79、迷宮 〜転移魔法陣の通路
「あれ? ここは?」
迷宮都市にワープしたと思っていたのに、僕達は、薄暗いガランとした広い洞穴の中にいた。
上を見上げると、はるか遠くに明かりが見える。ここが、かなりの深さだということがわかる。
「ライト、ここは、さっきの場所の真下だよ。警備隊が、この出入り口を警備しているんだ」
レンフォードさんは、いつもよりも固い表情で、教えてくれた。彼の視線の先には、たくさんの警備隊の制服を着た人がいる。
ジャックさんは、なぜか僕の手を繋いだ。また、子供のフリをしなければならないのかな。
(まぁ、見た目も、子供だけど)
洞穴を少し進むと、たくさんの道に分かれているのが見えた。それぞれの道にも、その手前にも、警備隊の人達がいる。
「止まれ! 通行証を提示せよ」
(嫌な言い方だな)
偉い人なのかもしれないけど、めちゃくちゃ偉そうなんだよね。
レンフォードさんの知り合いではないようだ。さっき、上にいた人は知り合いだったみたいだけど。
「通行証は、持ってないです」
レンフォードさんは、上での態度とは違って、緊張したかのような固い表情だ。一般人のフリをしているのかな。
「足手まといな子供連れか。なぜ、上の奴らが通したんだ?」
(この人達は、子供に厳しい)
「ここに降りることができるなら、構わないと言っていました。なんだか、嫌な感じの人達でしたよ」
レンフォードさんは、語気を荒げて、文句を言っている。めちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしているけど……。
(いいのかな? 通してもらえないんじゃ)
「ふん、上の奴らは、いい気なものだ。仕事をする気がない。まぁ、仕事をする能力もない奴らだ。警備隊があんなのばかりだとは思わないでくれ」
(あれ? いいみたい)
「警備隊も、いろいろですね。あんな人達が上司なら、俺ならすぐに仕事をやめますね」
レンフォードさんは、さらに煽っている? だんだん、目の前の人達の機嫌が良くなってきたみたいだ。
ここにいる人達は、上にいた人達の部下なのかな。少し離れた場所にいる人達も、レンフォードさんの言葉に同意するかのように、頷いている。
「それで、三人で、どこへ行く? 子供連れでの迷宮探索は、許可証が必要だ。通行証もないということは、採掘か?」
(採掘って何だろう? 宝探し?)
「いえ、それは、誘導尋問ですか。採掘には、許可証が必要なはずです。俺達は、迷宮都市に行くつもりです」
すると、警備隊の人は、ニヤリと笑った。
「ふっ、採掘なら、あちらの通路に誘導してやるつもりだったが……ギルドのミッションか?」
指差された通路の方に目を向けると、柵がある。立ち入り禁止なのかな。『眼』のチカラを使ってその先を『見て』みると……細い通路の先には、暗く広い場所がある。なんか、人間ではない巨大なものが、ウロウロしている。
(魔物の巣になってる?)
「ギルドのミッションなら、通行証があるでしょう? いい加減にしてくださいよ。俺達がハーフだからって、なめてます?」
(うん? ハーフってなめられるの?)
「へぇ、やはり、三人ともハーフか。そっちの兄さんは人族かとも思ったが、戦闘力が人族の域を越えていると思っていたんだ。迷宮都市に逃げてきたか」
ジャックさんは、あちこちをキョロキョロして、聞こえないフリをしている。
警備隊の人の視線は、僕に向いた。えーっと……。とりあえず、僕は微笑んでおいた。目が合ってしまったもんな。
「その子供も、戦闘力が高いな。おまえが一番弱いんじゃないか?」
(いやいや、レンフォードさんの方が強いでしょ)
「もう、サーチは済みましたか」
レンフォードさんは、少しイラついたように、声を荒げた。
「あぁ、おまえらは、あちらから行け。通行証がないなら、真っ直ぐ迷宮都市に繋がる道は通れない」
僕達に許可された通路は、大きな広い通路だ。何の案内もなかったら、普通にここを通るよね。
「わかった」
そう言うと、レンフォードさんは、僕の左手を繋いで歩き始めた。右手は、ジャックさんが繋いでいる。
(やはり、子供のフリをしなきゃいけないんだな)
僕は、手を繋いだことを喜んでいるかのように、はしゃいでみせた。
「コラ! 騒がないの!」
(なぜか、叱られた)
しゅんとすると、二人とも、ケラケラと笑い出した。
広い通路を進んでいくと、二人は、同時に手を離した。
「ライト、集合場所はわかってるね?」
レンフォードさんが囁く。
「王宮都市のどこですか?」
「助っ人は、たぶん、ギルドにいるっすよ。ギルドは集合しにくいっすね」
「ギルドに伝言を残すことにしようか」
「それがいいっす」
二人は、なんだか、慌てて話を進めていく。だけど、別に何かが起こったわけではない。広い通路を歩いているだけだ。
少し先を歩いている人達が、消えた。
(えっ? あ、罠?)
僕は、『眼』のチカラを使ってみた。透視かな? でも、人が消えた付近には何もない。そして、僕達がその場所を通ったけど、何も起こらなかった。
「別に、何もないですよね?」
「ライト、出口がないんだよ」
「へ?」
「このまま進んでも、この道は迷宮都市には繋がってないんだ。人が消えたのは、突然現れる転移装置を踏んでしまうからなんだよ」
「えっ?」
「ライトさんは、転移酔いするかもしれないっす。あっ、でも、天使ちゃんは使っちゃダメっすよ」
「なぜですか」
「迷宮内の通路は、あちこちに、外来の奴らがいるっす。助っ人と合流する前に素性がバレると、逃げられるかもしれないっす」
(生首達って、有名なんだな)
そういえば、この上でも、神族だと言われたっけ。巨亀族の領地でも、生首達が現れたことで、僕がライトだとバレたんだよな。
「じゃあ、手を繋いでいる方がよくないですか?」
レンフォードさんに尋ねたつもりが、彼の姿はない。
「ライトさん、レンさんは今、消えたっすよ。転移魔法陣を乗り継いで、迷宮都市にたどり着くしかないっす。転移は、一人しかできないから、手を繋いでいると、手がちぎれるっすよ」
「手がちぎれる!? そんなこと……」
(あれ? ジャックさんもいない)
キョロキョロと見回してみても、二人の姿は見えない。
(う、嘘だろ)
なぜ、僕は転移しないんだろう。いや、転移魔法に酔うから、それも困るけど、この先は行き止まりなんだよな?
前を歩いていた人達も、次々と消えていく。
(うわぁあぁ、どうしよう)
悲しくなってきた。目から涙がこぼれる。
「ふぇぇん!!」
僕は、たまらなくなって、その場に座り込んだ。ダメだ。今の僕は、身体の年齢に引っ張られている。
「うわぁぁん!」
すると、前から来た人が近寄ってきてくれた。
「坊や、大丈夫かい? お母さんとはぐれてしまったのかい?」
(お母さんじゃないけど……説明するのも面倒だ)
僕は、とりあえず、コクコクと頷いた。
「困ったなぁ。転移魔法陣は、ひとりしか乗れないんだよ。どこに行くか、行き先はわかるかい?」
「迷宮都市です。ぐすっ」
「それは遠いね。この転移の通路ではなく、青い花が咲いている通路の先にあるんだ。あちこち、歩いてごらん」
「青い花?」
「あぁ、迷宮都市に通じる通路には、青い花が咲いている。見つけたら、その花を摘むんだ。そうすれば、転移魔法陣は作動しない」
「青い花を摘めば、転移しなくなるんですか」
「迷宮内に咲く花は、行き先を示す花なんだよ。何色の花を持っていても、転移魔法陣は作動しないよ」
「不思議な花なんですね……あっ」
親切に教えてくれていた人が、消えた。
(う、嘘っ)
再び、涙があふれてくる。
他の通行人も、次々と消えていくんだ。
(なぜ、僕は、転移魔法陣を踏まないんだ?)
焦った僕は、迷宮内を走った。
ジグザグに走ったり、横っ飛びをしたり、ノロノロと歩いたり……。
だけど、転移魔法陣は、現れない。
ぶわっと涙があふれ出す。
「うわぁあ〜ん!」
泣いていると、僕に近寄ろうとしてくれる人がいるんだけど……僕に、声をかけた直後に消えたりするんだ。
(どうしよう、どういうこと?)
もしかして、僕が転移酔いするからって、リュックくんが避けさせてる?
そう問いかけても、返事はない。だよね、念話って、神々には傍受されたりするんだっけ。
(もうダメだ)
この世の終わりのような、気分になる。
(いや、落ち着け!)
迷宮都市の場所がわかれば、その場所を目指していけるかな。僕は、霊体化すれば、壁をすり抜けることができる。
僕は『眼』のチカラを使って、迷宮都市を探し始めた。
(何か、見つけた!)
迷宮都市かは、わからないけど、集落のように見える。迷宮の中に、いくつもの集落があるのかもしれない。でも、探せた範囲には、あの集落しか見つからない。
僕は、透明化! を念じた。通行人はこれで、僕が転移したと思うだろう。
そして、霊体化! を念じる。透明化と霊体化を重ねていたら、気配も消せるはずだ。
僕は、壁の中へと、スーッと入っていった。




