷宮が崩れます」
男の子は、なんだか凛としている。それに、僕の知らないことを知っているんだよね。
「サクランドは、迷宮の害獣だ」
そう、強く言い返されても、男の子は、首を横に振っている。いつもなら、泣くよな?
(必死に守ろうとしてるんだ)
魔物は、何体も倒れている。だけど、人の顔をしていないということは、コイツらは人族を喰ってないんだよね。
「邪魔だ! 獣人、おまえも一緒に殺してやろうか」
(なっ? 何だって?)
僕は、気付くと、男の子の前に飛び出していた。
すると、剣を持つ人達が、一瞬、怯んだように見えた。だけど、頭に血がのぼっているのか、僕にも剣を向ける。
「オジサン、獣人差別をするんですか」
「は? 獣人は、もともと奴隷だぞ」
「坊やは危ないから、下がっていなさい」
よく見ると、剣を持つ人のうち一人は、獣人に見える。いや、魔族かな。僕を見て、こんな反応をするのは、僕がアンデッドだとわかるんだ。
「おい、さっさと片付けろよ、おまえら、護衛だろ」
剣を抜いた人達の後方には、高そうな服を着た若い男性がいる。一応、ゲージサーチをしておくと……この星の住人みたいだ。
「魔物をかばうつもりなら、キミ達にも……」
「おい、こっちの子は、魔族だ。狩るなら獣人だけにしておけ」
動こうとする男の子を、僕は制した。獣人差別主義な人達には、すべてを悪く解釈される。
「ブルーくんは、魔法が得意だよね? 魔物達の怪我を治せる?」
「はい、怪我なら……」
「じゃあ、こっちは僕に任せて、治療してあげて。まだ、死んでないでしょ」
「は、はい」
男の子が魔物達の方を向くと、背後から斬りつけようと、人族の護衛が動いた。
(リュックくん!)
僕の両手には、剣が現れた。だけど、また、鎧がないんだよね。リュックくんは何も話さない。まだ、回復できてないのかな。
キン!
僕は、男の子を狙った人の剣を受け止め、押し返した。すると、その護衛は、よろけてひっくり返っている。
(なんだ、弱いじゃん)
だから、リュックくんは鎧を出さなかったのかな。しかし、油断はできない。後方に受け流すと、魔物の群れに突っ込んでいくもんな。
ブワンと、僕の身体をバリアが覆った。男の子が、僕にバリアを張ってくれたみたいだ。
「ブルーくん、ありがとう」
そう言うと、男の子は少し照れたように微笑んだ。
「このガキ! 魔族だと言ったな。どこから剣を出した?」
「魔法袋だろ。速すぎて見えなかったが」
魔族っぽい護衛は、様子見かな。あとの二人が、僕に剣を向けている。
振りかぶった男に、風の刃を飛ばした。
猫耳の少女の真似だけど、意外に効くね。たいしたダメージは与えないけど、切り傷は痛そうだ。
「この、ガキ!」
さっき転んだ男が、僕に向かってきた。
(あっ、リュックくんの予告だ)
コイツは、僕を狙うフリをして、男の子に斬りかかろうとしている。
僕は、ダッと地を蹴り、その男の懐に入り込む。男が体勢を崩したところで、彼の剣を下から上へと弾き飛ばした。
その男の手をはなれた剣は、クルクルと回転しながら、休憩所の方へと飛んでいく。
「ヒッ!」
依頼者らしき若い男性の近くの看板に、剣が刺さった。
(コイツ、小者っぽい)
若い男性は、ビビったのか、自分で勝手にひっくり返っている。
「お、俺を殺そうとするとは……捕まえろ! 処刑だ!」
魔族っぽい護衛に、そう指示をしている。護衛は困った顔をしていたけど、剣を抜いて、僕に近寄ってきた。
「坊や、悪いな。こうなると仕方ない」
魔族っぽい護衛は、僕に剣を向けた。だけど、その目は戸惑っているようだ。
(どうしようかな)
「おい、そのへんにしといたれ!」
突然、とんでもない大声が聞こえた。思わず、ビクッとしてしまう。この声って……。
休憩所の方から、ダルそうに歩いてくる渋い中年の男性。
その姿を見て、僕を捕まえろと言っていた若い男の表情は、凍りついている。
「なにしとんねん? おまえ、どんだけワンコ好きなんや。ワンコまみれやないけ」
「はい?」
なぜか彼が……神族のタイガさんが現れた。
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金土お休み。
次回は、10月24日(日)に更新予定です。
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