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71、旧ホップ村跡地 〜がれきの山

「みんなで、石山にいくのじゃ!」


 サンタっぽい赤いワンピースを着た猫耳の少女……女神イロハカルティア様は、右手のこぶしを振り上げ、いや、振り回し、ノリノリな状態だ。


 まだ、5〜6歳の姿の僕は、そのノリに、なぜか心が浮き立つような高揚感を感じてしまう。身体年齢に、たまに感情が引っ張られるみたいだ。


(僕は何をワクワクしてるんだ?)



「ティアちゃん、また大魔王様に叱られるっすよ。女神が勝手に地底に入るなと、城に苦情が来たんじゃないっすか?」


 ジャックさんが、女神様を制している。大魔王様と女神様は、そんなに仲が悪いのかな。


「ジャック、それは、女神イロハカルティアに言うておるのじゃ。今のわらわは、ティアじゃ。関係ないのじゃ」


(いやいや、本人じゃん)



 女神様は、猫耳の魔道具らしきカチューシャをつけると、僕より少し背の高い、年齢不詳な少女の獣人の姿に変わるらしい。だけど、カチューシャを外せば、イロハカルティア様に戻るんだよな。


 そう考えていると、女神様は、頭を守るように手を当て、僕にジト目を向けた。


(いや、別に外す気はないけど)


 常に考えていることを覗かれているみたいだ。女神様が、せわしなくキョロキョロしているのは、あちこちの人の頭の中を覗いているのかな。


 猫耳の近くには、ハデナ火山でリュックくんが用意をした、水色の花がそのまま付いている。


 確か、氷のクリスタルの花なんだよね? リュックくんは、女神様が吸収できない属性のクリスタルだから、彼女の成長の邪魔にならないと言っていた。マナを溜めておく電池のように使えるらしい。


 今もまだ付けているってことは、電池として便利使いしているのかな。


 そういえば、女神様は、自分の成長を促すために何かをしたんだっけ。だから、猫耳の魔道具をつけて姿を変えている。今、これを外したら、どんな姿になるんだろう?


(あっ、また、ジト目だ……)


 まだ、姿は元に戻っていないんだな。成長が完了していないってことか。



「……で、いい? おーい、ライト、聞いてる?」


 突然、クライン様に、頬をぷにぷにされた。


「えっ? すみません。聞いてませんでした」


「だろうね。ティアちゃんが、順番にこだわってるから、まずは、旧ホップ村に行くよ」


(記憶のカケラの順番か)


「でも、ドラゴン族の領地にデイジーさんを……」


「うん、でも、ティアちゃんがね〜」


(絶対に、引かないんだ)


「わかりました」


「じゃあ、天使ちゃん達を呼んでくれる?」


「はい。あ、でも……」


 ジャックさんと僕は、女神様とケンカして地底に、家出したことになっていたはずだ。それなのに、女神様と一緒に行動してもいいのかな。


「妾は、女神の猫じゃ! 妾も家出してきたから、問題はないのじゃ!」


(はい? 何を言ってんの?)


「ライトが、ボーっとしていたときに、この打ち合わせが終わったんだよ。実際に、ティアちゃんを女神様のペットだと思っている人は、多いからね」


 クライン様が説明してくれたけど、デイジーさんは微妙な表情だ。きっと、彼女は納得していないんだろうな。


 デイジーさんって、アマゾネスの王女だからか、正義感が強そうというか、曲がったことを嫌いそうだもんね。



「ライト、つまらぬことを考えてないで、早く天使ちゃん達を呼ぶのじゃ。門番が頑固者じゃから、随分と遅れてしまったのじゃ」


 女神様は、何か急いでいる? 


「ライトさん、ティアちゃんは、こっそり抜け出してきたんだと思うっすよ」


「なるほど、ジャックさん、わかりました。追手が来るんですね」


(だから、一人なんだな)


「護衛なしでウロウロするのは、さすがにマズイっす。そもそも、眠っていることになってるんすから」


 そうだった。女神様が莫大な魔力を使ったから、その回復のために眠るということで、女神様の代行者が働いているんだもんな。



 僕は、生首達を呼んだ。


 城では、女神様が自由に生首達を使っているように見えたけど、あれは、女神様の城に棲む奴らだけが、従っているらしい。


 以前の僕が、生首達に役割を与えていたみたいなんだ。


 一方で、僕の家族は、生首達を普通に使えるらしい。アトラ様は、情報伝達にしか使わないけど、息子のシャインくんは、完璧に使いこなしているそうだ。


(まだ、家族の記憶はないんだけど)


 僕には、ルシアという名前の娘がいることも、クライン様から教えてもらった。


 双子だけど、ルシアは人間っぽくて、シャインくんは守護獣だから、見た目も育ち方も随分と違うみたいだ。


 ルシアは、神々の侵略戦争のときに、次元の狭間に逃れ、時空を超えてしまったらしい。数百人が、その事故に巻き込まれたんだっけ。


 僕の配下だというカースさんが、いま、捜しに行っているらしい。黄の星系の他の星にいるだろうと言っていたっけ。



「みんな、天使ちゃんに乗っておるか? ライト、もうよいぞ。石山にワープするのじゃ」


 猫耳の少女は、手をぶんぶんと振っている。やはり、急いでいるんだよね。


 僕は、足元に来ていた生首達のクッションに乗った。すると瞬時に、見える景色が変わった。




 ◇◇◇



 そこは、石山というより、がれきの山だった。足場も悪い。強い力で吹き飛ばされたのだということがわかる。


 きっと、バリアや結界を張ってあったはずだ。それなのに、見渡す限りがれきの山になっている光景に、僕はゾワリと背筋が冷たくなった。



「クラインの記憶を使うから、ここに座るのじゃ。届かないのじゃ」


 猫耳の少女が、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、そんなことを言っている。何をするつもりなのかな。


 クライン様は、言われた通りにがれきに座ると、僕達に何かの術を使った。バリアかな。


(えっ!? 浮いてる)


 ふわりと身体が浮かんだ。


 デイジーさんやミューさんは、めちゃくちゃ焦っている。ゾンビ服を羽織ったジャックさんとレンフォードさんは、ゆらゆらと揺れて、本物のゾンビに見える。


「クライン様、ゾンビ魔法ですか?」


「あはは、ライト、何を言ってるんだ? ただの浮遊魔法だよ。これからティアちゃんが、石山の復元をしてくれるから、浮かんでいないと危険だからさ」


「あ、そうなんですね」


 女神様は、チラッと僕に視線を向けたけど、何も言わない。クライン様の頭に手を当てて、ジッとしている。



 しばらくすると、女神様の身体が淡く輝き始めた。そして、ピューッと強い風が、がれきの山を吹き抜けていく。


 大地はグラグラと揺れているようだ。


 女神様の放つ光が強くなっていく。そして、辺りは真っ白な光に包まれ、何も見えなくなった。


(すごい、草の匂いがしてきた)


 ガタガタと音がしている。シュルルとかヒューッとか、様々な音が入り混じる。


 やがて、音が聞こえなくなると、徐々に白い光が薄まってくる。



「わぁっ、ティアちゃん、完璧ですよ」


「ふむ、これくらいは、ちょちょいなのじゃ。じゃが、クラインの記憶が曖昧な部分は、ただの土の広場になっておる」


「下の畑ですよね。最近は行ってないから、覚えてないんです。ここに住んでいた子供の頃の記憶に置き換わってたかも」



 クライン様の楽しそうな声が聞こえてくるけど、その姿は見えない。


 今、僕は、草むらの中にいるんだ。まだ、その草は成長している。どれだけ背が高いんだよ。


 その草は、スルスルと成長し、そして花を咲かせて実を付けた。


(あれ? これって、ホップ?)


 ビールの原料となるホップに見える。僕も前世で、ビール工場見学に行ったときに見ただけだし、前世のホップに比べると、とんでもなく大きいから、違うかもしれないけど。


 でも、ホップ村なら、ホップの産地ってことなのかもしれないよな。



「ライトさんだけが居ないですぅ。迷い子になっちゃってますよぉ〜」


 ミューさんの声だ。


「おーい、ライト。石山に入るよ?」


 クライン様の声は、遠いな。


「クライン、ライトはかくれんぼをしておるのかもしれぬ」


(いやいや、してないから)


「あはは、ライトは、たまにチビっ子になってしまうんだよね」


「見た目も、チビなのじゃ。反抗期なのじゃ。放っておくのじゃ」


(ちょ、反抗期って……)


 だけど、放っておくと言われると、なぜか、じわりと涙が出てくる。はぁ、もう、また身体年齢に、引っ張られているみたいだ。


 僕は、『眼』の力を使って、透視をしてみた。


 みんな、洞穴の入り口に集まっている。僕も、その方向へと進もうとすると、浮遊魔法の効果が切れたみたいだ。


(うん? 地面から変な臭いがする)



 僕が、なんとか草をかき分けて、洞穴の入り口にたどり着くと、みんなが別の方向を向いていた。


「入らないんですか? 待ってくれてたん……」


「シッ、静かに」


 僕の一番近くにいたレンフォードさんが、小声で僕を制した。


「ティアちゃんの魔法のマナを横取りして、何かが、復活したっすよ」


 ジャックさんは、デイジーさんとミューさんをかばうようにしながら、僕の近くに移動してきた。



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― 新着の感想 ―
[一言] |д゜)ジー…… (今頭の中でティアちゃんのスカートを捲ってます) 内気で妙齢だったら良かったのに…
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