78、ハデナ火山 〜迷宮の入り口
翌朝、僕達は、女子達が目覚める前に、ドラゴン族の城を出発した。とは言っても、猫耳の少女は眠っていなかったみたいだけど。
アマゾネスの王女デイジーさんとミューさんを、ドラゴン族の魔王マリーさんに預けに来たのに、なぜか宿泊させられたんだよな。
たぶん、デイジーさんを不安にさせないためなんだと思うけど、僕には説明してくれないから、わからない。
ジャックさんは、念話を使って打ち合わせをしていたらしい。まぁ、いいんだけどね。どうせ、僕が聞いても、わからない話だ。
僕達は、いつもとは違う出入り口に、生首達のワープで移動した。普通の門番もいるけど、大魔王様の配下がたくさんいるようだ。厳しい検問をしているみたいだ。
「なんだ? 地上の兵隊か」
大魔王様の配下が、警備隊の制服を着ているレンフォードさんに話しかけた。
僕は、なぜか、ジャックさんに手を繋がれている。子供らしくしているようにと言われたけど、その意味がよくわからないんだよね。
「ええ、ちょっと地底にお邪魔していましたよ」
レンフォードさんは、身分証らしき物も提示している。
「ロバタージュの警備隊? あぁ、その坊やが、穴に落ちたのか。地上生まれの死霊か」
「そうなんっすよ。この子が、ハデナの池に落ちて行方不明になってたんす」
(僕が、迷い子ってこと?)
「あぁ、ハデナへのルートは、正式な通路ではない。誰かが、こっそりと出入りしたのだな。そのせいで、こんな小さな子が、かわいそうに」
(やはり、魔族は子供には優しい)
「見つかったから、よかったっす。地底では、優しく保護してくれてたみたいっす」
ジャックさんは、めちゃくちゃペコペコしている。もともと、丁寧な人なんだけど、より一層、腰が低い感じだ。
「そうか、それは良かった。ハデナでの事故なら、確かに、ロバタージュの兵隊の管轄だな。ハーフか?」
レンフォードさんは、逆にクールなんだよね。ハーフかと問われても答えない。気に障ったフリをしているみたいだ。
そう尋ねた人は、苦い顔をしている。
「よし、では、ハデナに繋ぐ。坊や、もし、また地底に落ちてしまったら、門番の誰かにそう言うんだぞ」
僕は、コクリと頷いておいた。
「ふっ、素直な良い子だな。大人になったら、遊びにおいで。子供のうちは、特別な事情がない限り、地上と地底の往来は禁じられているからな」
(へぇ、そうなのか、知らなかった)
僕が、キョトンとしていたのだろうか。検問をしている人達は、クスリと笑った。ジャックさんは頷いている。よくわからないけど、これでいいのかな。
何もなかった壁に魔法陣が、現れた。
「ハデナ火山のふもとだ。坊やは、中腹にある休憩施設の池で落ちたのだろうが、あの場所へは繋げない」
「それで構いません。ふもとには、転移魔法陣がありますから」
レンフォードさんがそう言うと、検問の人達は頷いた。
僕は、ジャックさんに手を引かれ、魔法陣に近寄っていく。そしてレンフォードさんが、それに触れると、壁の先には草原が見えた。
そのまま手を引かれて、僕は壁を通り抜けて、地上へと戻った。
(転移ではないんだ)
僕達が通り抜けると、魔法陣は消えた。その直前、振り返ったとき、検問の人達が、手を振っているのが見えた。
(子供には、優しい)
◇◇◇
「暑いっすね」
「ハデナだからね。俺、ちょっと着替えます」
レンフォードさんは、警備隊の制服を脱ぎ、軽装に着替えている。
「ジャックさん、いつもと違う出入り口でしたけど……」
「あぁ、検問している出入り口は、地上の行きたい場所に繋いでくれるんすよ。いま、ハデナは、転移とワープを完全にサーチする結界が張られてるっす」
「結界ですか?」
「そうっす。術者を殺さないと消せないっす。サーチ結界を通るすべての人についての情報が、迷宮にいる奴らに知られるっす」
「外来の神ですね」
ジャックさんは、頷いた。
そうか、だから検問のある出入り口を使ったんだ。転移もワープもしていない。地底から、出てきただけだもんな。
「ライト、すぐ近くに、迷宮への巨大な入り口があるんだ。入ってすぐの広場は、警備隊が固めている」
レンフォードさんも、迷宮をよく知っているみたいだ。
「警備隊が? 迷宮には、神々が隠れているんですよね?」
「あぁ、隠れているみたいだな。だけど、迷宮には都市があるんだ。主にハーフが住んでいる。だから警備隊が、出入り口のひとつを常に警備しているんだ」
(迷宮都市!? なんか魅惑的な響き)
「じゃあ、そこには、神々は居ないんですね」
「それが、わからないんだ。だから、まずは迷宮都市に行く。迷宮は、どんどん広がってしまったから、かなり広いんだ。いろいろな罠もあるから気をつけて」
「えっ? 罠?」
「俺達は、罠を探知する魔道具がないと、迷宮内は歩けない。ライトは、見えると思うけど」
(見える? あ、神族の『眼』かな)
チラッとジャックさんを見て、自分の目を指差してみると、頷いてくれた。『眼』のチカラで合ってるんだ。
「もし、万が一、はぐれてしまったら、迷宮都市で集合することにしておくっす。助っ人も、迷宮都市で合流予定っすから」
二人とも、僕の方を見てるんだよね。いやいや、はぐれないし。そもそも、僕は見た目通りの子供ではない。たまに、体年齢に、感覚が引っ張られることはあるけど。
「さぁて、着いたっすよ。迷宮都市で助っ人と合流したら、狩りの開始っす。赤の神が多いかもしれないから、気をつけるっすよ」
ジャックさんは、大きく地面が割れている場所で、立ち止まった。警備隊の制服を着た人が数人いる。
(赤の神って、何だっけ?)
僕が首を傾げたのか、ジャックさんは苦笑いだ。レンフォードさんは、警備隊の人達の方へと行ってしまったんだよな。
「周辺の見回り所長が、何の用だ?」
突然の大声に、僕はピクリとした。警備隊の人が、レンフォードさんを威圧的に怒鳴ったんだ。
「小さな子供が一緒なので、声を荒げないでもらえますか」
レンフォードの声色は冷たい。一切の感情がないような話し方だ。
「はん、また、どこかでハーフを見つけたか。ハーフは、ハーフ同士で慰め合いたいらしいな」
(何、この人)
すると、ジャックさんが、僕に小声で教えてくれた。
「警備隊は、王都勤めのエリートは、あんな感じっすよ。ここは、王宮が管轄しているから、王宮仕えの人かもしれないっす」
「すごい差別的なんですね」
「人族は、人間が一番だと思ってるんすよ。あっ、神族だとわかると、媚びてくるっすよ。ハーフは、人族からも魔族にも、迫害されがちっす。だから、迷宮都市が造られたっす」
「そうなんですね。レンフォードさんは、ハーフだから、ツライですよね」
「こういうつまらない差別は、ティアちゃんが最も嫌ってるっす」
「獣人差別もありますよね。だから、猫耳の獣人に化けているのかな」
すると、ジャックさんは、思いっきり首を横に振った。
「ティアちゃんのアレは、病気っすよ。自分で自分のことを猫だと言ってるっす。猫になりたい病が、半端ないんすよ」
(猫になりたい病?)
「へ、へぇ……」
なんだか、ジャックさんが珍しくイラついている。まぁ、女神様の趣味は、きっと誰にも理解できないよね。行動も、はちゃめちゃだし。
(でも、それほど腹黒だとは思えないんだよな)
「あっ、レンさんが手招きしてるっす。迷宮に入る許可がおりたみたいっすよ」
さっきより、警備隊の人の数が増えている。みんな、エリートなのかもしれないけど、レンフォードさんへ向ける視線が……。
「なんか、あの人達、感じ悪いですよね」
「見下してるっすよ。神族だということを隠しておく方が、信頼できる人を見つけることができるっす」
僕達は、レンフォードさんの近くへと進んだ。
「ハーフの子供は、知らんぞ。ここから下へは、自力で降りてもらおう」
ニヤニヤと笑いながら、警備隊の制服を着た人が僕を威嚇するかのように、そんなことを言った。
(生首達を使えば……あ、ダメか)
ワープワームを使って、下に降りると、神々のサーチ結界に……。
「天使ちゃん達を呼んで」
「えっ? レンフォードさん? 結界は……」
「ここは、もう結界の中なんだ。結界を越えるときに感知されるから、結界内なら大丈夫」
(外から迷宮に来るのがダメなのか)
「ワープワームを呼んでもいいんですか? 結界を越えてくると……」
「天使ちゃん達は、迷宮内にもすみかがあるよ」
(知らなかった)
僕は、生首達に来てくれと念じた。すると足元に、生首達のクッションが現れた。
それを見て、見下したような顔をしてしいた警備隊の人達が、ころっと態度を変えた。
神族のライトなのか、もしくは、その家族かと、ごちゃごちゃ言っている。そして、確かに媚びるように近寄ってくる。
レンフォードさんは、彼らに冷たい視線を向けている。
僕は無言で、生首達のクッションに乗った。




