80、迷宮 〜通路をふさぐ集落
迷宮の壁は予想以上に薄く、僕はすぐ向こう側の通路に、通り抜けてしまった。
今の僕は、透明化し霊体化しているから、その気配さえ察知されないはずだ。ふわふわと、通路を進んでいく。
霊体化していると、幽霊状態で飛んでいるから、イマイチ進むのが遅い。だけど、攻撃を受けることもないから、この方が楽だよね。
(あの壁もすり抜けなきゃ)
僕は、迷宮都市を目指して進む。僕が『眼』のチカラを使って見つけたのは、都市とは呼べないような集落だけど、迷宮都市の特徴はわからない。
(まさかのひとりぼっちだよね)
今の状況を考えてしまうと、また、泣きたくなってくる。幽霊が泣くと絶対こわいよね。泣いちゃだめだ。
(まぁ、見えないだろうけど)
たぶん、僕の声は聞こえるんだと思う。だからといって、迷宮を通る人を驚かしたりはしないけどね。
僕は風魔法を使うことを覚え、加速しながら、しばらく進んだ。
通路も壁も、何の抵抗もなく通り抜けることができるから、全然、迷宮って感じはしない。
そして僕は、集落に続く通路を見つけた。
ここで、霊体化を解除してもいいんだけど、もし、転移魔法陣を踏んでしまったら困るよね。
集落の入り口を目指して、僕はふわふわと飛んでいった。
「この集落は、獣人の立ち入りは、お断りだ!」
「でも、待ち合わせをしているんです」
(何か、もめている)
水色の髪の男の子が、集落に入ろうとして拒絶されているみたいだ。
(確かに獣人だな)
男の子の頭の上には、耳がついている。少しクセのある水色の髪は、とてもツヤツヤしていて触りたくなる。
(ダメだ、幽霊に触られたらトラウマになるよ)
僕は、霊体化を解除し、そして透明化を解除した。
「なっ? こんな場所に、転移だと?」
突然、現れた僕に、集落の入り口にいた人は、驚きで表情を引きつらせている。
(そこまで、ビビる?)
あー、そうか、ここは、人族の集落なのかな。迷宮都市は、ハーフや、いろいろな人が逃げ込むと聞いている。ということは、ここは、違うかな。
(一応、確認しておこう)
「あ、あの、すみません。ここは、迷宮都市ではないですよね?」
「あぁん? ここは、おまえみたいな子供の来る場所じゃないよ。それに、その戦闘力……魔族だな? いや、迷宮都市を探しているなら、ハーフか。なぜ、こんな場所に飛ばされたか知らないが、とっとと立ち去れ」
(子供には厳しい。でも、何か変だな)
なんだか見た目は魔族っぽいのに、なぜ、人族みたいな反応なのかな。魔族は子供には優しいのに。
すると、水色の髪の男の子が、パッと振り返った。その目には、涙がいっぱいたまっている。見た目は、5〜6歳に見える。獣人だから、年齢は、わからないけど。
(なんだか、保護欲をかきたてられる)
男の子は、僕をすがるような目で見てくる。犬系の獣人なのかな。とてもかわいらしい。頭を撫でたくなる。
でも今の僕は、この子と同じくらいの見た目だよな。友達として接する方がいいよね。
「ねぇ、キミ、ここで待ち合わせをしているの?」
「は、はい。通路の先の街で、待ち合わせをしています」
(礼儀正しい子だな)
「通路は、たくさんあったけど、この通路で間違いない?」
「はい、この通路を進むようにと言われました」
「警備隊の人に?」
「いえ、あ、警備隊の人……?」
男の子は、首を傾げている。獣人なら、警備隊を知らないのかもしれない。
僕は、男の子ともめていた男性に目を向けた。
「待ち合わせをしているみたいだから、集落に入れてあげてくださいよ。それが無理なら、この子と待ち合わせている人を、連れて来てください」
すると、その男は、怒ったのか、目を吊り上げている。こんな表情って……変だよな。
「ここで待ち合わせをするわけがない。その子供が道を間違えたのだろう。さっさと立ち去れ」
(やっぱり、変だな)
「貴方は、魔族なのに、なぜ僕達に、そんな言い方をするのですか」
「は? な、何を……」
(動揺してる? もしかして……)
僕は、ゲージサーチをしてみた。この星の住人なら、ゲージは、体力と魔力が1本ずつの合計2本だ。
だけど、目の前の男は、体力2本、魔力1本。
(やっぱり、外来の……神ではない気がするけど)
ここは、まさかの神々の隠れ集落なんだ。だから、立ち去れとうるさく言ってるんだな。
「この通路の先には、他に集落はないんですか」
僕がそう尋ねると、その男性は、チッと舌打ちした。
「おーい、子供を外に放り出せ」
その男がそう叫ぶと、集落の中から、魔物が出てきた。いや、違うかな。顔は黒い人間みたいだ。四足歩行なんだけど。
すると、僕をブワンとバリアが覆った。男の子が僕にバリアを張ってくれたみたいだ。
「ありがとう、どうしよっか。戦える?」
「はい、大丈夫です。たぶん、通路がこの集落に塞がれているんです。術者を見つけないと、本当の通路が現れません」
「そっか。じゃあ、術者を探そう」
僕達に襲い掛かってきた四足歩行の何かは、男の子が使った魔法で、地面にペチャリと、突っ伏した。重力魔法みたいだ。
(すごいな、この子)
「チッ! 使えないな」
その男は、剣を抜いた。まずい、僕は剣を持ってない。
(リュックくん!)
心の中で、そう叫ぶと、僕の手に剣が現れた。鎧は身につけてない。ちょ、これ、鎧も必要だよ。
そう文句を言っても、返事はない。何か、話せない事情があるのかな。
キン!
僕は、その男の剣を受け流した。
(子供の身体では、キツイ)
剣術は、体格差が大きく影響する。
リュックくんが、僕に奴の動きの予告を見せてきた。右側に回り込んで、叩き斬るような重い斬撃か。
僕は、右に飛び、奴の回り込むスペースを潰した。
そして、奴が振り下ろした剣をギリギリ避けると、がら空きになった背に、男の子が雷撃魔法を落とした。
(す、すごい)
その男は、地面に転がって、ピクピクしている。だけど、死んではいない。体力は大幅に削られて、ゲージはオレンジ色になっている。一撃で、半分以下に減らしたんだ。
「なんだ? 一体、これは」
「子供の襲撃者か」
わらわらと、人が出てきた。ゲージサーチをしてみると、やはり、みんな3本ある。
男の子は、何かを見つけたのか、突然、駆け出した。
(は、速い)
集落の中を人を避けながら、走っていく。
(放ってはおけない)
僕も、男の子の後を追った。リュックくんの鎧がないから、あまりスピードが出ない。だから、捕まりそうになったら、半分だけ霊体化した。
すると、みんな僕を通り抜けていくんだ。
しかし、半分でも霊体化すると、さらにスピードが落ちるから、調整が難しい。それに、この姿は、男の子には見せたくない。
(見られたら、絶対、泣くよな。気をつけよう)
パリン!
何かガラスのようなものが、割れる音がした。
男の子が、何かの術を使って、集落に飾られていた像の一部を壊したみたいだ。
ブワンと、見える景色が一瞬ゆがんだ。
「おまえ、何だ? まさか、神族の子供か」
男の子が捕まりそうになっている。だけど、必死に逃げているだけだ。外来の侵略者だとは知らずに、殺さないようにしているのかもしれない。
男の子が立ち止まり、やっと追いついた。
(どうしよう)
助っ人と合流してから、隠れた神々を狩ると言っていたよな。今はまだ、その時ではない。下手をすると、気づかれて、逃げられるおそれがある。
「僕達は、迷宮都市に行きたいだけです! 門にいた人が、勝手に勘違いしたんです」
僕は、子供らしく、ふくれっつらをしてみせた。
「なんだ、それでキーパーを壊したのか。それなら、そう言えばいいのに」
(キーパー? 像の一部のことらしいけど)
男の子は、駆け出したときとは違って、オドオドしている。僕は、彼の手を握った。小さな手だな。
(いや、僕もだけど)
「ふん、子供など要らん。あれこれと破壊されてはたまらんからな。キーパーを知っているなら、配下にした者の子供か。さっさと行け。おまえらが出るまで、キーパーは、直さないでおいてやる」
そう言い放った男に、他の奴らは従うようだ。この人は、神なのかもしれない。
「じゃ、行こう!」
僕は、男の子の手を引き、集落の外へと向かった。
(あれ? 違う)
集落の中から見える景色が、さっきとは、明らかに違う。壁の色も、暗く変わったし、何より、この集落の先に新たな通路が現れている。
そうか、何かの術を使って、この場所を隠しているんだ。その術を維持するためのものが、さっき壊したキーパーという何かなんだな。
その存在を知っていた男の子は、外来の子なのだろうか。
男の子のゲージサーチをしてみる。
(この星の子だ)
さっき、魔法を連発していたけど、全然魔力も減っていないみたいだ。
集落を出て、繋いでいた手を離すと、不安そうな顔をされた。見捨てると思ったのかな。
「通路の先の街へ、一緒に行こっか?」
「はい!」
男の子は、ふにゃりと笑った。
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次回は、10月17日(日)に更新予定です。
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